信長公記で追う 桶狭間への道 水野誠志朗

 タイトルは桶狭間を強調しているが、尾張で織田信長が送った前半生をゆかりの土地を巡って追うことのできるガイドブックである。実際に現地に行くための案内が充実していて、ページの下に用意されたQRコードを読ませればグーグル地図を開くことすら可能という面白い構成になっている。
 じっくりと信長の若い時代を追いかけたいと考えたときに役立つ本である。特に土地勘のある地元の人間には面白いのではないか。

 信長の若いころを見ていると、絶え間なく押し寄せる国内の問題と国外の問題に同時に対処していることが興味深い。内部が乱れている国は外部からも狙われる。
 まずは国内をまとめてから国外なんてイメージしやすい形にはなかなか持っていけないのである。よほどタイミングよく周辺諸国も乱れてくれなければ。

 信秀の絶頂期から退潮期についても触れられているが、落ち目になっても潰れずに、信長に遺すものを守りきった点を評価したい。むしろ成功続きのままバトンタッチするよりも、後継者にとってはやりやすい面があったのではないか。
 比較される上に、目立たない負債を背負い込まされるよりもいい。そんな風に信秀を評価した。

 戦乱続きの信長を支えた存在として著者は「親衛隊」を重視していて、桶狭間の前に行われた数々の戦闘でも彼らに注目している。それが実際に、どんな集団だったのか、イメージを膨らませすぎに感じることもあったけど、おもしろい視点であることは確かだ。
 最後にあった桶狭間の戦いの予想については、文章を追っていると理路整然と感じる。しかし、別の説を読んだときも印象は同じだったから、なんとも言えないのだった。
 著者の勧めるように実地踏査をして、確固とした自分の意見をもつことが一番であろう。

信長公記で追う「桶狭間への道」 2012年 06月号 [雑誌]
信長公記で追う「桶狭間への道」 2012年 06月号 [雑誌]
カテゴリ:歴史 | 23:46 | comments(0) | trackbacks(0)

笑顔の動物園 松原卓二

 笑顔(に見える)動物の表情を厳選した写真集。日本全国津々浦々の動物園や牧場の動物が豊かな表情をみせてくれる。その表情に仮託した短文のセリフと飼育員からみた動物が喜ぶシチュエーションの説明が載せられている。

 フンボルトペンギンの「泳ぐのが大好き。広いプールだとサイコー!」には笑ってしまった。東京湾はさぞかし広いプールであったでしょうよ。
 あとメスライオンの笑顔がすごいイケメンで妙な頼もしさがあった。笑うという行為は本来攻撃的なものであり――うんたらかんたら。
 レッサーパンダの笑顔は凶悪、帰化動物的な意味で。

 人間なら「人の不幸は蜜の味」という考えかたもあるのに、動物の場合は幸せそうにしているのを観ればほぼ確実に幸せな気持ちになれてしまうことが不思議だ。人間でも小さな子供が相手なら、動物への反応とだいたい同じかな……。大人でも同じになる時代が来ることを願う。それにはまず人を動物と思うことから……。

笑顔のどうぶつ園 心がほぐれるリラックス写真集
笑顔のどうぶつ園 心がほぐれるリラックス写真集
カテゴリ:写真・イラスト集 | 12:31 | comments(0) | trackbacks(0)

週刊日本の城1 ディアゴスティーニ

城の建物 姫路城天守
 性能の高い兵器は美しい。そんな言葉を思い出した。流石は姫路城、優雅な異名からは想像もつかない恐ろしい仕掛けが組みこまれている。
 現代に残っていてくれて本当にありがとう。残すために尽力した多くの人に感謝を!

城の縄張 熊本城
 最初から全力で来ている。姫路城に熊本城の連続でそう感じた。西南戦争で実戦に供されたことが描かれていない。その点がちょっと残念。その辺りは「城と合戦」の方に期待するべきか。
 加藤清正の石垣技術について、名古屋城に行って読んだ解説では完全に伝説化していた。加藤家が取り潰されたために利害関係がなくなり、かえって神格化しやすくなったのかもしれない。

城の歴史 小田原城
 小田原城に丸馬出し!角馬出しで知られる後北条氏の本拠にそんなものが描かれた絵図が載っていた。徳川氏は武田流を取り入れたわけで、築かれても不思議はないんだが……。

城と合戦 小谷城
 何故か滅ぼされている朝倉氏。浅井長政もポルナレフ状態だったと思う。劇的な形で後詰の可能性がなくなった時点で完全に詰んだ。
 根気の強い戦もできる信長は本当に恐ろしい――半生は尾張の平定に掛けているからなぁ。彼こそ風林火山なんじゃないかと思ってみたり。

名城探訪 岡山城
 これは良い。自分の行ける範囲の城の記事もほしくなった。異なる時代の石垣が同時にみられる点もおもしろい城だ。

県別古城址一覧 静岡県
 奥地にも結構城がある。谷筋を南下してくる武田氏と徳川氏が激突していたせいか。城の経歴にも徳川氏が関係したものが多かった。流石に富士山の周辺は城がないな。

