石ころ採集ウォーキングガイド 渡辺一夫

 著者の部屋の下に住みたくない。
 いったい何トンの石をため込んでいることか。持ち帰る石は厳選していると言っても、回数が圧倒的に多ければ、総重量はすさまじいはず。自転車で買い集めた本や漫画で引っ越しに難渋するように。

 さすがに石ころなら絶産しないだろうと思ったら、菖蒲沢の金鉱石が見つからなくなっているらしくて、笑ってしまった。他にも見つかりにくくなっている石は多い模様。
 そう考えるとあれだけの圧力を受けながら採れ続けている翡翠が凄いと思えてくる。
 鉱物採集に近いところでは津軽半島西海岸の瑪瑙や千葉県八岡海岸のピンク色をした斜灰簾石が入った石ころにそそられた。がつがつせずに、のどかに拾いたいものだが……。

 石ころは川沿いの地質を反映するため、いろいろと土地の地質に関する話題も多くて興味深かった。
 そのまま研究に使おうとすると、転石()と言われる危険がままあるけど。

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石ころ採集ウォーキングガイド: 石ころが拾えるコースマップ付き
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カテゴリ:地学 | 18:07 | comments(0) | trackbacks(0)

世界衛星アトラス Newtonビジュアルサイエンスシリーズ

 地球観測衛星から得られた画像をつかって作られた世界地図帳。1999年なので解像度が低い……現在と見比べることで変化がわかる利点がありそうだ。アラル海がそれなりに大きくて泣きそうになった。灌漑地帯がなかなか緑色をしている。

 やはり衛星画像には通常の地図とは異なった表現上の説得力がある。
 大きさのよく似ているフランスとスペインが連続するページに載っているのだが、地形の差が一目瞭然である。そこから歴史までもが見えてくる気分を味わった。

 不満をいえば地名がアルファベット表記なので咄嗟に理解するのが難しいことがある。代わりなのか巻末の索引は充実している。国境線だけは描き込まれているのでアゼルバイジャンが飛び地を持つことを発見できた。できれば河川と主要な道路も引いてほしかったな……シベリア鉄道など地形との関係がおもしろそう。

世界衛星アトラス (NEWTONムック―ビジュアルサイエンスシリーズ)
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カテゴリ:写真・イラスト集 | 22:54 | comments(0) | trackbacks(0)

クセノポーンの馬術・ポダイスキー ヨーロッパ馬術小史 荒木雄豪・編

 アナバシスを書いたことで有名な古代ギリシアの作家、クセノポーン(クセノフォンとも)が祖国アテナイの騎兵隊を改善するために書いた馬術と騎兵隊長についての本。
 五十年前に田中秀央・吉田一次両氏に翻訳されたものを編者が見直していろいろな部分を改めている。また、フランス語版、ドイツ語版、英語版を入手して興味深いと思われる注を熱心に取り入れている。
 おかげでなかなかボリューム感のある一冊に仕上がっていた。後半にはオーストリアのウイーンにあるスペイン馬術学校(スペイン種の馬を使うことから、こんなややこしい名前になったらしい)に残る古典馬術の流れをクセノポーンから辿っていく、ポダイスキー氏のヨーロッパ馬術小史(南大路謙一・訳)も収録されている。思わぬところでエウメネスの名前が出てきて驚いた。ノラの要塞に立てこもっているときに二本の柱を用いて馬の訓練を行っていたらしい。

 クセノポーンの馬術については、蹄鉄と鐙がなかった時代に特有の要素が興味深い。蹄を鍛えるために小石の上で待機させたり、着地の際の姿勢が変わってきたり。
 また、馬に対する姿勢が自然にもっている素養を無理なく伸ばしてやる方向で一貫している点も印象に残った。子育ての極意も近いところにあると思いたいのだが、すべての親に馬の世話を体験させるのは無理か……クセノポーンの馬術を復興するはずのヨーロッパの馬術においても酷く乱暴で馬を駄目にしてしまう指導方法を主張する人物がいたのはポダイスキーのヨーロッパ馬術小史が物語る通り。
 難しいものだ。

 騎兵隊を養うための費用が上げられている点も参考になった。アテナイは650の騎兵を維持するのに年間40タレントになったそう(騎士の日給は1ドラクマ)。昭和19年なら約95000円相当と古い物価があげられていて、ややこしいのは元訳が古い関係でしかたがない。

クセノポーンの馬術―ヨーロッパ馬術小史
クセノポーンの馬術―ヨーロッパ馬術小史
カテゴリ:歴史 | 18:42 | comments(0) | trackbacks(0)

