ナメクジの言い分 足立則夫 岩波科学ライブラリー198

 嫌われ者ゆえに研究が進まず、身近なのに謎多き生き物ナメクジ。その魅力にとりつかれた素人ナメクジ研究者による著書。
 ナメクジと人間の意外な共通点を知れば、ナメクジが好きになれるだろうか?もっと嫌いになる人もいるかもしれない。清少納言もつまらないナメクジ批判をしてしまったものだ。
 何が嫌いかより、何が好きかで、枕草紙!!

 日本におけるナメクジの在来種と外来種の戦いは、在来種のフタスジナメクジがそれなりに健闘している。ただし、外来種の間でキイロナメクジからチャコウラナメクジへの勢力図変更があったらしい。キイロナメクジが生き残れる地域がまったくなかったことは驚きである。フタスジナメクジにとっては、キイロナメクジよりチャコウラナメクジのほうが手強い相手なのだろうか。だんだんと敵がレベルアップしているのかもしれない。
 山間部に住むヤマナメクジは独自の生活。ニホンザリガニみたいだな。

 著者が呼びかけることで集めたナメクジの分布マップが興味深かった。自分も少しは参加してみたい気持ちになった。いまならTwitterで呼びかけて着火したら凄いことになりそう。
 自分が最後にみたナメクジはフタスジナメクジだった気がする。雨の日はちょっと注意してみる。先輩のカタツムリはよく見るんだけどな。

関連書評
うれし、たのし、ウミウシ。 中嶋康裕
ザリガニ〜ニホン・アメリカ・ウチダ 川井唯史

ナメクジの言い分 (岩波科学ライブラリー)
ナメクジの言い分 (岩波科学ライブラリー)
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ザリガニ〜ニホン・アメリカ・ウチダ 川井唯史

 岩波科学ライブラリー162
 ザリガニ博士によるザリガニ博物学講座。研究者にしてはザリガニ中のカルシウムの追跡方法が荒いと思っていたら、日曜研究者だった。でも、ザリガニで本当に博士を取っていた。
 しかも、本業もやっぱり研究職だった。ちょっと混乱してきた。

 外来種として有名なアメリカザリガニだが、思ったよりも害悪は少ない……と感じるのは実はニッチが競合していないニホンザリガニ視点だからで、他の在来生物から考えれば、やっぱり問題のある動物らしい。
 だが、本当にニホンザリガニとニッチが競合しているウチダザリガニに比べればカワイイものかもしれない。だからアメリカザリガニと違ってウチダザリガニは特定外来種である。
 ブルーギルの餌用に福島県にウチダザリガニを放流した人間がいるらしい情報には血圧があがってしまった。

 ただ、巻末のアメリカザリガニの育て方講座でも、増やしたアメリカザリガニを野外に放すのは絶対してはならないと、断るべきではなかったか。
 岩波書店にも気をつけてもらいたい。

 ザリガニが脱皮時にカルシウムを胃石の形で貯蔵しているらしいこと、それが江戸時代には薬として珍重されていたことも興味深かった。だから、脱皮前の殻も柔らかくなっているんだな。

関連書評
昆虫の交尾は味わい深い…。 上村佳孝 岩波科学ライブラリー264:ニホンザリガニの交尾は生々しく、ウチダザリガニの交尾はプロレスっぽい
フジツボ〜魅惑の足まねき 倉谷うらら

ザリガニ―ニホン・アメリカ・ウチダ (岩波科学ライブラリー)
ザリガニ―ニホン・アメリカ・ウチダ (岩波科学ライブラリー)
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いきものがっかり超能力図鑑 今泉忠明・川島隆義・小堀文彦

 すごーい!
 生き物のびっくりな長所をおもしろおかしく紹介する本。イラストが大きく、価格も900円と非常に手頃である。子供に生物の世界に興味をもってもらうため役立ちそうだ。

 対ガラガラヘビに特化したカリフォルニアジリスの猛者っぷりには感動を覚えた。イラストが微妙におっさん臭いところを含めて強烈だった。
 ライオンにも挑むことで有名な戦闘狂のラーテルが、意外にもはちみつ好きなことは後で出てくる動物の伏線になっている。
 西部劇でおなじみのタンブルウィードがアメリカ原産じゃなくてロシアからの外来種なのは笑ってしまう。まぁ、日本の象徴的なあつかいを受けている植物でも起源をたどれば……って例はありそう。柿とかね。

