忘れられない祈りの聖地 富井義夫

 世界各地のさまざまな宗教の聖地を撮影した写真集。
 山上の修道院や岩をひたすら掘り下げて造った寺院など、信仰にかける情熱から生まれた経済的合理性のない建造物が楽しめる。

 エチオピアのラリベラにある岩の聖堂群は、風の谷のナウシカに出てきたシュワの墓所の元ネタかな?
 岩を真下に掘り下げた構造だから排水の問題が気になって気になって気になって――丘の上にあるみたいだし、低地まで横穴を掘って排水しているのだろう。現代ならポンプも使えるが、昔の状態が気になった。

 岩の掘り下げではインドのエローラーも取り上げられている。仏教・ヒンドゥー教・ジャイナ教のあわせ技。これぞインドらしい寛容といわれるが、中国の懸空寺は仏教・道教・儒教の三教合一をやっている。こちらは寛容とは別物なのだろうか。

 キリスト教の施設では正教会とカトリックが多くてプロテスタントの影が薄いところも印象的だった。素朴でもカメラ写りのいい教会はあると思うけどなぁ。「聖地」にはなりにくいのか?

関連書評
メッカ−聖地の素顔− 野町和嘉
スペイン パラドール紀行 小畑雄嗣・香川博人
フランス世界遺産の旅 山田和子

忘れられない祈りの聖地 祈りの力により存在する美しき場所
忘れられない祈りの聖地 祈りの力により存在する美しき場所
カテゴリ:写真・イラスト集 | 11:52 | comments(0) | trackbacks(0)

わかる!使える!配管設計入門 西野悠司

 配管設計のABCがわかりやすく解説されている。最後の方の計算問題は難しくなってくるが、実数を使った工学的な計算なので落ち着いて紐解いていけば理解できるはず(理解していない)。

 軽くかじっただけでも、サポートの置き方や鋼管の耐熱温度など参考になる情報がたくさんあった。
 サポートを建築業ではブラケットとも言うらしいが、その注意はなかった。300Aと12Bの同居など用語の扱いにくさが過酷な分野でもある。さらにアメリカやヨーロッパでは規格が違うし。

 熱膨張を事前に考慮して配管を設計する方法(コールドスプリング)が載っていた。原発のずさんな工事を指摘する記事で、配管を無理矢理曲げてフランジを合わせていると書かれていたのだけど、もしかしてこの工法だったのではないか。
 実際のところは不明ながら知識があれば扇情的な情報にたいしても慎重になれる。少しでも取り入れてレベルアップしたい。

関連書評
入門ビジュアルテクノロジー よくわかる真空技術 (株)アルバック
ダクトの設計 池本弘 理工図書刊

わかる! 使える! 配管設計入門<基礎知識><段取り><実設計>
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カテゴリ:工学 | 22:07 | comments(0) | trackbacks(0)

動物が見ている世界と進化 スティーヴ・パーカー

 監修 蛭川謙太郎。訳 的場知之。大英自然史博物館シリーズ4。
 表紙の密度がすごい。視覚に関する進化の歴史について集中的にまとめた本。軟体動物が複眼からレンズ眼まで持っている特殊な連中であることに衝撃を受けた。
 オウムガイの眼はピンホールカメラの原理を使っていた。イカやタコとはずいぶん違っているんだな。復元イラストから判断してアンモナイトやベレムナイトはレンズの眼をもっているはず。

 蛇のピット器官であるとか、紫外線をみる昆虫たちとか、可視光に限定せずに語られている。エコーロケーションまではなかったけれど、あれも脳の働いている部位は視覚に近いとか。
 眼の進化はそれぞれの段階で持ち主にとって有益であったため、ここまで複雑に進化することができたらしい。レンズ眼があれば便利だと後出しでわかっていても、あんなに複雑なものをいきなり持つことはできない。
 鳥の羽根みたいに後から別目的に使われる場合もあるなかで、眼の役割は割と一貫しているところも面白い。
 5000万年前の昆虫の構造色がそのまま残っている化石が見事だった。見つけた人は心の底から感動しただろうなぁ。

関連書評
古生物たちのふしぎな世界 土屋健・田中源吾
そして恐竜は鳥になった 小林快次・土屋健
ビジュアル版 地球・生命の大進化〜46億年の物語 田近英一・監修


動物が見ている世界と進化 (大英自然史博物館シリーズ 4)
動物が見ている世界と進化 (大英自然史博物館シリーズ 4)
カテゴリ:古生物学 | 20:13 | comments(0) | trackbacks(0)