ガリア戦記 カエサル/石垣憲一・訳 平凡社

 いくつかあるガリア戦記訳本のひとつ。自分が何度も読んだ国原吉之助訳の講談社版と大きく異なっている点は地図が巻末ではなく、年度ごとの冒頭に収録されており、関係する部族の名前のみが載せられていること(あちらにあった兵器などの挿絵はない)。また注釈も節の終わりごとについている(カエサルがヘルウェティイー族に戦争を仕掛けたことに説得され気味の内容だった)。記憶力の自信がない場合、あるいはそこそこ自信があっていちいち巻末に戻ることを煩わしく感じる場合によい。
 訳文はたいへん簡潔で読みやすい。
「うまい訳をしてやろう」という意図がほとんど感じられない印象を受けた。巻末の訳者あとがきによれば、メーリングリストで複数(20)人が順番に訳していったものだから、必然的にそうなったのであろう。
 名言が淡泊に感じられる場合もあったが、戦闘描写では状況を脳裏に描きやすい利点が強く表れていた。やはり優秀な中級指揮官が臨機応変に手の空いた部隊を動かして敵の弱点をつく戦法が光っている。ここまでの柔軟性はガリア人には発揮しがたい。ぐうぜん出来そうになる例もあるにはあったけれど、最後はカエサル軍のねばり強さが上を行った。

 訳者によるガリア戦記がテキストとして利用される理由説明が興味深かった。軍隊言葉の明快さは時に名文を生むらしい。
 内乱記の翻訳も進行中とのことで、発行を期待したい。

 巻末には青柳正規先生による歴史背景の見事にまとまった解説もついている。非常に混沌とした時代だったことが、よくわかる。カエサルの勝利が歓迎された背後には、民衆の憂さが溜まっていたことも影響しているのではないか。
 それを晴らすために式典を行えば、カエサルの人気をますます高める結果になる。元老院には苦々しい状態だったに違いない。まぁ、身から出た錆だ。
 社会的混乱も、カエサルも。

ガリア戦記 ユリウス・カエサル/国原吉之助・訳

ガリア戦記 (平凡社ライブラリー)
ガリア戦記 (平凡社ライブラリー)
カテゴリ:歴史 | 09:07 | comments(0) | trackbacks(0)

覇王 独眼竜政宗3〜箱根大決戦 沢田黒蔵

 箱根の外輪山を城壁に見立てて秀吉の東征軍を迎撃する伊達・北条連合軍。すさまじいまでの大風呂敷を広げた戦いが展開される。ぶっちゃけトイレの処理が悲惨なことになっていたと思うぞ。登山客の排泄物だけでも苦労しているっていうのに、50万とかの人数が展開されてしまっては箱根のカルデラがうんこで埋まる。
 まぁ、水洗式だったから大丈夫か。増水した芦ノ湖をとことん使い尽くした作戦には度肝を抜かれた。これほどの虐殺は史上に類を見ない。核兵器を使用したのと変わらない数が死んでいるわけで、政宗が自分を神と思っても不思議はないところがある。作戦を考えたのは明智光秀だけどな。

 秀吉側としては芦ノ湖に浮かべる舟をたくさん準備するべきだった。彼の兵站能力なら可能であるのに、水上交通権を敵に独占させてしまったのは大きな失敗だ。
 あと、秀次に大きな仕事を任せたことが全面的に悪い!もっとまともな指揮官はいなかったのか――秀長が病気でなければともかく、一族の少ない秀吉の弱点が現れたといえる。

 福島正則の描かれ方が酷く、完全な猪武者だった。最上義光も徹底的な悪人である……せめてシスコンは貫け。
 その辺りは不満だったが、文章表現が非常に優れていて、長柄同士の戦いに関するシーンなどひどく感心させられた。決壊作戦も高い文章技術があってこそ。大きな虚構を組み立てるのに必要なものが分かる。

覇王 独眼龍政宗1〜転輪聖王誕生 感想
覇王 独眼龍政宗2〜直江兼続の挑戦 感想

覇王独眼龍政宗3 (歴史群像新書)
覇王独眼龍政宗3 (歴史群像新書)
カテゴリ:時代・歴史小説 | 16:27 | comments(0) | trackbacks(0)

