土器製塩の島〜喜兵衛島製塩遺跡と古墳 近藤義郎

 瀬戸内海の無人島になぜか大量の古墳が。しかも、海岸には土器の欠片が散乱している。地元住民からは「あんごう」島と呼ばれる喜兵衛島の謎を明らかにするため、著者たちが12年越しの発掘調査に挑んだ。

 タイトルから明らかなように製塩用の土器が海岸に散らばる欠片の正体だったわけだが、製塩を行うための燃料は現場で確保したのか、周囲から持ってきたのか、新しい疑問が湧いた。なぜ、喜兵衛島で製塩を行わなければならなかったのか。その条件も気になるところだ。製塩土器の師楽式土器を作りやすい条件が整っていたのかなぁ。そういえば土器を役にも燃料が必要である。
 喜兵衛島は防衛と物資集積のバランスが良かったのかもしれない。さらに塩を輸出するにも海の道を使うわけで。

 古墳の発掘記録では、出土品は質素ながらも未盗掘のものが意外と多くて興奮した。しかも、時間の都合から発掘しきれなかった石室があるようだ。今からでも追加調査できないものなのか……もっと多くの遺跡が日本中で発掘を待っているからなぁ。
 古墳を築いたのが、貴族や豪族ではなく、豊かな製塩の民だったという結論は、豪族の境目が問題になる気もした。瀬戸内海で幅広く商売をやっていくためには、相当なコネが必要だったはずで、彼らの代表者を平民に含めてよいものか。
 それでもイメージを一新させる発見であることは疑いがない。

関連書評
邪馬台国の候補地〜纒向遺跡 石野博信

土器製塩の島・喜兵衛島製塩遺跡と古墳 (シリーズ「遺跡を学ぶ」)
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邪馬台国の候補地〜纒向遺跡 石野博信

 魏史倭人伝に記された邪馬台国は大和の地にあったのか。最大の候補地とも呼ばれる纒向遺跡の発掘調査結果から検証する。

 東海地方を中心に異なる地域の土器が大量に出土している点が興味深い。それでいながら北九州の土器はあまり出土しておらず、西から東への人間の移動がそれほど活発ではなかったらしい。
 その点から折衷的な邪馬台国の東遷説を著者はバッサリ否定している。
 とりあえずこれだけ大きな遺跡が存在することは確かなので、もっと発掘が進んで特殊性が明らかになれば、言えることは増えていくはず。著者としては大和に邪馬台国があったとしても、その場所が纒向に限られるとは考えていないようだ。

 発掘が150回にも及んでいることに驚いたが、それでも5%くらいが掘られただけであることにも驚いた。これからいくらでも発見があるだろうと思えば、わくわくするし、長生きしたいと思ってしまう。
 生きているうちに邪馬台国の位置が確定することはあるのかなあ。著者の言うように魏からの贈り物についていた封泥が見つかれば……。

 導水設備から発見された高密度の寄生虫の卵にはおののいた。いくらか文明的でも同時は寄生虫からは逃れられない生活だったわけだ。

 読んだ本がシリーズには珍しく第三刷で、邪馬台国論争への注目の高さが伺えた。あと、著者には旧国名をカタカナ表記する拘りがある。セッツ、キビなど。

関連書評
邪馬台国と「鉄の道」〜日本の原形を探究する 小路田泰直
新 日本の歴史1〜大むかしのくらし(旧石器・縄文・弥生・古墳時代) 学研
佐原真の仕事4〜戦争の考古学

邪馬台国の候補地・纒向遺跡 (シリーズ「遺跡を学ぶ」)
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石槍革命〜八風山遺跡群 須藤隆司

 ガラス質黒色安山岩が3万2千年前から石器に加工されていた八風山遺跡群を起点にして、日本の石器時代における石槍の進化と、社会の発展を描く。

 石器製作工程の復元に、石の立体パズルが行われているが、想像するだけでも気が遠くなってくる根気のいる作業だ。
 土器と違って完全に接着することが許されず、水で濡らせば溶ける糊で接着していて大変だったと書かれているのを読んで気が狂いそうになった。
 作業中で保存していなかったパソコンが停止したときみたいに、組立中の石片が崩壊したことが何度もあるんだろうな……。

