真伝 大坂の陣3〜決戦!夏の陣 伊藤浩士

 お年寄りの熱中症にはご用心!水の補給はこまめに行いましょう。しごきで水を摂らせないなどもっての外。
 水の補給に関して家康と昌幸の戦いになっている。偶然なのか、観察眼の差なのか、真田昌幸の理論が勝利して、家康は夏の陣に倒れることになってしまった。病気で体調が思わしくないなら春の陣や秋の陣をやればよかったのに、身体にこたえる冬や夏ばかり遠征をおこなうから、こんな結果になるのだ……民衆の負担を減らしたいと考えての行動なら立派なものだな。
 最後の命を燃やし尽くして五分に近い状態になってしまっても勝ちにくる家康には好感がもてた。外道な行為を繰り返すユッキーよりも勝ってほしいと思ったくらいだ。

 だから両者相討ちの結果は納得のいくものと言えないでもない。父親想いの秀忠が死んだのは可哀想だったけど……やっぱり徳川を贔屓してしまう。
 彦左衛門がまさかの活躍をしてくれたな。

 大坂方が環境テロを活かして六連勝してから行われた最終決戦は、家康とユッキーが自分のカードを積み上げていって、仕掛けが多い方の勝ちという戦いだった。将棋の詰め合いみたいである。
 家康がやられても秀忠が無事なら後の展開は変わっていたはずだが、本多正純が余計なことをしてくれた……戦後を睨んで家康が打っておいた手が、戦争中にマイナスに機能することが多かった。池田家の並立状態や、越前松平家の扱いも同じだ。
 なかなか際どい事をしていたと感じる。戦国武将の走りである朝倉孝景なら、犬畜生でもまず勝たなければ意味がないと冥府で家康を笑うかもしれない。

伊藤浩士作品感想記事一覧

真伝 大坂の陣〈3〉決戦!夏の陣 (歴史群像新書)
真伝 大坂の陣〈3〉決戦!夏の陣 (歴史群像新書)
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月刊ニュートン2013年9月号

NGK SCIENCE SITE
 なるほど蓋にぶら下げて音の伝播を防ぐのか。このくらいの低圧でも音が聞こえなくなるまで行くらしいことが驚き。やっぱり実証に優るものはない。

SCIENCE SENSOR
 金を取りだす新手法:シアン化物は怖い。安全で効率的に作業が行えるなら関係者にとって福音だ。
 惑星形成の理論と矛盾?:3個以上の木星型惑星があった場合に、弾き出されて問題の位置に落ち着く可能性はないのかな。それは議論された上での発表だろうな。
 フランスワインの起源:ローマ人というかカエサルの先遣隊としてワインがあったらしい。
 チーターの運動能力:いつもはボルト並の早さで狩りをしているなら、人間にもチャンスが……ないな。だって不整地で出している速度記録だもん。
 始祖鳥はやっぱり鳥?:味を確かめれば確かなことが言えると思う。うん。
 金星上空の超強風:あかつきの仕事だったのに、ビーナス・エクスプレスの成果になっている。惜しい。イカロスが未だに元気であるのは救いだ。
 月の精密な重力測定:グレイルなんて探査衛星が活動していることを把握していなかった。月と火星は常に何かしら周回している状態になりそうだ。クレーター中央の重力以上は隕鉄ではなく、衝撃の溶融が原因か。

ハダカデバネズミががんになりにくい理由
 あいかわらず不思議な動物だ。なりにくいであって、ならないわけではないようだが、羨ましい。あの外見になる代償と言われると辛いが。

3万9000年前のマンモスが日本にやってきた
 名前が日本的で可愛い。「YUKA」とはね。
 発掘から輸送までの段取りに19世紀的な泥臭さを感じた。ティラノサウルスのページであった移動DNA解析車が現場にあれば――通常の車ではアクセス困難か。

恐竜学の最前線 ティラノサウルス
 ティランノサウルスとは表記しないのね。かの暴君竜が研究者たちに愛されていることが良く分かる内容だった。ここまで情熱を傾けられるのは王者冥利に尽きるはず。
 インタビューのジャック・ホーナー博士が実にユニークだ。失読症でも研究の最前線に立てるというか、だからこそ最前線の研究をやっているとは!