岩波科学ライブラリー204〜連鎖する大地震 遠田晋次

 東日本大震災を例に応力の絡み合いによって起きる複雑な地震活動の研究を説明する本。地震活動そのものを解き明かすまでは、まだ誰も到達していない。
 それでも式はだんだんと良いものが生まれてきているわけで最終的には昨日よりもっと地震に対処できるものが出来上がると信じている。
 大地震の影響で東日本のどの断層が危険になって、どの断層が安全になったのか、視覚的にわかりやすい情報が載っていた。あくまで傾向なので安心しすぎるのも危険だが、心構えの助けにはなる。
 1ヶ月後の4月11日に地表地震断層を生じる地震が発生したことが意識の中になくて、驚いた(自分のアンテナの低さに)。浜通りだが普通に地面のズレを観察している。
 地震が起きた直後に、危険な場所に切り込んでいく研究者の本能がなせるわざだな。

 最新の研究成果を伝えてくれているので、知識のバージョンアップをするのに役だった。サンアンドレアス断層だけではなく、アナトリア断層でもクリープ現象が確認されていたとは。
 断層の長さから東日本ではM9クラスの地震は起きないと言われていた事情の説明もわかりやすかった。地球もなかなかイヤなスケール則の外し方をしてくるなぁ。
 関東フラグメントは無念なことに頭の中でうまくイメージできない……紙上ではなく3D画像を見て、くるくる回しながらみる必要がありそうだ。

連鎖する大地震 (岩波科学ライブラリー)
連鎖する大地震 (岩波科学ライブラリー)
カテゴリ:地学 | 00:28 | comments(0) | trackbacks(0)

朝鮮事変1939 3〜朝鮮、ソ連軍の大攻勢に日韓連合軍、新兵器を続々投入! 大村芳弘

 朝鮮民主主義人民共和国を半島の東北部においつめた日韓連合軍だったが、そこから寄り切ることが出来ず、政治的な思惑も絡んで終戦となってしまう。樺太にちょっかいを掛けられたり、日本本土を爆撃されたのも痛かった。
 やっぱり本土が大事になってしまうわけで。

 一時的に奥村家が一家全滅になりかねない雰囲気があったので、悪い意味でドキドキした。けっきょく父親の仇は討てなかったなぁ……この世界の韓国ができるだけ初期からまともな国になることを願う。
 次はアメリカを利用しようと、寄生意欲まんまんの李承晩大統領だが、ソ連と中共の矢面に立ってやっていくのは大変だぞ。

 日本は大陸からほとんど兵力を引き上げて、ますます平和にやっていく流れかな?共産主義への防波堤としてアメリカに期待を掛けられるとは思うけど、ドイツやイタリアとの同盟もしていないし、第一次世界大戦と同じ感じで第二次世界大戦を乗り切れそう。
 ソ連や中国国民党相手に軍需物資を売りさばくことができれば、そこそこの発展も期待できるのではないか。まぁ、兵器売買もおこなう「普通の国」になるわけだが、実戦経験もそこそこ得られたし――レーダーについてはからっきしだったけど――極東で一定の存在感を保持していけると思われる。

朝鮮事変1939 3 (ジョイ・ノベルス・シミュレーション)
朝鮮事変1939 3 (ジョイ・ノベルス・シミュレーション)
カテゴリ:架空戦記小説 | 00:28 | comments(0) | trackbacks(0)

朝鮮事変1939 2〜日本軍猛反抗 中国共産党軍、ソ連軍に加勢! 大村芳弘

 猛反抗は猛反攻の間違いのような気がする……なんだか日本軍が駄々っ子みたいである。
 駄々っ子の拳になったのは装甲列車で、10センチや7センチの高射砲の指が、ソ連軍のBT戦車を叩きまくった。おかえしにソ連軍もポーランドで捕獲した装甲列車を投入してきて、装甲列車同士の砲撃戦という変態的な展開になる。
 やられそうになったら逃げるよりも体当たりで相打ちを狙った方がいいな……警戒車しか潰せないか。

 海戦ではソ連軍の虎の子である戦艦を、日本海軍が戦力差を活かして沈めて、日本海の制海権を奪いに掛かっている。そんなときに中国国民党が戦艦を使って台湾にちょっかいを掛けてくるからややこしい。
 考えてみると極東に関係する勢力が無駄なく何らかの仕事を果たしている。

 そして、新しい家族の一員である朝鮮民主主義人民共和国の誕生である……こんな子、認知できません!と激おこの西村参謀によって生まれたての北朝鮮はとことん攻められることになった。潰さなかったときに将来にどれだけの禍根を残すか、直感的に理解した西村参謀のセンスはたいしたものだ。韓国の国民軍を指揮した手腕も見事だった。
 うどん屋の奥村兄弟がついに参戦することになって朝鮮を巡る日本とソ連の戦いも佳境である。二年の軍事教育を一年切り上げは強引だよ……。

