モン・サン・ミシェル――奇跡の巡礼地 ジャン=ポール・ブリゲリ

 ある図書館では建築のコーナーに分類されていたが宗教的な側面もかなり強いモン・サン・ミシェルの本。
 大天使ミカエルとの切っても切り離せない関係を持っていたことから始まって、多岐にわたるモン・サン・ミシェルの歴史と魅力が語られている。
 いろいろな人がいろいろな思いを投影してモン(本文中ではこう略称されている)に手を加えてきたことが分かる。それでいて一つの形として落ち着いているように感じられるのは、海と陸がまじりあった特殊な風景のおかげかもしれない。

 大天使ミカエルの「神の名前を言ってみろ。ゴルァ」な設定がなかなか刺激的だ。ミカエル自体がひとつの神のように振る舞いながら、形式上は大天使の形に収まっているあり方が実に巧みでもある。
 モンはミカエル信仰によってローカルな巡礼者をフランスから集めることができた。枠が限られているので、目玉商品の奪い合いになりかねないところがあるな。

 城としてのモン・サン・ミシェルはある本では難攻不落と書かれていたが、この本ではフランス軍に攻略されている。物理的な意味での攻略ではなかったのだろう。
 ノルマンディーとブルターニュという二つの重要な半島の付け根に位置することがモンの歴史に与えた影響も興味深かった。

関連書評
大聖堂・製鉄・水車 J・ギース/F・ギース 栗原泉 訳

モン・サン・ミシェル: 奇跡の巡礼地 (「知の再発見」双書158)
モン・サン・ミシェル: 奇跡の巡礼地 (「知の再発見」双書158)
カテゴリ:歴史 | 21:58 | comments(0) | trackbacks(0)

世界の衣装〜Clothes〜 PIE international(2回目感想)

 一国の中にもいろいろな民俗衣装あり。
 広い範囲にわたり、多くの民族が内在する国があるのだから、当然のことなのだけど、それを写真で直感的にきづかせてくれる写真集。
 特に中国は少数民族の民族衣装がいろいろ掲載されていて多彩さを感じさせた。なぜか漢民族の写真はなかった。女真族もなかったな。

 日本は京都の着物をきた女性(舞妓さん?)の写真が二枚あるだけで、けっこう違和感が強かった。
 他の国の写真も同じくらい強調されたものである可能性は意識するべきかもしれない。観光で民俗衣装を着ている場合もあれば、ハレの場面で子供に着せている場合もあり、日常的に着ている様子のおばさんおじさんたちもいる。

 どの写真にしても弾けるような笑顔をした人々の写真には胸を打つものがあった。表紙にもなっているペルーは流石に強い(アルパカも強い)。広さに対して寂しい感じのアメリカ合衆国との大きな違いを感じた。

関連書評
動きで見る民族衣装の描き方 シーン別描き分けのコツ248パターン 玄光社
世界の衣装〜Clothes〜1回目感想

世界の衣装
世界の衣装
カテゴリ:写真・イラスト集 | 17:39 | comments(0) | trackbacks(0)

おもしろふしぎ日本の伝統食材6〜いわし おくむらあやお

 日本の誇る海の幸いわし。
 小さくても力持ちの働きを食卓でしてくれるいわしの利用方法をいくつも写真入りで教えてくれる本。
 いわしを開くときは手で開ける。鮮度を守るためには手を氷水で冷やすと良い。そんなところから教わった。

 2番目にいわしの握りずしが出てきて、なんともチャレンジャブルに感じた。酢飯に青じそを混ぜているあたりの作り方をみていると、あまりしゃちほこばって考える必要はなさそうだ。
 いわしという食材もすしの練習にちょうど良いのかもしれない。
 味の染み込ませ方には結構手間が掛かっている。

 後半にいくほど鮮度が落ちていても美味しく食べられる料理が紹介されていて、にぼしを具として使う料理まであった。
 そんなにぼしの鮮度の良いものの選び方が紹介されているのが面白かった。腹が黄色くて渋みのあるにぼしは良くないらしい。注意しておこう。

