戦国繚乱記 壱〜群雄起つ、明智軍を追撃せよ! 河丸裕次郎

 長宗我部信親の境奇襲によって本能寺の変につづく戦乱の展開が狂う歴史シミュレーション。織田信孝はあっさり信親に討ち取られてしまい、山崎の戦いでの秀吉の敗北と、柴田勝家による明智光秀の撃破という結果を招いた。
 天下を掌握するチャンスを得た柴田勝家だが、彼が烏帽子親をつとめた信孝はすでに亡いわけで、代わりに三法師を擁立しようとしたことから次の戦乱が近づいてくる。
 信長死後の流動的な状況を巧みに活かした設定の作品だ。

 勝家と光秀が激突した唐崎の戦いは、息子の心配をするあまり兵に強行軍をさせた光秀の自滅状態だった。子煩悩を前面に押し出していたとはいえ、情けない負け方だ。坂本城を含めて、ほとんどが佐久間盛政一人にしてやられている。
 勝家は後ろでどっしり構えているだけで勝利。まぁ、合戦に勝つ側はいつでもそんなもの。史実の山崎の合戦でも関ヶ原の合戦でも大将の本陣は戦っていない。
 だからといっていることに意味がないことにはならない点がおもしろい。

 後半から出番の増えた織田信雄がずいぶんと人物を高めていて驚いた。しょうじき、この信雄は好きだ。たまには天下人になっても良いんじゃないかと思ってしまう。
 戦が下手なら得意な人間に任せればいいという考えは分かるのだが、一歩間違えれば丸投げになりそうなところに危うさを感じないでもない。

戦国繚乱記〈1〉群雄起つ、明智軍を追撃せよ! (歴史群像新書)
戦国繚乱記〈1〉群雄起つ、明智軍を追撃せよ! (歴史群像新書)
勝家の表紙が濃すぎる。ふんどし祭りのポスターに似た顔があったよね……。
カテゴリ:時代・歴史小説 | 23:10 | comments(0) | trackbacks(0)

戦闘技術の歴史4〜ナポレオンの時代編 AD1792-AD1815

 ナポレオン時代の戦争をCG再現された多くの戦況図と共に追う。今までのシリーズと同様に5つのテーマに分かれて戦いが紹介されているため、時系列にそってナポレオン戦争を概観していくことはできない。
 ただし、各章はおおむね時系列に沿っているので、歩兵や騎兵、火砲の進歩を戦いを通じて感じることはできる。

 歩兵でも砲兵でも感じさせられたことだが、フランス軍の改革はナポレオン以前から着々と始まっていて、ナポレオンはその仕上げをした形になっている。特に火砲システムの整備におけるグリボーバルの功績は、城塞整備におけるヴォーバンの功績もかくやと言った趣がある。
 ちょうどフィリッポス2世とアレクサンドロス大王に似た関係を連想してしまうことすらあった。

 諸外国においては――イギリスを例外として――軍事システムの改革がフランスほど順調には進まんでいない。中でも最悪はプロイセンの砲兵と工兵で、フリードリヒ大王が彼らを軽視したことで、悲惨なまでに発展を阻害されている。成功体験に凝り固まった歩兵よりも、支援部隊から主力部隊を張れるまでに発展した砲兵たちへの悪影響が印象的だった。
 もちろんフリードリヒ大王だけが悪いのではなくて、偉大すぎる彼の誤りを正せなかったプロイセンの後継者たちも悪い。最終的には優秀な改革者を輩出することがプロイセンの慰めかな。

 一方でイギリスやオーストリア、ロシアはナポレオン戦争中から優秀な将軍や兵士を投入できている。
 歩兵方陣が必ずしも騎兵を食い止められるとは限らず、ワーテルローでのイギリス歩兵は飛びきり優秀であったことが説明されている。あるいはアイラウの戦いにおけるロシア歩兵の頑迷なまでのしぶとさに感心させられた。
 オーストリアでは皇帝の弟であるカール大公がナポレオンのライバルに値する軍事改革と指揮を行っている。フェルディナント大公の来援が間に合えば、ヴァグラムの戦いはワーテルローの戦いの前倒しになったかもしれない。

 ナポレオン側の将軍も興味深くて、ダヴーは最初から最後まで完璧に近い男だった――ただし、アイラウで負傷して指揮が採れなくなってしまう場面もある。ハンブルク攻囲戦での振舞いはあまりに見事で物語の登場人物みたいだった。
 ミュラも別の方向で史実離れしている。これまたアイラウの戦いでの元帥らしからぬ身軽さが印象的だった。
 そして、意外だったのがネイで、多くの戦いで果たしてきた役目を回想すると、単なる猛将ではなく、ナポレオンの無理難題に応えてなんとか結果を出してきた苦労人に思えてくる。ネイが指揮したカトル・ブラの戦いは、ダヴーが指揮したアウエルシュタットの戦いに並ぶ、ナポレオンの元帥の奮闘劇だった。