 それだけ苦労して得られた情報であるから、複数の制作者の間で石がやりとりされていたという分析結果が興味深い。完成品は作った本人が使うことはまずなくて、頻繁にやりとりされていたらしい。
 現在に残る狩猟採集民の例から理論が展開されているのをみると、彼らの生活を守ることは、自分たちのルーツを探る上でも価値のあることだと再確認できる。

 遺跡を学ぶシリーズには珍しく一つの遺跡に集中せず、中部と関東に大きく風呂敷を広げた内容だった。おかげで石槍の発展の流れは頭に入ったが、八風山遺跡の様子はあまり記憶に残らなかった。忘れられないのは浅間山の分厚い火山灰の下に埋もれていたってことかな。

関連書評
黒耀石の原産地を探る〜鷹山遺跡群 黒耀石体験ミュージアム
北の黒曜石の道〜白滝遺跡群 木村英明

石槍革命―八風山遺跡群 (シリーズ「遺跡を学ぶ」)
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筑紫君磐井と「磐井の乱」〜岩戸山古墳 柳沢一男

 石製表飾に特徴づけられる筑紫地方の古墳群から、在地勢力の状況を分析し、王権や朝鮮との関係を描き出している。

 埴輪で作る物をあえて石で作った石製表飾はかなり特徴的なもののようで、強く記憶に残った。日本書紀にも石人として記載されていることから、昔から印象的な存在だったのだろう。
 古墳に関わる石製品としては石棺があるわけだが、両者の職人は共通していたのだろうか?それについての分析がなかったので、気になった。石材から考えて、同じ職人が作っていたのだろうな。

 対立的な構図でみられがちな継体天皇と筑紫君磐井だが、馬門ピンク石製石棺の分布(畿内への輸送)から、当初は協調関係にあったとする考察が新鮮だった。
 利害関係が強いからこそ、急速に対立が生まれやすい側面はあるのかも。

 北九州との関係で、朝鮮での古墳研究についても取り上げられていて、14の古墳がみつかり、9つについては発掘が行われているとのこと。
 韓国には宮内庁がいない。当然の事実だが、古墳研究にとっては魅力的な事実である。でも9つとも盗掘を受けていたらしい……。

関連書評
戦略・戦術・戦史Magazine 歴史群像 No.68 パットン戦車軍団:磐井の乱の軍事分析記事あり

筑紫君磐井と「磐井の乱」・岩戸山古墳 (シリーズ「遺跡を学ぶ」094)
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黒耀石の原産地を探る〜鷹山遺跡群 黒耀石体験ミュージアム

 長野県の黒耀石は、旧石器時代から縄文時代にかけて、遠くまで輸出される重要な資源だった。
 石器の痕跡や採掘跡の発見などから分かってきた黒耀石産地の実態が紹介されている。また、現代において行われている歴史学習の様子も紹介されている。

 最初は河原で拾われていた黒耀石が、取りにくくなるに従って山の中腹を掘るように変化していった経緯が、砂金やダイヤモンドを彷彿とさせる。
 資源開発の展開には似たところができるらしい。やはり自然の力を借りて効率的に採掘がおこなえるうちは、そうするものなのだろう。

 それにしても採掘跡が195も見つかっているのは多い。全盛期の山の様子はそうとうデコボコしていたのではないか。
 まぁ、同時期に採掘が行われていたものは、そう多くないのだろうけど、人間の欲望が地形に影響を与えていく先駆と考えると、ちょっと怖いものがあった。
 遺跡によって産出する黒耀石の形態が違っていて、加工の流れがみえてくるところも面白い。入念な産地の記録と整理があってこその研究である。

関連書評
北の黒曜石の道〜白滝遺跡群 木村英明

黒耀石の原産地を探る・鷹山遺跡群 (シリーズ「遺跡を学ぶ」別冊)
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北の黒曜石の道〜白滝遺跡群 木村英明

