よくわかる元素図鑑 左巻健男・田中陵二

 水素からリバモリウムまで、元素を写真で紹介していく元素図鑑。例によって産出鉱物や利用方法が解説されている。
 利用方法関係では、ただでさえ珍しい元素が原子力発電に関わることが多いのに、原発事故のおかげで別の方向からも名前のでてくる元素があって、いささか食傷気味だった。
 一方で放射性元素に関係して鉱物標本の写真が多くみられた点は、鉱物好きとして収穫だった。橙色のキュリー石と一緒に写っている緑色の結晶は燐銅ウラン鉱かな?人形峠産の燐灰ウラン鉱が立派過ぎて驚いた。
 父島産の輝沸石といい、日本産らしからぬグレードの標本が飛び出して来る本だった。産地の解説が全ての標本にないのは、元素図鑑である以上は仕方がない。

 個別の元素ではベリリウムの解説にある「単体と化合物に甘味があり、わずかな量で死に至る強い毒性があります」が強烈だった。これ、甘味を確認した人は死んじゃったの?舌に載せるだけで吐き出せば助かるのかな……どんなに想像しても怖すぎる。
 クリプトンを吸うとヘリウムを吸うのとは逆に声が低くなるというトリビアも気になった。ボーカロイドを発売している某会社は、何故そんな元素を社名に選んだ?
 銀の皿は純粋なヒ素には反応しなくて、微量に含まれる硫化ヒ素に反応していたらしい。緑青の毒性とされていたものが銅ではなく、分離されなかった鉛から来ていた逸話を思い出す。

 周期表一枚にまとめることのできる小さな世界が、無限の広がりを持っている。そんな感覚が楽しかった。

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よくわかる元素図鑑
よくわかる元素図鑑
カテゴリ:地学 | 22:27 | comments(0) | trackbacks(0)

新織田戦記 四〜姫路城攻防、雌雄を決す! 河丸裕次郎

 姫路城まで追い詰められた秀吉は政治工作も実を結ばず、ほぼ単独で勝長と戦うはめになる。あまりの追い詰められぶりに秀吉に同情してしまった。SLGで退屈になりがちな「掃討戦」を割と真正面から描いていて、かえって新鮮だった。フィクションなら最後の戦いでも逆転勝利の可能性をもう少し見せる場合が多いのではないか。
 まぁ、姫路城では秀吉軍が出撃しての戦いぶりがなかなか良かった。まるで大阪夏の陣のようだ。大阪城なら南に敵を集中できるけれど、姫路城ではそうも行かないところが大きな違いか。
 それにしても全方面で攻勢にでるのは無理が過ぎたと思う。せめて北と東は防御に専念するべきだったのではないか。西についても無視して南に一点賭けをした方が成功率があがったはず。
 ただし、家康にまで手が掛かったので、西での秀吉軍は健闘したといえる。家康が本陣まで乗り込んできた敵を叩き斬っているところが好き。

 まぁ、そんな家康も勝長の天下で生きていくことは許されず、信雄と一鉄を謀殺した報いを最後の最後で受けることになってしまう。
 おとなしく流れに身を任せていれば平和を謳歌できたものを……いや、暗殺も自慢の剣術で斬り抜けたかもしれない。そこは描写されていないからなぁ。忠勝たちが負傷によって警護を外れている時点で望み薄か。
 振り返れば登場人物の死者が非常に多い作品だった。いやがおうにも世代交代せざるをえまい。それが五歳の天下人と一八歳の後見人が創る天下の姿だ。てるてるぼうずを作る三法師への萌えが天下統一の原動力だな!あれは健気で可愛すぎた。

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新 織田戦記〈4〉姫路城攻防、雌雄を決す! (歴史群像新書)
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信雄が戦国繚乱記と180度反対の描かれ方をしていた。ここまで幅を持たせられるのは凄い。
カテゴリ:時代・歴史小説 | 21:08 | comments(0) | trackbacks(0)

新織田戦記 参〜勝長、木曽川にて秀吉と血戦す! 河丸裕次郎

 サブタイトルの通り、木曽川で秀吉と勝長の決戦が行われる。策略によって滝川一益を討ち取った秀吉軍だが、二匹目のどじょうである勝長には手が届かず、真田昌幸の策略によって全軍の士気が崩壊してしまう。
 三法師には錦の御旗に近い効果があったようで、秀吉には痛すぎる損失だった。奪われるくらいなら、いっそ……と柳生に含めておくべきだったのかも。

