図解雑学ハプスブルク家 菊池良生

 700年を超える歴史を持つハプスブルク家。彼らの春秋を中世の勃興時代からオーストリア・ハンガリー二重帝国が解体した第一次世界大戦まで一冊で追いかける挑戦的な本。巻末には文化を紹介する章まであって、非常に欲張りである。

 血縁を重視するハプスブルク家の戦略は彼らに繁栄と衰退をもたらしている。民族主義の時代になってしまえば、多民族国家を治めていることが足枷になってしまっていた。
 それでも、他民族が許容される世界の存在意義があったことがウィーンに多くのユダヤ人を集めていたことで証明されている。イスラム教世界ならオスマン帝国が、海の向こうならアメリカ合衆国が多民族国家をやっていたわけだが、宗教(社会主義を含む)でも文化・法律でもなく、ハプスブルク家を象徴に他民族をまとめるのは無理があったのだろう。
 事実上最後の皇帝であるフランツ・ヨーゼフは皇室であることよりも個人の象徴力で国をまとめていた印象なので、ユーゴスラビアとチトーの関係に近いと思った。

 歴代の人物ではフェリペ2世が酷評を受けていたことが印象的だった。まるで良いところがないような書かれっぷりだ。カール五世やその弟とくらべてしまうと評価できないのも納得してしまう。
 ろくでなしだけど、長生きの力で多くの物を手に入れたフリードリッヒ3世のような例もあるのだが。

ハプスブルク家 (図解雑学)
ハプスブルク家 (図解雑学)
カテゴリ:歴史 | 13:08 | comments(0) | trackbacks(0)

「東海」山歩きガイド 愛知山歩きの会

 愛知県を中心として、日帰りで楽しく歩ける山が紹介されている。工程が3時間未満の山も多く紹介されていて、非常にとっつきやすい印象を受けた。ただし、例外もあってスイスイ登れそうな低山ばかりをみた後に西穂高岳の本格ぶりを目撃するとたまげる。だからこそ西穂高岳に登れば、ひとつの大きな足跡になる気もするが……。
 山がその地域で目立つ存在であるだけに歴史も豊富で、その辺りの逸話も興味深かった。

 また右下に立ち寄りスポットとして、近場の温泉や観光施設が紹介されている点もうれしい。山を歩き回ったあとの温泉は格別だ。
 しかし、その後の運転には注意が必要なことも忘れずに。


 なお、載っている地図は山頂など目印の位置とルートをピンク色で示しただけのものなので、よほど道が整備された山でなければこれ一冊で行動するのは避けた方がよさそうだ。シミュレーションして計画を立てるためにも等高線のある地図が別に用意したいところである。

のんびり行こう!東海山歩きガイド―厳選!各県別のおすすめ登山コース満載!!
のんびり行こう!東海山歩きガイド―厳選!各県別のおすすめ登山コース満載!!
カテゴリ:ハウツー | 12:50 | comments(0) | trackbacks(0)

古代メソポタミアの神々 三笠宮崇仁・岡田明子・小林登志子

 副題は、世界最古の「王と神の饗宴」。三笠宮が監修をつとめ、1950年代に中東で撮影された貴重な写真が収録されている。40年後の劇的な復元をうけたジグラットの写真をみると、20世紀以前の1000年よりも、ここ最近の50年の変化の方が大きいことが予想できる。
 たとえ復元されず放置された状態であったとしても大昔のものが形を留めて今に残っていることには感動せざるをえない。メソポタミアの乾燥した気候風土のおかげもあるのだろう。

 内容はタイトルどおり神について詳しいが、政教一体の時代のことゆえ、神について言及すれば自然と歴史や王の伝記を語ることになっている。
 現実の政治情勢とリンクしたマルドゥク神やアッシュール神の「出世」が非常に興味深い。マルドゥク神の息子である書記の神「ナブ」のことも覚えておきたい。
 またシャムシ=アダド1世の家族がマリと関わりの深い神の名前を名乗っていることも印象に残った。やはり繋がりがあるんだなぁ。彼がマリを占領するのは、イシンがウルを占領するのに似ていたのかもしれない。
 都市や土地そのものが神であるアッシュール神のありかたは、国家を擬人化させて萌える昨今の動きを遥か先に行っている気がした。ひとりひとりについている個人神も興味深いところである。守護霊と結び付けて考えてしまう。