 恐るべき趣味人、遠間栄治!
 紹介されている地域で、仕事の傍らにせっせと黒曜石出土品の収集を続けた遠間氏のことが最も記憶に残った。長野県の鷹山遺跡群でも似たようなことをしていた児玉司農武氏が紹介されていて、アマチュアとプロの理想的な関係の例をみた気がした。

 でも、本書で「盗掘の痕跡がほとんどない」と記述された時に、遠間氏の行動が痕跡だけからみると盗掘に含まれそうでドキッとした。
 発掘するときの記録精度が段違いだからなぁ。現代の考古学研究はやっぱりプロに任せて、アルバイトで参加するのが無難である。

 白滝遺跡群はスケールの大きな北海道だけに、やたらと規模が大きくて、黒曜石の露頭が複数あらわれている。人の頭を超えるサイズがあるどころではなく、鷹山遺跡群との違いが印象に残った。
 そりゃ今でも体験学習のために本土に輸出されるわ。
 黒曜石鉱山としての歴史が非常に長いことも特徴で、おかげで大量の遺物が残されている。出土点数を聞くだけで気が遠くなった。考古学に関わる人間の根気には、本当に感心する。
 樺太のソコル遺跡からも北海道産の黒曜石石器が見つかっているとのことで、先史時代の世界も決して狭くなかったことが感じられた。

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アイヌの世界 瀬川拓郎

北の黒曜石の道・白滝遺跡群 (シリーズ「遺跡を学ぶ」)
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「倭国乱」と高地性集落論〜観音寺山遺跡 若林邦彦

 大阪市南部、宅地開発に伴って発掘調査が6ヶ月の突貫工事でおこなわれた観音寺山遺跡のまとめと、高地性集落が中国の史書に記述のある倭国乱に関連するという定説の再検証をおこなう本。
 カラー写真が豊富で、ほとんど全ページに図が入っている。膨大な資料を丁寧にまとめて、短時間で理解できるビジュアル情報にしている。

 さて、倭国乱については、具体的な国の名前などが出てくることもなく、実際に言えることを中心に意見がまとめられていた。
 物足りなさを覚えてしまうのも確かだが、堅実で、けっきょくは後世まで価値が残るのかもしれない。

 弥生時代の集落が大規模とされるものでも、複数の集落が集まったものであり、本質を見誤らないように注意が必要という点が興味深かった。
 人間が集まって暮らすことはメリットもあるが、ストレスももたらす。それに対する解決策が複合集落という形だったのかもしれない。外敵の脅威度や文化によって、時代や地域ごとにそのバランスは変化するのだろう。

「倭国乱」と高地性集落論・観音寺山遺跡 (シリーズ「遺跡を学ぶ」091)
「倭国乱」と高地性集落論・観音寺山遺跡 (シリーズ「遺跡を学ぶ」091)
価格設定ヤバイ
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世界史人リブレット001ハンムラビ王〜法典の制定者 中田一郎

 バビロン第一王朝の王、ハンムラビの戦いとメソポタミア統一後の制作を綺麗にまとめたリブレット。
 ハンムラビといえば、シャムシ・アダドへの雌伏と、リム・スィンとの対決が目立つ人物だったが、彼にとっての転機はむしろエラム王がもたらしたらしい。
 エシュヌンナがエラムとメソポタミア各国の集中砲火で滅びて、次やバビロンやマーリとなったときに、真価があらわれている。
 エラム王からみれば寝た子をわざわざ起こしたようなもので、間接的支配で満足しておけば、こんなことにはならなかったのだ。みんなから見捨てられているイバル・ピ・エル二世王も悲しい立場で、周辺諸国は助けに動いてくれるどころか、領土をぶんどりに来ている(が、エラムに吐き出さされている)。
 マーリのジムリ・リムが決定的な働きをしている点も印象に残った。その後の立ち回りがうまければ、四方世界の王は彼の称号になっていたはず。
 その後悔があっただけに長年同盟者としてやってきたハンムラビと衝突してしまったのかもしれない。ジムリ・リムとヤフマハ・アッドゥに血縁関係があるらしいことに驚いた。シャムシ・アダドの子孫で命脈を長らえたのは、イシュメ・ダガン系よりもヤフマハ・アッドゥ系ということになるのか?
 シャムシ・アダドの王国をアッシュール王国ではなく、北メソポタミア王国と呼んでいるのも興味深い。まぁ、首都からしてアッシュールじゃなくてシュバト・エンリルだからな。