 最後の章になる「海戦」では、鉄板のアブキールの海戦やトラファルガーの海戦に続いて、レユニオンの海戦やエリー湖での海戦が描かれている。特にイギリス海軍とアメリカ海軍による五大湖のひとつでの戦いは非常に新鮮に感じられた。
 この戦いにおけるアメリカ海軍提督の名前をオリバー・ハザード・ペリーと言う。日本に黒船をひきいてきたペリー提督の兄である。

関連書評
戦闘技術の歴史1〜古代編 3000BC-AD500
戦闘技術の歴史2〜中世編 AD500-AD1500
戦闘技術の歴史3〜近世編 AD1500-AD1763
戦闘技術の歴史5〜東洋編AD1200-AD1860
ナポレオンの戦役 ローラン・ジョフラン/渡辺格
世界の戦争7〜ナポレオンの戦争 志垣嘉夫・編

戦闘技術の歴史4 ナポレオンの時代編
戦闘技術の歴史4 ナポレオンの時代編
カテゴリ:歴史 | 14:56 | comments(0) | trackbacks(0)

カラーイラスト世界の生活史21 ポンペイの人々 ピーター・コノリー

 うっかり歴史に町を遺すとプライバシーがないにゃー。

 一般市民が酒場で奴隷女をめぐって落書きの口喧嘩をしたことまで後世の人間にバラされてしまう。なんて恐ろしい悲劇であろうか。裁判文書ほどの体裁も整っていないわけで、住民の息遣いがしっかり聞こえてくる反面、格好悪さも禁じえなかった。

 しかし、野次馬気分になると、とても面白い。立派な中庭や家の増築状況まで見えてくるのだからポンペイは本当に魅力的だ。
 酒場の数の多さやトイレの様子など、歴史を追うことに意識を向けていると、かえって見失ってしまいがちなところまで見せてくれる。古代ローマのポンペイに生きていた人々も確かに人間であったのだと確信を持てるのだった。

 残念なことは貴族たちの時代からの盗掘が激しく行われてしまっていて、今でも心ない行動が見られることだ。すべてが完全に残っていれば、もっと素晴らしい歴史を見せてくれたことだろう……。

 イラストと文章が同じ人という珍しい巻だった。描くにも良く知っていなければならないから、能力的に不思議はないが。

関連書評
CG世界遺産 古代ローマ 双葉社スーパームック
古代ローマの言葉 ブノワ・デゾンブル/中井久夫・松田浩則

ポンペイの人々 (カラーイラスト世界の生活史 21)
カテゴリ:歴史 | 23:46 | comments(0) | trackbacks(0)

英雄大戦〜織田信長 対 サラディン 柘植久慶

 400年の時を越えてバグダートで信長とサラディンが激突。鉄砲を使いこなす織田軍に、サラディンは近くから確保した石油を用いることで対抗する。
 だが最終的には織田軍に石油を奪われ、逆用されたことがサラディンの命取りになるのであった。

 戦線を複数にしてしまった場合、多くの方面軍指揮官を抱える織田軍の有利がもろに出る。一時的に分断されることになっても、頭がサラディン一人しかいないアイユーブ朝軍を上回る結果になった。

 サラディン軍に関しては、非常に有能であったサラディンの弟が出てきていないなど描写の適当さが目立った。織田軍だって光秀が出てきていないと言うことはできるが……。
 まぁ、正直信長が勝つのは予想通り、敵地に遠征している立場でありながら補給線の問題があやふやになっていて、鉄砲玉をおしげもなく放てるところも信長に有利に働いていたと思う。
 三日月資雅との信頼関係も深まっており、信長が最後まで勝ち残っても不思議のない感じになってきた。

関連書評
英雄大戦 織田信長 対 チンギスハン 柘植久慶
戦国合戦奇譚 霧の戦場 尾上晴紀

英雄大戦 織田信長対サラディン (C★NOVELS)
英雄大戦 織田信長対サラディン (C★NOVELS)
カテゴリ:時代・歴史小説 | 22:32 | comments(0) | trackbacks(0)

北岳のお花畑 永田芳男

 日本で二番目に高い山、南アルプスの北岳に咲く花々の写真集。
 過酷な環境で健気に生きる色とりどりの花を楽しむことができる。

 触り程度とはいえ山登りに挑戦した経験があると、あのとき足元に咲いていたのはこの花だったかもしれないなどと思って、今までとは見たときの感慨が違ってくる。
 でも、北岳の固有種もしっかり収められていることにも注意が必要だろう。

