帝国海軍狙撃戦隊3 林譲治

 オーストラリア沿岸で繰り広げられる第10戦隊とアメリカ海軍の死闘!戦艦ワシントンとB-24を装備した海軍航空隊という異色のコンビが神出鬼没のポケット戦艦を追いつめる――つもりで翻弄される。
 なかなか手に汗握る裏のかきあいだったが、エッカート中佐はドヤ顔でキリキリ舞させられた印象が拭えない。策士キャラというのは成功して当然、失敗すれば一挙にカリスマを失ってしまいかねない。
 辛いものだ。

 昼行灯的だが航海科の出身を徹底的に活かした井荻司令官は、その点でも狡猾と言える。
 それにしてもニューギニアからオーストラリアにかけてを戦場にするのが好きな作者である(日本軍メインの短めのシリーズでは他に展開しようがないのも分かるが)。焦熱の波濤で集めた資料がよほどのお気に入りになっているのか。ちょっと見てみたい――そういえば次はシドニーと見せかけてニュージーランドを叩くのは流石に無理だったのかな。
 仮に燃料がもっても退路が読みやすくて生き残れない気はする。タービン機関じゃなくて、ディーゼル機関だったら違ったのだろうけど。

 無理に無理を重ねて酷使され続ける第10戦隊の姿にブラック企業的なものを感じてしまった。軍隊こそは、ああいう文化がはびこる土壌がもっとも強いわけで、第二次世界大戦時のアメリカ軍のホワイト(そういう情報ばかり耳にしているせいかもしれないが)ぶりとの対比をやれば、興味深い内容になりそう。
 でも、読んでて辛い……。

 最後はボロボロだけど灰になるまで戦い続けるぜというハードボイルドな雰囲気で話が終わった。僚艦を失った鞍馬はいつまで戦い続けるのか。もしかしたら、もう一つの砲塔も失って空母に改造されてしまうのでは――赤外線探知機があるからそれはないな。あれこそが鞍馬級の最重要装備。
 鞍馬の戦果と、技術的な底上げを活かして、うまく(将兵に無理に重なる無理を強いずに)戦ってほしいところだ。

林譲治作品感想記事一覧

帝国海軍狙撃戦隊 3 (ジョイ・ノベルス)
帝国海軍狙撃戦隊 3 (ジョイ・ノベルス)
カテゴリ:架空戦記小説 | 10:13 | comments(0) | trackbacks(0)

帝国海軍狙撃戦隊 林譲治

 日本で迂回的に建造されていたドイツのポケット戦艦が、第二次世界大戦勃発の流れでそのまま日本で戦力化される戦記シミュレーション。
 鞍馬と生駒と名付けられた二隻の装甲艦は、赤外線探知機を備えていて、野戦や見張りに活用することができる。闇夜に提灯理論の「だから赤外線で行こう」で、本当に実用化にこぎつけて見せた例である。
 ただし、装置が巨大すぎるので新造戦艦や巡洋艦にしか取り付けられない。大和や武蔵あたりも赤外線探知機装備で竣工するのかな。
 大和武蔵といえば、かつて作者が作品に登場させたゲルリッヒ大和武蔵(芸名)を思い出す。あれに比べれば大人しいが、チキンレースじみた接近戦を挑むところは同じだった。
 砲塔をつぶされたら据え付け直すのは諦めて格納庫に変えてしまうあたり、かなり思い切っている。漸減邀撃戦法に関係ない船だから砲門数などが変化しても構わないってことかな。
 まぁ、バランスを考えて兵装を減らさないことについては軍令部ではなく、艦政本部に問題があったことを作中でも臭わせていたから、ちょっと違うか。

 最後の空母ヨークタウンは滷獲できるんじゃないかとついつい考えてしまった。まぁ、駆逐艦の一隻は手に入ったし、上等上等。……駆逐艦じゃレーダーを積んでいないんだよなぁ。

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帝国海軍狙撃戦隊 (ジョイ・ノベルス)
帝国海軍狙撃戦隊 (ジョイ・ノベルス)
カテゴリ:架空戦記小説 | 23:34 | comments(0) | trackbacks(0)

帝国海軍先鋒航空隊5 林譲治

 二航戦がミッドウェー海戦に多少は似た展開で撃破される。十六航戦は無事であるものの、空母戦力に受けたダメージは重い。
 蒼龍の亀井艦長が「エクセルマクロは邪道」系のしょうもない人間だったばかりに、千人前後の命が失われたのではないか。性格的に艦と運命を共にしているだろうが、おかげで同類には反省の機会がない。徹底的に糾弾されて惨めな姿をさらして始めて、再発を防止できたのだ。
 作品初期にレキシントンを指揮していたニュートン少将が責任を取るために船からひきずり降ろされたことと比べてしまう。