鳥さんぽをはじめよう ♪鳥くん(永井真人)

 わかりやすいバードウォッチング入門書。前書きで著者がバンドをやっていた時代に髪の毛が一日で抜ける体験をしたと書かれている。なるほど、一晩で白髪は無理でも抜けることならありえる?換毛期じゃないんだからとは思う。

 いい加減にメジロとハクセキレイは覚えた。そして、正体を探していた職場の「害鳥」がサイズとくちばし・羽の色からムクドリらしいことも覚えた。説明でも農家には益鳥とされる一方で、糞害で害鳥とされることもあると書かれている。

 入門書でありながら、けっこう鳥の豆知識が充実していて他の本には載っていないかもしれない情報に接することができた。
「コクマルガラスはいつもコクマルガラスと一緒にいる」という格言があるのに、ミヤマガラスと混群になって写真に写っている……。

 アオサギの鳴き声「ゴゴゴゴー、ググガガガー」はギャグ漫画キャラクターのいびきみたいだ。ウボアーを彷彿とさせるダイサギ、コサギの「ゴアー、グアー」の方がまだしも。
 カワウが昔は愛知県と千葉県などの一部に生息するだけの珍しい鳥だったことにも驚いた。どんだけ増えたんだ。
 庭先に野鳥を呼び込んで室内からの観察をするための三種の神器。バードフィーダー、バードバス、巣箱についての解説もあった。窓のすぐ外に来てくれたら楽しいだろうな。でも、ムクドリが来たら複雑な気分かも。

関連書評
「おしどり夫婦」ではない鳥たち 濱尾章二 岩波科学ライブラリー276
野鳥フィールドノート 水谷高英

鳥さんぽをはじめよう
鳥さんぽをはじめよう
カテゴリ:ハウツー | 22:26 | comments(0) | trackbacks(0)

世界から消えた50の国1840-1975 ビョルン・ベルゲ 角敦子

「誰かを日陰に追いやるのは不本意である。ただわれわれも日の当たる場所を必要としている」ベルンハルト・フォン・ビューロー(ドイツの外相)1897年12月

 切手に痕跡をのこす歴史のあだ花。かつて存在した50の国というか切手を発行した地域を描いた一冊。これら国家の出現にはエキセントリックな人物が関わっていることが多く、変人列伝としての読み方もできた。
 日本周辺では満州国とアメリカ統治下の琉球があげられている。
 満州国の主なエピソードは731部隊の人体実験だった……五族共和をうたっている裏での激しいコントラストを表現するのに向いていたのだろうな。
 琉球はいまだに基地負担が重くのしかかっていることが紹介されており、形だけでも切手を発行していた時代の方がよかったなどと単純化はされていない。
 著者はノルウェー人である関係から、北欧関係の泡沫国家は取り上げられがちに感じた。

 イギリスは流石というかロクでもないことを盛んにしかけまくっている。個人プレーの変態国家建設を国家的組織的におこなっている変人国家だ。
 でもヘジャズはイギリスが計画した通り残っていた方が、今よりもマシだったんじゃないかと、つい思ってしまった。戦間期のアラビア半島は戦国時代だからなぁ。

関連書評
中国史のなかの諸民族 川本芳昭 世界史リブレット61
学研第2次大戦欧州戦史シリーズ1〜ポーランド電撃戦

世界から消えた50の国 1840-1975年
世界から消えた50の国 1840-1975年
カテゴリ:歴史 | 23:35 | comments(0) | trackbacks(0)

戦国大名と分国法 清水克行

「人と人のもめごとというのは、どちらにも道理はそれなりそれなりにあるものです。(だから、裁判というものは)とりあえず双方を比較して、道理の少ないほうを「非」としているだけのことである。」最上義光(伊達家文書)

 さっすが、しゃ……最上義光公いいこと言う!著者はこの言葉から戦国時代の人間にも彼らなりの倫理観があったことを指摘している。最上義光を戦国時代の平均にしていいのかは疑問ながら、分国法を通じて当時の人々の心のありように触れることができたのは間違いない。
 最上家は分国法を制定していないが、東は伊達氏から西は六角氏まで5つの家で作られた分国法が取り上げられている。
 著者の結城政勝がつくった分国法へのツッコミの嵐には楽しませてもらった。「結城政勝の憂鬱」というタイトルでライトな読者にも手にとってもらいたいくらいだった。
 戦国時代の家臣が暴走することヤンキー漫画のごとし。著者がもっとも整ったと評価する今川かな目録でも席次あらそいをやめさせるため、名指しの条文がある。

