素堀りのトンネル〜マブ・二五穴

 新潟県と千葉県の房総半島。遠く離れた地域に共通する素堀りのトンネルが存在した。
 それぞれマブと二五穴と呼ばれるトンネルは農地開拓や災害対策のために造られたものだ。猫の額ほどの土地をえるために大量の労働力を投入している。
 そこに江戸時代の身動きのとりにくさを感じてしまう。あるいは郷土愛を感じるべきなのかもしれないが。

 房総半島の坑道は実物を見たことがあって、すでに灌木に覆われたそこが農地であったことを直感的に理解した。
 大井川の元ヘアピンカーブでもかつて流路だった土地が利用されているのを観たけれど、あれは天然ものだったのかな。

 房総半島の二五穴はとくに地層の現れ方が美しくて、写真に見応えがあった。苦労してトンネルを掘り進めた先人の気持ちを美しい地層が少しは慰めてくれていたらいいなぁ。
 新潟のマブは鉱山用語である間歩から来ているらしく、坑道の記事がたくさん載っていた佐渡金山とのつながりも興味深かった。自然通気で掘れるのは30メートルまでだということを覚えておく。

関連書評
銀鉱山王国〜石見銀山 遠藤浩巳
武田軍団を支えた甲州金〜湯之奥金山 谷口一夫

素掘りのトンネル マブ・ニ五穴 (INAXライブミュージアムブック)
素掘りのトンネル マブ・ニ五穴 (INAXライブミュージアムブック)
カテゴリ:工学 | 12:17 | comments(0) | trackbacks(0)

そだててあそぼう11〜キュウリの絵本 いなやまみつお・へん

 たかべせいいち・え。

水戸黄門「キュウリはけがれがおおいので、食べて神仏を参拝してはいけない。毒がおおくて能がないので、つくっても食べてもいけない」
 ひどい言われようの歴史をもつキュウリ。ぶっちゃけ栄養はとぼしく水分が96%で、91%のスイカにもまさる作物だが、そんなキュウリにも江戸末期になると光が当たる!

 江戸っ子の初物好きがキュウリの促成栽培を加速させて、ブームをまきおこしたらしい。幕府がマークしていなかった作物なので、早く出荷することが禁止されていなかったとのこと。
 何が幸いするか分からない。
 ある意味で歪んだ趣味ではあるけれど、初物ブームが農業の発展に及ぼした影響は大きいのだろうと感じた。こういう土台があって今の日本の農業があるはず。

 キュウリの表面に吹き出た白い粉ブルームの話題は初物以上の商業主義による歪みを感じさせた。ブルームがあることで鮮度が見極められたのに農薬と勘違いされることなどから忌避されて、むりやり(栽培へのメリットはないのに)カボチャに接ぎ木したブルームレスキュウリが作られているとのこと。
 ただしカボチャへの接ぎ木については連作障害に効果的なものもあるらしい。接ぎ木のやりかたまで紹介されていて、接ぎ木が格好の生物実験でもあることを感じた。

関連書評
そだててあそぼう1〜トマトの絵本 もりとしひと・へん ひらのえりこ・え
そだててあそぼう2〜ナスの絵本 やまだきよし・へん たなかひでゆき・え
そだててあそぼう12〜カボチャの絵本

農文協そだててあそぼうシリーズ感想記事一覧

キュウリの絵本 (そだててあそぼう (11))
キュウリの絵本 (そだててあそぼう (11))
カテゴリ:ハウツー | 13:49 | comments(0) | trackbacks(0)

そだててあそぼう21〜ダイコンの絵本 ささきひさし・へん つちはしとしこ・え

 ジアスターゼが大黒様の消化を助ける!日本の文化に古くから根ざしてきたダイコン。それは意外や地中海原産の野菜なのであった。シルクロードの終着点、日本で江戸時代に大量の品種がうまれたダイコンはふたたび世界にDAIKONの名で拡散しているらしい。ダイコンの進撃は終わらない。
 だからこそ日本の100種をこえる在来種は世界的に価値のある遺伝子資源になるはず。大事にしたいものだ。

 水分たっぷりの野菜であるダイコンだが、露地で育てるときに基本的には水やりが要らないと知って驚いた。地中にあることで水分が失われにくいのだろうな。
 ロゼッタを作るあたりは実に冬の野菜らしい。

