ポーランド〜ナショナルジオグラフィック世界の国

 ザイラ・デッカー著、リチャード・バタウィック/イウォナ・サガン監修。
 悲しい歴史をもちながらも力強いポーランドの解説本。皮肉にもホロ・コーストやドイツの敗戦の影響により、いまでは人口の98%がポーランド人で、国土は広く、人口も比較的多い。
 移民の逆流に対処する時代がくるまでは羽を伸ばせそうな形成である。

 スラブ民族でありながらカトリックを選択したことがポーランド人に強固なアイデンティティを与えて苦難の時代にも一体感を失わせなかったことが興味深かった。スラブ人で正教会のウクライナなどが気になってくる。
 ストライキを組織した電気工が大統領にまで登り詰めたことも凄い。
 ソ連支配下のポーランドを独立状態と認めないのは極端すぎるんじゃないかと思ってしまうのは、程度の問題はあれアメリカの属国状態から日本が抜け切れていないせいなのかなぁ。

 ややこしいことに社会主義時代の自然破壊は酷かったけれど、ポーランドにはヨーロッパでも自然が残されている方らしい。単純に国土の広さによる勝利かな。あと、湖沼地帯のおかげもありそう。
 あと、用語解説の修道院に「修道士の住む施設」とだけ書いてあって、修道士の解説がないのはダメだと思いました。

関連書評
学研第2次大戦欧州戦史シリーズ1〜ポーランド電撃戦
ドイツ王室1000年史 関田淳子

ポーランド (ナショナルジオグラフィック世界の国)
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Life Vol.2 BBC EARTH

 ほ乳類と魚類。系統的に遠い位置にある脊椎動物の二つから特徴的な動物たちが紹介されている。

 北極点近くに生息するウェッデルアザラシが、海に行くための呼吸穴を毎日せっせと整備している様子に感心した。
 何かの不運で穴がふさがれたら食料を得ることができなくなり、死に直結するわけで、日頃の整備が欠かせない状況だな。氷上は安全地帯になっているのだろうが、そもそも呼吸穴を利用するしかない状態ではシャチや他の獰猛なアザラシも近づかないはず。
 過酷さが敵を遠ざけてくれている。

 魚類は哺乳類以上の変わり種ぞろいで、日本の魚類ムツゴロウも一員に加えられていた。実際、変な動物であった。海外の番組で発見させられて変な気分になる。
 名前はよく知られたトビウオの産卵シーンにはおののいた。みんなで集中的に漂流するヤシの枝に卵を産みつけるものだから、卵子と精子の固まりに巻き込まれて死ぬトビウオが続出していた。
 彼らが塗り固められたまま枝が沈んでいく様子はかなり不気味であった。
 あと、カクレクマノミのオスが弱い立場にあるがゆえに子育てを強いられていて、働きぶりが悪いとメスに「パパも交換ね」される事実が悲しかった。愛らしい姿の魚にもいろいろあるんだな……。

BBC ドキュメント LIFEシリーズ コンプリートコレクション DVD-BOX (4360分) [DVD] [Import]
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航空宇宙軍史・完全版三〜最後の戦闘航海/星の墓標 谷甲州

 第一次外惑星動乱に関連して行われた鬼畜の所業を集めた一冊。ガニメデは作業体Kに代表されるサイボーグ計画の人体実験、タイタンは12個の生体脳を利用したラザルス、航空宇宙軍はシャチのジョーイを乱暴きわまる方法で捕獲してのオルカ・キラー建造と、カリストだけがまともかと思ったけれど、先にオルカ戦隊を整備したのはカリストであった。また、ラザルスの研究をひきついでヴァルキリーを完成させてもいる。
 まったくどいつもこいつも……航空宇宙軍には開戦前から前科があったんだっけ。

 最後の戦闘航海が漂わせるブラック労働の雰囲気が最初に読んだころとは異なって感じられた。
 人間の態度次第で緩和される部分もむしろ悪化している事実が醸し出すどん底感が半端ではない。ろくでなしに限って幅を利かせる現実は人類が宇宙に進出しても変わらないらしい。
 かなりホラー仕立ての雰囲気で非常に怖い感じだったのに、作業体Kが接触してきてから急に「弛緩」してしまった。おっさんおっさん言うせいか?
 作業体Kよりも意志を持った機雷群が怖かった気もする。セリフもあるのに掃海員の二人は名前を出してもらえなくて可哀想。