 家臣(あるいは当主)の制御から、領民の支配まで、分国法の内容から制定者の視点がわかるところも面白い。それまで明文化されていなかったものを初めて明文化した分国法の流れは、現代日本の法にも隠れ潜んでいると感じた。
 流れ着いた船は好きにしていいという慣例がトラブルをおこした例は、第二次ポエニ戦争末期のカルタゴにもある。ハンムラビ法典のことを考えても人が考える慣例や、そこから生じる問題には、世界的に共通点を発見することもできるのかもしれない。

関連書評
今川氏滅亡 大石泰史 角川選書
原典訳ハンムラビ「法典」 中田一郎訳

戦国大名と分国法 (岩波新書)
戦国大名と分国法 (岩波新書)
カテゴリ:日本史 | 21:50 | comments(0) | trackbacks(0)

戦国軍神伝3〜前田利家の死闘 神宮司元

 死闘と煽られて本当に死んでしまう人物は珍しい。しかも、相手は思いもかけない羽柴秀吉から離反した黒田官兵衛である。前田利家が天下を取る作品が印象的な著者なので、利家の討ち死にには、どうしても特別なものを感じてしまった。

 さて、日本の中心部では家康と勝家、秀吉が争いを繰り広げている。さらに官兵衛が加わったことで非常に流動的な状態になってしまった。電撃的に自らの所領を広げた官兵衛の手腕は流石としか言いようがない。
 後継者にも恵まれているので、天下を取ってもそんなに不安がないところもポイントが高い。長政本人に天下を取らせるのは難しいが、当地なら秀忠に負けないだろう。

 戦いは非常に「足で稼ぐ」傾向の強いもので、日本の地理、道の繋がりを重視した独特のものに仕上がっている。地形図を首っ引きにして読むのが、正しい楽しみ方なのかもしれない。
 参加する武将も多彩なので、前提となる知識が揃っていないと楽しみにくいと感じた。いわいる上級者向けである。

 フィクサーとして活動しはじめた光秀が官兵衛にそそのかされて「できまする。それがしに、できぬことなどありませぬ……」と言い張っちゃうシーンに萌えた。まさか彼の人生にこんな展望が開けるとは――光秀=天海説を許すなら想像できないこともないな。

神宮寺元作品感想記事一覧

戦国軍神伝〈3〉前田利家の死闘 (歴史群像新書)
戦国軍神伝〈3〉前田利家の死闘 (歴史群像新書)
カテゴリ:時代・歴史小説 | 23:55 | comments(0) | trackbacks(0)

セラミックス 第53巻 10月号(2018年)

・陶磁器研究に想う
 斜陽産業の悲哀を感じる。関連分野が活発に動いているだけいいのかもしれないが・・・・・・陶磁器が時代の最先端だった時期が確かにあったことは忘れないでおきたい。

■ 水溶液プロセスのポテンシャルと展望
 水溶液プロセスの概要がまとめられている。ゾル-ゲル法の名前を知っている程度の知識だったので勉強になった。研究分野名の名前が意外と大事らしい。いい研究をすれば、それが広報になるなんて、やっぱり幻想なのではないか。

■ 水溶液プロセスによる階層的で精緻な材料形態のデザイン:バイオミネラルにおけるナノロッド配向集積体とその模倣
 生物は水溶液プロセスで巧みに構造物を生み出している。考えたわけではなくても、よく考えられたような構造になっていて、進化の力が感じられる。そこから学んで再現する能力が科学に備わってきたこともいいことだ。

■ 水溶液プロセスによる複合酸化物・固溶体・準安定相の合成
 蛍石型・スピネル型・フェルグソン石型など、鉱物の名前がたくさんでてきて親しみが湧いた。蛍石とスピネルが別に書かれているってことは等軸晶系などよりも細かい分類なのだろう。

■ 加水分解プロセスを利用した新規ナノセラミックスの合成
 なつかしい「チンダル現象」の文字だけに反応する。アパタイトが出てきた関係、生化学的な雰囲気すら感じた。