関連書評
おもしろふしぎ日本の伝統食材7〜さば おくむらあやお
おもしろふしぎ日本の伝統食材1〜なす おくむらあやお

おもしろふしぎ日本の伝統食材〈6〉いわし―おいしく食べる知恵
おもしろふしぎ日本の伝統食材〈6〉いわし―おいしく食べる知恵
カテゴリ:ハウツー | 20:42 | comments(0) | trackbacks(0)

日本の藍 ジャパン・ブルー 吉岡幸雄

 日本にやってきた外国人にジャパン・ブルーと絶賛され、彼らがもちこんだインドの藍に壊滅され掛けた日本の藍染。
 今に残るジャパン・ブルーの衣装や布が全ページカラーで紹介されている本。
 一方で、世界の藍染についても、それなりに言及があり、日本一国にとどまらない広がりを持っている。ヨーロッパの大青は大航海時代の犠牲になったのだ……ナポレオンでも勝てなかったよ。
 インド藍と同じマメ科で染料になる「なんばんこまつなぎ」のひらがな名が癖になる。

 紹介されている藍染には目の覚めるような美しい青色から、濃淡の変化が微妙すぎて生物的なものを感じさせる絞りの布まで、おもしろい藍染がたくさんあった。
 ちょっと着てみたいと思う着物もけっこうあって、江戸時代の人がオシャレに走った理由がうかがえた。
 津軽の仕事着がいまでは貴重な文化財になっているのも興味深い。ともかく凝り性の人たちの性分が伝わってくる本である。

 本土のタデ科とは別の染料(キツネノマゴ科)琉球藍をつかう沖縄の藍染についても詳しく紹介されている。着るものが身分や出身地によって制限されていたとする解説文から琉球が厳しい身分制社会であったことが伺えた。

関連書評
のしめ江戸時代の縞・格子・絣事典 吉岡幸雄
つくってあそぼう26〜藍染の絵本 やまざきかずき・へん

日本の藍 ジャパン・ブルー (紫紅社文庫)
日本の藍 ジャパン・ブルー (紫紅社文庫)
カテゴリ:雑学 | 23:08 | comments(0) | trackbacks(0)

のしめ<<熨斗目>>江戸時代の縞・格子・絣事典 吉岡幸雄


 江戸時代に能や狂言の衣装。そして武家の礼服として使用された熨斗目。その中段を彩っていた幾何学模様を収録した模様の写真事典。
 単純なパターンながら非常に多彩なものが収録されていて、その組み合わせは無限に思える。
 電波試験や笑点の幕みたいな縞模様には、おしゃれ以外の感想をもってしまったが、同時代の人にはやっぱりおしゃれだったのであろう。

 最後に出てくる絹糸を絞って染色をできなくすることで作り出す絣の技術が興味深く、偶然に左右される部分もあるパターンが魅力的だった。
 全体的に染めた直後ではなく、使用感のある色合いをしていて、現代の柄が変化しない服とは違った要素を感じた。

 昔の絹糸が現代では再現できない技術で作られているという最後の解説も興味深かった。
 絣(かすり)の読みが分からず、IMEの手書き入力で調べた……よみがなをまったく振ってくれず常識あつかいが分からない身にはショックだった。

関連書評
つくってあそぼう26〜藍染の絵本 やまざきかずき・へん
そだててあそぼう18〜アイの絵本 くさかべのぶゆき・へん
そだててあそぼう43〜ベニバナの絵本 うえだみゆき・え

のしめ《熨斗目》江戸時代の縞・格子・絣事典 (紫紅社文庫)
のしめ《熨斗目》江戸時代の縞・格子・絣事典 (紫紅社文庫)
カテゴリ:雑学 | 21:49 | comments(0) | trackbacks(0)

シロアリ〜女王様、その手がありましたか! 松浦健二

 岩波科学ライブラリー202。
 社会性をもっているが、それは男女共同参画社会になっているシロアリ。多くの秘密をもっていたシロアリのベールを一枚一枚はがしてきた著者によるシロアリの本。

