つくってあそぼう23〜うどんの絵本 おだもんた・へん

 あおやまともみ・え。
 うろんな名前の変化はともかく、中国から伝わり日本で独自の進化を遂げたと思われるうどん。日本各地に実に多様なうどんがあることを写真で示し、おいしいうどんの手作り方法を紹介する絵本。
 お手伝いキャラクターにおかめがいて、子供の母親なのかと思っていたら最後に「おかめうどん」のおかめであることが判明した。他のナビゲーター動物がきつねとたぬきなのだから予想してしかるべきだった。

 うどんとゆでる水のpHの関係が非常に興味深い。弱アルカリ性や中性では成分が湯に溶けだしてしまって美味しくゆでることができない。食酢や梅干しをあらかじめお湯に入れることで、溶けてしまわない麺をゆでることができるそうだ。
 ラーメンをゆでる湯のようにアルカリ性が高い場合も麺は溶けないが、うどんとは別物になる。

 うどんが「のびる」現象は実際にうどんがのびており、物理量は4%ほどという情報もあった。何も批判的にならず本当にのびると思っていたので、むしろのび量が少ないと驚いてしまった……。
 うどんと言えば香川県のイメージがあるけれど、著者は北九州の人であり、うどんのイメージ論においても関東と関西の分け方でさばいている。
 説明を読みながら北九州に行って食べたうどんが本当に柔らかかったことを思い出した。おそらくあれは著者にとっては落第だが。

関連書評
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うどんの絵本 (つくってあそぼう)
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ナセル〜アラブ民族主義の隆盛と終焉 池田美佐子

 世界史リブレット人の098。
 エジプトの偉大な英雄となったナセルの薄い伝記。
 彼の小さな博物館に書き込まれているという英雄待望の言葉が他力本願に思えたのだが、クーデターを起こしたナセルたちも実は他力本願に民衆の力が後の問題は片づけてくれると思っていた点が興味深い。

 実際には代わりとなる民衆や政治家はあらわれず自分たちでエジプトを運営していくしかなくなった。
 文字通りに信じるなら、そういうことになるのだが、民主的な制度を求めていたはずが、どんどん独裁的な体制を強化していくのは疑問であった。
 一時的な方便と言い張るには長く続けすぎである。

 シリアとの合同国家を作った関係は他の本でも読んだ覚えがある。しかし、エジプト視点ではずいぶんと雰囲気が違う書き方をされている印象だった。
 ナセルはエジプトの内政に専念したいのに中東全体の問題にコミットせざるをえなかったのは事実っぽいかな。ナセルが今のエジプトを見たら、何を思うことやら、半ば残酷な興味を覚えてしまう。

関連書評
中東戦争全史 山崎雅弘
アラブ・イスラエル紛争地図 マーティン・ギルバート 小林和香子・監訳

ナセル―アラブ民族主義の隆盛と終焉 (世界史リブレット人)
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カテゴリ:歴史 | 18:50 | comments(0) | trackbacks(0)

つくってあそぼう22〜かまぼこの絵本 のむらあきら・へん

 フジモトマサル・え。
 蒲の穂から名前のきたかまぼこ。最初は蒲の穂を思わせる細長い形状をしており、いまの竹輪そのままだった。いつのまにやら(1500年代には)かまぼこは板につくものになっていて、いろいろな地域性をもちながら今に至っている。

 魚肉に塩分を2〜3%くわえて、すり身にすることで、すりこぎも動かせないほどの粘りがでてくる。まるでケミカル菓子を連想させる性質が確かにおもしろい。
 あとがきにある、かまぼこの講義を受けた直後に家で作ってみた時の、そのおもしろさに魅了されて、かまぼこの道に進んだ著者の経験が科学者的で、ぐっと来る。
 乱獲がとまらない漁業の不振もあって生産量は伸び悩んでいるようだが、地域的な特色があるかまぼこが地域文化と一緒に残ってほしいものだ。
 広島の豆竹輪がかわいい。鳥肉はまだしも、豆腐ややまいも、くわい、ゆり、はす、ゆずなどを利用した物もかまぼこと言っていいのか……奥が深い。