朝鮮事変1939 (2) (ジョイ・ノベルス・シミュレーション)
朝鮮事変1939 (2) (ジョイ・ノベルス・シミュレーション)
カテゴリ:架空戦記小説 | 22:16 | comments(0) | trackbacks(0)

朝鮮事変1939〜日韓併合不成立 ソ連軍、大韓帝国に侵攻す! 大村芳弘

 伊藤博文が安重根に暗殺されなかった世界。日本は韓国を併合せず、海軍まで主敵をソ連に定めている。おかげで陣容は薄く、戦艦は伊勢級以下、8隻しかない。もっとおとなしいのは空母で軽空母がわずか二隻……アメリカとの戦争どころか、ソ連とやり合うのも大変だ。
 ついでにドイツから戦艦をせしめて青海と名付けている中国海軍が動き出しており面倒なことになっている。
 予算を多めにもらっているはずの陸軍も台所事情は決して楽ではないようだし、史実と比べると縮小度合いは大きい。
 しかし、国民生活にとってはかなり余裕が生まれていると思う。広島のうどん屋しか市民生活が描かれていないので分かりにくいが、少しでも政治的混乱の少ない国になっていたら幸いだ。

 朝鮮半島を舞台にしたソ連との戦争については、当事者であるはずの大韓帝国が存在感を放ったり放たなかったり……二個師団で中国とソ連に国境を接しているのでは、どうにもならないな。
 代わりに漢城に爆薬をしかけて王族と100万の市民ごと敵を吹き飛ばした。日本の派遣軍まで巻き込むとか、いくらなんでもクレイジーすぎる。
 全体的に地味な話のなかで、ここが一番派手だったかもしれない。スペクタクルに巻き込まれた方はたまったものではないが。

朝鮮事変1939―日韓併合不成立 ソ連軍、大韓帝国に侵攻す! (ジョイ・ノベルス・シミュレーション)
朝鮮事変1939―日韓併合不成立 ソ連軍、大韓帝国に侵攻す! (ジョイ・ノベルス・シミュレーション)
カテゴリ:架空戦記小説 | 20:14 | comments(0) | trackbacks(0)

真説 その後の三国志 坂口和澄

 曹操のち諸葛亮。三国志演義を牽引してきた人物たちがいなくなってから三国志を晋の統一まで描いた本。著名な英雄はそんなに出てこないが、彼らの子孫が出てきたりして興味深い。少々残念な思いをすることもあったが……孫権の老害化とか。
 たまに昔を取り戻す「覚醒」時があるから余計に面倒くさい。まぁ、歳を取ることが出来ただけでも上出来で、魏も呉も若くして倒れる君主が多すぎた。
 それなりに将来有望にみえる人物も多いのに――オリジナル漢字さん孫休が生きていれば晋の侵攻を許さず、遊牧民が暴れだすまで耐えぬいた可能性もあるのかなぁ。晋の最期が見えてくると、どうせ勝てないという見方も変わってきて、時間切れになるまで耐え切れば、蜀や呉にも勝算があったと思えてくる。
 巨大ということはそれだけ国境も広いわけで四六時中どこかに攻撃的な隣国を抱えることになる。姜維のずっとオレのターンがなければ……あるいは呉が交州を安定して固め続けることができていれば……。
 妄想の種が広がったことは確かだ。末期の呉が北と西だけではなく南からも包囲されていたことを知って驚いた。行きも帰りも長距離航海は難しいだろうし、交易によって富をえる可能性はその時点で完全に失われたのではないか。
 この本を読むと奥地に逼塞している蜀の方が交易ルートの掌握に熱心だったような印象を受けてしまう。いや、孫晧も交州を取り戻そうと必死の動きを見せてはいるが。

 人物も小粒とは言われながら、それぞれに特色やエピソードがあって、小粒なりの身の処し方が興味深かった。
 カン丘倹に諸葛誕と二字姓の将軍が連続して同じ場所で叛乱を起こしているのは偶然か。どの国でも諸葛氏が大活躍していて、逆に他の姓の国をまたいだ活躍が見えにくい。ホウ氏や王氏などは魏でも蜀でも活躍しているが、呉は「地域色が豊か」なので、すぐに目立った例が見つけられない。よく諸葛氏が呉に入り込めたものだと感心するわ。諸葛誕の息子の諸葛セイまで魏から呉に亡命して兵を与えられているわけで、ちょっとしたブランドになっていたのかも。

真説 その後の三国志
真説 その後の三国志
カテゴリ:歴史 | 23:46 | comments(0) | trackbacks(0)
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