探査機がとらえた火星の絶景
 マーズ・エクスプレスが大活躍。見事な火星の鳥瞰をみせてくれている。双子のクレーター画像の左下にいる大きさの同じ繋がったクレーターが面白い。画像全体も真ん中のクレーターのおかげでタコ型火星人の顔がみえる。

大陸移動と超大陸
 すばらしい!
 地形を舐めるように見ながら、夢を見させてもらった。沈み込み帯やバンクまで表現されているが、どうやって情報を集めたのだろう。砂漠などは化石情報だろうが。
 まだまだ推定の余地は大きいと思うが、未来のユーラメリカ大陸画像を含めて楽しむことが出来た。

謎めいた昆虫たち
 ゴミムシダマシ特集。全体にピントのあった合成写真で、地味だが極めて多様な虫の姿が紹介されている。構造色に輝くものや、ナウシカに出てきそうな造形をもつものなど、魅力的だった。
 国産のゴミムシダマシでも外国産に負けていない点も嬉しい。

美しき漂流者――クラゲ
 ベニクラゲの若返って復活する性質は神秘だ。そんなことをする有利がどこにあるのかな。DNAも劣化していくだろうに。
 似た形をしたクラゲでも個体と群生体があったり、刺胞をもっているクラゲと持っていないクシクラゲがいたりとフワフワと掴み所がない。それこそクラゲの魅力なのであろう。

急増する自閉症
 できることなら、ここに出ている条件をすべて回避したくなる。ひとつでも当てはまれば産む気がなくなるのでは少子化は加速するが。とりあえず喫煙はいかんな。夏の妊娠が影響するらしいのは謎だ。

建物はどこまで高くできるか?
 バベルなお話。高さ1600メートルまでは現代の技術で可能。高さ36000キロの塔が建てたいです!基本的にセメントと鉄で造っていることが興味深かった。
 そういえば中国で超高層ビルの建築が中止になったところだな。

3DプリンターCube
 16万円で買えてカートリッジは6千円か。置き場所さえ確保できれば考慮に値する金額だ。まぁ、何も経験のないところから使いこなすには、かなりの労力が必要と思う。

虫さされ
 年齢によって虫さされ時の反応は違ってくる。そんなことがあるとは思いもよらなかった。身近なことで驚けた。

ボイル・シャルルの法則
 高山のスナック菓子より、深海のカップめんをイメージするのだが、あの場合は中身が周囲に流出してしまっているのかな。元の形に戻らないし。

STAR-WATCHING
 力技で創られた小さな星座、たて座のお話。おそらくムスリムには面白くない話である。いまや信仰する人がいないであろうギリシア神話から主に取ってくることの無難さを感じた。

Newton (ニュートン) 2013年 09月号 [雑誌]
Newton (ニュートン) 2013年 09月号 [雑誌]
カテゴリ:科学全般 | 22:43 | comments(0) | trackbacks(0)

目で見る世界の古代文明シリーズ3〜古代ローマ文明 クリストファ・ファッグ

 イラストと写真で古代ローマ文明を解説する大きくて薄い本。1983年発行ということもあり、目新しさもなく、読んでもおさらいの域を出ることがなかった。
 簡潔に述べられていることの背後関係を思い出すのは記憶の強化に役立つ。スパルタカスの叛乱が東方で行われた上に、ポンペイウスに倒されたことになっているのが意味不明だ。イタリアの中部と南方が舞台で、倒したのはクラッススなのに……クラッススと言えば、火事の直後に土地を安く買いたたく話が初耳で興味深かった。

 他にはヴェスパシアヌスと彼の息子たちの王朝を最も評価している点が新鮮だった――五賢帝時代よりも、こっちの方を上に見るとはなぁ。まぁ、まだ「上昇気流」を感じられる時代ではあったのかもしれない。
 五賢帝時代は素晴らしくても水平飛行になってきている感じはある。

 イラストではローマ軍の駐屯地と水道橋建設現場のものが良かった。駐屯地周辺の泥濘にまみれた雰囲気が見事。
 ことわざの「ローマの休日(他人の不幸で利益をあげること)」は映画のおかげで、あまり使えない気がする。

関連書評
世界の戦争2〜ローマ人の戦争 吉村忠典
CG世界遺産 古代ローマ 双葉社スーパームック

古代ローマ文明 (1983年) (目で見る世界の古代文明シリーズ〈3〉)
カテゴリ:歴史 | 19:13 | comments(0) | trackbacks(0)