 ジェイムズ・ランド中尉戦記こと星の墓標はけっこう読みにくい。
 特にジョーイ・オルカ視点の話には抵抗が強かった。昔はそんなでもなかった気がするのだが……大幅な加筆があったことよりも自分の変化が大きそうだ。
 ダンテ隊長がオルカ・キラーにミサイル2機を搭載してやらなければ、無事に回収ができたと思うと皮肉である。トラッパー・キリノは悪人ながら最期にみせた意地は見事だった。
 オロイのおかげで地球に帰還する軌道に乗ったと言っても、突入前に航空宇宙軍に阻止されて回収されてしまう予感しかしない。それともタイタン軍に回収されて、第二次外惑星動乱の材料にされるか。
 外宇宙に飛び続けたバジリスクに比べてロマンで終われそうにない……。

 ヴァルキリーとジョーイの戦闘は熱かった。あんなヴァルキリーの攻撃から生き延びたジョンソンたちも本当に凄腕だなぁ。
 ジョーイがミサイルを利用したチャフを思いついていればダンテ隊長たちも助かったのに。そういえばピートはロッドなのか?ちょっと専門分野の方向性が違う気もする。
 タイタン脱出時には隊員が100人を超えていたと言うから、ミッチナー将軍でなくても人材を再配分したくなるはずだ。

谷甲州作品感想記事一覧

航空宇宙軍史・完全版 三 最後の戦闘航海/星の墓標 (ハヤカワ文庫JA)
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カテゴリ:SF | 15:09 | comments(0) | trackbacks(0)

Life(ライフ)1 BBC ACTIVE

 地球上の生物が魅せる驚くべき生態をえがいた映像作品。
 生物によってあらゆる戦略が網羅されているが、その目的は生きること――食べること、食べられないこと、子孫を残すことにある。シンプルな答えのために無限の可能性が生まれている点にも注目したい。

 イチゴヤドクガエルの育児プールは思いついても普通は実行できないような戦略だ。無精卵のお弁当まで届けているし、母親は育児の間も狩りをしているのかな。
 その途中で捕食されたらオタマジャクシの未来も絶たれてしまうという恐ろしさ。まぁ、猛毒を持っているだろうから、成立するのか。

 英語のナレーションでは「コモドドラゴン」と呼ばれているコモドオオトカゲの時間のかかる狩りは、つけねらわれるスイギュウの側にとっては地獄だったに違いない。
 徹底的な追跡能力をもつ人間の狩りも狩られる動物には恐ろしかったと聞くが、コモドオオトカゲも負けていなかった。最初に毒を与えた個体が大手柄なのに、倒れた獲物はみんなで分ける結果になるのはいいのだろうか。
 自分で仕掛けず、他の個体の手柄を横取りした方が有利となれば、狩りのシステムそのものが崩壊しそう。それにしても良く追跡取材を続けたものである。

BBC EARTH ライフ VOL.1 [DVD]
カテゴリ:映像資料 | 20:07 | comments(0) | trackbacks(0)

スペイン〜ナショナルジオグラフィック世界の国

 アニタ・クロイ著、ホセ・マヌエル・レイエス/ラクエル・メディナ監修。
 批判を受けながらも闘牛熱はいまだに冷めず。情熱の国スペインの複雑な歴史がわかる一冊。フランコ時代を乗り越えて、ファン・カルロス一世のおかげで再発展の機会をえたスペイン。今ではEUで四番目、世界でも十指に入る工業国だと本書は語る。
 EUの中では国債の評価が問題になっている側の国だなどとは決して語られない……というかEUで4位だとイタリアより上になってしまうような?
 それともイギリスがカウントされていないのか。疑問に感じるランキングではあった。
 まぁ、イージス艦も持っているしな。

 開発が遅れたおかげなのか、スペインは自然も豊富であり、オオカミやヤマネコが辛うじて残っている。人間だけじゃなくて動物にとっても、西の果ての最終避難所になっている感じである。
 ここより西にはもう逃げ場がない土地で、人間や動植物が繰り広げてきた物語に思いを馳せたい。

 写真に載っている悔悛者の姿がKKK団にあまりにも似ていると思っていたら、キャプションでまったくなんの関係もないことが強く主張されていた。
 ナチスの巻き添えで葬られた風習の二の舞は避けたいところだからなぁ。

