日中開戦2〜五島列島占領 大石英司

 関係者が子供を救えなかった無力感にさいなまれるなか、戦いの舞台は五島列島の福江島へ。
 中国の空挺部隊が降下して、同時に到着した西方普通連隊と対峙する。その両者の間で策動するのは日中戦争を起こしたくて仕方がない榛名グループ。
 現場レベルでは話し合いを成立させつつも機会主義的な中国指導部によって事態は悪化の一途をたどる。長崎県の隣にあるのに佐賀県の名前が一度も出てこなくて佐賀のサガを感じた……。
 そのまま中国軍にも忘れてもらえればいいけど、そんなはずもない。

 アメリカはまったく頼りにならず、このままでは事態を乗り切ったあとに日本全体からアメリカ軍を駐留させることの意味を問う声があがることは確実だ。
 とりあえず思いやり予算は削減されるのではないか。それすらできないなら第二の榛名グループが生まれてしまう。

 アレ総理と呼ばないでの岸部総理が退陣して副総理だった阿相氏が総理に就任した。サイレント・コアにとってはやりやすくなったみたい。作者の好き嫌いがうかがえる?

大石英司作品感想記事一覧

日中開戦2 - 五島列島占領 (C・NOVELS)
日中開戦2 - 五島列島占領 (C・NOVELS)
カテゴリ:架空戦記小説 | 21:46 | comments(0) | trackbacks(0)

日中開戦1〜ダブル・ハイジャック 大石英司

 自衛隊や警察のOBであるテロリストの兄弟が、中国の領事館や有力者の子供たちが乗った飛行機をハイジャックしたことで始まる軍事サスペンス。
 両国の対立は否応なく煽られ、最後には悲劇的な結末をむかえる。

 英国式教育を受けた子供たちが大量に抹殺されたことは、将来的に大きな影響を与えそうだ。
 実はそっちが本命の目的だったと黒幕が語ったりするかもしれない。

 一度も組織名がでてこなかったサイレント・コアは、人事が大きく動いており、音無老から土門氏にバトンタッチしている。
 それでも存在感を示し続ける音無老なのであった。合衆国シリーズに出てきた元コマンドの老人みたいになってきているぞ。

 総理大臣がイメージしている人物が誰か分かったのは、副総理の人となりが描かれてからだった。その後には岸部という名前が出てきて確定である。
 確かに内輪だと、こんな話し方をしそう……。

大石英司作品感想記事一覧

日中開戦1 - ダブル・ハイジャック (C・NOVELS)
日中開戦1 - ダブル・ハイジャック (C・NOVELS)
カテゴリ:架空戦記小説 | 22:30 | comments(0) | trackbacks(0)

おもしろふしぎ日本の伝統食材3〜だいこん

 おくむらあやお・作。中川学・絵。萩原一・写真。
 日本でもっとも食べられているから日本でもっともおいしい野菜(異論は認めない)である、だいこんの料理方法を紹介する絵本。
 一般的な食べかたから始まって、地方の伝統料理や創作料理まで。どれを選んでも美味しそうで、飽きもきそうにない。

 だいこんのステーキで、焼かれただいこんの上にだいこんおろしが乗っている写真に笑ってしまった。
 さらに飾りの緑色はだいこんの葉である。
 だいずほどではないが、だいこんも万能なところがあるなぁ。

関連書評
そだててあそぼう21〜ダイコンの絵本 ささきひさし・へん つちはしとしこ・え

おもしろふしぎ日本の伝統食材〈3〉だいこん―おいしく食べる知恵
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カテゴリ:ハウツー | 12:30 | comments(0) | trackbacks(0)

クモの糸でバイオリン 大崎茂芳 岩波科学ライブラリー254

 本業のかたわらクモの研究を40年つづけてきた著者による研究のひとつの集大成となった「クモの糸でバイオリン」制作譚。
 はじめたことに対する著者の凝り性っぷりが半端ではなく、クモに興味をもてば採集のために日本中を駆け回り、バイオリンの弦に糸を利用することを考えれば演奏技術を学んでしまう。
 それでいて著者紹介によれば絵画の趣味ももっているらしい……もちろん本業の研究もしているわけで、いつ寝ているのやら。「人生は十分な時間が与えられている」とのセネカの格言を思い出さずにはいられない。

 ちょっと気になったのがオオジョロウグモのあつかいで沖縄から持ち込んだ彼らを家や大学の庭に放って体力の回復をまっているらしい。そこから自然に広がってしまう可能性はちゃんと断っているのかな?
 そうでなければ生態系の汚染になる。本業が自然科学の人なら、そのあたりは注意したことに触れていそうなものだ。たとえば片方の性しか連れてきていないとか。