 歩兵と戦車の死闘なども展開された――なかなかの戦場文学だった――ガダルカナル島はついには空しく放棄されることになった。
 陽動が半分は成功して撤退に成功できた点はよかったが、伊号潜水艦の犠牲は無駄だった気がしてしかたがない。

 組織に対する不満で読者の共感を追求するところが巧い。同じ戦記シミュレーション小説であっても描くものは、世相にあわせていろいろと変わってきていることを、長期間書いている作者だからこそ強く実感した。

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帝国海軍先鋒航空隊 5 (ジョイ・ノベルス・シミュレーション)
帝国海軍先鋒航空隊 5 (ジョイ・ノベルス・シミュレーション)
カテゴリ:架空戦記小説 | 00:44 | comments(0) | trackbacks(0)

帝国海軍先鋒航空隊4 林譲治

 ガダルカナル島を巡る戦いが当事者の間では激化。日本海軍の上層部は激化させたくないので兵力の逐次投入。おかげで後手に回る危険に晒されている。
 まぁ、陸軍の方はちょっと考えが違っていて、早く足を抜きたいので多数の戦車を一斉投入する挙に出た。
 おかげでM3スチュアートと九七式中戦車の宿命の戦いが……シャーマンの方をライバルにできない悲しさよ。リベット式で製造されたスチュアートなら側面から砲弾を何発もたたき込めば撃破できるという経験を活かした戦い方がよかった。
 上陸をしようとするM4シャーマンを船ごと沈めるところは覇者の戦塵を思い出した。あっちの戦場はミッドウェーだったけれど、少数機が近距離の航空支援に何度も飛んでいる点といい、戦いの展開が自然と似ている。

 それにしても作者がガダルカナルの戦いを描くのは何度目だろう。資料の蓄積が相当なものになっていそうだ。
 ある意味、作者には「地の利」があると言える。

 飛び抜けた登場人物でも死ぬことがあるので、油断できない。甲標的乗りの野村も幸運をまっとうできるかどうか……。

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帝国海軍先鋒航空隊 4 (ジョイ・ノベルス・シミュレーション)
帝国海軍先鋒航空隊 4 (ジョイ・ノベルス・シミュレーション)
カテゴリ:架空戦記小説 | 23:51 | comments(0) | trackbacks(0)

帝国海軍先鋒航空隊2 林譲治

 ガ島攻防戦はじまる。ということで、ミッドウェー作戦は武藤少将の働きかけでお蔵入りになり、ポートモレスギーが攻略される。さらにツラギ、ガダルカナルと第十六航空艦隊は戦果をあげ続ける。
 踏む必要のない薄氷を上層部に踏まされての戦果である……前線から離れるほど楽観主義が現実に取って代わる、だっけ?あの格言を思い出さずにはいられない。

 第十六航空艦隊が限られた戦力でなんとかやっていけているのは、甲標的もあるおかげで小さい単位でありながら潜水艦まで補完的に保有している影響があるような……ひたすら攻撃的な任務にしか使われていないけれど、戦闘中の情報だけでもバカにならない。
 そもそも水上機は偵察がメインなので、その能力が非常に高い点が言える。そういえばさらりと無線が使えて当然といっていたのは、任務の関係上で整備に気を使っていて、その流れで戦闘機の無線にも熱心ということなのだろう。
 損耗率にかなり効いてくる設定だ。

 ガダルカナル島をめぐる戦いは敵への恐怖から容赦のない攻撃に駆られてしまう戦争の恐ろしさを描いていたと同時に、陸上砲台と米艦隊の砲戦が不思議とおもしろかった。
 たぶん持てる戦力をすべて使い切った感があるせいだろう。

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帝国海軍先鋒航空隊 2 (ジョイ・ノベルス)
帝国海軍先鋒航空隊 2 (ジョイ・ノベルス)
カテゴリ:架空戦記小説 | 14:45 | comments(0) | trackbacks(0)

帝国海軍先鋒航空隊 林譲治

 甲標的母艦としての機能ももつ、架空の水上機母艦興津と音羽の活躍を描く戦記シミュレーション。駆逐艦2隻をあわせてもたった4隻の艦隊が、開戦劈頭とはいえアメリカの純粋な空母機動部隊をきりきり舞いさせる。
 「水上機ごとき」に攻撃を無効化されたあげくに、意地になって水上戦を挑もうとすれば、甲標的に雷撃を受ける。真珠湾奇襲で水上艦戦力が限定されている状況に適応したハメ技が決まっている。
 まぁ、いくらなんでも普通は興津と音羽が航空攻撃をいくらかは受けて沈んでしまう展開になると思うけど……30ノットが出せるからなぁ。操舵性能は不明だが、艦長の腕次第ではかわし続けることもないとは言い切れない?

