絵と物語でたどる古代史3〜ローマ ロイ・バレル

 ピーター・コノリー絵。監修 前田耕作/翻訳 高里ひろ。
 一つの魅力のない都市からはじまった偉大なローマ帝国の本。牧人たちの寒村からローマが成長して、ついには首都ではなくなり、アラリックに襲われたりヴァンダル族に略奪されたり、そして……。
 長い歴史を一冊に圧縮しているだけに、変化が劇的に感じられる。
 けっきょく現代でもローマは重要な都市でありつづけている点に注意は必要か。ついつい帝国と一緒に無に還った気がしてしまう。実質的な首都でなくなったことは、かえって都市ローマを救ったのかもしれない。
 コンスタンティノープルも今でも栄えているので、その理屈はあたらないかなぁ。

 都市の鳥瞰図があるのは、ローマ以外にはカルタゴとコンスタンティノープルだ。コンスタンティノープルにはローマと同じく七つの丘があったと説明されているけど、それよりも半島の立地がカルタゴに似てみえる。
 自分たちが起源とする都市より、かつて滅ぼした都市に近いモデルを選んだなんて皮肉だなぁ。

 全体的な流れを追うことに忙しくて、五賢帝以降の皇帝一人一人にかんんする記述は乏しかった。それでもキャベツ農民だけはちょっと目立った。
 インタビューを受けた架空のローマ人みたいにやっぱり史実でも「なにやってんだ、あいつ」って反応だったのかなぁ。

絵と物語でたどる古代史〈3〉ローマ
絵と物語でたどる古代史〈3〉ローマ
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七年戦争・上 吉田成志 文芸社

 プロイセン(本書ではプロシア表記)の登竜門となったオーストリア継承戦争と七年戦争を豊富な演説と名言の引用に、戦況図をまじえて描いた本。
 非常にすっきりまとまっていて読みやすい。たくさんの戦例が楽しめる。イギリス国内で行われたジャコバイドの乱や、フランスのサクス元帥の戦いが興味深かった。
 まじめなオーストリアとプロイセンの戦争にくらべると、イギリス国内での戦争はどこか喜劇じみている。

 マリア・テレジアの演説との比較で、北条政子の演説が紹介されている。他の演説をふくめて「やる気のない奴は帰れ」発言が目に付いた。
 (もしかしたらサクラまで立てて)引っ込みをつかなくしているわけだが、本当に帰る人間がいると白けるはず。それが起こったのが、徳川家康の小山評定である。
 真田昌幸と田丸さんの芯のある行動を評価したい。海外でも「やる気のない奴は帰れ」に逆らえず集団でその場の空気に流されているのだから。

 オーストリア継承戦争でフランスがインドのマドラスを占領して、全土を征服する勢いであったことを初めて知った。講和がなされず、そのままインドがフランスのものになっていたら、世界の歴史はまったく違ったものになっていたはず。
 フランス軍とイギリスの連合軍が激突したフォントノアは、神聖ローマ帝国分裂時の後継者争いでも戦場になっている。たびたび戦場になる関ヶ原的な土地のひとつなのであろう。

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スペイン継承戦争〜マールバラ公戦記とイギリス・ハノーヴァー朝誕生史 友清理士
アメリカ独立戦争・上 友清理士

七年戦争(上)
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全訳「武経七書」1 孫子・呉子 守屋洋・守屋淳

 武経七書としての孫子・呉子。まえがきで孫子とその他の間にある格差が紹介されている。特に司馬法と李衛公問対は数十年あたらしい本が出版されていなかったそうで……私もこのシリーズでしか読んだことがない。ただし、書き下し文だけならインターネットで読める。

 1巻はもっとも有名で人目に触れている孫呉の訳だが、それだけに訳の性質が読みとれた。
 最初に書かれている日本語訳は意訳の傾向が強い。すらすらと読めて理解しやすいが、頭を使って噛み砕く感じは弱くなる。そういう時は解説の後にある書き下し文を読めばいい。他の本との訳を比較するためにも書き下し文はあった方が助かるのだが、訳者は前書きで「書き下し文と漢文はなくてもいいけど、一部の好事家用につけた」と述べている……まぁ、自分が好事家であることは否定しない。
 自分もしょうじき漢文はまともに目を通していないが情報の圧縮されぶりをみるのは楽しい。
 孫子と呉子はそんなに文字数に大きな差はなかったと思うのだが、本書で占めているページ数は大きく違っている。孫子の方が熱心に解説され、翻訳もかんで含めるところがある。
 歴史的な扱いの差に切なくなると同時に、呉子が硬派でカッコいい気もしてくる。

 呉子は理想とする軍事と、本人が行わなければいけなかった軍事に差がある。戦いを避けるべきと自分が分析する要素をもつ相手(秦)と正面からぶつからざるをえなかったし、充実をもとめた政治へ口出しできる権限も完全ではない(魏の時代は特に)。
 そんな状況で結果を出したからクールだし、兵家でありながら陰謀に倒れても名誉を保てるのかもしれない。

