マンモスを科学する 鈴木直樹

 愛・地球博に展示された冷凍マンモス。その調査研究と展示の監督にあたった著者による冷凍マンモス研究譚。
 研究対象であるマンモスのことに視点を固定せず、彼らが眠っている凍土層からの研究についても詳しく記述している。現実はお話のように伏線が回収されないので、せっかく開発した地中三次元レーダーは許可申請のミスから使用されないし、マンモス展示の予算が大幅に削減されて未知のマンモス全身標本を輸送展示するわけにもいかなくなってしまった。
 そういう状況の変化に翻弄されながらも、できる範囲でベストの結果を目指している著者の姿勢には是非とも学びたいものだ。医学を研究しながら、グラフィックボードの開発や世界各地でのフィールドワークを行っている著者の真似はとうていできないにしても……いったい何者なのだろう。

 肝心のマンモス研究については、はるばる日本までやってきたユカギルマンモスの頭部と前足のCTスキャンが行われて、手に入ったデータから三次元的にマンモスを研究することが可能になった。
 最初は何気なくみていた表紙が、著者の述べる苦労をして得られたデータだと知って見直すと、まったく別のものに思えてくるのであった。

 ロシアが共同研究や標本の貸し出しに快く応じてくれたことも覚えておきたい。壁を作ってしまっているのは日本人の方なのかも。

関連書評
絶滅したふしぎな巨大生物 川崎悟司
怪異古生物考 土屋健・萩野慎諧・久正人

マンモスを科学する (角川学芸ブックス)
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カテゴリ:地学 | 20:58 | comments(0) | trackbacks(0)

ボディビルのかけ声辞典 日本ボディビル・フィットネス連盟

 ほめてほめてほめまくる。ボディビルの大会で使われる声援を収録した異色の本。
 一般的に使われる言い回しから、秀逸なたとえ、暴走に近いボキャブラリーまで、いろいろな言葉を収録している。軽く頭がおかしくなれる素敵な本だった。
 解説文がまた面白くて筋肉原理主義の強さを感じることができてしまった。でも、石油王の解説はしょうじきよく分からない。たぶん、言っている本人も分かっていない?

 大会の写真に80代の人たちまでいてビックリした。男性と女性の違いに関することは正面から言い切っている。でも、「巨乳」は男性に使われる褒め言葉らしい。
 女性競技での褒め言葉は載っていないので分からないところはあるが。

 選手がみんな日焼けしているのは意図的なものであるらしく、そのことに関する褒め言葉も充実していた。照明によって白くなった部分と明暗がはっきりして筋肉が見やすくなるのだろう。
 白人のボディビルダーがどうしているかは本書だけではわからない。

関連書評
ダンベル何キロ持てる?1巻 サンドロビッチ・ヤバ子/MAAM:筋トレ漫画の感想(別ブログ)

ボディビルのかけ声辞典
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カテゴリ:ハウツー | 23:29 | comments(0) | trackbacks(0)

破壊破砕解体写真資料集 ジェイズパブリッシング

 ひたすら建物の破壊風景を撮影した写真集。解説文がちっともなくて写真を眺め続けるだけで終わった。
 重機は先端しか写っていない場合も多いため、工事の全容がわかる感じでもない。これで「写真資料集」になるのかなぁ?アクション漫画などで破壊された建物が建てたい場合はなるのかもしれない。自分は工事関係者への資料を想像していた。

 破壊する場合にも鉄筋コンクリートが手強く、鉄筋が引きちぎれずにコンクリートからモジャモジャと生えた写真がたくさん写っていた。コンクリートの大きな破片が鉄筋に引っかかっている状態などは下に落ちてきそうで怖い。
 重機の先端に水を掛けているシーンは埃の拡散を防ぐ目的があるのだろう。でも、地面に落ちた泥が乾いて強風をうけたら結局舞い上がるのでは?高いところから飛び散るよりはマシか。

関連書評
建設中。 勝田尚哉

写真資料集 解体・破砕・破壊
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カテゴリ:写真・イラスト集 | 22:59 | comments(0) | trackbacks(0)

フィールドの生物学19〜雪と氷の世界を旅して 植竹淳

 究極の環境である氷河の上にも実は生息する生物がいた。著者は世界をまたにかけて、それを追いかける奇特な研究者。
 進路に迷っていた大学4年生時代から、研究者として独立した現在までにいたる著者の足跡が記されている。南極のコケに住み着いている菌がいて、それを追いかけている人の本は読んだことがあったが、氷の上に直接生きている連中までいるとは驚きだった。
 氷河や氷床はよくみる衛星画像の白や青ばかりじゃなくて、微生物により赤(緑や黄色もあるらしい)に染まる場合があるのだ。
 生き物の大半は微生物だが、コオリミミズなる動物も北米大陸にはいるらしいし、コケが特殊な形態で生きている場合もあった。

