NHKスペシャル四大文明[エジプト] 吉村作治・後藤健

 シリーズの一巻を最後に読むことになった。エジプトについては、神と政治の近接具合が異質に感じられて、どことなく抵抗を感じるところがあったせいか。いつもの人の名前が出ているおかげで食傷気味に感じたせいもあるかもしれない。

 しかし、エジプトは神王(ゴッドキング)が統治する一方で、実学的な数学を非常に重視した文明であること、極めて整った暦をもっていたこと、などなどが分かり、目を開かれる感じがした。
 吉村先生についても流石にインタビュー慣れている感じで、いったん読みに集中してしまえば、意見が頭に浸透しやすい。
 経験談もいろいろ載っていて、エジプトの学者を日本に招待したときに、5世紀というと前5世紀と勘違いされて、訂正すると白けてしまうという逸話には苦笑してしまった。名目上は2650年の歴史があるはずなんだけどね――四大文明の蓄積には叶わない。

 さて、内容はエジプトの長い歴史に関して、各分野でやや散漫に紹介しており、せっかく本になったわりに突っ込みが足りない印象を受けた。なにかモデルケースになる王に集中すればよかった気もするのだが、それも難しいか。最後の遺跡ガイドでラムセス二世がやたらと出て来たので、注目してしまうのだが。あるいは宗教改革に挑戦したアクエンアテン王が興味深かった。背教者ユリアヌスを連想した。
 もしくはピラミッドこそエジプト文明の象徴といいたいところだが、これも一時期に造られていたもので、全体をみようとすれば不都合がある。

 エジプトを実際に運営していた書記たち、昔から今までずっと住んでいるはずの農民たちに注目した方がよさそうだ。そういう視点もいくらか与えてくれていた。
 ちなみに、文字の読み書きができたのはせいぜい人口の5パーセント未満だったらしい。やはり書記はエリートである。

 あと物価について、ハチミツ約19.14リットルが、銀45.5グラムに相当したそうな。やはり古代の甘味料は貴重である。

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NHKスペシャル四大文明[中国] 鶴間和幸
 巻末対談で中国の異質っぷリが輝いていた。ヤバいな中国。

四大文明 (エジプト) (NHKスペシャル)
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カテゴリ:歴史 | 01:03 | comments(0) | trackbacks(0)

Google Earthで行く火星旅行 後藤和久・小松悟郎

 2062年、予算50万円の火星旅行!水と食料は現地調達。
 日銀の金融政策がどうなっているかは不明ながら、そんな前提で高校生がガイドと一緒に火星旅行に出かけるSF調のストーリー仕立てで、火星の地形地質を紹介してくれる。
 火星探査車とリコナサンスオービターの成果は著しく、私が強く火星に興味を抱いていたころより、多くのことが判明していた。
 わからないことでもわからないなりに、調査の方向性が現れているように思う。やっぱり探査車は偉大である。

 紹介されている画像の多くは、赤と青のフィルムがついたメガネを使うことで立体的にみえるようになっていて、ページをめくる手を止めて火星の地形を堪能することができた。読書のいきおいで流さずに、別の作業を挟むことで読んだことを反芻しながら画像を眺めることができる。
 その学習効果はけっこう高い。

 また、画像の座標を載せているうえに、巻末ではGoogle Earthを使って火星をみる方法も紹介してくれているので、ガイドが説明した地形をいろいろな角度からGoogle Earthで検証することもできるのだった。
 ついでに比較惑星地質学の調査地も座標を載せておいてほしかったと少し思った。そうすればこちらもGoogle Earthで見ることができるわけで。

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Google Earthでみる地球の歴史 後藤和久

Google Earthで行く火星旅行 (岩波科学ライブラリー)
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カテゴリ:地学 | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0)

湖底の城〜呉越春秋3巻 宮城谷昌光

 父と兄の死をみた伍子胥は、公子子木をおって宋から鄭へ旅をする。どこもかしこも火種に事欠かない様子で、激動の世情を感じずにはいられなかった。
 まぁ、晋は楚とまともにやりあうつもりがないので謀略をしかけてきたわけだが――二つの超大国が対立をやめたせいで、小国が国内であらそいを頻発させているとすれば、冷戦後の光景そのものだ。
 晋と楚にとっても対立は必要なだったのかもしれない……民衆には、どっちが幸せなのかなぁ。