 佐竹と宇喜多が真正面から激突する戦いの展開にはロマンを感じた。徳川軍を引き立て役にしただけに宇喜多はしぶとい戦いぶりを見せてくれたし、佐竹も鬼真壁などなかなか目立たない名将を活躍させている。

 信長の6男である信秀をようする稲葉一鉄が怪しい動きを見せ始めていて、天下取りの帰趨に微妙な影響を与えそうだ。
 木曽川で敗れた秀吉が盛り返すためには、落ち目にありながら毛利と宇喜多の支援を取り付けて、稲葉一鉄や徳川家康の目論見をうまく利用するしかない。領土も大幅に縮小したし、かなり苦しい立場である。

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新 織田戦記〈3〉勝長、木曾川にて秀吉と血戦す! (歴史群像新書)
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カテゴリ:時代・歴史小説 | 21:43 | comments(0) | trackbacks(0)

新織田戦記 弐〜秀吉、天下簒奪へ 勝長、起つ! 河丸裕次郎

 勝長が小田原城を落としている間に、柴田勝家と織田信孝が史実通り秀吉に敗北。命を失ってしまう。微妙に史実と異なるのは、前田慶次郎によって賤ヶ岳七本槍が壊滅状態に追い込まれたので、活躍が加藤清正と福島正則に偏っていることか。
 目標をもって精進する若者は強い。それは勝長側の人材にも言えて、真田幸村と御宿勘兵衛も後藤又兵衛たちとの戦いの経験からレベルアップしていた。前田慶次郎もうかうかしていられないな。
 まぁ、まったく別次元の戦いをする連中も出てきて、そいつらが三法師をめぐって戦ったりする場面もあった。孫世代の活躍ということで揃えているが、三代続けて人材を出せる家がそんなに集まるものだろうか。
 むしろ「三代目」だからアリなのかな。

 戦いは織田信雄の存在感が限りなくゼロに近づいている。犬山城をむざむざと秀吉に取らせる大間違いを犯して以降は出番すらない。織田軍の指揮も織田信張に集中している印象だ。まぁ、おかげで秀吉にそれ以上つけこまれることはなくなっているのだが。
 領土でも弟の勝長が圧倒的に大きいし、信雄の内心には不満が渦巻いていることだろう。黒田官兵衛なら、そこを突きそうだが、さすがに名目上の総指揮官自身の返り忠は意味不明か。応仁の乱なら、そんな展開もありえる気がしないでもない。

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新 織田戦記〈2〉秀吉、天下簒奪へ 勝長、起つ! (歴史群像新書)
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カテゴリ:時代・歴史小説 | 20:49 | comments(0) | trackbacks(0)

新織田戦記 壱〜本能寺炎上、天下攪乱す! 河丸裕次郎

 織田勝長が信長に関東を任されて生き残り、本能寺後の天下を変えていく戦記シミュレーション。神流川合戦に真田昌幸の献策で勝利してから反撃に出て雪だるま式に膨らむ軍勢で小田原城まで落としてしまう。
 やりすぎとは思う反面、勝長の元に集まる諸将のメンツが凄くて、夢とロマンを感じた。
 前田慶次郎と鉄甲船は反則的に強すぎて、作品を楽しむ上でのバランスを崩し欠けているけど……でも、慶次郎と政宗のやりとりには笑った。夢の漫才だ。
 慶次郎に三度も狙われた大道寺正繁には心より同情する。西に行くってことは秀吉に仕えて勝長と再戦するのかな。慶次郎のせいで七本槍のうち、四人までもが名をあげる前に討ち死にしてしまったので、補ってやってほしい。

 北条氏の敗北は氏政がすさまじい醜態をみせることになった。史実でも小田原城がああなった責任は氏直よりも氏政にあるから仕方がないのか。
 氏政でも強すぎる敵があらわれなければ、そこそこ順調に国家を経営できるシステムを建設した北条氏を褒めておきたい。
 そういえば幻庵の神流川合戦にあたってのアドバイスに間違いはなかったんだよなぁ。言われたとおりにできなかっただけで。
 そういうのも、徳川氏よりも勝長がいただくことになったわけで、東国の半分をしたがえた、信長五男の今後の活躍が楽しみだ。

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新 織田戦記〈1〉本能寺炎上、天下擾乱す! (歴史群像新書)
新 織田戦記〈1〉本能寺炎上、天下擾乱す! (歴史群像新書)
カテゴリ:時代・歴史小説 | 23:29 | comments(0) | trackbacks(0)

