ウイルスと地球生命 山内一也 岩波科学ライブラリー192

 病気の原因というウイルスへのイメージは、ほんの一面にすぎなかった。実際には非常に多様な役割を果たしていることが明らかになってきたウイルス研究の最前線が紹介されている。

 レトロウイルスによって遺伝子の書き換えがさかんに行われ、単純な親から子にとどまらない遺伝情報の交換が起こっている。それを考えると、ますます生物多様性の価値は高まったように思われる。
 光合成が可能なウミウシみたいに、人間が光合成できるようになる未来も完全には否定できないなぁ。

 おもしろいウイルスについてそれぞれ簡単にまとめられた部分があって良かった。
 カクゴウイルスは覚えやすい名前からもきわめて印象に残る。しかし、ウィキペディアに読みに行ったところカクゴウイルスの機能については疑問がもたれているらしい。
 ジャンプでやっていた漫画「リボーン」の死ぬ気弾にはカクゴウイルスが入っていたと後付けできそうに思ったのだが……?

関連書評
エボラ出血熱とエマージングウイルス 山内一也
ウイルスの不思議 ナショナルジオグラフィックDVD

ウイルスと地球生命 (岩波科学ライブラリー)
ウイルスと地球生命 (岩波科学ライブラリー)
カテゴリ:生物 | 18:03 | comments(0) | trackbacks(0)

PLANET ZOO〜世界の動物園 奥宮誠次

 全日空月刊機内誌「翼の王国」用に掲載された世界の動物園写真集が書籍化されたもの。
 主役は動物じゃなくて動物園であるため、訪れる人やユニークなサービスも撮影されている。あるいは動物の展示スペースに意識の向いている写真もあった。
 著者の視点がそういう方向に変化していった様子が興味深い。

 表紙にもなっている下からミーアキャットのフィールドに頭をつきだせる展示は、写真映えするなぁ。いまだとSNSにあげられまくっていそう。

 動物園内に人工の岩山を築いてエレベーター付きの展望台にする風習(奇習)が欧米にあるっぽいのも、ちょっとおもしろかった。
 アムステルダムなど都市と動物園の景観が融合していて、日本庭園の遠景の使い方を思わせる。日本の動物園は展示方法で工夫しているが、非日常空間であることを意識しているように感じた。

関連書評
100年後も見たい 動物園で会える絶滅危惧動物
笑顔の動物園 松原卓二

世界の動物園
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カテゴリ:写真・イラスト集 | 16:50 | comments(0) | trackbacks(0)

ビジュアル図鑑 写真で比べる地球の姿 ナショナルジオグラフィック

 災害と環境変動。美麗な写真なのに見ていて気分が暗くなる……本書ではだいたい同じ場所の写真を変化の前後で撮影することで、地球に起こった変化を視覚的にわかりやすく伝えている。
 日本における地震や津波の写真もあって、ちょっと辛かった。めずらしく復興の様子が写されているのも日本だったりするのだが。

 特に深刻に感じられたのは水に関係する問題で、湖が干上がったり、砂漠化が進行したりして、土地が過大な人口を養えなくなってきている。
 世界と比べれば日本は驚くほど水が豊富と感じられてしまうのだった――四国では多少の水不足が発生することはあるが。

 水が非常に貴重な時代が来たら、日本に水のパイプラインをつくって大陸に輸出できないかなぁ。川が小さいから難しい?オランダのアイセル湖みたいに、湾を締め切って巨大な淡水の貯水池をつくってしまい、そこから水パイプラインで輸出――海洋生態系の破壊がシャレにならない。
 しかし、カタールやシンガポールにおける大規模な埋め立て工事をみていると、ついつい壮大すぎるプロジェクトを妄想してしまう。オランダは維持費に悲鳴を上げて一部を海に戻したりしているらしく、埋め立てによる領土拡張の未来もわからない。浚渫のせいで海岸の浸食が激しくなっている事例も最後には取り上げられていた。

 いろいろ考えさせられる雄弁な写真や衛生画像のとても多い本だった。
 火山活動で島の首都プリマスを失って北のブレイズに遷都したカリブ海の英国領モントセラト島は日本の未来かもしれないなぁ。地方議員が視察という名の外遊に行くなら、モントセラト島に行ってほしい。

関連書評
火山全景〜写真でめぐる世界の火山地形と噴出物 白尾元理
気象大図鑑 ストーム・ダンロップ/山岸米二郎
地球の素顔 Fantastic Earth

ナショナルジオグラフィックDVDレビュー記事一覧

ビジュアル図鑑 写真で比べる地球の姿
ビジュアル図鑑 写真で比べる地球の姿
カテゴリ:ナショナルジオグラフィックDVD | 18:45 | comments(0) | trackbacks(0)