 あと、料敵編の戦うべきではない敵の例は、戦争を防止する軍備を整えることを考えるうえでも役立つ気がした。ただし、「敵」がちゃんと諜報活動をしてくれる場合に限る……。

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ガチ甲冑合戦でわかった実戦で最強の「日本武術」

 横山雅始・著。
 ガチ甲冑合戦と名付けられた現代の集団トーナメントのごときイベントをたくさん開催してきた著者による実験歴史学的な情報をもりこんだ本。写真によって展開の例や戦闘技術の例が紹介されていて分かりやすい。
 ページ数の割にさっぱりしている印象も受ける。

 日曜歴史研究家の鈴木雅哉氏よりも刀に対して極端な結論を出していて、槍がないなら逃げるべきとまで主張している。ガチ甲冑合戦ではそれほど槍に刀で立ち向かうのは勝算が低いとのことだ。
 ひとつしかない命なのだから大事をとって逃げるのが当然……とも言えるが、ひとつしかないが故に著者が得た知見をえられず無謀に死んだ武士もいたかもしれないな。
 軍忠状を分析して統計をとる軍師でもいれば別だけど。

 馬についても乗馬突撃に否定的で、移動のための乗り物との見方を支持している。あとは集団にならず歩兵に混じってパカパカ進むとしている。
 ガチ甲冑合戦で騎兵もやってほしいものだが、木曽馬の確保から大変そうである。道産子の方がまだ頭数はいるけど、リアルとは言えないかなぁ。

 完全に再現し切れていない部分もあるだろうし、禁じ手とされている格闘技もあったりするが、実際の体験に基づいた情報はとても興味深く、視野を広げてくれた。
 西日本での活動が中心みたいだけど、機会があればガチ甲冑合戦を見てみたいものだ。

関連書評
シャーロック・ホームズの決闘 伊吹秀明

ガチ甲冑合戦でわかった実践で最強の「日本武術」 (BUDO‐RA BOOKS)
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絵と物語でたどる古代史2〜ギリシア ロイ・バレル

 ピーター・コノリー絵。監修 前田耕作/翻訳 高里ひろ
 ヨーロッパ人が何故か大好きギリシア文明。民主主義のはじまりとなったギリシアについて、当時の人物に証言をえる形式をまじえて紹介する。クレタ島の文明からローマによる征服まで描いているので古代ギリシアの歴史が非常に長いものになっている。
 海洋民族の側面があまり描かれず、ライバルであるフェニキア人の出番もほとんど見られなかった点が残念だ。
 戦争に関する関心が高くて、アレクサンドロスの戦いをけっこう細かく描いていたところは、海外の本らしかった。大王は生涯で4回の会戦を行ったと書いているのだが、グラニコス河の戦いがカウントされていない?あるいは本書のなかでとりあげたカイロネイアの戦いを「フィリッポス2世の戦い」あつかいしているのかな?

 古代地中海世界にトウモロコシはないのに、トウモロコシがシチリア島や黒海から送られてくると書いていた点が謎だった。たぶん穀物の意味で書かれたものを、トウモロコシと誤訳したのではないか。
 ちょっと知識があれば分かることなのに、監修がついていて、この体たらくは情けなかった。

 絵はあいかわらずハイレベルで、アテナイとペイライエウスが城壁でつながれたところの鳥瞰など、当時の世界に行って鳥になって見たような気分を味わえた。

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世界史リブレット94〜東地中海世界のなかの古代ギリシア 岡田泰介
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絵と物語でたどる古代史〈2〉ギリシア
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絵と物語でたどる古代史1〜歴史のはじまり ロイ・バレル

 ピーター・コノリー他 絵。高里ひろ・翻訳。前田耕作・監修。
 イギリスの子供向け歴史書を翻訳したもの。メソポタミアとエジプトの文明について詳しく説明し、他の有名な古代文明については簡単に触れている。
 イラストの質が高く、長時間の鑑賞にたえる。
 古代人に証言者風に語らせる手法をとっており、リアリティがありすぎるほどだ(間違った説だった場合に困ったことになりそう)。メソポタミアの書記のたまごが文字のことを知りすぎていて違和感があった。
 実際には比較対照もなかったから自分たちの文字の構造について疑問に思うこともなかったのではないか。当時は覚える文字が数千もあって大変と言われても、日本人や中国人には「そんなの普通でしょ」になってしまいそう。特に中国人は……。

 最後にイギリスの古代史が描かれていて未知の情報だったので興味深かった。島国として日本との比較もできる。こっちは青銅器時代が1000年もあったそうだ。
 スコットランドの北、オークニー諸島から興味深い遺跡がみつかっている。そうとう寒かったに違いない彼らの生活を想像してみるのも(無責任に想像する分には)楽しい。

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興亡の世界史3〜通商国家カルタゴ 栗田伸子・佐藤育子
都市の起源〜古代の先進地域=西アジアを掘る 小泉龍人
メソポタミア文明 ジョバンニ・カセッリ監修 ニュートンムック

絵と物語でたどる古代史〈1〉歴史のはじまり
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地形で謎解き!「東海道本線」の秘密 竹内正浩