 水上機母艦の艦隊が活躍している背景には異常に機種が豊富な日本海軍の航空機開発事情も影響している。
 開戦時から零式観測機が活躍できなかったのは、名前の通り零式なので数が揃わなかったせいだが、実績をあげて融通が利くようになってからは、水上戦闘機も零戦の改造機で、観測機も偵察機も零式と、零で固めて来ている。
 今後も最新鋭の水上機を配備してもらえそうだ。

 最初に戦闘終局のシーンを描くのは、実業之日本社の作品ではいつものことになっているかな。そんなに巻数が続かないときには有効な演出なのかも。

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帝国海軍先鋒航空隊(1)
帝国海軍先鋒航空隊(1)
カテゴリ:架空戦記小説 | 19:35 | comments(0) | trackbacks(0)

月刊ニュートン2014年8月号

NGK SCIENCE SITE
 見た目に映える実験だな。夏休みの自由研究にやるには、雑誌がメジャーすぎるか。バックナンバーから持ってくるのはありだと思う。

SCIENCE SENSOR
 STAPに新たな矛盾:虚数で出来た建物って書くと格好いい(が事実を反映していない)
 超高速で移動する星:とはいえ、光速に近いわけでもないので銀河間をわたるのは無理だな。
 現代ヨーロッパ人の起源:やっぱり数では農耕民なのか。日本の場合はその関係がちょっと違いそうな話もある。
 自然界にないDNA:また一歩、禁断の門を開けた感じ。禁断じゃないかもしれないけど、刺激的な研究だ。
 傾いた月の自転:何が原因で自転軸が変わったのだろう。磁極と自転軸は一致しないことに注意だな。

メタン菌は火星環境でも生息できる!?
 これはすでに火星表面が汚染されている可能性も?バイキング以前にはメタンなんてなかったという事になったら、テラフォーミング進行中に近くなるのかな。
 まぁ、分からんことが多いが。

全長40mの史上最大の恐竜化石を発見!?
  大腿骨の横に寝ている写真でダイオウイカを思い出した。むちゃくちゃなスケールである。

ぶれにくく進化したサッカーボール
 進化のおかげで炭素フラーレンを説明するときの言葉が失われてしまったよ!!なんてこった。

帰ってきた若田宇宙飛行士
 ウルトラマンみたいなタイトルをつけおって!
 あの小さなカプセルに三人も乗っていることが驚き。まぁ、一時的な旅だから我慢できる。

今こそ新エネルギー
 昔読んだ本では小水力発電が最右翼だったのだが、現実はすっかり風力発電のものに。あと太陽熱発電が適当な土地で普及すると、かなり効いてくると思う。600度以下なら、材質的にはステンレスでいけるのかな。効率をあげるために温度を上げようとすると、いろいろ大変そうだなぁ。
 日本の太陽光発電量が現時点でもアメリカより上にあって驚いた。あまりハイペースで増やす意味はないような?まぁ、建設の仕事が増えるのはいいことかな。

衝突銀河が語る宇宙の進化
 日常茶飯事(億年単位)。表現のスケールがおかしい。おかしいが、いいたいことは分かる。
 ステファンの5つ子は考えてみると、ひとりだけ血のつながらない子がいる感じで切ないな。むしろ、集合写真に関係者顔で写っている部外者!?

エアーズロック
 岩の各地に名所あり。ひとつの岩なのに複数の名所があるなんて感覚が奇妙でおもしろかった。

世界の絶景 ウユニ塩原
 有名安定物件。乾期の多角形の模様はポリゴンとは成因が違うようで。植物の細胞みたいにも見えるなぁ。

アメリカ最大の秘境を探訪
 人が近づけないから秘境。それでいて行きたくなるから秘境。
 日本とはスケールがとことん違っていて想像では感覚が追いつかない。GoogleEarthでじっくり探せば群が見つかりそうだなぁ。

奇妙で不思議な多肉植物
 透明なレンズが綺麗で宝石みたい。無機物のようで、生き物なのだ。生存戦略の多様性は凄い。サボテンに住むフクロウの記事とちょっとシンクロ。

系外惑星グランプリ
 こんなものが開けるほど情報が集まったことに感動。井田茂先生の協力じゃなかったらどうしようかと……。

宇宙天体百科 リング星雲M57
 号泣県議が名刺の裏に使っていた天体である。宇宙の代表として使うのはいかがなものか。

Newton (ニュートン) 2014年 08月号 [雑誌]
Newton (ニュートン) 2014年 08月号 [雑誌]
カテゴリ:科学全般 | 21:34 | comments(0) | trackbacks(0)