 著者の地道な活動がまとめられた文章部分もなかなか興味深く、北岳を登るときに100種類の花を見分けて記憶できることには驚嘆した。これぞプロか……。

関連書評
極限に生きる植物 増沢武弘

北岳のお花畑 (山渓ネイチュア・ブックス)
カテゴリ:写真・イラスト集 | 00:08 | comments(0) | trackbacks(0)

信長王記3〜覇王への道 仲路さとる

 織田信長と武田信玄が、三河・遠江国境地帯の本坂峠で激突する!蛇紋岩地帯だから植物の育成が悪くて、普通の山よりも見通しがいいはず。そんな現地知識を発動してみる。まぁ、この時代だったら薪取りの影響の方が大きいかな。

 信長の罠に信玄があえて飛び込む形になった戦いは、まさに肉を斬らせて骨を断つ。損害の大きさを考えれば勝っても後の攻勢が続かない恐れが出てくるのだが、武田軍もよく無理攻めを続けたものだ。
 織田軍本陣を無理矢理直撃した山本勘介の足軽部隊は当然として、宇利峠から西に回り込んだ馬場信房の別働隊も悲惨な退却戦を強いられたに違いない。下手をすれば降伏を余儀なくされていたかもしれない。

 あと、武田義信が土壇場で信玄に反旗を翻したことには驚いた。史実の仲の悪さを考えればこの時点まで関係がもっていただけでも上出来なのか?今川氏真は剣豪から免許皆伝を与えられているにふさわしくない挙措動作だったし、三国同盟の息子世代で意地をみせたのは北条氏政だけだった。
 その氏政も判断は失敗だったけどな……信玄が十年後も健在だから、致命傷にはなっていないはず。
 ラストの様子では歴史は史実の流れに戻っていった感じがした。

 細かい部分では秀吉周辺の掛け合いが面白かった。それと武田軍の武将が兵を鼓舞するときの「大手柄を立てるのはお前だ!お前だ!」と全ての兵に呼びかける演説が良かった。世界大戦の募兵ポスターを思いだす。

仲路さとる作品感想記事一覧

信長王記〈3〉覇王への道 (歴史群像新書)
信長王記〈3〉覇王への道 (歴史群像新書)
カテゴリ:時代・歴史小説 | 00:26 | comments(0) | trackbacks(0)

ニュートン別冊 時の闇からよみがえる伝説の古代文明

 ニュートンらしくカラーのイラストとCGがふんだんに使われた古代文明の特集ムック。メインとなるのはモアイで知られるイースター島の文明と、エジプト新王国時代のラムセス2世、そして南北アメリカ大陸の文明である。あと、カンボジアのアンコール王朝が目立っていた。古代というには新しいと思うのだが……。
 四大文明の残り三つについては、メソポタミアとインダスが触りだけ、中国についてはまったくと言っていいほど言及されていない。歴史関係の本も6冊目ということで、偏った編集が可能になっているようだ。

 イースター島の地質とモアイ像の建造の関係、植生と生産力の関係が興味深かった。
 載せられていた地質図にちょっとだけ存在するプアカティキ山の流紋岩が気になる。黒曜石とも関係がありそうだ。火山島だから当然だが、深成岩はなくて火山岩ばかりなんだな。
 現在の人口は2800人ほどだが、最盛期の人口は1万5千人に達したと考えられるそうで、適切な環境の管理がなければ繁栄を維持できないことが教訓的だった。

 有名で偉大な王、ラムセス2世については特別な人間とはいえ古代の一人物の生涯がここまで追えることに感銘を受けた。他人の造った遺跡に名前を刻んだりして宣伝に熱心だったところは引っ掛かるが。
 長命だったおかげでたくさんいた息子たちの功績を自分のものに出来ているとの指摘も忘れられない。エドワード黒太子が父のエドワード王より先に死んだことを連想する。
 まぁ、ラムセス2世も先代のセティ1世と共同統治していたわけで、名誉は親子の回りモノなのかな。
 吉村教授によるラムセス2世の4番目の王子カエムワセトの話が初耳でおもしろかった。発掘の最中なので持ち上げすぎな気もするが。

関連書評
NHKスペシャル四大文明[エジプト] 吉村作治・後藤健
3日でわかる 古代文明 小川英雄

時の闇からよみがえる伝説の古代文明 (ニュートンムック)
時の闇からよみがえる伝説の古代文明 (ニュートンムック)
カテゴリ:歴史 | 00:07 | comments(0) | trackbacks(0)