 さすがに動物は世界のものが多かったけれど、昆虫は日本国内に生息するものでも、かなり奇妙なものが挙げられていた。
 アリスアブの名前にロリコンたちが騙されて絶望しそう。幼虫がイラストで写真じゃなくてよかった……アリ巣アブだったなんて。セナガアナバチに狙われたゴキブリには流石に同情した。某火星ファンタジー漫画でじょうじ退治に出てきているのかな。

関連書評
けったいな生きもの ぴかぴか 深海生物 エリック・ホイト
生痕化石からわかる古生物のリアルな生きざま 泉賢太郎 | 読書は呼
生命ふしぎ図鑑〜発光する生物の謎 マーク・ジマー

ワンダーサイエンス いきもの がっかり超能力図鑑 (ビッグ・コロタン)
ワンダーサイエンス いきもの がっかり超能力図鑑 (ビッグ・コロタン)
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日本の動物はいつどこからきたのか〜動物地理学の挑戦

 京都大学総合博物館・編。岩波科学ライブラリー109。
 13人の研究者による謎解きゲーム!日本の動物の分布に関する興味深い研究をそれぞれの得意分野で紹介してくれている。爬虫類から昆虫、魚類までいろいろな動物の分布が出てくるが、鳥類はさすがに出てこなかった。飛んで移動できる鳥類の優位が、この手の研究において鳥類が出てこないことで印象的になる。
 海はつながっていると単純に考えやすい魚類は逆に研究の対象として興味深いものがあった。黒潮は移動のためのベルトコンベアーだけではなく、障壁としても作用するらしい。
 それにしても北方種と南方種の大分類をつくった田中茂穂が偉大すぎる。貝類の採集を後押しした平瀬与一郎も貝類業界のエンリケ航海王子的だ。
 ただし、渡瀬線を生んだ渡瀬庄三郎は――本書の内部では言及されなかったけれど――沖縄へのマングースもちこみでギルティ。大変なことをしでかしてしまったことが、小笠原諸島の陸貝類の深刻な状況などから理解できる。
 より狭い生息範囲から来ておきながら伊豆半島での分布をキープしているオカダトカゲは特異な例である。
 生きられる種の数が限られる小さな島では変化が急速に進む場合があるとの知見もおもしろかった。

関連書評
ニッポン貝人列伝〜時代をつくった貝コレクション 石本君代・奥谷喬司
落ち葉の下の小さな生き物ハンドブック 皆越ようせい・著
外来生物はなぜこわい?1〜外来生物ってなに? 小宮輝之 

日本の動物はいつどこからきたのか 動物地理学の挑戦 (岩波科学ライブラリー)
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カテゴリ:生物 | 22:12 | comments(0) | trackbacks(0)

バッタ ハンドブック 槐真史 文一総合出版

 フィールドでバッタを見分けるのに役立つバッタハンドブック。自分はバッタをトノサマバッタ、イナゴ、緑のバッタ(ショウリョウバッタ)くらいしか識別できていなかった……というか、その分類も合っていたのか怪しい。ヤマトマダラバッタかイボバッタもわりと見かけて、上記の三つと違うことは認識していたかな。
 クルマバッタモドキやイナゴモドキなど、モドキあつかいの可哀想な名前のバッタも存在していて、覚えるのに苦戦しそうだ。それとも似ていて違うから――と思いつきやすいのかな?

 著者の生態観察がとてもおもしろく、バッタの珍プレーをいくつも拾い上げている。
 オンブバッタのオスが、コカマキリ相手に交尾をこころみて、食べられてしまった事例はおもしろがるのではなく、メスへの擬態によって食べる生態の可能性も考えるべきなのかもしれない。
 バッタ釣りも紹介されているくらいだし。

 分布や初見・終見月日の情報から、著者が丹念に情報をあつめたことがわかる。分布の穴を埋めたり、初見・終見の記録を伸ばすバッタの楽しみ方もありそうだ。場合によっては地球温暖化の影響も浮き彫りになるかも?

関連書評
水生昆虫2 タガメ・ミズムシ・アメンボ ハンドブック
ハエトリグモハンドブック 須黒達巳
落ち葉の下の小さな生き物ハンドブック 皆越ようせい・著

バッタハンドブック
バッタハンドブック
カテゴリ:生物 | 12:27 | comments(0) | trackbacks(0)

地球情報地図50〜自然環境から国際情勢まで アラステア・ボネット

 山崎正浩 訳。
 非常に範囲の広いテーマでまとめられた世界地図50枚が展開される地図の本。たった一枚にまとめられている情報の背景には非常に大規模で入念な活動が展開されたことも意識したい。
 情報地図の一枚一枚が非常に多くの情報を与えてくれる。誤読もありえるが、可能性は無限である。