 ごはんとたくわん、ダイコンの葉の味噌汁があれば、だいたいの栄養が摂取できることは何だか空恐ろしい。よく考えると味噌として大豆が加わっているんだけどな!
 二十日大根が20日じゃなくて50〜60日掛かってできることをダイコンのキャラクターが突っ込んでいて笑った。君らは全体的に顎が尖りすぎだと思う。

関連書評
そだててあそぼう32〜キャベツの絵本 つかだもとひさ・へん
そだててあそぼう33〜ナタネの絵本 いしだまさひこ・へん

農文協そだててあそぼうシリーズ感想記事一覧

ダイコンの絵本 (そだててあそぼう)
ダイコンの絵本 (そだててあそぼう)
カテゴリ:ハウツー | 21:38 | comments(0) | trackbacks(0)

そだててあそぼう19〜カイコの絵本 きうちまこと・へん もとくにこ・え

 すっかり野生を失ってしまったカイコの歴史と育て方を教えてくれる絵本。毎日、クワの葉を与えて住処を掃除してやる必要があるカイコはやたらと手の掛かる家畜だ。
 クワは無農薬でなければいけないし、蚊取り線香でも死んでしまう弱さもあわせもつ。鉱山のカナリア的な使い方をできるかもしれない。

 生き物を飼うときは命に責任をもつ必要があると、いつもの文章があったけれど、ペットと違ってサナギの状態で煮殺したり、佃煮のつくりかたが紹介されている点が独特だった。
 成虫も佃煮にすることができて、サナギよりも癖がなくておいしいらしい。ただしメスは卵がじゃりじゃりするので、オスだけにしたほうが良いそう。
 虫が苦手な人にはなかなか根性がいる。

 人によって性質をすっかり変えられたカイコは、健気で可愛い生き物にも感じられる。もし飼うことがあったら手をかけて大事に育ててやりたいものだ。

関連書評
サイボーグ昆虫、フェロモンを追う 神崎亮平
そだててあそぼう42〜ミツバチの絵本 よしだただはる・へん

農文協そだててあそぼうシリーズ感想記事一覧

カイコの絵本 (そだててあそぼう)
カイコの絵本 (そだててあそぼう)
カテゴリ:ハウツー | 14:30 | comments(0) | trackbacks(0)

そだててあそぼう42〜ミツバチの絵本 よしだただはる・へん

 たかべせいいち・え。
 ミツバチは家畜。人間とおそろしく長い時間を生きてきた昆虫。ミツバチの育て方を、口が3になった謎の子供たちと一緒に教えてくれる本。子供たちの親も口が3になっている……蜂蜜を吸うために口の形が進化したのか?
 土気色が大好きな点もシュールな作画だった。

 ミツバチの生態については女王バチのオスマン帝国皇帝ぶりが恐ろしかった。最初に羽化した女王バチが他の女王バチ候補を次々と毒のない針で刺し殺していく。もしも、二匹が同時に羽化したら死ぬまで戦って、女王を決めるという……三匹以上が羽化したら大変なことになりそうだ。
 煙でいぶして蜂をおとなしくさせる作業を簡単に説明しているが、手慣れるまでは難しそうだ。できれば経験者と一緒に一度は作業した方がいいのではないか。
 働き蜂に刺された経験をもつ私は、そう思う。

 基本的にはセイヨウミツバチの育て方を紹介しているが、ニホンミツバチを勧める記述もある。住所が気に入らないとすぐに逃げてしまうあたりが戦国時代の日本の農民っぽい。
 性質はおとなしくても、オオスズメバチを撃退したり、なかなか凄いことをする蜂である。棲み分けが完全にできていればよいが、雑種がいちばん困るだろうな。

 毎年季節的に蜂の巣箱がおかれる尾根近くの土地があったのを知っているけれど、いまにして思い出せば、あれは蜜柑の受粉を助ける目的で設置されていたのかもしれない。蜜柑農家と移動養蜂家の共益関係があったのではないか。

関連書評:ミツバチが蜜を得る植物たち
そだててあそぼう88〜ビワの絵本 なかいしげお・へん あかいけかえこ・え
そだててあそぼう73 クリの絵本 あらきひとし・かわかみかずお
そだててあそぼう33〜ナタネの絵本 いしだまさひこ・へん

農文協そだててあそぼうシリーズ感想記事一覧

ミツバチの絵本 (そだててあそぼう)
ミツバチの絵本 (そだててあそぼう)
カテゴリ:ハウツー | 22:17 | comments(0) | trackbacks(0)

そだててあそぼう1〜トマトの絵本 もりとしひと・へん ひらのえりこ・え

 トマト一個に含まれるリコピンはトマト一個分よ!