関連書評
スペインの魂 ナショナルジオグラフィックDVD
スペイン パラドール紀行 小畑雄嗣・香川博人
図説ポルトガルの歴史 金七紀男

スペイン (ナショナルジオグラフィック世界の国)
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カテゴリ:雑学 | 23:53 | comments(0) | trackbacks(0)

テラ・フォーミング〜宇宙コロニーの実現 ディスカバリーチャンネル

 人類は宇宙に移住するべき。移住するべきと言ったら移住するべき。ちょっと論理的に怪しさもあるが、人(特にアメリカ人)を引きつけてやまないテーマについて、研究者やSF作家への取材と多くのイメージ映像を駆使して布教を繰り広げる映像作品。

 マッケイやズブリン、オニールなどの有名どころにくわえて、キム・スタンリー・ロビンスンが出演している。
 あの本の作者はこんな顔をしていて、こんな話し方をするのだと新鮮に思った。

 アポロに刺激をうけた若者たちが科学の道を志したことに触れているが、その後の空白期間に育った子供に同じ効果は期待できない「問題」が徐々に表れてくることを予感した。
 火星探査やテラ・フォーミングの流れについては本でだいたい把握していたけれど、映像にされることで理解がしやすかった(裏付けのない説得力も増えてしまった?)。
 バブルの中にはえた月面都市の植物は月の長い夜をどうやって凌ぐのやら……光害とはちょっと違うのかもしれないが、照明が下からだと育成に影響がありそうだ。

関連書評
火星〜最新画像で見る「赤い惑星」のすべて ジャイルズ・スパロウ 日暮雅通・訳
人類が火星に移住する日 矢沢サイエンスオフィス・竹内薫

ディスカバリーチャンネル テラ・フォーミング-宇宙コロニーの実現- [DVD]
ディスカバリーチャンネル テラ・フォーミング-宇宙コロニーの実現- [DVD]
カテゴリ:映像資料 | 20:48 | comments(0) | trackbacks(0)

カナダ〜ナショナルジオグラフィック世界の国

 ブライアン・ウィリアムズ著、トム・カーター/ベン・セシル監修。
 国名の語原はイロコイ語の村を意味する「カナタ」。巨大な村であり、80%以上が都市にすむカナダの本。
 表紙になっている牛乗りが気になったのだけど、ほんのちょっとしか言及されていなかった。

 いくら人口が少なくても国土が広すぎる。さらに国民の民族的な背景も多種多様なのだ。
 近年は東南アジアからの移民が多いとのことだが、よく気候の違いに耐えているなぁ。逆方向の移民なら汗腺の少なさに苦しむけれど、寒いなら我慢すればいいだけ?

 地図にしか情報がなかったものの、アレクサンダー・マッケンジーの太平洋に向けての冒険の移動距離がすごくて関心を引いた。だいたい川筋を移動しているみたいだが。
 現代でも木材を流すのに使われていたり、カナダの交通における河川が果たしてきた役割は大きい。

カナダ (ナショナルジオグラフィック世界の国)
カナダ (ナショナルジオグラフィック世界の国)
カテゴリ:雑学 | 21:01 | comments(0) | trackbacks(0)

航空宇宙軍史・完全版二 火星鉄道一九/巡洋艦サラマンダー 谷甲州

 第一次外惑星動乱の全体的な流れが一冊でわかる。完全版一では開戦までの経緯と、開戦劈頭の奇襲攻撃が分かったわけで、こうしてみると短編集の集合体でも上手くまとまっている。

 やっぱり目立つ存在は外惑星連合唯一の正規巡洋艦であるサラマンダーに関する物語であろう。
 土砂降り戦隊からサラマンダー追跡までの4本が巡洋艦サラマンダーに関連する話になっている。航空宇宙軍のあまり冴えない部署に配置された個人の働きがつながって、歴史を完全に変えてしまう様子が分かる。
 これぞ歴史の一面と言えるが、本人たちでも正確に認識できないほど事情は複雑である。サラマンダー側の立場になって考えると、ついていないにも程がある。
 まぁ、幸運だったとしても末路には大差がなかったかもしれない。アナンケ迎撃戦で、死すべき定めの作戦に投入された囮艦隊と仮装巡洋艦隊が一隻の犠牲も出さずに済んだのは、シュルツ大佐の加護と思いたい。

 サラマンダー追撃戦の様子がここまでビスマルク追撃戦を連想させる内容だとは最初に読んだときは感じなかったなぁ。
 そう思ったのだけど、古い単行本の感想を確認したら、ちゃんとビスマルク追撃戦に言及していた(あの感想を書いたときが初見じゃないけど)。
 過去の感想と照らし合わせるのも大事だな。