 世界地図であるから同じ指標で、世界中の国々を比較することができる。そのため、著者が指摘するごとく、アフリカ大陸南部の国がそれなりに安定していることが見えてくる。
 病気に対応する経済力さえ備われば、彼らは浮上して来れるはずだ。長期的な投資先として有望かもしれない。

 有毒動物や両生類の種類など、様々な視点から各地の自然の豊かさが見えてくる地図もあった。ロシアみたいに国土の広さで種類を増やしていたり、フランスみたいに南米の領土も統計にふくまれている場合もあるので、一概には判断できないが、やはり興味深い。
 著者がアジアを「世界の工場」として注目している点も興味深かった。自分の意識はなかなか変われていないが現実は劇的に変化している。それが地図を通してみえてくる。
 本書の力を借りて、少しでも思いこみを修正し、より正確な未来を見通せるようになりたい。


 あと、世界に二人しかいないメキシコ先住民の「アヤパネコ語」話者同士の仲が悪くて、一緒に会話するのを嫌がることがあるとのエピソードが笑っちゃいけないのに笑ってしまった。まじめに考えると、本人たちに限度を超えた苦痛を与えてまで少数言語を生き残らせるべきなのか、人権的な問題になってくる。
 話者が少なくなるほど、その個性によって言語の生き残りが左右されかねないのだなぁ。変質のリスクもまた高くなる(それを考えると仲が悪い場合にも長所がある?間違った言葉遣いは指摘されるので)。

関連書評
地図で見るラテンアメリカハンドブック 原書房
アラブ・イスラエル紛争地図 マーティン・ギルバート 小林和香子・監訳

地球情報地図50: 自然環境から国際情勢まで
地球情報地図50: 自然環境から国際情勢まで
カテゴリ:雑学 | 22:35 | comments(0) | trackbacks(0)

ウイルスの不思議 ナショナルジオグラフィックDVD

 ルイス・ビラレアル博士が唱えた革新的なウイルスとの共進化論を紹介するDVD。レトロウイルスの作用が生物に大きな変化を起こしてきたことが分かる。
 胎盤の形成については他の本で読んだところだったけれど、そのために行われた実験がなかなかエグい。家畜はつらいよ……。

 一夫一婦制の生き方にもウイルスが関わっているとのことで、自分の感情の出所について不安にさせられないでもなかった。
 生涯パートナーを変えない希有な動物として、カワウソ、ジャッカル、ビーバー、ビクーニャ、プレーリーハタネズミがあげられていた。けものフレンズが健在なら豆知識に使えたのになぁ。

 巨大なミミウイルスに関する話も興味深かった。世の中には不思議なことがまだまだいっぱい残っている。
 ビラレアル博士の撮影方法がオサレで、アメリカ人の研究者に対するイメージが伺えた。自分の手では作業せず、監督と論文の執筆、なにより考え事をする(実際は不明だが)。

関連書評
NHKスペシャル生命大躍進 NHKスペシャル「生命大躍進」制作班
エボラ出血熱とエマージングウイルス 山内一也
昆虫を殺すウイルスの話 早川徹

ナショナルジオグラフィックDVDレビュー記事一覧

ナショナル ジオグラフィック ウイルスの不思議 [DVD]
ナショナル ジオグラフィック ウイルスの不思議 [DVD]
カテゴリ:ナショナルジオグラフィックDVD | 20:55 | comments(0) | trackbacks(0)

GIMP2.6スーパーリファレンス 野沢直樹

 GIMPの読みがギンプであることを知った。
 フォトショップに伍する性能をもつと讃えられるフリーソフトだが、印刷関係では少しだけフォトショップに及ばない部分もあるようだ(本書で紹介されているバージョンの時点では)。
 それでもやっぱり目をみはるほどの高機能。最後の方にあったフィルタ一覧を一通り試して遊んでみたくなった。

 サンプル画像でやられているみたいに、画像におしゃれな文字を入れてみるのも楽しそうだ。
 MMDで出力した画像にGIMPで文字を入れて壁紙を作ってみたいなぁ。文字に対してもいろいろな効果を適用できるので、見た人を(おっ)と思わせる印象的な画像が作れそう。

 なお、写真やイラストの加工がメインで、GIMPを使って0からイラストを描く方法はあまり紹介されていないので注意。とりあえず自分のやりたいMMDのテクスチャをいろいろイジる作業はできそう。