鉱物・岩石入門 青木正博

 図鑑と読み物の中間。様々なとっつきやすい視点から鉱物・岩石の知識を植え付けてくれる本。おかげで楽しく読み進めることができた。
 最後の最後で岩石の比率が高くなってしまったが、蛇紋石ならぬ「蛇灰石」は印象的だった。鳩糞石の名前で高級装飾石材になるとは……伝統とは凄まじい。

 ダイアモンドの出番が比較的多かったのは、宝石でもあり、工業用にも役立つ石であるからだろう。地質的にも特殊で興味深い。
 主要な産地がインドからブラジル、ブラジルから南アフリカ→ロシア→オーストラリアと次々に移り変わって行ることも勉強になった。次はカナダであるらしい。

 日本国内の鉱床の写真がいろいろと集められていて、量はともかく、種類や質では豊かな鉱物資源に恵まれた国土であることを認識した。群馬鉄山が気になる。

 載っている鉱物の種類は少ないものの、産地情報や大きさの情報がちゃんと載っていて、標本の質も全般的に高い。図鑑の副読本的に使いたい本だ。

関連記事
鉱物・岩石の世界〜地球からのメッセージ 青木正博:本書の前身的存在
鉱物関連記事一覧

鉱物・岩石入門: 色や形の不思議、でき方のメカニズムがよくわかる
鉱物・岩石入門: 色や形の不思議、でき方のメカニズムがよくわかる
カテゴリ:地学 | 08:50 | comments(0) | trackbacks(0)

写真でみる実録日露戦争 太平洋戦争研究会

 モノクロ写真(時代から考えて当然である)がふんだんに使われた日露戦争の概説本。決して写真がメインでというわけではなく、うまくまとめられた文章にもかなり力が込められている。
 おかげで写真を追い掛けている内に気が付けば日露戦争の流れが最後まで追える形になった。大きな役割を果たした人物のコラムを設けてくれたことも良い刺激になって、飽きずに読み進めることができた。
 ただし、直接戦闘を撮った写真は期待したほど多くなくて、捕虜や会談後の写真が多かったりする。いまや遠くなった「記念撮影」の感覚が色濃い印象だ。

 まず最初の戦いが宣戦布告に先行していたが、問題になっていなかったことが興味深い。本国で戦いが終わっても植民地までは直ぐに伝わらなかった時代の感覚が残っていたのかもしれない。戦場への距離が近い日本には有利である。

 終始日本軍が押しながら決定的な勝利を収めることのできなかった陸上での戦いは、兵力差を考えれば贅沢な悩みを抱いているようにも思えてしまった。
 いや、旅順の戦いがなければ大砲も潤沢に使えて展開が変わってきたのかなぁ。攻略方針の冴えなかった乃木大将の責任は重い。マスコミへの対応には好感を持ったけどね。

関連書評
歴史群像アーカイブvol.22 日露戦争 瀬戸利春

写真でみる 実録 日露戦争
写真でみる 実録 日露戦争
カテゴリ:歴史 | 17:13 | comments(0) | trackbacks(0)

南海燃ゆ4〜老兵たちの凱歌 三木原慧一

 陸上要塞を撃破した古式艦隊の前に、キンメルひきいるアメリカの新型戦艦が立ちはだかる。圧倒的性能差をはねのけて日本海軍は勝利を収めることができるのか。注目、白熱の展開だが、いろいろと結果あり気に思える展開もあって、微妙に冷めた目で見てしまった。
 まぁ、特別攻撃とは結論ありきに決まっている代物。作者にとっての王道と考えれば、その通りなのかもしれない。

 両軍の戦いにはこれまでの作品の集大成的なところがあって「元ネタ」を知っているとニヤリとできた。たとえばレーダーと光学の組み合わせで砲撃パラメーターを得ることは「超弩級空母大和」シリーズの最初で扱われたアイデアだ。引退したはずの老兵や傷病兵を戦線復帰させる点も、「超ド級空母大和」の最終決戦で見られた。
 砲弾にロケットを組み込んだ砲弾で超遠距離砲撃をおこなうネタは新・大日本帝国の興亡で出てきた。問題は出てくる時期で、それぞれのシリーズにおける技術力のバランスが興味深い。要するにドイツの技術は世界一。

 レベルセブンの三人組が戦いが終わるまでに消費したタバコとコーヒーの量を考えると、肺と胃がおかしくなりそうだ。あまりにも不健康極まりない。とはいえ、砲弾の直撃を受けることに比べれば健康的である。

三木原慧一作品感想記事一覧

南海燃ゆ4 - 老兵たちの凱歌 (C・NOVELS)
南海燃ゆ4 - 老兵たちの凱歌 (C・NOVELS)
カテゴリ:架空戦記小説 | 00:40 | comments(0) | trackbacks(0)
| 1/3PAGES | >>