 敵がもっている兵器を我が一から開発する点で、タイタン航空隊と巡洋艦サラマンダーは似ている。そうして考えると、外惑星連合の開発陣はかなり健闘したと思われる。
 もっとも、タイタン航空隊の場合は「寄生戦闘機ゴブリン」みたいな運用上の制限も大きかった。タイタンの大気組成について最初の執筆時とは比べものにならない情報が得られたので、さすがに話の雰囲気が変わっていた。

 終戦時の混乱がわかる最終兵器ネメシスを読むと、開戦時と同じく政変はカリストで起こっており、ガニメデの政治的な安定感が際立つ。巻末の組織表によれば外惑星連合軍の主席司令官はガニメデ宇宙軍参謀総長であるのも、その関係だろうか?それこそ開戦時にミソをつけて、幕僚会議議長が交代した影響が大きいのかな。
 カリストからの重水素輸出がガニメデやタイタンからの物よりも遙かに多いという「ドン亀野郎ども」の情報も両国の政治的な安定度の差に影響していそうだ。
 それにしてもエウロパの気配が薄いな……あちらはイオと違って地上都市で生活できるだろうに。水分が多すぎてガニメデやカリストに比べると鉱物資源には恵まれないのかなぁ。

谷甲州作品感想記事一覧

航空宇宙軍史・完全版 二: 火星鉄道一九/巡洋艦サラマンダー (ハヤカワ文庫 JA) ( )
航空宇宙軍史・完全版 二: 火星鉄道一九/巡洋艦サラマンダー (ハヤカワ文庫 JA) ( )
カテゴリ:SF | 23:47 | comments(0) | trackbacks(0)

真田疾風録〜覇道の関ヶ原 伊藤浩士

 真田一族の談合が関ヶ原の戦いを変える王道歴史シミュレーション。
 一冊ですっぱり完結している。そのために、ややご都合主義的な展開に感じられる場面が目に付いた。井伊直政は史実でも死んだから仕方がないが、榊原康政まで戦死させるとは……。
 ちょっと真田信幸にとって良い方向に偶然が重なりすぎていた。

 まぁ、関ヶ原の合戦に秀忠軍団や立花宗茂が参戦していたら?という歴史IFからの短期間での合戦の連続はよかった。
 けっきょく東北や九州での関ヶ原の戦いが短時間で停止されることは変わらないんだな。
 いきなり政権の首班におさまった真田親子に内心で不満をもつ人物は多そうだ。でも、徳川家と真田信幸の結びつきが大きな支えになりそう。
 豊臣家とは信繁(作中では幸村表記だったが)がつなぎになるし、信幸の政権運営しだいでは、それなりに安定するかなぁ。
 徳川にも豊臣にも政争によるチャンスがないとも言えなくはない終わり方だった。信幸が淀殿対策で寿命を縮めないことを願う。
カテゴリ:時代・歴史小説 | 00:04 | comments(0) | trackbacks(0)

地球に生きる神秘的なサル 公益財団法人ニホンモンキーセンター監修

 近い種であるがために表情を読んでしまいやすく、そこに神秘性を感じることの多いサルの写真集。
 全部で300種ほどいるとされるサルのうちの96種が収録されている(亜種もありそうなので、もう少し少ないかもしれない)。

 ネズミキツネザルの仲間がたくさんいて、ネズミなのかキツネなのかサルなのかハッキリしてほしくなる。そうかと思えばイタチキツネザルまで登場。最後にはジェントルキツネザルが出てきて、紳士がネズミやイタチと同列の存在であることが明らかになった。

 童謡に出てくるアイアイが思ったよりも怖かった。自分の頭の中でロリスと入れ替わっていた気がする。
 マントヒヒ、マンドリルなど名前に聞き覚えのあるサルでも、姿のイメージは結構混乱していることが確認できた。精進せねば。

 サルの種類は大きく旧世界猿と新世界猿に分けられて、後者はアフリカからアメリカ大陸にわたった一種類から派生していった種類らしい。マーモセットと名前につくやつ以外の新世界サルは分からなかったが、まずはその区別を覚えておきたい。

関連書評
あさひやま動物園写真集 今津秀邦・多田ヒロミ

地球に生きる神秘的なサル
地球に生きる神秘的なサル
カテゴリ:写真・イラスト集 | 21:22 | comments(0) | trackbacks(0)
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