地図で見るアラブ世界ハンドブック マテュー=ギデール

 太田佐絵子・訳

 「沸騰する世界」などときわめて物騒な呼ばれ方をしているアラブ世界の理解を深めるアトラス。イスラム世界と一致させておらず、イランやトルコは含まれていない。一方、モロッコやモーリタニアまでのアフリカ西岸地域は含まれている。めずらしいところではコモロ諸島もカウントされていた。
 古代からの長い歴史をもっていたのにアラブに飲み込まれたメソポタミアとエジプトが力尽きたとみるべきか、単純に近年に自分たちの国をもっていたペルシア人やトルコ人が独自性を残したとみるべきか。
 世界でもきわめて古い民族であるベルベル人が独自性を主張している点も興味深い。
 まぁ、エジプトは莫大な人口においても重要すぎるがゆえにアラブが手放さず、アラブ化をおこなったと考えるべきであろうな。メソポタミアもアラビア半島に近すぎた。

 やはり戦争や紛争にかんする問題がたくさんあって、読んでいて胸の具合が悪くなりそうだった。ソマリアに至っては人間開発指数が算出できないほどの無政府状態……対岸のイエメンも流れ込む人々によって麻痺状態とのこと(感想を書いている今は戦争中だ)。
 比較すると難民の方が多くなっているレバノンはよく機能を保っている。地続きで政情不安定な隣国があることの大変さが日本人にも理解できる内容だった。

 アラブ世界にとって希望の星は「金融」であるらしい。イスラム法に適合した独特の金融業は着実に成果をおさめているし、リーマンショックなどにも抵抗力をみせた。
 ノーベル経済学賞をムハンマド(は死者だからコーランに)捧げれば西側世界の財界も少しは目を覚ますのではないか。
 イスラム法と金融の両方に理解の深い人材は世界に100人程度しかいないらしく、アラブ世界で大成したければ狙い目に思えた。

関連書評
アラブ・イスラエル紛争地図 マーティン・ギルバート 小林和香子・監訳
地球情報地図50〜自然環境から国際情勢まで アラステア・ボネット
ムハンマド・アブドゥフ〜イスラームの改革者 松本弘
イスラームの生活と技術 佐藤次高

地図で見るアラブ世界ハンドブック
地図で見るアラブ世界ハンドブック
カテゴリ:雑学 | 18:41 | comments(0) | trackbacks(0)

突撃!あぶない科学実験〜身近なものの意外なパワー

 ナショナルジオグラフィック
 驚いた。
 アメリカ人って、かなり空気を読むんだな。他の人が自分の思っていた答えを選んだらあえて別の答えを選んでみせる。番組が白けないように、わざと答えがわからないフリをする。
 日本人よりも気を使っているかもしれない。そういう視点になるとウェーイなノリも意味が違って見えてきた。

 しかし、宝石屋がダイアモンドの燃焼反応を知らなかったフリをするのは、やりすぎでは……商売人としての信用に関わってしまう。
 人目で本物とイミテーションを見分けているところは流石だった。あと、燃やしたダイアは人工ダイアだよね?

 テルミットを使った耐火度確認やプラスチック爆薬を使ったモンロー効果の実験はとても真似できない。しかし、ビンの中からコルクを引っ張り出すナゾナゾあたりは宴会芸にもよさそうだった。そして、重曹と酢のロケットが子供にも真似できそうだから危険だ。
 90mもミサイルを飛び上がらせた化学反応を、何かでネタにできないものか。

ナショナルジオグラフィックDVDレビュー記事一覧

ナショナル ジオグラフィック 突撃!あぶない科学実験 身近なものの意外なパワー [DVD]
ナショナル ジオグラフィック 突撃!あぶない科学実験 身近なものの意外なパワー [DVD]
残念なことにオープニングに使われている掃除機一つで車をもちあげる実験が載っていない。おおよそ想像はつくが。
カテゴリ:ナショナルジオグラフィックDVD | 09:51 | comments(0) | trackbacks(0)

出雲王と四隅突出型墳丘墓〜西谷墳墓群 渡辺貞幸

 シリーズ「遺跡を学ぶ」123
 弥生時代に栄えた出雲地方。そこには独特の形状をもった「四隅突出型墳丘墓」が造営されていた。巨大な四隅突出型墳丘墓から古代出雲王の勇姿を描き出す。
 まぁ、朱(辰砂)を入手するため奴隷貿易をおこなっていたとの推測が述べられていたおかげで、あまり印象は良くなかったけれど……この時代にはどこの勢力もやっていたことっぽいとはいえ。
 岡山県や新潟県の勢力と同盟関係があったらしき情報には心が躍った。この三国が連合して対抗した勢力があったとすれば、その位置は?遠交近攻が入り乱れていた可能性もあるので、もっと情報がほしい。