 リコピンが赤色の原因になる成分であることを本書を読んで知った。アンデスで太陽の光を浴びて真っ赤に育ってきたトマト。そんなトマトを雨の多い日本で育てることを進める本書が、そだててあそぼうシリーズの1巻である。
 あとがきによればトマトを育てることができれば他の野菜も育てられるとのこと。入門用にちょっと難しい課題を用意するタイプである。
 連作障害だけはどうにもならないので、前の作物はしっかり確認しよう。3〜4年はなかなか長い(小学校ならともかく中学・高校では育てた子が卒業してしまう)。

 葉・葉・葉・実のリズムで四段ごとに実がなることも初めて知った。日頃からもっとよく観察しないと……通路側に実を向ければ育てやすいというのは農家にとってもありがたいな。

 「トマトが赤くなれば医者が青くなる」や「トマトの時期には下手な料理はない」などのヨーロッパのことわざが、彼らとトマトのつきあいの長さを感じさせる。グルタミン酸の力で、とりあえずトマトをぶちこんでおけば煮込み料理はおいしくなるとのこと。
 日本人もトマト好きだが消費量が35位で、1位のギリシャ人のように煮込んで食べないと、量はさばけないそう。サラダ以外の野菜料理も食べよう……まず野菜を食べないとな。

関連書評
そだててあそぼう2〜ナスの絵本 やまだきよし・へん たなかひでゆき・え
そだててあそぼう81〜インゲンマメの絵本 十勝農業試験場菜豆グループ・へん

農文協そだててあそぼうシリーズ感想記事一覧

トマトの絵本 (そだててあそぼう (1))
トマトの絵本 (そだててあそぼう (1))
初期の作画は堅実だ。
カテゴリ:ハウツー | 22:27 | comments(0) | trackbacks(0)

大東亜の矛―太平洋封鎖戦― 林譲治

 気がついたら日本がアメリカに戦争で負けていた。倭国の内乱に振り回されているうちに、どうでもよくなっていたが、影響力を考えるとやっぱりどうでも良くはなかった。
 いっそ東條首相を巻き込んで彼の首を飛ばしていた方が歴史を変えたのではないかなぁ?そういえば山本連合艦隊司令長官も戦死していないのでは?
 できれば本土空襲を受ける前に降伏していてほしい……。

 木梨潜水艦長が物語の最初から地味に関わっている重要人物なのもおもしろい。伊号潜水艦で技術的に遥かに上を行く潜水艦を沈めてしまう手腕に惚れ惚れした。

 倭国での話は思わぬ展開を見せ続けた。登場人物全員グルじゃねぇか!なんだ、これ。
 魁姫と導姫の役割が逆転する結末がおもしろかった。南の導姫は何にもしない内にとんでもないライバルに……。

 姫士という役職があるのに、ひとりも囚われの身にならなかったのが、地味に残念だ。憲兵が大活躍の作品なのだから、なおさらチャンスは多かったのに、逆に憲兵が捕まりまくっている始末……くっ!
 パラレルワールドは予想の範囲内だけれど、倭国が支配に苦労しまくっている事実は日本の鏡として興味深い。倭国が日本を鏡にしようとしていたように、日本も倭国を鏡にできるのだ。

関連書評
宇宙戦争1941 横山信義
第二次宇宙戦争 マルス1938 伊吹秀明

林譲治作品感想記事一覧

大東亜の矛 太平洋封鎖戦
大東亜の矛 太平洋封鎖戦
カテゴリ:SF | 21:46 | comments(0) | trackbacks(0)

大東亜の矛―ニューギニア航空戦― 林譲治

 弓家参謀の技術にしか興味がない態度に感心していたので最後の出来事には失望した。
 ヘリコプターマニアと化した弓家参謀はヘリコプターさえあれば美少女がどうなっても心が痛まないのか!ある意味でマニアの鑑だな……。