 最終的に伍子胥がたどりついた呉では、呉王僚よりも、季札や公子光が輝いていた。とくに季札は完璧な聖人に祭り上げられてしまっている。
 彼の態度からは呉という国家にたいする穏やかな愛が感じられた。大きな実権と責任を持った王よりも、「国家の象徴」に向いた人物だったのかもしれないな。

 公子光は名前の通りギラギラしていて――未来を知っているせいで余計にそう見えるのかもしれない――着々と伍子胥や他の実力者と友誼を結んでいる。
 呉の内情なんてどうでもいいからさっさと復讐させろ、と暴れ出さない宮城谷先生の伍子胥は行儀がいい。公子光に楚を攻めろという献策を妨害されたところで、癇癪起こしても良かったのよ?
 霊王本人が生きている内に復讐できなくなってしまう可能性を考えたら、もっと焦ってもいいんじゃないかな。この伍子胥はゆとりがあるところが凄い。旅は人を成長させるのは、伍子胥本人にも言えることなのか。

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呉越春秋 湖底の城 第三巻
呉越春秋 湖底の城 第三巻
カテゴリ:時代・歴史小説 | 15:40 | comments(0) | trackbacks(0)

ジャマイカ(ナショナルジオグラフィック世界の国) ジェン・グリーン

 ナショナルジオグラフィックの豊富な写真で紹介されるジャマイカの地理歴史。
 遠くの国ではあるが、波乱万丈な歴史背景をもっていて興味深かった。また歴史と地理がむすびついて発展することもよくわかる。
 タイノー人の絶滅は残念すぎるなぁ……彼らが生き残っていればジャマイカの歴史はもっと豊かなものになったはずだ。

 ジャマイカ最高峰のブルーマウンテンとコックピット・カントリー(カルスト地形である)を拠点に白人の支配に立ち向かった逃亡奴隷マルーンの戦いも興味深かった。
 第一次マルーン戦争はゲリラ戦で勝利したが、第二次マルーン戦争では猟犬を使った追跡でイギリスが勝っている。人は学習するのである。

 産業に目を転じると豊富なボーキサイトが印象的だ。アメリカやカナダに続いて中国が貿易相手国に名を連ねているのはアルミニウム資源のおかげだろう。日本は電気代がバカ高いのでアルミ精錬では活躍できない……。
 二大政党制になっている状況と、政治姿勢に対するアメリカの反応がモロに経済に影響する事情も興味深かった。中南米諸国の国家経営は難しい。

ジャマイカ (ナショナルジオグラフィック世界の国)
ジャマイカ (ナショナルジオグラフィック世界の国)
カテゴリ:雑学 | 13:06 | comments(0) | trackbacks(0)

五〇〇〇年前の日常〜シュメル人たちの物語 小林登志子

 5000年前メソポタミア地方に生き、記録を残した人々「シュメル人」は間違いなく私たちと同じ「人間」であった。
 そのことを様々な資料から実感させてくれる本である。ただしタイトルから想像させるほど一般市民の生活に踏み込むことはできておらず、記録を残す機会の多かった王たちやその家族の事績を追う記述が多い(逆に歴史の流れは把握できないとスルーしていた人は注意)。

 なかでも資料の豊富な「ラガシュ」はシュメル時代の主人公であるかのように勘違いしてしまいそうなほど多く取り上げられており、シュメルの都市国家を語る上での示準化石になっている。
 彼らと争ったウンマ市はどうしても悪役として歴史に名を残してしまうわけで、気の毒なことである。悪名は無名の勝るわけで、ラガシュの神様に向けたプロパガンダのおかげで、ウンマ市のいろいろなことが知られているのも事実であろう。

 悪名と言えば、シャムシ=アダドの息子ヤスマフ=アダドの不肖の息子っぷりが、シュメル時代の本にも関わらず載せられていた。もう許してやれよ。
 ウンマ市の例とは違い、紹介されなかったイシュメ=ダガンより幸せとは思えない……。