 シュメルやアッカド、アッシリアの神々だけではなく、エラムやミタンニの神々にも簡単ながら言及があった。丹念に読めば神々が習合させられていく系譜が見えてきそうだ。口絵も多く、図版も豊富で飽きずに読み進めることができた。

関連書評
メソポタミアの王・神・世界観 シュメール人の王権観 前田徹

古代メソポタミアの神々 世界最古の「王と神の饗宴」
古代メソポタミアの神々 世界最古の「王と神の饗宴」
カテゴリ:歴史 | 17:30 | comments(0) | trackbacks(0)

あさひやま動物園写真集 今津秀邦・多田ヒロミ

 展示方法の工夫でよく知られている旭山動物園の動物写真集。展示方法まで写している写真は意外と少なめで、動物の「顔」にこだわった写真が多い。姿だけではなく、その動物がもつ精神と向き合う気持ちになる。

 雪を背景にしたホッキョクグマの写真など、動物園の中なのに野生の状態を想像させてくれる写真もあった。その点は降雪のある北海道に立地している特徴をよく活かしている感じだ。
 ただし、雪中のライオンなんて写真もあるが……寒さは平気らしい。
 トラが他のトラの頭をこつんとやっている写真が可愛かった。やっぱり猫科動物は猫の仲間なのだ。ほくほく。逆に猫が猫科動物の仲間であることを実感させられるシチュエーションは歓迎できないが。

 また、猿の仲間は展示方法の分かる写真と眼の合う写真の両方が印象的だった。ブラッザグエノンあたりはスターウォーズの世界なら確実に文明をもっているな……。

あさひやま動物園写真集 DVD付
あさひやま動物園写真集 DVD付
カテゴリ:写真・イラスト集 | 00:12 | comments(0) | trackbacks(0)

3日でわかる 古代文明 小川英雄

 いわいる世界四大文明くわえてギリシア・ローマ、アメリカ大陸の文明、日本縄文時代がテキパキと紹介されている。それぞれ短くて物足りないことが多いが、年表を丹念にみていると気になる記述があったり、他の本で得た知識に骨格をあたえる役に立ったりして、まあまあ有用だった。ちなみに2日で読んだ。

 インダス文明の年表がメソポタミア文明などに比べると非常に粗い点が寂しい。文字が解読されていない以上は、年代測定法と遺物に頼った年表作成をするしかないわけで無理からぬところである。
 エジプト文明の萌芽期の動きがとても興味深かった。北と南の融合がエジプトを生んだわけだが、その後の歴史は北からの圧力はいろいろあるのに、南からの圧力はあまり印象に残らない感じだ。ピラミッドパワーやグラハム・ハンコックに言及するのは自重してほしかった。
 メソポタミア文明についてはシュメルからアッシリアまでの大まかな流れが掴みやすかった。アッシリアや新バビロニアはペルシアの反面教師になったのかもしれない。

 注目の日本縄文時代は三内丸山遺跡の情報をメインに据えて、当時の日本が他の文明と足並みをそろえた段階にあったことを訴える。まぁ、人口は500人くらいで、インダス文明の巨大都市とは比較にならないけど……。
 古代日本における交易の話に翡翠や黒曜石、琥珀など鉱物の知識にリンクするトピックがあって楽しめた。国内の“ピラミッド”は何人がかりで何年かけて築いたものか、考えはじめると縄文時代の底が知れなくなる。

関連書評
NHKスペシャル四大文明[メソポタミア] 松本健
NHKスペシャル四大文明[インダス] 近藤英夫
NHKスペシャル四大文明[中国] 鶴間和幸
メソポタミアの王・神・世界観 シュメール人の王権観 前田徹

3日でわかる古代文明 (知性のBasicシリーズ)
3日でわかる古代文明 (知性のBasicシリーズ)
カテゴリ:歴史 | 22:04 | comments(0) | trackbacks(0)

のうりん4巻 白鳥士郎

 ご結婚おめでとうございます!