 シロアリの女王が単為生殖をし、そうして産んだ分身の娘を、創設王と結婚させて巣の維持を図っている生態が衝撃的だった。
 時には相手が600匹を超えるハーレムと言われても、確かに羨ましくはない……自然環境では難しいが、有性生殖から生まれたワーカーから二次女王に変化することも一応あるわけで、その場合は父親の創設王とその血が繋がった娘の巣になる。
 それはそれでなかなか怖い話だ。

 単為生殖を見つける切っ掛けになった雌同士のカップルによる巣作りの例も興味深かった。特に雄がみつかると、それまでのパートナーは捨てられて死ぬことが。
 複数の女王がいる巣はあっても、遺伝子的には二個体以上の女王をもつ巣はない状態になっているみたい。進化の妙を感じる。

 研究に関連する著者の話もおもしろかった。研究室の学生たちはシロアリの女王狩りに関しては世界トップクラスの腕をもっているが他には活かす機会がまったくないとか、アメリカへシロアリの巣を壊しにいったときに右手に手斧、左手にノコギリ、腰には剣鉈とハンティングナイフをさした状態でパトカー3台に囲まれて職務質問を受けたとか、非常に楽しく読ませてもらった。
 著者推奨の手斧メーカーとして名前の挙げられているアメリカのエスチング社は、地質学用のハンマー製造でも知られたメーカーだな。

関連書評
ニュートンムック 生き物の超能力―おどろきの超機能,不可思議な生態
オカバンゴの狩人 ナショナルジオグラフィックDVD
岩波化学ライブラリー181 ヒドラ〜怪物?植物?動物! 山下桂司

シロアリ――女王様、その手がありましたか! (岩波科学ライブラリー 〈生きもの〉)
シロアリ――女王様、その手がありましたか! (岩波科学ライブラリー 〈生きもの〉)
カテゴリ:科学全般 | 22:42 | comments(0) | trackbacks(0)

アレクサンドロス大王〜今に生きつづける「偉大なる王」

 世界史ブックレット人005。澤田典子・著。
 いまだにマケドニア共和国とギリシア共和国の間で火種になっているアレクサンドロスに関する簡単な伝記。あるいは社会に与えてきた影響の概説。

 ギリシア人がマケドニア人をギリシア人じゃなくてスラブ人だと批判しているのはブーメランにならないのかなぁ……紀元前の存在に関して、ここまで激しい奪い合いをできるところが凄い。
 とりあえず国内の歴史遺産をそれぞれ大事にしろとしか言えない。

 アレクサンドロスの人物像に関してはフィリッポスの虚像を超えるために苦闘するアレクサンドロス像の紹介が印象的だった。
 それだったら、西に進む計画もありかもしれない。武田勝頼を連想させる要素が増えた気もするが、すぐに計画を引き継いでこなしたところはアレクサンドロスの方が上手であった。
 相手がペルシア帝国と織田家であることの差も大きいか?

関連書評
図説アレクサンドロス大王 森谷公俊・鈴木革
戦争の起源 アーサー・フェリル著/鈴木主税・石原正毅 訳
東南アジアの建国神話 弘末雅士 世界史リブレット72

アレクサンドロス大王―今に生き続ける「偉大なる王」 (世界史リブレット人)
アレクサンドロス大王―今に生き続ける「偉大なる王」 (世界史リブレット人)
カテゴリ:歴史 | 21:39 | comments(0) | trackbacks(0)

連合艦隊回天3〜オホーツク海血戦 林譲治

 北、南と来て、最後は北。
 真珠湾奇襲作戦の失敗から始まった太平洋戦争は、オホーツク海海戦とアメリカ太平洋艦隊主力との決戦によって一つの節目をむかえる。
 その結果に多大な貢献をしたのは、特務艦宗谷の4人の生き残りたちであった。うーむ、冒険小説だ……無事に救助されて本当に良かった。戦後の人生は必ずしも順調ではなかった模様だけれど、そもそも戦後の人生があったことが奇跡的である。
 もう一人の生き残りについては、最後にいきなり存在を言及されても感情移入が難しかった。戦争に翻弄される個人の人生というのは、著者が重視している視点に思われる。
 ミサイル基地訴訟で揺れる地域に育ったことと関係があるのかもしれない。