 四隅突出型墳丘墓が特徴的な形状をしている理由は、突出部につながるラインが道として使われていたからだった。道なら1方向にあれば十分にも思えるが、他国からの参列者用にも道を築いたなどの事情もあったのかもしれない。
 上りと下りで別の道を使うしきたりになっていた可能性もある。
 地図によれば四隅の方角については西谷でも揃っていないようだった。そこは地形的な制約が強そうだ。

 盗掘の気配がないこちは立派な反面、開発によるダメージはけっこう受けている。中でも9号墳が神社の施設で景観を壊されてしまったことが印象的だった。
 他の巻にも神社に被害を与えられた遺跡の話があったような……。

関連書評
吉備の弥生大首長墓〜楯築弥生墳丘墓 福本明:出雲王と一時的な同盟関係にあったと推測される首長
出雲国風土記と古代遺跡 勝部昭 日本史リブレット13
九州の銅鐸工房〜安永田遺跡 藤瀬禎博 遺跡を学ぶ114

新泉社 遺跡を学ぶシリーズ感想記事一覧

出雲王と四隅突出型墳丘墓 西谷墳墓群 (シリーズ「遺跡を学ぶ」123)
出雲王と四隅突出型墳丘墓 西谷墳墓群 (シリーズ「遺跡を学ぶ」123)
カテゴリ:日本史 | 22:35 | comments(0) | trackbacks(0)

国宝「火焔型土器」の世界〜笹山遺跡 石原正敏

 シリーズ「遺跡を学ぶ」124
 日本の縄文時代を代表する火焔型土器。しかし、その分布は地方に限られていて、新潟県周辺に特徴的かつ数百年の短期間のみ作られた土器なのであった。
 縄文人がみんな火焔型土器を使っていたと思いこむと間違える。火焔型土器が祭祀用でまったく使われていなかった可能性は炭化物の付着で否定されていた。
 それでも特別な儀式にかぎって煮炊きされた可能性は残るが。

 国宝「火焔型土器」とは言うが、単体の火焔型土器が国宝になっているわけじゃなくて、複数の火焔型土器のみならず他の出土品もセットで国宝指定されていることを知った。
 重要文化財では遺跡を学ぶシリーズでも、よく出てきた話なので、国宝においても扱いは同じなのだと分かる。そんな重要な出土品あった遺跡なのに、運動場など建設による破壊は中止できなかったことが残念だ。

 地震によって火焔型土器がダメージを受けた話もショッキングだった。
 著者が学んでその後の地震では効果のあった地震対策が世界中の博物館で使われることを願う。

関連書評
国宝土偶「縄文ビーナス」の誕生〜棚畑遺跡 鵜飼幸雄
国宝土偶「仮面の女神」の復元〜中ッ原遺跡 守矢昌文
つくってあそぼう29〜やきものの絵本 よしだあきら・へん

新泉社 遺跡を学ぶシリーズ感想記事一覧

国宝「火焔型土器」の世界 笹山遺跡 (シリーズ「遺跡を学ぶ」124)
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カテゴリ:日本史 | 21:10 | comments(0) | trackbacks(0)

変形菌入門〜観察から識別まですべてがわかる! このはNo.13

 非常にマニアックな変形菌の簡易図鑑的な本。
 そもそも変形菌とはなんぞや?と関心をもったところに懇切丁寧な説明をしてくれた。
 自分が普段の生活で見逃していたものがまた一つ明らかになった感覚である――収録された写真でみると存在感があるけれど、大半はサイズが小さいため仕方ない部分はある。
 身の回りの全てを認識して生きている人がいたら、それはそれで大変そう……うらやましいような、あわれなような。
 しばらくは倒木や落ち葉をみる目が注意深くなるはず――ハンドブックで知識をえた地衣類はいまでにそこそこ気にしている。

 ともかく変形菌の世界が楽しそうなことも間違いなく、ツノホコリやルリホコリなど一部の種は美しさすら感じた。
 倒木や落ち葉のうえに発生するのでなければ鉱物と誤認してしまいそうだ。構造色をもったツヤエリホコリみたいな種まであるときた。