 最後の章はウル第三王朝の偉大な四方世界の王「シュルギ」の生涯が紹介されている。メソポタミアの国々は初代よりも少し後の王が最大の業績を立てる例が多い。
 シュルギの王賛歌があまりに多すぎるので学者によってA〜Zまで名前をふられており、イスラエルの学者の研究によれば23もあると知って、彼のナルシストぶりに引いた。
 子守歌をつくった后の例をみると重婚しまくりながら女性の趣味はよかったようだ。

 著者が女性であることも影響しているのか、歴史の影に埋もれがちな女性に同情的な視点が目立った。后を殉死させる風習は残酷だが、母后が権力をふるった中国の例を考えると、いささか乱暴ながら政権の若返りのために必要な手続きだったのかもしれないと思う。

 また物価などの数値もちょくちょく取り上げてくれており、銀の重量を基本とした経済の様子が垣間見えて興味深かった。以下、取り上げられていた物価の例を転記しておく。


ウル第三王朝時代に銀1ギン(約8.3グラム)で買えたもの

大麦1グル(約300リットル)
羊毛10マナ(約5キログラム)
銅1と6分の5マナ(約916.7グラム)
ごま油12シラ(約12リットル)
ラード17シラ(約17リットル)
なつめやし1グル(約300リットル)

 ごま油の方がラードより貴重だったり、大麦となつめやしが同じ値段だったりすることや、銀と銅の交換比率が分かる。現代になっても正確な重量がわかるのは、文字の彫られた分銅(銅製ではなく閃緑岩製だが)があるおかげだ。メソポタミア文明は保存性のよい記録を多く残してくれたものである。

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シュメル――人類最古の文明 小林登志子

五〇〇〇年前の日常 シュメル人たちの物語 (新潮選書)
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カテゴリ:歴史 | 00:03 | comments(0) | trackbacks(0)

群龍三国志1〜劉備、起つ! 仲路さとる

 董卓の暗殺未遂現場に居合わせた劉備たち三義兄弟と曹操が未遂を既遂に変えてしまうことから始まる歴史シミュレーション。
 呂布たちの逆襲に、袁紹袁術の蠢動。そして、皇帝を廃され弘農王になっていた劉弁が、弟の劉協のためにあえて皇帝を名乗る超展開があって、後漢が南北に割れてしまうことになる。すごい事態だ。
 作中の事実だけを抜き出すとハチャメチャだが読んでいる間は、この世界なりの筋が通っていると感じられるところは流石は仲路さとる先生。

 物語の時期が三国志でも前半に属するため、あまり名前の聞かない人物が意外な活躍をしている点もおもしろかった。
 その代表格は徐庶の幼馴染である石稻だ。一騎討ちで楽進を追い詰めるところまで逝ってしまった徐庶の代わりに軍師として成長する気配がある。そんなことになったら孔明の出番がない?

 まぁ、張遼がなりゆきで劉備と一緒に戦っていたりするから、孔明も呉の勢力についたりすればバランスが取れるんじゃないか。
 なお、エンターテイメント重視で一騎討ちシーンが多く、劉備が豪傑の一員扱いを受けている。雑兵をかき分けるシーンの「邪魔だッ!うせろッ!」ってセリフには笑った。こんな劉備さんが居てもいい。

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群龍三国志〈1〉劉備、起つ (歴史群像新書)
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カテゴリ:時代・歴史小説 | 23:33 | comments(0) | trackbacks(0)

俺の妹がこんなに可愛いわけがない11巻 伏見つかさ

 口絵に出てきた謎のキャラはランちん。そう考えていた時期が私にもありました……よくもだましたアアアア!!だましてくれたなアアアアア!!……私が勝手にぬか喜びしただけである。でも、フルネームが分かって良かったね、宮本蘭!みんながラストスパートに入っている中、スタートラインに立った感じだぜ!これで京介がランちんに告白したら、きょうちゃんパンツ100枚チャリで買ってくるッ!!