 氷河の後退を防ぐためにコオリミミズを旧大陸に導入したら、微生物を食べることで氷河のアルベドを改善してくれないか?昼は氷雪の下に潜んでいるのでコオリミミズがアルベドを下げることはない。
 まぁ、ただでさえ繊細な生態系を激変させるような外来生物の導入が今時できるとも考えがたいけど、アフリカの熱帯氷河はどちらにしろ消えてしまいそうだ。

 著者たちの圧倒的な行動力は我が身と比べて溜息が出るほどだった。人によっては、これだけ世界を動き回れるのだと、子供たちにはできるだけ若いうちに知ってもらいたくなる。

関連書評
菌世界紀行〜誰も知らないきのこを追って 星野保:行動範囲が重なっていそう
雪と氷の図鑑 武田康男

雪と氷の世界を旅して: 氷河の微生物から環境変動を探る (フィールドの生物学)
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カテゴリ:生物 | 21:12 | comments(0) | trackbacks(0)

その道のプロに聞く〜ふつうじゃない生きものの飼い方 松橋利光

 身近すぎて普通は飼うことまで考えない生き物(トノサマバッタ、ダンゴムシ、ニホントカゲなど)から、飼えることなど思いもよらないような有名な生き物(タランチュラやカメレオン、クリオネなど)まで。
 いろんな生き物の飼い方を紹介している本。
 説明が少なければ1ページ、多くても4ページくらいなので、難しい生き物を本格的に飼うためには向いていない。しかし、生命力旺盛な生き物なら何とかなりそうだし、急にもらったり捕まえた場合の当座の手本としては役に立つ。
 けっきょくペットショップや水族館の人に相談した方が間違いがないとも説明されていた。

 草食の生き物と肉食の生き物では餌確保の難易度が大きく違う傾向がみられる。稲科の草をビンにさしておけばいいトノサマバッタと毎日新鮮な虫がほしくてミルワームでも代用できるが長期的には避けた方がいいと言われてしまう肉食昆虫ではサイズが近くても必要な労力は大きく違っていた。
 あと、一日五回の挿し餌が必要なセキセイインコの子供は次元が違っている。でも、やってみたら親鳥の大変さが分かるかもしれない。

 餌をやらなくても体が小さくなるだけのクリオネ(しかも、餌の方がクリオネより高い)は意外にも楽そうだった。

関連書評
その道のプロに聞く 生きものの見つけかた 松橋利光

その道のプロに聞く 生きものの飼いかた
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カテゴリ:生物 | 21:16 | comments(0) | trackbacks(0)

月刊ニュートン2018年9月号

世界の絶景ワイオタプ/チヴィタ・ディ・バーニョレージョ
 ワイオタプはニュージーランドだろうと思ったら、ニュージーランドだった。なんとなくマオリ語っぽい?現象としてはイエローストーンに似ている。離れていても生息している微生物は似ていたりするのかなぁ。北半球と南半球では移動は難しいか?
 チヴィタ・ディ・バーニョレージョは日本だったら周囲の崖をコンクリートで覆って「もう削られません。大丈夫」って言いそう。実際崩れた時にどうするかは気になる。

化石を保存するタイムカプセル
 コンクリーションの中身が無いと思ったら、エチゼンクラゲが疑われる炭素量だった事例が興味深い。殻を持たない軟体動物の研究に少しでも情報提供できるかも。

火星が地球に大接近!
 最接近はすぎても毎日観察する人には逆行が楽しめる?ここまで火星探査衛星が充実してしまうと、望遠鏡で見ることよりも、そっちの方が価値が高いかもしれない。

イーロン・マスクの火星移住計画どのようにして人類を火星に送るのか?
 すでにロケットの試射に成功している点から戯言あつかいはできない。それでも日程は驚異的に思えてしまう。民間にここまでやられるとアメリカ政府もうかうかしていられないな。
 日本はフォボスへの挑戦で存在感を示している。はやぶさ2機の実績を活かしつつ火星に挑戦する道という感じである。

Newton(ニュートン) 2018年 09 月号 [雑誌]
Newton(ニュートン) 2018年 09 月号 [雑誌]
カテゴリ:架空戦記小説 | 21:11 | comments(0) | trackbacks(0)

発見!恐竜のミイラ フィリップ・ラーズ・マニング

 世間をあっと言わせたハドロサウルス類の恐竜ミイラ発見。その経緯を記した絵本風の一冊。
 ミイラの研究についてはまだまだこれからで、ちょっとデータが出始めているところで話が終わっている。代わりにヘルクリークに生きていた白亜紀の恐竜たちからインタビューを受けて話を終わらせていた。
 ティラノサウルスに天敵を聞いたときの反応に笑った。いつも一定のキャラクターを求められていて大変ですね。