 内政や法典の話題ではハンムラビがただただ「まっとうな人」にみえてくる。裁判にあたっては動かぬ証拠を重視し、部下に嫌われるリスクがあっても弱者の味方となることを厭わない。
 立派な王様だ。

関連書評
メソポタミア文明入門 中田一郎

ハンムラビ王―法典の制定者 (世界史リブレット人)
ハンムラビ王―法典の制定者 (世界史リブレット人)
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異戦関ヶ原1〜大坂動乱 中里融司

 石田三成に百万石。はらたいらに四十万みたいな感じで、秀吉が与えた百万石が関ヶ原の戦いに効いてくる歴史シミュレーション。
 くどいくらい、ここで百万石の影響が出ましたよと説明してくれる親切設計だった。宇喜多秀家のお家騒動を治めるのに百万石の重みが役に立ったところが最も気になったかな。
 ちなみに土地を奪われたのは小早川秀秋で、彼が最初から東軍につく理由にもなっている。旗幟が鮮明になっているだけでも、西軍にとっての利益なのではないか。

 関ヶ原の戦いは大垣城水攻めなどの影響もあって、敵味方の配置が入れ替わる奇妙なものになった。家康が自分の退路を捨てすぎじゃないかと思ったけれど、史実の攻め方でもかなり後方を危険に晒していたからなぁ。
 なんとも言い難い。
 石田三成軍団が三万人もいる効果が大きく感じられるのは、島左近(作中では一貫して清興の呼び名をつかっている)が数万人を采配することに
ロマンがあるせいか。
 よく筑前から関ヶ原まで連れてきたものだと思う。

 最後は思わぬ展開になってロシアンルーレット状態で次に続く。淀殿に中っていれば色々変わりそう。秀頼が死ねば、秀秋でごり押しかな。
 増田長益の裏切りは、百万石を与えられそうになったのは三成と彼であることを思えば当然のような気がした。この世界の三成はいったん断っておいて後日受けているからなぁ。合わせたつもりが思いっきり出し抜かれた気分になったに違いない。
 増田を信用する三成の方がお人好しすぎる。まぁ、それも三成らしさか……。

異戦関ヶ原1 大坂動乱 (歴史群像新書)
異戦関ヶ原1 大坂動乱 (歴史群像新書)
カテゴリ:時代・歴史小説 | 14:15 | comments(0) | trackbacks(0)

ウェストマーク戦記2〜ケストレルの戦争 ロイド・アリグザンダー/宮下嶺夫

 新しい女王を戴いて落ち着かないウェストマーク王国。その混乱に国外追放されたカバルスや国内の不穏分子がつけ込んで、隣国のレギア軍を侵入させる。
 アメリカ独立戦争を思わせる泥まみれの戦いがはじまる。

 ナポリオニックができるのに、華々しい会戦が目立たず、テオが経験した無惨なゲリラ戦がメインだった。虐殺は行われているが、暴行が描写されていないだけ、これでも子供向けなんだよな……リアリティとのバランスの取り方が難しい。
 まぁ、王族については身分を明かしさせすれば名誉ある扱いを受けられる気もするが。

 フロリアンとジャスティン、それにテオと若い世代の活躍が目立つ点が気持ちよかった。新鮮な魂を戦場の毒で腐敗させてもいるが……主人公であるテオがここまで劇的に変化してしまうのは読者としても辛いものがある。
 仲間も決して一枚岩ではなく、裏切りが日常的に繰り返されている様子が辛い。
 それでも何とか現実は理想に近づく方向に向かっている。若者たちの意志は偉大と思いたい――歳を取ってから新しい若者の邪魔にならなければ。
 ミックルとテオの絆である「指ことば」が活躍しなかったのは残念だった。

ケストレルの戦争 (ウェストマーク戦記 2)
ケストレルの戦争 (ウェストマーク戦記 2)
カテゴリ:ファンタジー | 01:07 | comments(0) | trackbacks(0)
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