地域の食をブランドにする!〜食のテキストを作ろう 金丸弘美

 地域の食材を広報していくにあたって有効な「食のテキスト」づくりについて解説したブックレット。
 実際に食のテキストの例が掲載されていて、なるほど確かに興味深い内容だった。特にコウノトリを育てる米の農法は興味深い。
 言及されている守口大根は岐阜じゃなくて愛知の野菜じゃないかと思っていたら、愛知と岐阜の野菜であって、大阪にもあるらしい。

 給食に関する「食育基本法」が紹介されているのだが、それを読むと「完食パワハラ」が起きる背景にも少しつながっている気がした……食のテキストで生徒に親しみをもってもらうことができれば、少しでも食べやすくなるかもしれないが。

地域の食をブランドにする!――食のテキストを作ろう (岩波ブックレット)
地域の食をブランドにする!――食のテキストを作ろう (岩波ブックレット)
カテゴリ:ハウツー | 00:13 | comments(0) | trackbacks(0)

近代中央アジアの群像〜革命の世代の軌跡 小松久男

 世界史リブレット人080。
 本文の上に表示される人物略歴の生没年が怖すぎる。だいたいスターリン時代に粛清されて死んでいる人物が延々と連なっていて「革命の世代」が経験した過酷な軌跡がよくわかる。
 中央アジアのイスラム教徒にかぎらず、ロシア人の異民族文化研究者も容赦のない弾圧を受けている。
 知識人層の排除による支配体制という意味でも、ソビエトは現代中国の先を行っていたのだな……酷い政策にさらされた立場の人々が残した経験は、現代においても貴重である。

 革命期ロシアの状況は猫の目みたいに激しく変化していて、自分がこの渦中にあったら、正しい判断ができる自信がまったく持てなかった。最善の判断をしたと思われる人々すら、スターリン時代になってしまえば粛清の対象なのだから……。

 アタチュルクのライバルだったエンヴィル・パシャが人生の最後においてロシア内部のテュルク民族の闘争に関わっていたことが分かって、ロシアとトルコの歴史的な距離感が少しだけつかめた。
 4人の主人公で一人だけ生き残ったヴァリドフも最初の亡命先はトルコだったわけで、やはり黒海を挟んで向き合っている両国は縁が深い。

関連書評
激動の中のイスラーム〜中央アジア近現代史 小松久男
テュルク族の世界〜シベリアからイスタンブールまで 廣瀬徹也

近代中央アジアの群像: 革命の世代の軌跡 (世界史リブレット人)
近代中央アジアの群像: 革命の世代の軌跡 (世界史リブレット人)
カテゴリ:歴史 | 20:37 | comments(0) | trackbacks(0)

飢餓と戦争の戦国を行く 藤木久志 読みなおす日本史

 衝撃的な緊急避難。過去の日本には飢饉の際には、きちんと養う代わりに人を奴隷として購入していいという超法規的な風習が存在していた!
 そんな衝撃的な導入からはじまるサバイバルの時代を描いた一冊。

 著者のあつめた資料によって作られた年表から、毎年日本のどこかで飢饉が起こっていて社会情勢が非常に不安定だった様子がうかがえる。
 それが応仁の乱につながっていくという、トップダウンじゃなくて、ボトムアップからの政治と戦乱の視点を提供している。
 とかく非難されがちな足利義政の御所造営が、難民対策の雇用創出策だった可能性が指摘されていて、目から鱗が落ちた。
 飢饉で食べていけなくなった地方の農民も都市に出れば食べていける可能性がわずかにあったらしい。しかし、もちろん都市が養える限界があるし、飢饉が広域すぎれば自然と共倒れになる。

 飢饉が理由で戦乱が広がり、そのせいで耕作放棄地が増える負のスパイラルについては、よく脱出できたものだとひたすら感心するよりなかった。
 正直に言って、武田氏や上杉氏の略奪旅行は、その場しのぎすぎる。領土が増えても、そのため領土のどこかが飢饉になる確率があがって、さらなる戦争が必要になったりする地獄もありえる。
 名将と呼ばれる戦国大名でも、いつも必ず優れた戦略をもって軍事を行えていたと考えてはいけないのかもしれない。

関連書評
一揆の世界と法 久留島典子 日本史リブレット81
戦国大名と分国法 清水克行

飢餓と戦争の戦国を行く (読みなおす日本史)
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カテゴリ:日本史 | 19:46 | comments(0) | trackbacks(0)

悟浄歎異―沙門悟浄の手記― 中島敦

 沙悟浄の視点からみた三蔵法師一行の姿。特に生命力あふれる悟空の姿を鮮やかに活写した作品。
 孫悟空と牛魔王の戦いに関する迫真の描写がすごかった。でも、元ネタに準拠したものでオリジナリティは低いのかな?教養が足りないので何ともいえず、もどかしい。
 頭でっかちで実行が追いつかず傍観者に甘んじている沙悟浄の立場にはなかなか共感させられる。中島敦の時代から、我々もあまり成長がないようだ……。