騎兵と歩兵の中世史 近藤好和

 文献や絵巻物、現代に残る武具を参考に中世における戦闘方法の変遷を考察する本。
 騎射全盛の時代から、太平記のころには打物騎兵がでてくる流れが興味深い。侵攻距離の変化も影響しているんじゃないかと思ったけれど、北畠の例があるから関係ないな。
 古代は弓矢騎兵の時代だったと主張しているが、対立する材料が少なすぎて、かえって疑問を感じてしまった。騎射みたいな適当な熟語がないだけってことはないのか?
 文献に対して語句検索を掛けているようで、その便利さは感じられた。

 あと、抜き書きされている戦闘描写が興味深い。
 文体の関係でぱっと見に内容を把握することは難しいけれど、後の説明と併せて読み返すと、絵巻と重ねてみえてくる情景がある。
 やたらすさまじい「投討」の記述は漫画みたいだと思った。片腕で100キロを持ち上げて複数の敵の向こうに投げ飛ばすとか……重心の変化を考えると馬にとっては非常に堪らない状態だったのではないかなぁ。実験すれば流石にありえない(著者も誇張だと言っている)ことが証明できそう。

騎兵と歩兵の中世史 (歴史文化ライブラリー)
騎兵と歩兵の中世史 (歴史文化ライブラリー)
カテゴリ:時代・歴史小説 | 21:09 | comments(0) | trackbacks(0)

反大坂の陣4〜復活への道 吉本健二

 ほぼ家康が主人公の物語であった。主人公の死によって物語は終演した。ついでに秀頼や殉死した治長たちも死んでいるが、衝撃は家康の死ほどではない。
 大坂方の視点がさまざまなキャラクターに分散するのに対して、徳川方は家康に集中していたせいで、こんな感想を抱くのであろう。大量の欠点を噴出させてはいるものの、人間的で魅力が感じられた。
 でも、さすがに息子の忠輝を見殺しにしたのはフォローできない……身内に対してもかなり濃淡のある人物である。信康が生きていたら、実際はどんな扱いを受けたのやら。

 駿府までついてきた宗茂が降伏してしまったのは残念だったが、状況的に仕方がないか。死に際に秀頼はいろいろと奇跡をおこす。
 最後まで戦い抜いた藤堂高虎は天晴れだった。正則たちより遙かに立派だと思うのだが、この世界の評価ではぜんぜん違うのだろう。

 家康を倒したものの、秀頼をうしなった豊臣家は日本の西半分をおさめるのに止まった。
 東では伊達と上杉と前田が100万石でみつどもえ、関東では土井利勝が家康の息子を名乗って、徳川家をまとめはじめたところで話が終わった。
 この先がすごく気になるなぁ……特に政宗にとっては「俺たちの戦いははじまったばかりだ!」気分でいっぱいに違いない。上杉はさらりと70万石も増やしていて卑怯だ。直江め、まったく出番のない話に限っていい仕事をする。
 日本が複数の国に分かれたままになるとすれば、いつか欧米によって植民地化されそうだ。主人公側が勝ったのに未来への展望で、史実に負けている感じが、かえって新鮮な作品であった。

吉本健二作品感想記事一覧

反 大坂の陣〈4〉復活への道 (歴史群像新書)
反 大坂の陣〈4〉復活への道 (歴史群像新書)
カテゴリ:時代・歴史小説 | 00:10 | comments(0) | trackbacks(0)

反大坂の陣3〜忠臣と叛臣と 吉本健二

 京都防衛は負けフラグ。京都に立てこもり、死んだ秀忠を生きていると偽って人質にする、非情の手段をとった大坂方は怒りに駆られた家康たちの怒濤の攻撃に追い払われてしまう。
 策士策に溺れる。

 しかし、大坂も京都も失った状態でありながら、秀頼が軍の中心でありつづけている大坂方はしぶとい。山崎で前後に敵をうけた状態になりながらも、すんでの差で勝利してしまう。
 家康が松平忠直を信じきれなかったばかりに……。

 そういえば本多の政重と正重がそろって討ち死にしていた。どちらも北陸の大名に使えていて大変紛らわしい。徳川四天王よりは正信の本多家や大久保彦左衛門が活躍している印象がある。
 そして誰よりも立花宗茂が大暴れである。
 もし徳川家が勝利したら、開戦前は3万石だった宗茂は何十万石をたまわることになるのか。それが無性に気になって、宗茂に勝ってほしくなるのだった。

吉本健二作品感想記事一覧

反 大坂の陣〈3〉忠臣と叛臣と (歴史群像新書)
反 大坂の陣〈3〉忠臣と叛臣と (歴史群像新書)
カテゴリ:時代・歴史小説 | 12:34 | comments(0) | trackbacks(0)
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