 ハドロサウルスを発見したタイラー少年は当時16歳だったはずなのだが、発掘現場で主力的な仕事をして、自分が呼んだマニング博士とも議論を戦わせている。
 そして化石のクリーニングもやっていた。
 年月の経過が説明されていないので分かりにくいけれど、ミイラの発掘と一緒に古生物学者の卵として成長してきた様子だった。本書が発行された時にはエール大学博士課程とのこと。
 これからもたくさんの発見をしてもらいたい――いや、幸運頼りの発見がなくても、ハドロサウルス発掘でつちかった能力でもって研究成果をあげてもらいたいものである。

関連書評
NHKスペシャル「完全解剖ティラノサウルス」 土屋健
白亜紀の生物・下巻 土屋健 群馬県立自然史博物館監修
サルタサウルスの成長 ダイナソー・プラネット

発見! 恐竜のミイラ
発見! 恐竜のミイラ
カテゴリ:ナショナルジオグラフィックDVD | 22:12 | comments(0) | trackbacks(0)

注意力の不思議 ナショナルジオグラフィックDVD

 はいはい、気づきませんでした気づきませんでした。
 これに注意してくださいと言っておいて、他のものを裏で出しておき「気づきませんでしたね?」と言われても、そうですよ悪かったですねとしか思えない。
 余興であっても騙されることが多いものは精神的に余裕がある時じゃないと目の毒である。

 自分がマルチタスクができると思っていたCEOのマルチタスク能力測定は、交通事故を未然にふせいだ側面があるのでまだマシだったが、難問をふっかけられる様子はやっぱり辛いものがあった。

 まぁしかし、こういう知識が事前になければ無防備に悪意のトリックに引っかかる恐れがあるので知っておくことは有益である。やっぱり詐欺師に遭うよりも手品師に会いたいものだ。

関連書評
協力と罰の生物学 大槻久 岩波科学ライブラリー226

ナショナル ジオグラフィック 注意力の不思議 [DVD]
ナショナル ジオグラフィック 注意力の不思議 [DVD]
カテゴリ:ナショナルジオグラフィックDVD | 08:25 | comments(0) | trackbacks(0)

世界史リブレット71〜インドのヒンドゥーとムスリム 中里成章

 もちろんイギリス人のせい――分断し統治不能になったら投げっぱなし。まぁ、あらがいたがい歴史の大きな流れもあったであろうが、それに抵抗する姿勢を示せたとも言えない。
 鋭い対立を続けているインドのヒンドゥーとムスリムの関係を共生していた時代から遡って紹介してくれるリブレット。現在はヒンドゥーナショナリズムが猛威をふるっているが、先に先鋭化したのはムスリムの方かもしれないことなど、興味深いものがあった。
 ムスリムなのにカーストがあるような生き方をしている人たちがいたり、ヒンドゥー・ムスリム双方から(そして女性からも)弟子をとるバウルという人々がいたり、インドの宗教事情は非常に複雑な色彩を帯びている。

 余談的なあつかいながらスィク教徒が打ち立てた強大なスィク王国のことも気になった。偉大な指導者が死んだ後の混乱をイギリスにつけこまれて戦争で滅亡したあたり、ズールー王国に似ている。
 やつらはいつでも自分たちが有利なときに侵略戦争をしかけられるからなぁ。情報量の圧倒的な差がつらい。
 インドのムスリムについて間違ったイメージを流布し、分断主義的な提言をしたイギリスの官僚W・W・ハンターの名前を悪い意味で覚えておく。

関連書評
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インドのヒンドゥーとムスリム (世界史リブレット)
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カテゴリ:歴史 | 00:12 | comments(0) | trackbacks(0)

世界史リブレット100 ムハンマド時代のアラブ社会 後藤明

 コーランを純粋な史料として見ると、とても面白い!
 記録されたムハンマド周辺の情報から当時のアラブ社会の実像がみえてくる。女性も子供も個人と神が一対一で対峙して契約を結ぶ社会という解釈は今のサウジアラビアではとても受け入れられそうにない。どうしてこうなってしまったのやら……。
 きちんと処理していけば、イスラム教こそ現代に適応できそうな宗教に思えてきた。中途半端に適応できてしまうから足かせになっている可能性もある。

 他の本による知識から「クライシュ族」という部族がいたと思っていたのに、本書の解釈ではそんなに明確な枠組みはなかったとされているのも新鮮だった。
 名祖から逆算して「まとまり」が考えられていることを覚えておきたい。見た目だけは天皇家から臣下にくだった時に姓をえる感じに似ていると言えなくもない。

 商人の都市メッカとオアシス農業の地域メディナの対比も興味深かった。ムハンマドが来るまでのメディナが殺伐としまくっていて、地域によってはアラブ社会が苦しんでいたこと、だからこそムハンマドが台頭できたことも分かった。
 ユダヤ人の打出の小槌あつかいは地中海の東西を問わないのだな……。

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イスラーム歴史文化地図 マリーズ・ルースヴェン+アズィーム・ナンジー
地図で見るアラブ世界ハンドブック マテュー=ギデール

ムハンマド時代のアラブ社会 (世界史リブレット)
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カテゴリ:歴史 | 14:14 | comments(0) | trackbacks(0)
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