 2巻では倭国内部での政治抗争が激化していることが示されて、アメリカ軍との戦いは片手間になってしまう。
 いったい何と戦っているのか、何と戦うべきなのか、よくわからなくなってくる。悪い奴がいて、そいつを倒せば解決するほど、問題は単純じゃないのだろうな。
 史実の戦争ならすぐに理解できることも、フィクションの国家についてだと幻想を抱いてしまいがちだ。

 倭国については平行世界の日本に思える情報がそろってきた。しかし、人口10億を支配しているのに人材不足とは……?
 高度な技術と人口の少なさで、不思議の海のナディアを連想していたが、アトランティスよりは土台がしっかりしているようだ。

林譲治作品感想記事一覧

大東亜の矛 ニューギニア航空戦 (朝日ノベルズ)
大東亜の矛 ニューギニア航空戦 (朝日ノベルズ)
カテゴリ:SF | 00:17 | comments(0) | trackbacks(0)

大東亜の矛―ソロモン諸島の激闘― 林譲治

 謎の倭国から送られてきた二隻の空母、亜山と偽山。ミッドウェー海戦で大打撃をうけた日本海軍はこの二隻を駆使して米海軍と戦おうとするが、彼らの前には他にもソロモンの悪魔と呼ばれる謎の生物が立ちはだかるのであった……。

 非常にSF要素の濃い架空戦記小説ではなく、架空戦記要素の濃いSFか。謎の国家「倭国」とのファーストコンタクト的な要素や、自己進化する生物が出てくる。
 ソロモンの悪魔こと弾魔は同じ作者のSF小説に出てきた「ファントマ」を連想させた。

 先進的な技術を持つ倭国から兵器を供与された日本軍はアメリカ軍を罪悪感を覚えるほど圧倒的になぎ倒していく。
 いくらアメリカと言えども、これほどの技術力差は苦しい。物量が十分に利くまでの状況には至っていないし、そうなってからも多大な犠牲を強いられるはず。

 ソロモンの悪魔を倒した後の歴史がどんな方向に展開していくのか気になるところだ。あと二組のロマンスの行方も。

林譲治作品感想記事一覧

大東亜の矛 −ソロモン諸島の激闘−
大東亜の矛 −ソロモン諸島の激闘−
カテゴリ:SF | 20:50 | comments(0) | trackbacks(0)

そだててあそぼう81〜インゲンマメの絵本 十勝農業試験場菜豆グループ・へん

 バンチハル・え。
 南アメリカ原産、江戸時代に日本に伝わったインゲンマメ。すっかり日本に定着していて「在来品種」として紹介されている豆がいくつも出てくる。
 しかし、どことなく異国情緒を残しているのは、海外でも盛んに食べられているからかな?地域ごとに色の嗜好が違っていて、日本(やアメリカ、ヨーロッパ)では赤や白のインゲンマメが好まれるが、南アメリカでは黒いインゲンマメが人気だと言う。
 日本の場合は餡や甘納豆にする関係もあるようだ。砂糖で煮るインゲンマメの煮豆が世界で最も変な料理ではないかと言われていた……原産地では辛めの味付けが多いしなぁ。江戸時代に日本に入ってガラパゴス化しているな。

 インゲンマメには、つる性と一本立ちするタイプのものが両方あって、つる性はトウモロコシの茎を柱にして育てる方法も行われているらしい。料理はトマトと合うらしいし、流石に南米原産の作物である。
 つるから自立への変化は大豆と同じで興味深い。トウモロコシとの合わせ技がなければ自立だけしか残らなかったかも?つるはつるで長期間取れる利点があるらしいが。

 イラストは子供たちの服装にセンスが感じられた。花弁みたいなスカートが可愛い。少年はボタンがインゲンマメだし……というかズボンの模様もインゲンマメから着ていて、みんなインゲンマメをモチーフにしているんだなぁ。おしゃれ。
 文章の方はまた、とかち。そだててあそぼうシリーズをとかちつくちて!

関連書評
そだててあそぼう9〜ダイズの絵本 こくぶんまきえ・へん
そだててあそぼう66〜アズキの絵本 十勝農業試験場アズキグループ・へん
そだててあそぼう5〜トウモロコシの絵本

農文協そだててあそぼうシリーズ感想記事一覧

インゲンマメの絵本 (そだててあそぼう)
インゲンマメの絵本 (そだててあそぼう)
カテゴリ:ハウツー | 10:54 | comments(0) | trackbacks(0)
| 1/3PAGES | >>