南北戦争記 ブルース・キャットン 著/益田育彦・訳/中島順・監修

 南北戦争を一冊で網羅した決定版的な本。軍事はもちろん、政治や経済の観点にもよく目を配っている。
 おかげで南部連合の工業設備が海岸の都市にあるのに、合衆国の優勢な海軍力によって、海岸都市が次々と占領されて行った影響が大きいことに気付いた。あと、北部の穀物生産量は反則だ。自給が出来るどころかヨーロッパ諸国に輸出して外貨と中立を購入できてしまうなんて!
 工業の北部、農業の南部という視点は少なくとも北部に関しては正しくないことが分かる。
 ほとんどすべての要素で優る北部に対して、人的資源で戦う南部連合の姿はどうしても太平洋戦争の日本に重なってしまう(戦った年号も1年から5年なんだよな)。だから、日本帝国と同じく道義的にどうかと思いながらも、ついつい肩入れしてしまうのだ。
 シェリダンのシェナンドーア峡谷荒らしやシャーマンの海への進軍について、効果の分析が不十分に感じられることも不満だった。後方をあらしたことは確かに南軍を弱体化させたかもしれないが、それでも彼らは最後まで諦めず敵に対峙したわけで、いくらなんでもすでに占領下にあるアトランタやサヴァンナを焼き払う意味はまったくなかったと思う。
 同じ国の人間でも納得させるのに100年以上掛かっている――いまだに納得させきれていない――のだから、同じ手を他国で使えば結果は明らかだ。歴史が勝者のものだとしても歴史に学んでほしいものだ。ちなみに南部は南部でゲリラ戦をさせた部隊が酷い暴走を示したことが記述されている。失われた大義とは一体何なのか……。

 指揮官ではネイサン・フォレストの扱いが大きくて新鮮に感じた。「最大多数の兵で現場にできるだけ早く到達すること」という彼の原則がすばらしい。彼は騎兵部隊の指揮官だが、鉄道の価値を一言で表した発言でもある。
 全体的な展開を描いている本だけに、西部戦線の重要性がよくわかった。西部方面に優秀な指揮官を安定して張りつけることのできなかったジェファーソン・デイビス大統領の失点は大きい。フォレストの抜擢が無理でも、ストーンウォール・ジャクソンが送り込めたら面白かったかも。
 無難なところではポーレガードか最終的に軍を任せたジョンストンで良かったのでは?人事に好き嫌いが影響しているから困る。
 まぁ、合衆国のポトマック戦線も人事は混乱している。マクレランからグラントにストレートに引き渡しが出来ていたら、南北戦争はもっと簡単に終わったはずだ。

 とはいえ、南軍がチェンジしつづけて引き当てたジョーカーがフッドで、北軍が引き当てたジョーカーがグラントであるのは事実。人事は大事だ。
 ほぼ全ての将軍を好意的に紹介している――バーンサイドですら!――のに、テネシー軍団を任されてからのフッドは欠片も褒められていない皮肉は強烈だった。何が言いたいかというとマクレランをもっともっと褒めてあげてください!

関連書評
南北戦争〜49の作戦図で読む詳細戦記 クレイグ・L・シモンズ/友清理士
世界の戦争8 アメリカの戦争 猿谷要

南北戦争記
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カテゴリ:歴史 | 12:25 | comments(0) | trackbacks(0)

目で見る世界の古代文明シリーズ4〜古代中国文明 ロバート・ノックス

 おさらい。しかし、考古学情報が古いので夏を未確認の王朝扱いしていたり、揚子江文明へのカバーが――日本人翻訳監修者のあとがき以外は――薄かったり、不備も見られる。案外、発行当時の世界で、中国文明がどのように見られていたかを知るのに使うのが一番かもしれない。
 本の中で語られている「今の中国」が本当の「今の中国」と大きく違っていることにも溜息が出た。

 中国文明のキーワードはともかく「今に続いていること」だと、何度か出てくる説明で思った。流れが多少なりとも残っていても、元の場所に主流として根付いているとは言いがたい古代文明が多い中で、なぜか中国だけが異民族の支配を何度も受けながらも命脈を保っている。
 そこがより一層、神秘を感じさせるのであろう。

 日本人が書いたわけではないためか、意外なところの説明が詳しい現象がたまに見られることも良かった。鋳鉄の古さや都市生活の様子などが興味深い。
 陶器や絹が目立ちがちだけど、漆器の存在も忘れちゃいけないな。

関連書評
NHKスペシャル四大文明[中国] 鶴間和幸

古代中国文明 (1984年) (目で見る世界の古代文明シリーズ〈4〉)
カテゴリ:歴史 | 23:55 | comments(0) | trackbacks(0)

地上から消えた謎の文明 吉村作治・監修

 さまざまな古い文明のおもしろい話を1〜2ページで紹介してくれるトリビア本。古代とは言いがたい時代も一部にあるが、だいたいはミステリアスな時代・地域が多い。
 特に北アメリカ大陸の文明は聞いたこともないものがあって興味深かった。ヨーロッパ人の侵入とは関係なく滅んでいる文明もたくさんあるんだよなぁ。それでも末裔が同じ場所で生き続けることが出来ていれば、もっと多くのことが分かった気はするんだが。
 本のタイトルからはトンデモの香りがするけれど、監修が吉村先生だけに内容はしっかりしていて怪しげな言説は見当たらなかった。ピラミッドの寸法など実際に存在する謎は、そのまま事実だけを取り上げている。