 論文を発表してからの反響はすごくて、今の時代ならYouTubeにあげて再生収入がっぽがっぽだろうと思ってしまった……。
 クモの糸で弦をつくる技術をロストテクノロジーにせず、ストラディバリウスみたいに後世に受け継がれるものにしてほしい。

関連書評
シロアリ〜女王様、その手がありましたか! 松浦健二
ナメクジの言い分 足立則夫
科学者の目、科学の芽 岩波書店編集部・編

クモの糸でバイオリン (岩波科学ライブラリー)
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カテゴリ:科学全般 | 20:09 | comments(0) | trackbacks(0)

ナショナルジオグラフィック世界の国 アイルランド

 アンナ・マックィン/コルム・マックィン著。エリザベス・マルコム/ジョン・マクドナー監修。
 イギリスとの因縁が深い島国のアイルランド。島全体でも600万人の人口だが、大飢饉の前には800万人が住んでいたという……現代でも回復していないのだから驚く。逆にいまでは人口の増加に学校などのインフラが追いつかなくて困っているらしい。少子化の激しい国からみれば羨ましい話だが、移民の受け入れもあってアイルランド社会は揺れているようだ。
 農村人口が2005年で、40%もいる点も興味深かった。

 石灰岩の上にわずかばかりの草が生えたアイルランドの荒涼とした風景がとても印象に残った。昔、ここで暮らしていた人たちはさぞかし寒い思いをしたのだろうな。
 それでもメキシコ湾流のおかげで気候は穏やかな方である。

 再移入するイヌワシの産地がスコットランドであるところからも、アイルランドとスコットランドの縁が深いことが感じられた。

関連書評
ナショナルジオグラフィック世界の国〜イギリス
地球とは思えない世界の絶景 世界の絶景調査委員会

アイルランド (ナショナルジオグラフィック世界の国)
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カテゴリ:雑学 | 23:47 | comments(0) | trackbacks(0)

読めなくても大丈夫!〜中世の古文書入門 小島道裕

 律令国家から徳川幕府まで、古文書の様式に注目した読み解き方を教えてくれる一冊。
 博物館で古文書をみる機会はけっこう多いのだが、本文が読めず、解説と花押に注目するのがやっとだった。本書の知識を活かせば、より多くの情報を古文書から得て楽しめそう。

 古文書の様式は時代だけじゃなくて、書いた人間の性格も反映しており、それが伝わってくるのも面白かった。
 足利直義がマリオを倒したがっているルイージに見えてきた。端々に意識はにじみ出るものなのか。後世の行動をそれより前に反映して観てしまっているだけなのか?
 興味深い。

 秀吉の書状が「人たらし」らしい懇切丁寧なものから、独裁者の尊大なものに変化した点も印象的だった。まぁ、信長に倣ったものだし、家康も引き継いでいるのだが……。
 秀吉の花押から「学」が感じられるのも新鮮だった。あるいは背伸びの結果なのかもしれない。

関連書評
出土文字に新しい古代史を求めて 平川南
漢帝国と辺境社会 籾山明

中世の古文書入門 (視点で変わるオモシロさ!)
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カテゴリ:日本史 | 22:00 | comments(0) | trackbacks(0)

近藤重蔵と近藤富蔵〜寛政改革の光と影 谷本晃久

 日本史リブレット人058。
 まだ江戸で消耗しているので候か?
 長崎、蝦夷、そして八丈島で活躍した御家人あがりの旗本、近藤親子の生涯を描いたリブレット。身分性社会の壁に阻まれ、学問の力での上昇を志した重蔵の出世物語は、バッドエンドに終わってしまう。上がふらふらして下である重蔵が振り回される様子には同情を禁じ得ない。
 豊蔵の子女まで斬殺した犯罪行為には、その後の成果を知ってもおののいてしまう。完全にマイナスな状態から、よくぞあそこまでの成果を上げたものだ。

 事件の発端となった江戸富士の話は、大正モダンの少女漫画で知ったところだったので、広がった知識がつながった気がして嬉しかった。
 新しい知識つながりで言えば、近藤家が称した秀郷流藤原氏の藤原秀郷も子供の犯罪行為で中央での出世の道を断たれたらしい……なんの偶然だろうか。

 重蔵が上司の指示で進めていた蝦夷の開発については、江戸幕府が開発を継続的におこなっていた場合のアイヌの人々の運命が気になった。史実より良かったのか、悪かったのか。
 重蔵の姿勢は現代的な視点からは感心できるものじゃなかったようだけど、松前藩に任せつづけるのもなぁ……。

関連書評
漂流の島〜江戸時代の鳥島漂流民たちを追う 高橋大輔
アイヌの世界 瀬川拓郎

近藤重蔵と近藤富蔵―寛政改革の光と影 (日本史リブレット)
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カテゴリ:日本史 | 22:35 | comments(0) | trackbacks(0)