 故郷の愛生村に返ってきた耕作と農のけしからん結婚式が行われる。衰退の最前線である農村の姿にはいろいろと考えさせられるものがあった。現実には商や工みたいな可愛い幼女もいないかもしれないし……。
 村社会の陰湿さや女性への風当たりの強さについては、それでもマイルドにされている気が……実際に知っているわけじゃないから、印象だけで語るのも良くないな。愛生村みたいな村も日本のどこかにはあるのでしょう。一人だけの医者を三年連続で追い出す村は確実に存在するけどな!

 農が受けていた跡継ぎを産めプレッシャーは実際シャレにならないものだったと想像しちゃう。どうしてもできなくて、狂わされる――すでに手遅れな気もするが――よりは姉妹に産んでもらった方がええよ?ここはやはりレビラト婚しかないな!!
 耕作は農のことを母親代わりだと言っていたが、今回の話を読んだ印象では、もっと凄まじい何かだ。疑似家族ごっこを済ませていたとは大したラノベ主人公だ。
 父親代わりだった耕作がガチで好きな工は、作中のキャラでもかなり危ない部類だと思った。まぁ、多少の変態はベッキーの飛び抜けた数値を前にしてしまえば人類の誤差範囲内にすぎない!
 むしろ美濃柴犬の方がベッキーより人類の仲間に近い……そんな惨状を呈してきた。誰かベッキーを嫁にして!!なんか山の神様に若い男を生け贄にささげる感じがする。

 喜一おじさんたちの「まだトマトを三十回しか育てていない」という考えには胸を打たれた。人間は本能では三以上を数えられない生き物なのかもしれないが、この姿勢には明らかな哲学がある。
 手法をオープンにして全体を変えようとする姿勢は、資本主義の枠内で村おこしを計っている士姉ちゃんより先を行っていると思うんだけどなー。

 耕作の両翼発言には笑った。婚活の参加者には非常に得るべきものの多い演説をしてくれたと思う。農村で浮気はダメ絶対!
 お盆で帰省する時期にあわせて、この話をもってくる白鳥先生が恐ろしい。帰っていろいろ話したくなった人もいるのだろうが……。ごちそうの法則が母方の実家に――味は良かったけど傾向として――けっこう当てはまっていて妙に嬉しくなった。

白鳥士郎作品感想記事一覧

のうりん 4 (GA文庫)
のうりん 4 (GA文庫)
ゆかたんと長良川鉄道をまったり乗りたいなぁ。
カテゴリ:文学 | 10:21 | comments(1) | trackbacks(0)

戦国武将の合戦図 小和田哲男 監修

 現代に残る合戦図屏風の紹介解説本。フルカラーでたまに別の再現イラストが加えられている。
 合戦図屏風の来歴や見るべきポイントを把握する役に立つが、単独ですべてを見た気になれるかと言えば非常に難しい。本の版が小さすぎて、細かい部分がなかなか見えてこないのだ。
 本物か他の大判で合戦図屏風を収録している本の補完にもちいる使い方がベストであろう。どうしても、この本だけで完結させたければ拡大鏡が必要かと。

 ここの合戦図屏風について語ると、それぞれの来歴によって内容にバリエーションのあるところが興味深かった。写実からかけ離れている江戸時代後期の屏風であっても、その歴史を知った上で観るなら素直に楽しめそうだ。
 鉄棒を振り回している最上義光にはニンマリさせられてしまう。

 リアル路線の屏風では、小牧長久手合戦の屏風が非常に印象的だった。鼻をそがれた死体がゴロゴロ転がっているところが拡大表示されているんだもの・・・・・・長篠合戦図屏風ばかり頭にあったけど、小牧長久手合戦図屏風も侮れないな。

 また、島原の乱までは戦時には打刀といえども、太刀のように刃を下にして差す習慣があったことがいくつかの合戦図屏風から説明されているので、頭に留めておきたい。

 機会があれば実物を一日じっくり眺めたいものである。おそらく、かつて藩主の子供たちが、そうしていたように。

戦国武将の合戦図 (ビジュアル選書)
戦国武将の合戦図 (ビジュアル選書)
カテゴリ:歴史 | 22:10 | comments(0) | trackbacks(0)

週末ナチュラリストのすすめ 谷本雄治

 大人になっても自然は先生でオモチャ。そんな幸せな生活を送っている著者の生活と同病にかかる方法を紹介する本。
 勤め人の限界でのめり込みにも限度があることを示しつつ、日常的なセンスオブワンダーを忘れないように読者に訴えかけている。
 少し世の中の見方を変えれば「自然」は身近にたくさんあるのだと、よくわかる内容である。東京ですら皇居にはたくさんの生物が生息し、タヌキまでいるわけで、すべては心に少しのゆとりをもてるか次第なのだろう。