[図説]アメリカ先住民 戦いの歴史 クリス・マクナブ/増井志津代/角敦子

 ヨーロッパ人とアメリカ人の侵略にさらされたアメリカ先住民の戦いを5つの地域に分けて、豊富な図版をもちいて描き出す。広大なアメリカ大陸に住んでいた先住民がそれぞれ特徴的な文化・文明をもっていて、その特徴を活かしながら抵抗したことが伝わってくる。
 結局のところヨーロッパから持ち込まれた疫病の数々が、決定的な要因だったと感じられた。ただでさえ人口が減少したところに、近代的な農業に支えられた大量の人口で圧倒されてしまえば、抵抗にも限界がある。
 アメリカ先住民の持っていた病気がヨーロッパ人にダメージを与える逆のパターンが特に紹介されていないほど目立たないのも、人口の基礎が違うせいだろうか。

 兵器についていえば、小銃と馬に注目が集まっている。小銃は先住民にとって有効な武器であったが、弾薬を敵に依存する環境から最後まで脱することができなかった点が残念だ。ロシア相手に戦った北西海岸のトリンギット族は、他のヨーロッパ勢力から支援を受けていたようだが、こういう対立関係をもっと巧く活かせていれば・・・・・・だから、アメリカと単独で戦うのに近くなった南西部の部族は、イギリスやフランスが絡んでいた東海岸から平原の部族にくらべて弓に頼る面が強かったのだろうな。
 馬は銃よりは確保の余地が大きくて、入植者との戦力差を埋め合わせる方向に働いていた。いきなり品種改良が進んだ馬にぶつかることになったアステカやインカの帝国に比べれば恵まれている。

 戦術面では先住民が狩猟のテクニックを駆使して、ヨーロッパ人とはまったく異なる姿勢で戦いに挑んだことが良く分かる。先住民同士の戦いもヨーロッパ人とは思想を異にしている。
 巧みで地形をいかした襲撃と退却にボーア戦争を連想した。どちらも圧倒的な兵力の前に最終的には砕け散ったところも似ている。
 けっきょくは著者も指摘しているように先住民同士が手を結んで侵略者に抵抗できなかった点が痛い。そこをアピールして外交できれば侵略から距離を置いているヨーロッパ諸国から支援を得られたかもしれない。
 現実には先住民社会も多様であり、それまでの歴史もあって、最大の脅威を見抜くことができなかった。儀礼化した戦争で人口の減少を避けられていたものが、銃の流入によって、先住民同士の戦いにおける死者すら増える始末である。
 なんとも苦しい現実だが、それでも戦い抜いた多くの戦士が存在し、現在に至るも彼らの系譜は途絶えていない。それが良く分かった。

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世界の戦争8 アメリカの戦争 猿谷要
アメリカ独立戦争・上 友清理士:フレンチ・インディアン戦争も扱っている
南北戦争〜49の作戦図で読む詳細戦記 クレイグ・L・シモンズ/友清理士

図説アメリカ先住民 戦いの歴史
図説アメリカ先住民 戦いの歴史
 矢尻をわざと緩く結んで敵の体内でダメージを広げる手法は、戦国時代に武田軍が使った「ゆる矢」と同じだな。黒曜石の矢が当たると体内で破片が飛び散って、取り除けなくなるという話も怖かった。
カテゴリ:歴史 | 17:02 | comments(0) | trackbacks(0)

世界の名景〜人生を変えるベスト50 渋川育由

 写真をみるだけではちょっと厳しいが、実際に行ったら確実に人生を変えてくれそうな世界中の土地を掲載した写真集。
 まぁ、行って見て回るために長期休暇を取って準備して――という手間を考えるだけで人生が変わるのは確実か。それで人生が変わらないような人生に変えたいなぁ……。

 ヨーロッパからアジアの風光明媚な土地が多くて修養よりも観光に向いている。中には宗教的な土地もあるが、異教徒が行ってもそんなに問題なさそうだ。

 赤い砂岩の秘密都市ペトラは確かにインディー・ジョーンズで見覚えがあった。岸壁に穿たれた神殿の姿が実に荘厳だ。変な罠が待ち受けていそうで怖いけど。
 イスファハンのイマーム広場は、漫画作品「将国のアルタイル」で元ネタにされていないか、探したい。「世界の半分はイスファハンにある」は凄い高評価だ。

人生を変える世界の名景ベスト50
人生を変える世界の名景ベスト50
カテゴリ:写真・イラスト集 | 21:32 | comments(0) | trackbacks(0)

宇宙飛行士が撮った母なる地球 野口聡一

 国際宇宙ステーション(ISS)からニコンのデジタル一眼レフで撮影された地球や人工衛星の姿を収録した写真集。ツイッターで野口宇宙飛行士が発表していたものである。
 写真集になっても、リアルタイムに撮られていたときの雰囲気が残留していて、宇宙から実際に地球を眺めている気分に耽ることができた。ちょうど大震災一年前の宮古湾も載っていて、そこは流石に今の姿と思うことはできなかったが。