 アメリカ太平洋艦隊は計画通りの漸減邀撃戦法で一時的に壊滅した様子だが、各巻冒頭の記述をみれば戦争は1944年までは続いているし、まだまだ困難があったに違いない。
 しかし、開戦の経緯もあって、アメリカがマンハッタン計画を進めることはできなかったと思われる。TV信管すら開発できていない可能性がある。
 冷戦時代には日本は西側陣営についているみたいだけど、ドイツがソ連に打倒されるまで耐えたことで講和の機会を掴めたのかなぁ。アメリカ軍がヨーロッパに上陸作戦を行えていないなら、史実より広い範囲が赤く染まっていそうである。

林譲治作品感想記事一覧

連合艦隊回天〈3〉オホーツク海血戦 (RYU NOVELS)
連合艦隊回天〈3〉オホーツク海血戦 (RYU NOVELS)
カテゴリ:架空戦記小説 | 21:32 | comments(0) | trackbacks(0)

連合艦隊回天2〜POW追撃戦 林譲治

 1巻で陸攻隊に沈められた記述のあった気がするプリンス・オブ・ウェールズとレパルスが何故か日本帝国陸海軍を翻弄する。
 それだけではなく、大混乱につぐ大混乱が襲いかかってきた。

 徹底的に情報を攪乱しての弱点攻撃は史実のイギリス軍がやってのけるべき戦法だった気もしてくる。
 しかし、戦力に余裕のある初期段階で情報戦の問題を日本軍に認識させたことは戦争全体にはマイナスに働く可能性があるのであった。
 結果だけをみれば日本が受けたダメージは大きくない。イギリス海軍は東洋艦隊までまとめてつぶされてしまって史実以上に致命的なダメージを受けてしまっている。

 これで日本海軍はアメリカ太平洋艦隊に集中できる体勢になった。すべての航空艦隊の空母が何らかの打撃を受けているが、致命傷は一つもないので、決戦には間に合うのではないか。
 間に合ったとしても決戦だけで戦争が終わらないことは馴染みのプロローグではっきりしている。伊号27潜水艦の活躍が潜水艦を艦隊決戦にもちいる方針を助長させてしまわないかも心配なところである。

林譲治作品感想記事一覧

連合艦隊回天〈2〉POW追撃戦 (RYU NOVELS)
連合艦隊回天〈2〉POW追撃戦 (RYU NOVELS)
カテゴリ:架空戦記小説 | 19:00 | comments(0) | trackbacks(0)

連合艦隊回天〜皇国の興廃 林譲治

 真珠湾奇襲作戦実施されず!
 アメリカ陸軍のB-17爆撃機に分離したタンカーを発見され、芋蔓式に空母機動部隊まで発見された、南雲長官は真珠湾奇襲作戦を断念。代わりにミッドウェーに向かったところ、アメリカ海軍の空母を各個撃破する形になる。
 史実では非常にしぶといエンタープライズが緒戦で沈んでしまうとは……。

 空母二隻をアメリカ側が損失し日本は赤城の小破にとどまった事よりも、大きいのはレキシントンの戦闘機がよけいなことをしたせいで、宣戦布告の経緯が史実とは大きく異なってしまったことだ。
 アメリカ大統領の権限は厳しく制限され、ドイツとの戦争も開始されない。日本としては後者の条件は不利にも感じられるのだけど、アメリカが全力を出す前に単独講和をする好機を与えられてもいる。ヒトラーもそうなると思ったから、アメリカに宣戦布告をしていないのだし。

 アメリカ太平洋艦隊の戦艦は健在であるが、まずは東南アジアでのABDA艦隊との戦いになった。
 レキシントン、エンタープライズとの戦いに続いて、ここでも空母艦載機による夜戦となっていて、戦争初期の搭乗員がもつ高い技量が活用されていた。
 武装商船の大活躍とディーゼル機関の装備は林譲治氏のお約束だなぁ。

林譲治作品感想記事一覧

連合艦隊回天―皇国の興廃 (RYU NOVELS)
連合艦隊回天―皇国の興廃 (RYU NOVELS)
カテゴリ:架空戦記小説 | 03:06 | comments(0) | trackbacks(0)
| 1/4PAGES | >>