 イラストは明らかにデジタル彩色されたもので、絵本としては珍しい。主人公の三毛猫(どうやらオスである!)が試行錯誤しながら、かまぼこやちくわを作っている様子が漫画風でおもしろかった。
 奥さん白猫は励ましたり、かまぼこを要求するだけである。

関連書評
魚食の民〜日本民族と魚 長崎福三

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かまぼこの絵本 (つくってあそぼう)
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カテゴリ:ハウツー | 19:49 | comments(0) | trackbacks(0)

つくってあそぼう20〜火と炭の絵本 炭焼き編

 すぎうらぎんじ・へん。たけうちつーが・え。
 ドラム缶炭焼き機で、炭を焼こう。ディスクグラインダーを利用した工作があるから、大人の人にやってもらうんだ――耐火断熱レンガも使用する。セラミックファイバーは本書発売時の2006年と違って規制が掛かってしまったので注意が必要だ。
 MGファイバーやグラスウールでは耐熱性が足りないと思われる……が、それを言い出したらドラム缶の鉄ももたないはずで、どうなのかなぁ。ステンレス製のドラム缶が利用できれば長期的にはベストなんだろうけど、調達コストがあがってしまう。
 円筒形じゃなくて長方体の容器でも綺麗に炭は焼けるのか、なども気になった。
 コストパフォーマンスでは本書で取り上げられている日曜大工でつくれる炭焼き機が最強なのは理解できる。

 あと、名前は聞いたことのあった炭団(たどん)の正体が理解できて嬉しい。わらの薪に続いて籾殻炭の有効活用など、著者の住んでいた三河地方の平野部はまるで古代メソポタミア地方だ。
 炭は重量が五分の一になるみたいなので持ち運びやすさの面でもメリットが大きかったことだろう。

 焼成温度が高くて高度に聞こえる白炭の方が、焼成温度が低い黒炭より古い歴史をもっていることが興味深かった。

関連書評
つくってあそぼう19〜火と炭の絵本 火おこし編
里山を歩こう 今森光彦
武蔵野の遺跡を歩く 郊外編 勅使河原彰・保江

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火と炭の絵本 炭焼き編 (つくってあそぼう)
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カテゴリ:ハウツー | 22:10 | comments(0) | trackbacks(0)

つくってあそぼう19〜火と炭の絵本 火おこし編

 すぎうらぎんじ・へん。たけうちつーが・え。
 人類の歴史と非常に長いつきあいのあるたき火のススメ。現代は火をみずに火を使う「異常事態」が起きているが、やはり火の扱いを覚えておいた方が好ましい。

 花炭という元の形を保ったままの炭がおもしろかった。
 花を名乗りながら花の例の写真がないが……折り鶴の写真はあったので、できないわけではなさそう。文中ではバラなどの使用が勧められている。
 消臭効果のあるインテリアになり、壊れたら土壌改良に使えばいいとのことだが、庭がない家の子もいるんですよ――このシリーズの読者ならベランダにプランターくらいは置いているかもしれない。
 まぁ、情緒はないが燃えるゴミにはなる。

 巻末には木材ごとの薪としての性質がまとめられている。煙が多いケヤキなどの燃やしちゃダメな木の例が逆に興味深かった。戦国時代の火計使われていそう。
 イチイは毒のある木だったはずだが、薪に使う分には大丈夫なんだな。

 ファイアーマンのキャラクターがたき火に当たって暖まっている絵がシュールだった。

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つくってあそぼう29〜やきものの絵本 よしだあきら・へん
つくってあそぼう16〜わら加工の絵本 みやざききよし・へん

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火と炭の絵本 火おこし編 (つくってあそぼう)
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カテゴリ:ハウツー | 12:28 | comments(0) | trackbacks(0)

アゼルバイジャン〜文明が交錯する「火の国」 廣瀬陽子

 おのれアルメニア。アゼルバイジャンにとては不倶戴天の敵だな――簡単に感情移入してしまう私としては、ついついアゼルバイジャンを贔屓してアルメニアに厳しい目を向けてしまいかねない本。