 あと「for Windows&Macintosh」となっている通り、LinuxのGIMPは紹介されていない。そんなに大差があるとは考えにくいけど、たまにMacintoshでは出来ないことが紹介されていたので心配に思えた。
 Linux版こそ一番の高機能にしてほしいんだけどな。

関連書評
東洋ファンタジー風景の描き方 ゾウノセ・藤ちょこ・角丸つぶら
背景作画〜ゼロから学ぶプロの技 mocha

GIMP 2.6 スーパーリファレンス for Windows&Macintosh
GIMP 2.6 スーパーリファレンス for Windows&Macintosh


2.8が出ている模様
GIMP 2.8 スーパーリファレンス for Windows & Macintosh
GIMP 2.8 スーパーリファレンス for Windows & Macintosh
カテゴリ:ハウツー | 07:41 | comments(0) | trackbacks(0)

ハワイのモンクアザラシ 太平洋の楽園のレッドリスト

 ナショナルジオグラフィック。
 過去の世界でも三カ所にしか存在せず、カリブ海では絶滅したため、いまや1900頭以下にまで追いつめられたモンクアザラシの保護活動を追ったドキュメンタリー。
 世界最大の集団であるハワイのモンクアザラシでも僅か1300しかいない(地中海では600頭以下とのこと)。しかも、アメリカの熱心な保護活動にも関わらず、飢えが彼らを襲っている。
 その謎を解くためにも、保護するべき場所を詳しく知るためにも、ナショナルジオグラフィックが開発したクリッターカム活躍する。そのおかげで意外なモンクアザラシの生態を知ることができた。

 目の前の浅瀬じゃなくて海底の斜面や深海で餌をとっていたとは……そこまで泳いでいくコストよりも、隠れ場所の多い浅瀬で餌を狙うほうが効率が悪いらしい?
 ひっくりかえした岩の裏にいるタコみたいな動きの鈍い相手なら、浅瀬でも狙えそうだけどなぁ。集中攻撃したらあっという間に全滅するか。
 子供のためにとりやすい餌を残しているなら美談になるけれど、カメラを取り付けられた雄が子供のアザラシを襲っていた映像をみると……一面を映したのにすぎないのに、絶滅危惧も無理はないと思ってしまった。人間だって少子化に悩みながら子供を攻撃しているので同じなのだと考え直す。

 モンクアザラシの減少にはやっぱり人間の悪影響が大きいらしく。ハワイ北西諸島の海域では1km^2から7トンもの網が回収されるらしい。
 もちろん悪気はないが東日本大震災で生じたゴミも大変なことになっているだろうなぁ……モンクアザラシが生き残れるかは予断を許さない。

関連書評
世界の絶景 ハワイ ナショナルジオグラフィックDVD:重複部分少しあり

ナショナルジオグラフィックDVDレビュー記事一覧

太平洋の楽園のレッドリスト ハワイのモンクアザラシ [DVD]
太平洋の楽園のレッドリスト ハワイのモンクアザラシ [DVD]
カテゴリ:ナショナルジオグラフィックDVD | 12:39 | comments(0) | trackbacks(0)

焚き火の達人〜火おこしの超基本から応用テクニックまで 伊澤直人・監修

 有史以前から人類に不可欠のサバイバル技術であった焚き火。いまはキャンプで楽しむものになってしまった焚き火に関する様々なテクニックやアイテムをまとめた本。
 最小限の装備でスマートな焚き火を勧めているわりに、紹介しているグッズが多い……どれも魅力的にみえて、何となくほしくなってしまう。そして4000円の斧が安くみえてしまう。輸入品もあるし、みんな高い。
 まぁ、安物買いの銭失いという言葉もあるし、厳選された使える道具を用意するべきなんだろうな。達人に教えてもらうか、いろいろ試さないと分からないかもしれないけど。

 焚き火の基本的なテクニックについても勉強になった。
 薪拾いは遠い場所からはじめておいて暗くなって追加の薪が必要になった場合に近くから調達できるようにする、なんてまさに叡智である。
 下の薪が燃えることで自動で上の薪が降りてきて燃え続ける「自重落下型」の焚き火の組み方もおもしろかった。レールになっている枝は途中で燃えないんだな(それとも、うまく組まないと燃える)?

 少量の薪を効率的にもやせるネイチャーストーブのことを初めて知った。レジャー用のみならず非常用にひとつ車に積んでおくといいかもしれない。

関連書評
つくってあそぼう19〜火と炭の絵本 火おこし編
つくってあそぼう20〜火と炭の絵本 炭焼き編

焚き火の達人
焚き火の達人
カテゴリ:ハウツー | 23:08 | comments(0) | trackbacks(0)
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