 享楽主義者にみえてどこか影があるらしい猪八戒の人物描写も巧みであり、彼らが妖怪変化のたぐいであることを、ついつい忘れてしまい、人間のキャラクターよりも人間に感じてしまっている自分に気がつく。

 そして一行で唯一の人間である三蔵法師は、といえば妖怪にもなかなか到達できない心の境地に到達した人物として描かれていた。
 悟空も三蔵法師もそれぞれの世界で「無敵」になっていて羨ましい限りだ。

青空文庫
中島敦 悟浄歎異 ―沙門悟浄の手記―

悟浄歎異 ―沙門悟浄の手記― (字が大きくハッキリ見えるシニアの目にやさしい)
悟浄歎異 ―沙門悟浄の手記― (字が大きくハッキリ見えるシニアの目にやさしい)
カテゴリ:ファンタジー | 23:29 | comments(0) | trackbacks(0)

NHKグレートサミッツ世界の名峰 第1巻モンブラン

 副題はアルプスの白き女王。
 アルピニズム発祥の地であるアルプス最高峰のモンブラン登山を描いた映像作品。モンブラン周辺の観光ガイド的な冊子が付属している。
 6代にわたる山岳ガイド一家のダヴィッド氏親子の案内で、NHK取材班がモンブランに登る。カメラマンが一番大変なのは言うまでもない……しかし、写されることはない。
 山頂付近の切り立った峰は踏み外したら真っ逆様であり、観ているだけでも怖かった。これを酸素の薄い足下がおぼつかない状態で歩こうというのだから、登山はクレイジーだ。
 だが、モンブランは山容のやさしい方であり、冊子巻末の同縮尺マッターホルンをみると、軽く絶望できる。圧倒的な傾斜が下までずっと続いている!
 そんなマッターホルンを登るのが第2巻らしい。

 この1巻はガイドの取材的な面も強くて、山岳ガイドを仕事にしている人がみたら得る物がありそうだと思った。

NHKグレートサミッツ 世界の名峰〈1〉モンブラン (小学館DVD BOOK)
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カテゴリ:映像資料 | 22:48 | comments(0) | trackbacks(0)

密着ムジャヒディン〜素顔のイスラム戦士〜

 ムジャしやがって……潜入取材を試みたジャーナリスト、クレイシ氏の勇気が凄かった。
 いっしょに銃をとって戦えと迫られたときの返しも立派だった。こういう人がいるから、ムジャヒディンの姿が伝わってくるのだが、戦闘への同行などは一歩間違えれば死んでいた。
 取材時にもスパイと疑われるなどの危険がつきまとっている。この映像を発表したことによる危険もあるのではないか――離脱した経緯から考えて、まず許可をとれていないはず。
 襲撃の失敗はなかなかの不始末だったしなぁ。

 子供がムジャヒディンに憧れているような言動を取るときに、横から誰かが回答を指示している様子が怖かった。たぶん、それを言っているのも子供で、同調圧力が非常に強い社会みたいだ。
 攻撃が失敗したときの罵り合いをみても、アフガニスタン人と日本人には気質の近いところがあるのかもしれない。ゲリラ戦は被害なく攻撃行動ができれば成功なので、取材のあった攻撃はギリギリ成功の部類と思うのだが……無理を強要して被害を出していたら先がない。
 攻撃の失敗をごまかすために司令官が嘘の報告を受けていたことも印象的だった。これが部族社会的な戦いなんだな。

 アメリカよりソ連の方が用意周到で手強かったとの発言も印象に残った。

関連書評
地図で見るアラブ世界ハンドブック マテュー=ギデール
シリア情勢――終わらない人道危機 青山弘之

密着 ムジャヒディン 〜素顔のイスラム戦士〜 [DVD]
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カテゴリ:映像資料 | 13:31 | comments(0) | trackbacks(0)

撮りに行ける風景写真 全国撮影地ガイド

 日本全国の撮影地をもちろん写真作品つきで紹介するガイド。簡単な周囲の観光地案内もついているが、まれに「何もないところです」と言われてしまう撮影地もある。撮影に集中できるところがいいところ。天気が悪かったら観光に切り替えるのに苦労しそうだけど……。

 プロ写真家による写真アドバイスも付属していて、読んだ直後は撮影技術がレベルアップした気分になった。
 ちゃんと実行して身につけないと、すぐに忘れてしまうのだろうけど。

 投稿作品も賞に選ばれた作品ばかりなので優れたものが多くて楽しめた。被写体になる人物や船など見事なタイミングで撮影された作品も多くて、この一冊が生まれるのに費やされた時間の合計を想像すると気が遠くなる。