 日本の話題もけっこうあった。縄文時代にソバが栽培されていたことや、ピラミッドは面白かったのだが、定番の邪馬台国論争には苦笑しかできない。ジャワ・スマトラ説を唱えている人が楽しい。せめてフィリピンで止めとこうよ。

 締めとなったナバーラ王国のサンチョ大王は婚姻と外交を上手く使って戦争なしで領土を拡大していて孫子がみたら絶賛しそうだ。スペインを舞台にした歴史漫画アルカサルを読んだおかげで興味を引かれた。
 サンチョ大王はハプスブルク家の先を行っている。だけど、領土を三分割で息子達に残してフランク王国の後追いもやったという……。

地上から消えた謎の文明
地上から消えた謎の文明
カテゴリ:歴史 | 20:32 | comments(0) | trackbacks(0)

地球の不思議を科学する〜地球の「なぜ?」がわかるビジュアルブック 青木正博・監修

 地球科学について一通りの説明を試みている子供向けの科学本。
 非常に多岐にわたる分野をあつかっているため、触りの説明で終わってしまうものが多い――というか大部分だが入門用には適している。
 だから「なぜ?」の答えから浮かんだ二段目の「なぜ?」には答えてくれるものではない――そのために参考書が巻末に載っている。

 問題は致命的な間違いが二つあったことで、地学よりも天文学の領域とはいえ、鵜呑みにされると拙いと思った。
 ひとつは元素のでき方で、炭素や酸素などは「星、つまり地球で作られました」と、たわけたことを抜かしてしまっている。元素の崩壊で発生する可能性はあるだろうが、大部分は“恒”星の核融合だよ……どんな経歴の著者が書いているのやら。
 もうひとつの間違いはガス惑星やガス氷惑星を「アンモニアを主成分とする」と説明している事。含まれるだろうけど主成分にもってくるか?水素やヘリウムが主成分のはず。
 そんな感じで怪しくて危ない本である(初版の場合)。海水を蒸発させると出てくるものの説明で、塩化ナトリウムが二連発していたのも誤植っぽい。代わりに入る化合物があるのか、単純に二連続してしまっただけなのか?

 個人的に得られた新しい知識としては「葉の周囲のギザギザがないものは暖かいところほど多くなる」というものがあった。理屈の説明はしてくれないが、古環境の復元に使えるとのこと。

地球の不思議を科学する: 地球の「なぜ?」がわかるビジュアルブック (子供の科学★サイエンスブックス)
地球の不思議を科学する: 地球の「なぜ?」がわかるビジュアルブック (子供の科学★サイエンスブックス)
カテゴリ:地学 | 00:28 | comments(0) | trackbacks(0)

天下争覇3〜天下を掴み取れ!! 河丸裕次郎

 美濃を放棄して尾張まで後退した徳川家康を、七本槍をひきいる豊臣秀頼が追撃する。美濃と尾張を分ける木曽川が最終決戦の地になった。
 小牧・長久手の戦いで秀頼の父親が苦戦したことを思えば、かなり順調に戦いを進められたのではないか。野戦築城によって長期対陣に持ち込んだわけではないかならな――そういう歴史シミュレーションって珍しいな。

 秀頼の採った作戦は兵力分散の愚を犯しているようでもあり、結果的に分進合撃が出来たからオーライとしなければならないようでもある。
 家康が兵力の集中に成功して、敵の動きを正確に把握していれば、各個撃破が可能だっただろう。特に伊勢経由の浅野・蜂須賀隊は本隊との連絡が乏しすぎる。相互に目立った動きがなかったおかげで家康の裏をかけたと考えることもできるが、なかなかの博打だったと思う。

 家康は負けた後の態度がおもしろい。50年の蟄居に耐えて野望を燃やすことができるなら、天海から何かを吸い取っているな。
 途中の話から徳川家が(豊臣家も)完全に滅亡しないことを予想することが出来た。まぁ、関東が残っているわけでゴリ押しで東まで殴りこむのは容易ではない。けっきょく徳川家は結城秀康が統べて、三河から伊豆までの四国に押し込められた。関東によっぽど信用できる人材を配置しなければ危険な状態だ。
 加藤清正が入るのかなぁ。嘉明も史実を考えるとありえる。西は尾張を治めた実績のある福島正則だろう。北側には真田と残りの七本槍が配置されれば、この世界の場合はひとまず安心か。
 秀頼も戦いを通して成長したようだし、めでたしめでたしかな。