 名前は聞き覚えのある南方熊楠が変形菌を収集していたこと(博物学者としての昭和天皇にも影響を与えたらしい)。彼が弟子の小畔四郎におくった標本の保存状態がよく、貴重なものとして国立科学博物館に収録されていることなどの研究史上の豆知識もあった。

関連書評
街なかの地衣類ハンドブック 大村嘉人
ときめくコケ図鑑 田中美穂・文 伊吹正名・写真
アリの目 日記 栗林慧

観察から識別まですべてがわかる!  変形菌入門—きのこでもカビでもない、粘菌とも呼ばれる不思議な生物 (生きもの好きの自然ガイド このは No.13)
観察から識別まですべてがわかる! 変形菌入門—きのこでもカビでもない、粘菌とも呼ばれる不思議な生物 (生きもの好きの自然ガイド このは No.13)
カテゴリ:生物 | 21:09 | comments(0) | trackbacks(0)

百姓仕事がつくるフィールドガイド〜田んぼの生き物

 飯田市美術博物館
 伊那谷の農家の人々が、水田で観察した生き物を記録した地域に根ざしたフィールド図鑑。伊那谷に特徴的な生き物が紹介され、逆に全国的にはふつうにいるのに伊那谷にはいない生き物も一部ふれられている。
 谷という半分孤立した環境が生物の分布にあたえる影響が描き出されていて興味深い――とはいえ、まだまだ道半ばの印象はある。そして、道路建設などで既に攪乱されてしまっている。
 外来種であっても、そのことに言及しない場合があって、ある意味で生き物に対して平等な印象を受けた。害虫や益虫への関心が比較的高いのは当然であろう。
 伊那谷における呼び名が紹介されているのもおもしろい。タイコウチの「ちんぼはさみ」には素朴なものさえ覚える。

 農家によるエッセイも読み応えがあって、この人たちが作ったお米を食べてみたいと思った。
 味は変わらなくてもエッセイを読んで食べれば気分は変わる。
 ミジンコが大量にいる田んぼと畔にまで農薬をまく(ミジンコをみてまかなくなった)隣人の話と、シロヘビを草刈りで切ってしまって線香を立てたおじいさんの話は、特に記憶に残った。
 シロヘビを切ったら「ヒャッハー!貴重な蛋白源だーーっ!!」ってわけでもないのね。昆虫食や小魚食の話はあるけれど――メダカは苦くてまずいらしい。絶滅が危惧されるし美味しいタモロコだけを食べて離してやってくれよ。そうしたら、その分、食文化が失われるのも事実か……。

関連書評
柿の木 宮崎学
水生昆虫2 タガメ・ミズムシ・アメンボ ハンドブック
モグラハンドブック 飯島正広・土屋公幸

田んぼの生き物―百姓仕事がつくるフィールドガイド
田んぼの生き物―百姓仕事がつくるフィールドガイド
カテゴリ:生物 | 21:07 | comments(0) | trackbacks(0)

森の建築家ビーバー物語 ナショナルジオグラフィックDVD

 不労所得的にウマウマ生活していると思いこんでいたビーバーが、こんなに苦労していたなんて!
 ……夢を見させてよ。
 ダムが完成してしまえば確かに安定した生活が待っているのだが、それゆえにダムからの巣立ちが非常に厳しいものになってしまっていたビーバーの物語。
 しかも、巣の適地はほとんど利用され尽くされていて新米には厳しい場所しか残されていない。タイミングよく前の縄張りの持ち主が事故死したところに入り込めなければ、たいへんな苦労をすることになる。

 ビーバーが作り出した池の周りにはたくさんの集まり一つの生態系を形作っている。WIN-WINと言いたいところだが、巣の材料にされる植物はさすがに喜べないか?
 ビーバーがニッチを作ってくれたおかげで、ビーバーに食べられながらも生育する場所を確保できている植物はありそうだった。ビーバーが住む池の名前にも使われている柳などはその口であろう。

 ビーバーは切り倒す木が水場の近くになくなったら、そこにアクセスするまでの運河を自分たちの力で掘ることまでする。驚くほど賢い。人間並みの知性がなくても、火星に運河の模様を描くことはもしかしたら可能なのかもしれない。

関連書評
小さな建築家ビーバー ナショナルジオグラフィックDVD

ナショナルジオグラフィックDVDレビュー記事一覧

ナショナル ジオグラフィック 森の建築家 ビーバー物語 [DVD]
ナショナル ジオグラフィック 森の建築家 ビーバー物語 [DVD]
カテゴリ:ナショナルジオグラフィックDVD | 21:04 | comments(0) | trackbacks(0)
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