 それにしても著者はいろいろな動植物の名前を知っているなぁ。特にカメムシの種類に詳しいところに感心した。
 家庭菜園をつくれば野菜に集まってきた虫を養うことに目的を変えてしまうのだから著者には尊敬と呆れを覚える。著者は、完全に真似したくはないが、あやかりたい人ではある。

週末ナチュラリストのすすめ (岩波科学ライブラリー)
週末ナチュラリストのすすめ (岩波科学ライブラリー)
カテゴリ:科学全般 | 23:11 | comments(0) | trackbacks(0)

アレクサンドロスとオリュンピアス 森谷公俊

 副題は「大王の母、光輝と波乱の生涯」

 劇的な人生を送ったことで知られるアレクサンドロス大王の母、フィリッポス二世の妻、オリュンピアスの生涯が史料の歪みを修正して描かれる。
 男性社会に首を突っ込んできた女性に対する蔑視、殺害を正当化するためのカッサンドロスによるネガティブキャンペーンなど、流布しているオリュンピアスのイメージに注意が必要であることが分かった。
 おかげで彼女への印象がそこそこ改善した――代わりにアッタロスやカッサンドロスへの評価が下がった。もっともアッタロスのイメージは岩明先生の漫画から得たものがほとんど全てだったが。

 オリュンピアス以外のマケドニア王家女性の動向も描かれていて、波乱の後継者戦争を彼女たちがそれぞれの才覚で生き延びようと「戦った」ことが見えてきた。結果は無残なことになってしまったけれど……マケドニア王家はサバイバルゲーム。

 王妃の視点からだと、フィリッポスによるマケドニアとギリシアの統一やアレクサンドロスの遠征、そして後継者戦争まで通してみることができる。同じ視点を持てる人物はアンティパトロスくらいではないか――不幸なことに彼はオリュンピアスの最大のライバルであったわけだが。

 大王の妹のクレオパトラが会ったエウメネスのエピソードがやたら微笑ましかった。アンティパトロスの帰路を襲いにきて、クレオパトラに自分の軍隊を自慢したという。

アレクサンドロスとオリュンピアス: 大王の母、光輝と波乱の生涯 (ちくま学芸文庫 モ 15-1)
アレクサンドロスとオリュンピアス: 大王の母、光輝と波乱の生涯 (ちくま学芸文庫 モ 15-1)
カテゴリ:歴史 | 21:50 | comments(0) | trackbacks(0)

日本列島の巨大地震 尾池和夫

 東日本大震災というよりも東北地方太平洋沖地震を扱った本。科学的な視点から見たあの地震のデータが綺麗にまとめられている。
 同時に他の巨大地震の例についても改めて紹介されていて、今後の日本列島の防災を考えるうえで役に立つ情報が多かった。逆に日本の経験が世界に役立つこともあるはずだ。

 地震の発生時期に季節性があるというデータが非常に気になった。北海道から三陸の太平洋沖では二月から五月まで――特に三月に、宮城県沖から関東・東南海道にかけては九月から一月まで――特に十二月に大きな地震が起こる傾向が見られるらしい。
 どんな原因があるのかは分かっていないけれど、住んでいる地域がシーズンに入る前に防災用品の点検や買い足しを行うように心掛けると良いかもしれない。

 他国の地震ではハワイが歴史的に受けてきた地震被害であった1946年4月1日のアリューシャン列島での地震の津波が興味深かった。エイプリルフールだったので、子供たちが大津波が来ると騒いだにも関わらず、無視して被害に遭った人々がいたという……誰もが狼少年になれる日、それがエイプリルフールである。

 ツイッターが広がっている現在、4月1日に大地震が起きないことを心より願わずにはいられない。日本もチリ地震の津波で大被害を受けたりしているのだから、揺れがなかったからと油断してはいけないのだ。

日本列島の巨大地震 (岩波科学ライブラリー)
日本列島の巨大地震 (岩波科学ライブラリー)
カテゴリ:地学 | 20:56 | comments(0) | trackbacks(0)
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