古絵葉書でみる日本の城 西ヶ谷恭弘・監修/後藤仁公・編

 明治から昭和初期にかけての絵葉書に収録された日本の城郭をあつめた写真集。戦災で失われる前の貴重な姿をたくさん見ることができる。
 解説も詳細で、北から南まで一通りの城郭について知識をえられた。五稜郭にはじまって首里城で終わる構成はなかなか面白い。

 また、地域のシンボルとして城郭の写真をもちいた人々の想いがなんとなく伝わってきた。
 それぞれの城に多くの異名があるところも、郷土愛のあらわれと言えるのではないか。
 しかし、悪い方向に郷土愛が働いてしまうと、意味不明な模擬天守を立てることになってしまうから、油断ならない。
 「戦前に建てられた」岐阜城の模擬天守を写した絵葉書には衝撃を受けた。実に無茶苦茶をされているなぁ。徳川氏にとって重要な意味をもつ岡崎城の現状が酷評されているのには笑った。笑うしかなかった……。
 太平洋戦争ではなく、幕末の戦いで焼けてしまった城の写真には荒涼とした空気があって、寂しい気持ちもわからないでもなかったが。

 各地で復元が進んでいるため、絵葉書の状態よりも、江戸時代に近い姿をもつに至っている城が一部ながら見られる事実はうれしい。掛川城など見事なものだ。
 伊予松山城の建物がうしなわれた端から復元されている点には住民の執念を感じた。松山市民がいるかぎり伊予松山城は滅びぬ。何度でも蘇るに違いない。

関連書評
復元ドキュメント 戦国の城 藤井尚夫
日本の城[古代〜戦国編]〜知られざる築城の歴史と構造 西ヶ谷恭弘・香川元太郎

古絵葉書でみる日本の城
古絵葉書でみる日本の城
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決定!戦国武将最強ランキング 歴史人別冊

 タイトル通り戦国武将をランキングづけした本。自分がつくらない限り、どこかで不満が生じるに決まっているランキングだが、加点方式でみれば尼子経久が12位につけている点がうれしい。
 毛利元就の3位に引っ張られたなどと考えてはいけない。
 家康の2位も秀吉の4位も納得できた。秀吉は晩年がなければ2位を取れたはず。7位の北条氏康もいいよね。甲相駿三国同盟の最下位は今川義元の14位だった……提唱者なのに。
 上杉謙信が上位にもってこられるだけなら、いつものことだが、彼の経済政策を評価しているところも新鮮味があってよい。あれだけ戦争と献金を繰り返していて、莫大な財産を遺しているのだから――奥方に金が掛からない点が大きかったか?
 ランキングの後半はノミネートされるか、されないかが最初の勝負になっている気がした。獲得ポイントもトップ10と比較してみると違和感がある。
 それでも地味な戦国武将に日が当たっているのは嬉しい。小田氏治の魅力はやはり数値化が不可能なのだなぁ。

 総合的なランキング以外にも分野をしぼったランキングがあって、別の視点から戦国武将を楽しめた。
 最後近くに「義」のランキングがあった点には胃もたれしたが、猛将ランキングが締めてくれたのでセーフ。

 正子公也氏のイラストがどれもこれも素晴らしかった。特に雪斎や本多正信の顔がすごい。特別なものがなくても、独特のオーラを醸し出している。

歴史人別冊 完全保存版 戦国武将の最強ランキング (ベストムックシリーズ・48)
歴史人別冊 完全保存版 戦国武将の最強ランキング (ベストムックシリーズ・48)
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歴史人別冊 完全保存版 日露戦争の真実

 日露戦争の大局を描いた読みやすいムック。
 フルカラーで地図やCGがふんだんに使われている。イラストでページ数を稼がれている気のするところもあったが、文章のラッシュで肩が凝る心配はあまりなかった。
 もちろん、内容がないわけではなく、陸戦や海戦の展開やら背景から、主要人物の経歴まで興味深いところがたくさん取り上げられている。

 全体的に日本の将官に好意的で、乃木司令官の旅順攻撃にも、やむにやまれぬ事情があったと説明している。彼が不思議な魅力をもった人物なのは確かで、指揮官の集合写真で皆が白い服を着ている中、ひとりだけ黒い服で通している点に強烈なポリシーを感じた。
 兵士への思いの強さにも感動させられるところがある。しかし、神格化することが一等危険な人物であるのも確かで、当時の日本に危うさを感じた。
 一億総ブラック企業人のメンタリティにならざるをえなかったから無理もないのか……死者を神にしなくてもやっていける時代を守り、育んでいくことが、英霊への供養になると思う。

 騎兵を馬から降ろす秋山好古の戦い方は、南北戦争におけるネイサン・フォレストを連想させる。戦場まで馬で移動する歩兵の考え方は非常に古くからあるものだが、騎兵の伝統がうすい日本ではかえって採用しにくかったかもしれない。騎兵を知悉しているからこそ、できた戦い方だったのではないか。
 あと、黒木第一軍は投入された戦場が良かったところもありそうだけど、常に勝っていて頼もしい。

 海戦の方ではT字戦法も単純に描いたのではなく、黄海海戦の失敗をふまえて回避されにくい形に応用していたことが分かって新鮮だった。
 一度成功すると研究され尽くしてしまうので、完璧な再現がむずかしくなる点は、ハンニバルの両翼包囲に似ているかもしれない。

歴史人別冊 日露戦争の真実 (ベストムックシリーズ・12)
歴史人別冊 日露戦争の真実 (ベストムックシリーズ・12)
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