名古屋大学 機能性物質物性研究室(V研究室)
 物質ABCDとあえて開発した物質の名前を出さずに関心を引く作戦だった。発電する鍋の会社はどうも破産してしまっているようだ。北海道地震のときに生産していればたくさん売れただろうに。
カテゴリ:工学 | 12:23 | comments(0) | trackbacks(0)

かわいい女の子キャラが描けるテクニックBOOK

「とにかくかわいい!キュートな女の子キャラ大集合!」監修東京アニメーター学院

 表紙の女の子は高齢になったときの姿まで描かれているのに、表紙には表示されていない……あからさまなものだ。
 一見しっかり描かれていると見える絵でも、目の焦点にあやしさを感じることがあった。それほど、立体を平面に落とし込む絵は難しい。描いたのは監修東京アニメーター学院の学生なのであろうか。
 個人的には天然娘がいちばん良かった。女の子のタイプごとに描いている人が違うのは、キャラクターの幅が広がると同時に差別化を分かりにくくしている気もする。
 最後の漫画はオチがあまりにもしょうもなかったけれど、ページ数の制約を考えるとしかたがないのかもしれない。

 表情の細かい説明がMMDで表情付けするときに役立ちそうだった。あとは桐原いづみ先生のインタビューも気になった。

関連書評
東洋ファンタジー風景の描き方 ゾウノセ・藤ちょこ・角丸つぶら
背景作画〜ゼロから学ぶプロの技 mocha
24色でできる!はじめてのコピック背景 ばびりぃ

かわいい女の子キャラが描けるテクニックBOOK―とにかくかわいい!キュートな女の子キャラ大集合!
かわいい女の子キャラが描けるテクニックBOOK―とにかくかわいい!キュートな女の子キャラ大集合!
カテゴリ:ハウツー | 18:28 | comments(0) | trackbacks(0)

耐火物 第70巻 第10号

・随  想:岐阜へようこそ
 鉄鋼用耐火物専門委員長の任期2年間は両方共、岐阜県で委員会を開催するとのこと。岐阜市と高山市ではかなり離れているけれど。これまで6回の開催地に北九州が3回も含まれているところは流石製鉄の町だと思った。これまで全部西日本だったというが、岐阜も東京からみれば糸静線の向こうなので西日本扱いと思われる。


・高温における酸化物中の物質移動解析に基づく耐環境性保護膜の構造設計
 蒸気との反応性に言及しているところが気になったが、もともとSiCをコーティングしてタービンブレードに使用することが目的だった。それは蒸気との反応性が大事だわ。というか、よくこんな高温でもつものだ。運転環境が過酷でも安定していれば、やりようはあるのだろう。

・MgO-CれんがにおけるMgOの還元速度に及ぼす気孔率の影響
 やっぱり気孔率は少ないほうがいいよね、と分かった。新しい計算式の提案まで行くところには驚いた。その式の定数の意味など、まだまだわからないことだらけなんだなぁ。

・形状の異なる鋼繊維を添加したキャスタブルの機械的特性
 長い繊維の方が有効。あまり短すぎると意味がない。フック状形状にしても効果はあまりない?最後の件がちょっと残念。そうそう面白い結果は出ないのだった。完全に同じ長さで曲げたものとストレートなもので比較してほしくはある。

・マグネシア原料種がマグネシアークロム質れんがの特性に及ぼす影響
 前も似たような記事がなかった?天然マグネシアにも高純度なら有利な面があることが意外だった。完全な海水マグネシアの下位互換じゃないんだな。海水マグネシアの需要が増しても生産量は、塩の生産量に制限されるはずなので、どこまで増産できるのやら。にがりの売却益で天日塩に対してコスト的に有利になっていくことで生産量を増やす?

・MgO-C煉瓦稼働面の高温状態推定
 記事の中でFactSageというものを知った。ページをみると教育版は無料で利用できるらしい。入れるだけ入れてみようかな。そして放置してしまう、と。


・耐火物サロン:私のお気に入りの廃墟
 は、廃墟マニアだーーっ!意外なところに意外な趣味の人が。常に仕事と結びつけて説明していることには苦笑い。自分だったら趣味のときは仕事から完全に離れたいから……。
カテゴリ:工学 | 12:12 | comments(0) | trackbacks(0)
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