名城人物伝 織田信長
 ここは藤堂高虎から始めるべきだろう。でも、信長を築城名人の一人に数えることに異論はない。信長の拠点の中で小牧山城をスルーしている本が結構あるけど、城をメインにしたこの冊子ではちゃんと触れてくれている。


お高くなる2号は犬山城、3号は彦根城ということで手加減がない。城と合戦で岩屋城が描かれることはあるのかな。

週刊 日本の城 2013年 1/29号 [分冊百科]
週刊 日本の城 2013年 1/29号 [分冊百科]
カテゴリ:歴史 | 22:03 | comments(0) | trackbacks(0)

目で見る世界の古代文明シリーズ2〜古代ギリシア文明 クリストファ・ファッグ

 思ったよりぬるい!
 ヨーロッパ文明の原点というからには、しっかり書くものと思いきや、アレクサンドロス回りの記述に甘さが見受けられた。まぁ、ただ単に自分がそこにうるさいせいかもしれない。

 イラストはとても良かったし、当時の壺絵や彫像など一級品の史料の写真は流石に色あせない。審美眼そのものに影響を与え続けている文明だからなのか……。
 ギリシアはキリスト教やイスラム教に支配されてきた歴史をもつのに、神のことなど良く残っているものだと感心する。

 エレクトラムのことを「こはく金」と書くのを初めてみた。なるほど直訳すれば、そうなるのか。古代のギリシア人は白っぽさに透明感を見たのかなぁ。

古代ギリシア文明 (1983年) (目で見る世界の古代文明シリーズ〈2〉)
カテゴリ:歴史 | 22:36 | comments(0) | trackbacks(0)

謎解き 関ヶ原合戦 桐野作人

 日本史上最大規模の合戦である関ヶ原の戦いにまつわる20の謎をピックアップして、最新の研究から著者なりの答えを出している本。

 冒頭から石田三成に同情的で、加藤清正に批判的な書き方をしていることに驚いた。まぁ、歴史は勝ち組がつくるものだし、石田三成の側に立った考え方をしてもいいのかもしれない。
 島津兵を非常に高く評価していたことも印象的で、義弘が5000の兵を持っていれば……と愚痴ったことに説得力があるとするのは、どうだかなぁだった。

 内容自体はいろいろと興味深くて、多くの書状を引きながら、関ケ原合戦の姿を再現している。石田三成がやたらと楽観的だった時期があったこと、徳川軍の重心が東海道と中山道のどちらにあったか、一般にマブダチと思われている福島正則と加藤清正にも行動を共にしていない時期があった、など新鮮な発見があって面白かった。

 まとまって情報を手に入れることができる今と違って、関ケ原合戦が起きた当時は情報の伝わりが遅い上に不完全であったことが何度か語られている。
 そんな中で一族や家臣の運命をかけた決断をしなければならなかった武将たちの労苦が思われる一冊である。

謎解き 関ヶ原合戦 戦国最大の戦い、20の謎 (アスキー新書)
謎解き 関ヶ原合戦 戦国最大の戦い、20の謎 (アスキー新書)
カテゴリ:歴史 | 08:18 | comments(0) | trackbacks(0)

なごみの風 日本の名景ベスト50 渋川育由

 滝と湖、そして何より一面を一色で覆う花の写真が印象的な一冊。

 青森県横浜町の菜の花畑は作付け面積108ヘクタール!青い山と海、空まで真っ黄色に覆われている。連作障害がでないのか心配になる。
 埼玉県岩根山のミツバツツジは山をピンクに染めている。神職が長年をかけてせっせと植えて来たというエピソードも興味深い。今の日本には20年後の風景をイメージして木を植える心の余裕が必要だ。
 同じく埼玉県の巾着田の彼岸花は色の鮮やかさが圧倒的。100万本の彼岸花が神秘的な林の下を埋めている。林そのものも綺麗だ。

 他の写真では、SLばんえつ物語がおもしろかった。SLを包囲する鉄道ファンの多いこと。汽車よりも、人影の方をしげしげと眺めてしまったほどだ。雪原を背景にしているので良く目立つ。互いの存在が写真撮影の邪魔になっているんじゃないかなぁ……。

 三重県英虞湾もお気に入り。入り組んだ海岸に養殖いかだが浮かんでいる風景に気持ちが弛緩する。
 あと、六甲山蓬莱峡が黒澤明監督の「隠し砦の三悪人」の撮影地だと知ることができた点が良かった。ただし、羽黒山五重塔の解説で「室町前期に山形藩主の最上義光によって再建された」なんて無茶苦茶な記述もあるので気になったことを覚える前に裏を取ることを心掛けた方がいい。

なごみの風日本の名景ベスト50
なごみの風日本の名景ベスト50
カテゴリ:写真・イラスト集 | 08:35 | comments(0) | trackbacks(0)
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