 明治の政府によって建設された東海道本線を詳細な地図と当時の記録を元に追っていく本。いつまでたっても静岡県が終わらないところは実際の東海道本線の旅とまったく同じである。
 難所も多く、長い橋を架けなければならない川の大半が静岡県を流れている。

 当初の計画では中山道鉄道が東海道鉄道よりも有望視されていたことに驚いた。なによりも防衛上の理由で攻撃しやすい海岸近くには鉄道を建設したくなかったそうだが、そこに時代の違いを感じさせられる。当時は飛行機もなかったわけだ。
 昭和になってくると攻撃される状況になるようでは戦争は負けだと思ってしまうからなぁ……。

 メッケルも関わっているこの判断にもそれなりの妥当性はあるのかもしれないが、中山道への鉄道建設にこだわったために東海道本線の建設が遅れたことは歴史に大きな影響を与えている。
 もしもお雇い外国人がボイルではなく、東海道本線を主張する人物であったなら、日本の国力はもう少し延びていた可能性がある。ただし、岐阜から京都へのルートについては良い意見を述べていたみたいなのでボイルをひたすら批判的に見るべきではなさそうだ。

 安政東海地震によって海岸線が隆起したために海沿いの鉄道建設が可能になった現場があることに驚いた。地震が社会にプラスの影響をもたらした例でも珍しい形のものではないか。

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3D地形図で歩く日本の活断層 柴山元彦
地質と地形で見る日本のジオサイト―傾斜量図がひらく世界― 脇田浩二・井上誠

地形で謎解き! 「東海道本線」の秘密
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カテゴリ:工学 | 23:29 | comments(0) | trackbacks(0)

珪藻美術館 奥修

 単純な珪藻の写真集かとおもいきや、珪藻を思い通りに並べて絵を描いてしまうナノテクの産物だった!
 物凄く細かい作業に眩暈がしてくるが、そこまで想像せずに作品に集中すると、とても美しい。開幕のクリスマスツリーにはインパクトがあった。

 珪藻は分裂の関係でいろいろなサイズのものができて、作品をつくるときに便利とのことだったけれど、逆に考えると狙ったサイズを集めることが恐ろしく面倒くさくなる。
 たいていは壊れている殻が得られるみたいだし、本当によくやると感心する。

 自分の作品でも顕微鏡を覗いたときには意外性があって、それを最初に経験できるのが作者になるからハマってしまうのかもしれない。
 創作技術はみんな独自に開発していて人に教えない業界というところが一昔前の菊栽培みたいだ。

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美しい顕微鏡写真 寺門和夫

珪藻美術館 Diatoms Art Museum
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カテゴリ:写真・イラスト集 | 19:42 | comments(0) | trackbacks(0)

ペンギンのしらべかた 上田一生 岩波科学ライブラリー182

 人間にとって親しみやすい二足歩行をおこなう飛べない鳥ペンギン。そんなペンギンの研究をつづけてきた著者による生態を中心としたペンギン研究の紹介。
 世界中の研究者がさまざまな方法を考案してペンギンの秘密にアタックしている様子がわかる。

 岩波科学ライブラリーではおなじみの「バイオロギング」が普及するまでは海のペンギンを研究することは本当にたいへんで、南極周辺の海況を考えれば無謀に近いものがあったようだ。
 それでも調べた研究者がいたのだから、彼らを突き動かす情熱には圧倒される。

 最近のペンギン研究は対象の生命に悪影響を与えないために、いろいろと気を使っていることも分かった。
 22世紀にも全種類のペンギンが残ってくれているだろうか?実は南極よりも温帯のペンギンが危ないことは覚えておきたい。

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サボり上手な動物たち〜海の中から新発見! 佐藤克文・森阪匡通
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ペンギンのしらべかた (岩波科学ライブラリー)
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カテゴリ:科学全般 | 17:41 | comments(0) | trackbacks(0)

おもしろふしぎ日本の伝統食材10〜海そう

 おくむらあやお・作。中村学・絵。萩原一・写真。
 日本人が昔から食べてきた海藻。世界でも最も海藻を食べる民族だと解説しているが、沖縄料理も載っており琉球民族と大和民族の比較はしていないっぽい。アイヌも結構食べたのではないかなぁ。
 日本の地理的な環境と自生する野菜の貧しさが海藻食を後押ししたらしい。
 それにしても、前処理に10時間煮るなどが必要な海藻まで食べる意欲には驚嘆させられる。

 料理はいろいろな海藻の料理を一品ずつ紹介する感じになっている。
 寒天とところてんの関係がはじめて分かった。寒天の名産地に、海のない長野県の茅野市があげられている事実。物流が発達した時代でなければ寒天は成り立たなかったということか。

 見た目のこともあって、むちゃくちゃ美味しそうと感じる料理は少なかったが、写真をみているだけで風味が口の中に浮かび上がる気がした。

おもしろふしぎ日本の伝統食材〈10〉海そう―おいしく食べる知恵
おもしろふしぎ日本の伝統食材〈10〉海そう―おいしく食べる知恵
カテゴリ:ハウツー | 21:30 | comments(0) | trackbacks(0)
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