関連書評
デジタルカメラによる天体写真の写し方 中西昭雄
野鳥撮影術〜鳥の魅力を引き出す表現テクニック 山田芳文

撮りに行ける風景写真 全国撮影地ガイド (日経BPムック)
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カテゴリ:ハウツー | 20:51 | comments(0) | trackbacks(0)

ユダの福音書〜イエスと”裏切り者”の密約 ナショジオ

 モロッコでスピノサウルスの化石が追跡されたごとく、エジプトで古代の福音書がナショナルジオグラフィックによって捜索される。
 パピルスに書かれた「ユダの福音書」は初期キリスト教におけるグノーシス派の考えを示していた。初期には4つの福音書だけではなく、30もの福音書があったとのこと。名前だけ出てくるトマスの福音書も気になった。

 しかし、ユダがイエスの指示通りに、彼を「肉体の衣」から解放したなら、なぜ自殺する必要があったのか。そこはユダの福音書に説明してほしいところだ。
 もっとも、裏切った時点で物語を終わらせているらしいので、ユダの福音書におけるユダの末路はわからない。予言者の言葉通り天国に行けたはずではあるが。

 この映像ではユダの首吊りを再現するシーンが繰り返し流されていて精神衛生的に厳しいものがあった。自殺報道のガイドラインェ……。
 ユダとユダヤ人が同一視されて後世の迫害につながったことは、指摘されているようにイエスや他の使徒もユダヤ人であることを考えれば、理不尽である。
 名前の類似性という小さな事に引っ張られた感じもするのだった。

関連書評
聖書の謎を追え 第1話「ノアの箱船」の真実
バイブルワールド 地図でめぐる聖書 ニック・ペイジ

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ユダの福音書 イエスと“裏切り者”の密約 [DVD]
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カテゴリ:ナショナルジオグラフィックDVD | 19:19 | comments(0) | trackbacks(0)

草原を駆ける縞模様 ナショナルジオグラフィックDVD

 ボツワナの大地を生きるシマウマの生態を描いた映像作品。厳しい草食動物社会の姿があらわになる。
 サブーティー国立公園を中心に南と北西に移動を繰り返しているシマウマたちの動きは人間が強い影響を与えてできあがったものなのではないか。サブーティーにおけるライオンやハイエナ、リカオンなどシマウマの天敵の多さにも人間の活動が影響を与えていそうだと感じた。
 それでも安定すればいいのだが、撮影当時の現実は移動するシマウマの頭数が減少するばかりだったようで……アフリカでは安定したボツワナだけに、状況が改善されていることを祈る。

 危険な夜に仲間が襲われては、朝に再編成を繰り返しているところは、Uボートと戦う護送船団みたいであった。昼は食べないといけないし、夜は混乱の中を逃げ回っている。
 そんなシマウマの毎日は過酷である。

 だが、シマウマが攻撃者になることも希にはあり、迷子のヌーの子供を天敵を呼び寄せるからと蹴り殺した場面は衝撃的だった。あの蹴りを子シマウマをむさぼるハイエナ相手に使っていないのは何故?威力があるかわりに隙ができてしまう動きなのかなぁ。

関連書評
セレンゲティに生きる ナショナルジオグラフィックDVD
馬―ウマやポニーの世界を探る― ジュリエット・クラットン=ブロック

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草原を駆ける縞模様 [DVD]
カテゴリ:ナショナルジオグラフィックDVD | 21:48 | comments(0) | trackbacks(0)

プランクトンハンドブック淡水編 中山剛・山口晴代 著

 一次共生に二次共生、生物の世界では光合成の能力でマトリョーシカが作られていた。
 もやしもんを連想させるイラストと光学顕微鏡写真によって紹介される淡水プランクトンの世界。なお、プランクトンと言いながらベントスも紹介している。

 ミカヅキモなどが硫酸バリウムの結晶を体内にもつことを知った。ごく一部の海洋生物の骨格に使われているのは炭酸ストロンチウムだったか。
 用途がわからず不思議である。

 イカダモの単体で育てていても、ワムシやミジンコの「気配」を感じると、群体にもどる性質も興味深かった(この業界では一般トリビアっぽいが)。大きいことは食べにくいことだ。

 ポーリネラ属が藍藻の取り込みという車輪の再発明を行っている最中なのも面白かった。効率では先駆者たちに及びそうもないのに意外と対抗していけるんだなぁ。

関連書評
やさしい日本の淡水プランクトン図解ハンドブック
美しいプランクトンの世界 クリスティアン・サルデ
美しい海の浮遊生物図鑑 若林香織・田中祐志 著 阿部秀樹 写真

プランクトンハンドブック 淡水編
プランクトンハンドブック 淡水編
カテゴリ:生物 | 21:47 | comments(0) | trackbacks(0)
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