 是非はともかくアルメニア人のロビー活動は圧倒的で、アゼルバイジャンとの問題に関しては、あのユダヤ人のロビー活動や石油業界のロビー活動を上回る影響力を発揮している。
 ロシアとアメリカ(フランスも)を同時に味方につけているなんて凄すぎる。「ナゴルノ・カラバフ」どころか、紛争地帯と接するアゼルバイジャン側土地まで緩衝地帯に占領されてしまっているのではアゼルバイジャン側としても引き下がれないのは無理もない。
 民族的に結びつきの強いトルコとの関係もあって、外交情勢はかなり混沌と混沌としていることが分かった。

 また、両国の歴史の真実よりも国益を優先する態度には、ソ連時代の歴史学に回っていた毒が残っているのを感じる……。

 政治についてもソ連崩壊後の混乱を民主主義的な体制がうまく乗り切れなかったため、有能であるが王朝の創始者ともいえる「アリエフ氏」に依存してしまっている様子が興味深い。
 ともかくは安定を確保してくれる指導者が優先で、それは民主的な体制よりも重要と民衆は考えていると著者は述べる。

 イスラーム教や地縁血縁が重視される風潮との関連もあいまって独自の政治情勢にあるようだ。
 気がついたら独裁者に生殺与奪の権を握られている事態にも、アラブの春で失敗した国家にもならずに、うまく発展の道を辿っていけることを願いたい。
 石油資源もあれば、世俗的なようだし、素質はあると思われる。

関連書評
ハザール 謎の帝国 S.A. プリェートニェヴァ著/城田俊 訳:北部にユダヤ人コミュニティがあるというのはハザールの影響なのだろうか。

アゼルバイジャン―文明が交錯する「火の国」 (ユーラシア文庫)
カテゴリ:雑学 | 20:23 | comments(0) | trackbacks(0)

平清盛〜「武家の世」を切り開いた政治家 上杉和彦

 悪役のイメージが染み着いてしまった平清盛の事跡をしっかり追っていくことで再評価を試みる日本史リブレット025。
 晩年の行為が拡大されて、それまでにやったことまで否定されてしまっている。
 比叡山延暦寺との関係が非常に興味深い。手強い僧は腫れ物あつかいである。
 そういえば織田信長は平家を名乗っていたのではなかったか?比叡山焼き討ちに関して、清盛の果たせなかったことをした気分だったのかもしれないな。むしろ、後白河法皇の宿願だった気もするが。

 一部で評価の高い重盛が死ぬ前に無気力になってしまっていたと評価されている点も興味深かった。
 清盛並の政治力をもつ後継者はなかなか得られなかっただろうなぁ。まず有能な女性(たち)からフォローを受けなければいけないわけで。

 あと、清盛が正嫡をめぐる競争に苦労していたことも興味深かった。そのおかげで、利益を他家にも折半するバランス感覚が養われたのではないか。
 晩年はそれが弱ってしまうのだけど。

関連書評
図説源平合戦のすべてがわかる本 洋泉社ムック
河内源氏〜頼朝を生んだ武士本流 元木泰雄

平清盛 「武家の世」を切り開いた政治家 日本史リブレット人
平清盛 「武家の世」を切り開いた政治家 日本史リブレット人
カテゴリ:歴史 | 00:07 | comments(0) | trackbacks(0)

忍者の歴史 山田雄司

「忍者研究の第一人者がこれまでの忍者像をくつがえす!」と帯にうたわれている忍者の研究本。期待の新人ではなく、第一人者があたらしい像を提供するって事は第一人者の周知不足ってことにならないか?
 忍者の研究者だけに研究内容を社会に忍んできたのかな。
 さまざまなメディアにおける「虚像」が大きくなりすぎていて、まじめな研究が霞んでしまっているとも考えられる。

 本書は文献調査がメインとなっていて、忍者の発祥から存命の忍術をおさめたとされる人まで広く語っている。
 明治以降になることでかえって胡散臭くなるのは藩に召し抱えられる安定した地位がなくなったせいかな。幕末になるまできちんと情報収集に活動していた様子がわかって良かった。
 むかしの忍者であれば城の構造をこんな風にみてきたなどの具体的な成果を語ることができるが、藤田西湖の時代になると「実践」の機会がなく与太話を大きくする方向に進む。