河丸裕次郎作品感想記事一覧

天下争覇〈3〉 (歴史群像新書)
天下争覇〈3〉 (歴史群像新書)
カテゴリ:時代・歴史小説 | 15:16 | comments(0) | trackbacks(0)

天下争覇2〜徳川家康に完勝せよ!! 河丸裕次郎

 これがデビュー作なら分かるのだが、デビュー作の新織田戦記より劣化している感じなのが不思議だ。家康の判断が秀頼にとって都合のいい方向に転び過ぎている印象を受ける。まぁ、関が原後を題材にした歴史シミュレーションでは家康によほど兵力の分散をしてもらわなければ戦い自体が成立しないところがあるのは理解できるのだが……風聞二つで関東の兵がほとんど封じ込まれる展開はいただけなかった。
 防御に徹するなら仮想的に数倍する兵力を残す必要はあるまい。せめて敵と同数、もっと少なくてもいいくらいである。関ヶ原の戦いにおける家康の判断に習えば、自然とできることだと思うのだが……。

 褒めるところを挙げれば、真田昌幸が七本槍と組んで戦っている点が、両方を好きな人には良さそうだ。ユッキーと昌幸がそろって大舞台にあがることに成功している点も悪くない。
 まぁ、個人的に彼らはあまり好きではないのだが。
 表紙の何か狙いすぎた加藤清正と福島正則のイチャつきっぷりは面白かった。

 あと、天海が淀殿にぐうの音を言わせているところがスカッとした。この世界の淀殿は何度城から追い出されれば済むのだろうか。小谷城、北ノ庄城、改変で大阪城、清州城、指折り数えてみると気の毒にもなってくる。

河丸裕次郎作品感想記事一覧

天下争覇〈2〉徳川家康に完勝せよ!! (歴史群像新書)
天下争覇〈2〉徳川家康に完勝せよ!! (歴史群像新書)
カテゴリ:時代・歴史小説 | 22:26 | comments(0) | trackbacks(0)

スコットランド王国史話 森護

 イングランドから大きな影響を受け続けながら、近代まで独立を保ったスコットランドの歴史を歴代国王の事業を追うことで一巻の話にした本。
 やはりスコットランドが国力十倍の隣国から身を守ってきたことが奇跡的に思えるのだが、あのローマ帝国ですらピクト人の制服には失敗しているので無理からぬことかもしれない。ローマ帝国にガリア戦線があったように、イングランド王国にもフランスの戦線があったわけで、蝦夷を征服した大和王朝との比較はナンセンスか。
 百年戦争が落ち着くころには両国間の血縁関係がすっかり出来あがっていて、暴力的な手段で生産性の低い土地を奪い取るよりも、外交力によって国土を統一してしまう方が効率的になっていたし、事実同君連合は誕生した。
 アジアとは異なるヨーロッパらしい国際関係が、北の辺境とさえ思われるスコットランドの歴史から学べる事実は興味深い。

 スコットランド単体でいえば非業の死を遂げた国王の多さに戦慄した。必ず長男に後を継がせるのではなく、一族の実力者を選んで王位をつがせる「タニストリー」制度の弊害が非常に目立っている。
 このような制度があったわりに優秀な国王が多かったかと言えば……嫌々やる人間の方が権力者に向いているのかもしれない。

 まぁ、タニストリーが廃止されてからは優秀な王もポツポツ出てきており、スコットランドが完全に後進的な状態にならないよう力を尽くしている。ジェイムズ四世はスコットランド人の誇りだろうなぁ。そんな彼でも軍事技術の発達には追いつけず、イングランド軍の前に散っている史実が悲しい。
 対するイングランドの国王には強力な人物が多いように感じられた。これはスコットランド視点で目立ってくる王は自然と外征を行う余裕のある人物であることも関係しているはずだが、逆にスコットランドがイングランドの混乱に付け込めるパターンが少なかったことも分かる。常に内輪揉めをしているからな……。
 エドワード2世とジョンは数少ない例外であろう。

 筆者の専門が紋章学であるだけに、紋章に関する話題が多めだった。イングランドとスコットランドでは、グレートブリテンの王が紋章を使い分けている話などは興味深い。こういう気遣いをいつまでも忘れない姿勢にホッとする。

関連書評
イングランド王国前史〜アングロサクソン七王国物語 桜井俊彰

スコットランド王国史話 (中公文庫)
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