奥州藤原氏と平泉 岡本公樹

 軍事経済宗教、そして血縁など様々な観点から奥州藤原氏四代の歴史をおった本。
 前九年の役、後三年の役からはじまる歴史の流れ上に奥州藤原氏の歴史があることが見えてくる。
 かなり挑戦的な説まで取り上げているので、知識を一貫させることは難しいが、それでこそ歴史とも思われる。

 頼朝が意外と融和的で、奥州藤原氏に対する仕置きも徹底的に殺すものではなかったことが印象に残った。著者によれば平氏に対しても緩やかに降伏させるつもりだったと言うし、源氏が厳しいのは源氏が相手の時だけか……。
 自分が平氏に助命されたことが何か影響しているのかもしれない。

 藤原秀衡はとても有名だけれど、それより前の二代についても色々な情報からイメージを持つことができた。東北主義の清衡に京都主義の基衡、ハイブリッドの秀衡と来たら、泰衡はどんな方向性を選んだのであろう。
 歴史のIFになってしまうが、とても興味深い。
 後白河院の娘が平泉にいたという謎も歴史浪漫をかき立ててくれた。さすがは後白河院、どこまでも寮賭けとは抜け目がないな……。

関連書評
日本史リブレット 都市平泉の遺産 入間田宣夫
北のつわものの都〜平泉 八重樫忠郎 新泉社

奥州藤原氏と平泉 (人をあるく)
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カテゴリ:日本史 | 22:02 | comments(0) | trackbacks(0)

鳥瞰イラストでよみがえる歴史の舞台 歴史群像編集部・編

 日本の歴史を鳥瞰イラストでおえる紙であることを徹底的に活かした本。折り込みパノラマイラストが多数収録されていて、大きな机で広げて読めば楽しめる。
 読む前に机の片づけが必要な場合があるかもしれない。

 イラストレーターは板垣真誠・伊藤展安・香川元太郎・黒沢達矢・中西立太・藤井康文の各氏で、特に黒沢達矢氏と香川元太郎氏のイラストが多く、目立っていた。
 黒沢達矢氏のイラストは細かくきっちり描き込みされており、徹底的に細部を追いかけて発見する楽しみがある。
 香川元太郎氏のイラストは目になじむ色使いが特徴で、全体をゆったり把握できる。

 取り上げられている時代は壬申の乱から始まって現代の東京までで、やはり戦国時代と幕末が比較的多い。
 東京については徳川氏の江戸から順次変化を追いかけられる内容になっている。京都にいたっては平安時代から幕末までわかる。
 別の本で見覚えのあるイラストも散見されたけれど――たとえば真田戦記に載っていた真田郷周辺など――まとめて、カシミール3Dで作成された地形図などと一緒にみられる新鮮さがあった。
 戦国時代の解説はやや「定説」に傾きすぎに感じたが、紙数の関係もあったのかもしれない。

関連書評
別冊太陽 パノラマ地図の世界
俊英 明智光秀【才気迸る霹靂の知将】歴史群像シリーズ戦国セレクション

超ワイド&パノラマ 鳥瞰イラストでよみがえる歴史の舞台 (Gakken Mook)
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カテゴリ:歴史 | 09:11 | comments(0) | trackbacks(0)

平城京のごみ図鑑 奈良文化財研究所 監修

 謀殺されたあげくにゴミを漁られる長屋王が心の底から気の毒になってきた……が、勤務評定によればブラック労働をさせていた(用人の自覚はどうあれ)ことが判明しており、ちょっと印象が変わった。
 表紙にもでている怖い顔の人物の落書きは長屋王邸前の溝から発見されているから、わずかながら長屋王本人の可能性もあるのかなぁ。詳しければ冠の形状からその可能性がないことは判断できそうだが、詳しくないのでわからない。

 トイレに関する記述が執拗に感じられるほど入念で少し圧倒されてしまった。基本は「おまる」の時代だからトイレの証拠をつかむことが難しい事情は、ヨーロッパなどの研究事例と共通していそうだ。
 トイレ研究家同士の国境を越えた連帯感みたいなものも世の中にはあるのかなぁ。

 関西弁で考古学者をストーカー呼ばわりしたり、フリーダムな言動をみせた不定形キャラクターの「ゴミドコさん」について、正体の説明が最後の方にある。
 気になって気になって気になって内容に集中できない場合は先に確認しておいた方がいい。

関連書評
奈良時代MAP〜平城京編 新創社 編

平城京のごみ図鑑: 最新研究でみえてくる奈良時代の暮らし (視点で変わるオモシロさ!)
平城京のごみ図鑑: 最新研究でみえてくる奈良時代の暮らし (視点で変わるオモシロさ!)
カテゴリ:日本史 | 23:24 | comments(0) | trackbacks(0)
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