 個人的に面白かったのは、都市と河川の姿で、どちらにも共通する「ネットワーク」構造が瞬間を切り取った写真のなかで「流れ」を感じさせてくれた。
 ヨーロッパの著名都市などは過去に遡って同じ写真を撮れたら最高なのにと思ってしまう。せめて未来の人にそういう経験をさせられるよう、現在のデータを集めることはできるのだな。
 自然発生的ではない計画都市にも独特の魅力があった。都市計画を立てた人に、あの写真をみせてあげたい。

 やっぱり地球は美しい星だ。人と自然の営為によって変化しつつも、美しさには寸分の変化もないことを望む。

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気象衛星画像の見方と使い方
雲の世界 山田圭一

宇宙飛行士が撮った母なる地球
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カテゴリ:写真・イラスト集 | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0)

戦国軍師伝1〜秀吉、織田軍を離反す! 河丸裕次郎

 羽柴秀吉が毛利軍の攻撃を上月城近くで受け、降伏と織田家への離反をよぎなくされる戦国シミュレーション。彼に従っていた二兵衛こと、竹中半兵衛と黒田官兵衛の行動が大きく歴史を変えていく。
 竹中の方には死の病が迫っているわけで時間との戦いにもなっている。彼が秀吉に託している夢は、現実の秀吉の末期を知っていると皮肉に思われてしまってしかたがない。

 戦闘描写がなかなか流麗で臨場感を覚えながら読むことができた。負けて死ぬ武将でも作者に愛されている人物は格好良く描かれている。
 中国地方を舞台にしていることも新鮮に感じられた。毛利はともかく、宇喜田直家が活躍する作品は少ないのではないか。

 あと、三木城の攻め落とし方が奇想天外。堤の形からみれば普通の水攻めではないことは分かりそうなものだが、思いこみとは恐ろしいな。

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戦国軍師伝1 (歴史群像新書)
戦国軍師伝1 (歴史群像新書)
カテゴリ:時代・歴史小説 | 20:09 | comments(0) | trackbacks(0)

これはゾンビですか?13〜いいえ、全く記憶にございません 木村心一

 裁判の話と同じく長編の間にさしこまれた短編集だった。微妙に本編とかかわっていて、読んでいないと理解の妨げになるからタチが悪い。まったく!角川グループはまったく!
 スピンオフで先に読んでしまった話も多くて、元なのに二番煎じを飲んでいるような不思議な感覚を味わった。おかげで頭の中で映像化しやすいことは強みだな。

 巨乳学園でユーがハルナを出さなかったのは、最大のライバルだと無意識下で認めているせいかもしれない。胸は小さくとも、10巻での活躍はそれくらい大きかったからな。
 すべてを騎馬でやりぬいた体育祭は、やはり戦術描写がおもしろい。織戸はジュース63本もおごらなくても、三原の馬になってやれば良かったのでは?取引の詳しい事情がかなり気になる。犠牲になった女子は三原の想いをくんで我慢したのだろうか。

 感動シーン再現はパロディ連発で滑りまくっていた。ほぼ最初に思ったことをオチで言われたよ……アホのトモノリにすら分かるネタに自分の知らないものがあると、非常に苛立つ。仲が良ければ良いだけ、疎外感を覚える。
 セラもこんな気分だったのかな――むしろ、良く我慢したと思えてきた。でも、足利義輝の辞世の句は分かりませんでした、ごめんなさい。

 最後は平松を1万票とするあからさまな不正によって、三者会談が決定した。民主主義的にそれはちょっと……でも、おそらく冥界もヴィリエも吸血忍者も指導者に権力を集中させた体制なんだよなぁ。
 あんな形で議論したことが不思議なくらいかもしれない。ある種の「謀反」と受け取られなければ良いのだが――特に大先生。

 冥王が刺された急展開は下手人がペンギン型メガロの姿をしている気がして仕方がない。頭領一人では女王に立ち向かえないだろう。一体どうするの?

木村心一作品感想記事一覧

これはゾンビですか?13    いいえ、全く記憶にございません (富士見ファンタジア文庫)
これはゾンビですか?13 いいえ、全く記憶にございません (富士見ファンタジア文庫)
179Pでセラが、さらりとアホの子認定されていた。割とアホじゃないってことは、そこそこアホってわけで……
カテゴリ:ファンタジー | 13:48 | comments(0) | trackbacks(0)
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