 謎のキャラの正体は中学時代にスーパー京介と交流のあったキャラクター、櫻井秋美だった。このタイミングでの新キャラが、かなり話に食いこんできて、ヒロインのもう一角が麻奈実という状態で、正直読み進めるのが苦しかった。
 読み終わってみれば次に大いに期待をもたせる内容ではあったが――エロゲーよりすごいことって具体的に何なの?ぜったい考えずにいっているな、きりりん。具体例を示されたら、他の誰よりも動揺しまくると見た。カリ○アンコム事件を僕らは忘れない。

 秋美は“京介分欠乏症”の先駆者として注目したい。やはり兄パンからは依存性のある何らかの気体が放出されている疑いが濃厚である。
 一緒に生活している桐乃が完全な中毒者になってしまうのもいたしかたない。
 それと瀬菜を冥府魔道に引きずり込んだ疑いだが――秋美の影響を必要以上に評価することは瀬菜にたいする侮辱である。彼女なら切っ掛けは違えど必ず乙女ロードに辿りついていた、そう確信している。
 まぁ、スタートが早くなった分、手遅れ感が増した可能性は否定しない。

 さて、ラスボスの麻奈実さんであるが――桐乃への一般常識を語った部分で心証が非常に悪くなってしまった。彼女は子供の敵となる“社会”の化身なのかもしれない。“社会”も実はかなり子供っぽいしなぁ。
 不幸になるから止めろという説得は、桐乃の一人が確実に不幸になっても両親などそれ以上に不幸になる人間の方が多いから、より多数の幸福のために“彼女は切り捨てられるべき”と言っているように感じてしまった。実際のところ日本の法は全然そんなこと言っていないんだけどねぇ。
 桐乃の京介依存に対する認識が読者と麻奈実では違うせいもあるかもしれないけど、いろいろ情報を集めている今でも態度を変えていないわけで嫌な感じである。

 ただ紛糾するクラスを鎮めた迫力と手腕は評価したい。裏サイトを即座にブチ消させるとか鬼だ。悪い場所になりやすいものとはいえ手塩をかけて育てたサイトであっただろうに……陽子に運営者として微妙に同情してしまう。京介が秋美に謝ったんだから、麻奈実は陽子に謝りに行こうよ。

 ちなみにEDについては、理不尽な女と結婚した京介の爺ちゃんが言った『いずれオマエにも分かる』で、完全にフラグは立った。もはや議論の余地はないと思っている。

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俺の妹がこんなに可愛いわけがない(11) (電撃文庫)
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(11) (電撃文庫)
ろりりんかわいいよろりりん。桐乃がタイムスリップしたら自分に萌えまくるに違いない。思えば妹ゲーへの没頭は究極のナルシズムだったな。
カテゴリ:文学 | 21:58 | comments(0) | trackbacks(0)

ダム2 萩原雅紀

 ダムダムダムダムダムダムダムダムダムだーッ!!!

 ダム専門の写真集という存在自体が衝撃的な本の、しかも2巻。1巻は東日本中心らしいので、西日本中心の2巻の方が個人的にはとっつきやすい。大井ダムの下流側は鉱物採集に行く際に良く通るし。
 なお、巻末に関東から九州までのオススメダム巡りガイドが収録されている。

 ダム好きな著者による独特の価値観というか世界観の現れた解説文が、非常にマニアックかつフェティッシュで、連続で読んでいると不思議な心地にさせられる。
 詳しい解説もなく専門用語が連打されているので、わりと頻繁にチンプンカンプンに陥る。だが、それが良い。趣味の世界は広大だわ。そう気付かせてくれる。

 水系で見ると木曽川と吉野川が比較的多く、この二河川の水害の多い歴史を思い出させた。今の日本国土があるのは、良くも悪くもダムのおかげ。巨大建築物を築きあげた日本人の営為の力を感じざるをえない。

ダムサイト:著者公式ウェブサイト

ダム2 (文庫ダ・ヴィンチ)
ダム2 (文庫ダ・ヴィンチ)
カテゴリ:写真・イラスト集 | 01:08 | comments(0) | trackbacks(0)