 忍術とは忍耐術などの考え方は、今の社会情勢ではブラック労働をもたらしそうで不穏に感じた。
 江戸時代の忍者の場合は雇い主の弱みも握っていたから、成り立ったのではないか。実際にはわがままで無惨な最期を遂げた忍者もいるようだし、額面通りに受け取るべきではないと感じた。繰り返し言われるのは守られていない証拠というのが歴史学のセオリーだし。

関連書評
甲賀忍法帖 山田風太郎

忍者の歴史 (角川選書)
忍者の歴史 (角川選書)
カテゴリ:歴史 | 13:26 | comments(0) | trackbacks(0)

蜃気楼のすべて! 日本蜃気楼協議会

 ファタモルガーナの館のファタ・モルガナが蜃気楼のことだと初めて知った。でも、本書の英題はAll baout Mirages でミラージュの語を使っている。ファタ・モルガナ(モルガンの妖精)はイタリア語らしいから、当然か。

 日本では蜃気楼がみられる場所として魚津市が有名とのことで、ほかにも北海道や大阪湾など、蜃気楼が観測できる場所とそこでの蜃気楼写真が紹介されている。
 北海道での写真は蜃気楼が起こる前の風景も載せられていて、変化が理解しやすい。

 圧巻は南極で撮影された氷山の蜃気楼現象で、まるで異世界に迷い込んだような気分にさせてくれた。
 持続時間など南極はいろいろと特殊なようだ――が、やはり蜃気楼現象の範疇で理解できる。

 蜃気楼の研究が最近まであまり進んでおらず、定点観測カメラやシミュレーションによって理解が深まってきたそうだ。
 もっと海外での研究の歴史があるものと思っていたので、こんな状態なのは非常に興味深い。
 湾内で観測されることが多いのは、対象物がないと蜃気楼が起きていても気付かないだけなのではと疑っていたが、富山湾での発生原理を考えると湾であることはなかなか重要だと思われる。
 まぁ、九十九里浜でも観測されているらしいので、湾でなければ絶対にみえないわけでもなさそう。

 上位蜃気楼と下位蜃気楼の区別があることも覚えておきたい。季節の風物詩は上位蜃気楼でこっちの方が珍しいと。

関連書評
空の虹色ハンドブック 池田圭一・服部貴昭 著 岩槻秀明 監修
気象大図鑑 ストーム・ダンロップ/山岸米二郎

蜃気楼のすべて!
蜃気楼のすべて!
帯があると雰囲気変わるなぁ。
カテゴリ:地学 | 21:30 | comments(0) | trackbacks(0)

世界の砂図鑑〜写真でわかる特徴と分類 須藤定久

 砂はその土地の地質を反映する――はずが、人工の砂浜によって怪しくなっている。そんな各地から砂を集めて拡大写真を掲載した図鑑。
 小さなサイズでは綺麗にみえる砂が多くて、透明な石英にうっとりしてしまう場合もあった。たとえば山形県飯豊町の珪砂は綺麗な粒ばかりですごい。
 うぐいす色の砂がカンラン石で出来ている場合も見応えがある。

 日本国内の場合は産地の写真や砂以外の発見物も紹介されていて興味深かった。
 砂をテーマに日本全国を旅した気持ちになる。その一方で、自分の知っている土地については紹介される砂の密度がものたりないと感じる場合もあった。
 インターネットでもっと多くの砂が紹介されているそうなので、そちらを参照かなぁ。

 顕微鏡やスキャナーを用いて砂の写真をえる方法も巻末に紹介されていて、調査が全国的に広がっていったら愉快である。
 消える砂浜がこれ以上、あらわれないことを願う。

関連書評
石ころ博士入門 高橋直樹・大木淳一 全農協
かわらの小石図鑑 千葉とき子・斎藤靖二
石ころ採集ウォーキングガイド 渡辺一夫


世界の砂図鑑: 写真でわかる特徴と分類
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カテゴリ:地学 | 20:32 | comments(0) | trackbacks(0)
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