帝国艦隊猛烈戦記3〜比島争奪大作戦 橋本純

 なかなかの打ち切りエンド駆け足感だった。
 トラック空襲以外に大敗のない状態から戦略的撤退。本当の転進をおこなった帝国陸海軍がアメリカ軍をフィリピンに引き込んで一大殲滅戦を展開する。飛び石作戦は敵の戦力評価が正確にできていてこそ意味をなすもので、無力化したつもりの戦力がまるまる残っていたら袋叩きの目に遭う危険を孕んでいる。
 フィリピンでの一日に11万6千人を屠った勝利はレイテ沖海戦が地ならしをしてくれているおかげで、そこまでおかしく感じなかった。史実の作戦が凄すぎるのだ――そういえば栗田提督に役目が回って来なかったな。
 アメリカが1日で最大の被害を出したのは南北戦争だったはずだが、この世界では明らかにフィリピン戦にアメリカ史が書き替わっている。その一点で見てもアメリカ社会が衝撃をうけ、講和への流れができたことには説得力がある――と個人的には思う。

 ただ、アメリカ側の人材がデフレさせられすぎていた気がする。スプルーアンスやミッチャー、オルデンドルフが戦死してしまっていることもあるが、トルーマン大統領の戦争指導描写は酷い。
 マンハッタン計画を中止させながら、別のシーンでは新兵器の開発を推進すべきだと考えているところなど、わけがわからない。新規すぎると「利権」が貪れないということか?

 また、ナパーム&カチューシャロケットや誘導ミサイル、アクティブ音響追尾式魚雷など、日本だけが1950年代にある感じの兵器がいくつか投入されていた。でも、いちばん気になったのは高速輸送船の35ノット設定だった……新造艦よりも旧式駆逐艦の改造と説明された方がいっそ納得できる。
 フィリピン決戦を通して同じ作者の鉄槌〜1944迎撃!本土決戦!!に繋がるアイデアがいろいろ見られた点が興味深かった。

橋本純作品感想記事一覧

比島(フィリピン)争奪大作戦―帝国艦隊猛烈戦記〈3〉 (ジョイ・ノベルス)
比島(フィリピン)争奪大作戦―帝国艦隊猛烈戦記〈3〉 (ジョイ・ノベルス)
カテゴリ:架空戦記小説 | 14:56 | comments(0) | trackbacks(0)

帝国艦隊猛烈戦記2〜雷撃戦隊、南北太平洋席巻す 橋本純

 ノリノリ!帝国陸海軍!!
 緒戦で大勝利をおさめた日本帝国軍が引き続き戦いの主導権を握り続ける。新兵器の力や中国と戦争していない事情もあって、史実よりも順調にしかし、慢心を避けながら快進撃を続けている。
 まぁ、今村司令官が二万人の兵で六万人を捕虜にしたシンガポールの攻略は史実も大したハッタリだったが――山下奉文は粛軍に巻き込まれた設定なのかなぁ。シンガポールの攻略には海軍の戦艦が4隻も支援にでていたので、戦艦の火力は一隻当たり一個師団だよ理論に従えば陸上兵力だけで見比べるほどおかしな展開ではないと感じた。

 米軍は史実通り機動力を駆使して反撃にでてくるのだが、音響追尾式魚雷が伏兵となって、史実のようなヒットエンドランを許してもらえない。
 残った艦隊の壊滅は人材のダメージを考えると非常に深刻だ。史実では停泊中に戦艦が潰されたおかげで人材が温存されたところがあるのに、この世界では外洋の決戦でガンガン沈められてしまっている。
 ミッチャーもスプルーアンスもオルデンドルフも消えてしまって、ハルゼーに依存するところが非常に大きくなっているなぁ。あと、リーもいるか。


 新型駆逐艦や海防艦の速力設定がやりすぎだった。全ての艦を高速化したら燃料消費が余計に激しくなるし……動かさなくてもタンクのスペースを喰い、デッドウエイトになるわけで、賢明な建艦政策とは思えなかった。まぁ、若気の至りだったのだろう。

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雷撃戦隊、南北太平洋席巻す―帝国艦隊猛烈戦記〈2〉 (JOY NOVELS)
雷撃戦隊、南北太平洋席巻す―帝国艦隊猛烈戦記〈2〉 (JOY NOVELS)
カテゴリ:架空戦記小説 | 15:28 | comments(0) | trackbacks(0)
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