[図説]湾岸戦争〜ペルシャ湾岸の砦を巡る210日間の攻防

 湾岸戦争をさまざまな視点からさまざまな記者が論じた一冊。2003年のイラク戦争直前に書かれていて、その分析も載っているが、自衛隊制服組OBの危うさを感じさせる内容だった。「正常な国」って……。

 湾岸戦争の前哨となったイラン・イラク戦争についても触れられていて、なかなか興味深かった。
 質のイラク、数のイランと言った雰囲気で、ちょうど釣り合いがとれている。イラクはフセインの戦争指導がまともだったら、もっと有利に戦いを進めていたかもしれない。ついつい独ソ戦を想像してしまうが、いろいろな条件から大規模な機動戦にはなっていない。
 イランも革命前から存在した部隊を前線に投入して抹殺を図るなど、悪辣な行為をしている……。

 湾岸戦争そのものの描写は意外に淡泊で、やや物足りなかった。活躍した兵器の紹介にかなり重点が置かれていた。ひいては「現代」のアメリカ軍につながるので、確かに興味深いものはある。

 あと、巻末の中東諸国データ一覧で原油埋蔵量が「夫の年収」的に使われていることに微苦笑を禁じ得ない。

関連書評
史上最大にして最後の機甲戦〜湾岸戦争大戦車戦・上 河津幸英

〈図説〉湾岸戦争 (Rekishi gunzo series―Modern warfare)
〈図説〉湾岸戦争 (Rekishi gunzo series―Modern warfare)
カテゴリ:歴史 | 12:35 | comments(0) | trackbacks(0)

中国〜ナショナルジオグラフィック世界の国

 ジェン・グリーン著、ジョージ・ウェイ/ハンチャオ・ルー監修。
 広大で世界で最も多くの人が住む国、中国。その歴史や文化、地理を薄い一冊にまとめようという不可能に挑んだ本。

 どだい無理な話をわりきって印象的な部分をつまみぐいすれば、それなりに上手くいく。中国のめずらしい生物の紹介はそんな感じだった。
 サイチョウのつがいで密室を作って抱卵作戦はなかなかおもしろい。ただし、もしもオスが餌取り中に命を落としたら……抱卵中のメスが脱出する機会はあるのかなぁ。

 中国の四君子とは戦国四君じゃなくて梅、菊、蘭、竹のことなのは覚えておきたい。竹だけ花を愛でる植物じゃないんだが……特別中の特別扱いを感じる。
 竹を束ねている写真の人たちが笑顔で働いていたことが印象的だった。

 敏感な政治方面については文化大革命や天安門事件もとりあつかっていた。いっぽうで、台湾に関する認識では中国よりに感じた。
 南北朝時代の文化中心は北朝にあるって指摘するのと同じ感覚で言ったのかもしれないが。

関連書評
図説 北京〜三〇〇〇年の悠久都市 村松伸・浅川敏
遊撃戦論 毛沢東・著/藤田敬一 吉田富夫・訳

中国 (ナショナルジオグラフィック世界の国)
中国 (ナショナルジオグラフィック世界の国)
カテゴリ:ナショナルジオグラフィックDVD | 23:38 | comments(0) | trackbacks(0)

ヒトラーと第三帝国 地図で読む世界の歴史

 リチャード・オウヴァリー著、水井清彦 監修、秀岡尚子 訳。
 第一次世界大戦から戦後ドイツまで、ナチスドイツに関する情報を地図に盛り込んだ歴史本。第一次世界大戦から立ち直りかけていたドイツが世界恐慌で絶望のどん底に突き落とされ、ナチ(本書ではナチスではなく、ナチと呼んでいた)の躍進を招いてしまう流れは未来を知っているだけに絶望的だった。
 ナチの経済政策は失業率こそ低下させたものの、労働者の収入を増やすには至らず、実業家だけが得をする形での経済回復をまねいた点も覚えておきたい。
 それでも労働者たちは職を失うよりはと消極的にナチを支持した。また、食糧自給率向上の努力と厳格な配給によって第二次世界大戦中のドイツは第一次世界大戦ほど食糧不足には陥らなかったことも興味深い。
 いちおうナチも歴史に学ぶ部分はあったらしい。

 ナチが描いた戦後のヨーロッパ地図に、ISが描いた地図を思い出した。クリミア半島を直轄量にしたがっていることから黒海の制海権に興味があったようだ。東端のバトゥミ周辺をほしがっている理由はなんだろう。
 まさかのアララト山関連か?

 1300万人におよんだ動員がドイツ社会にあたえたインパクトも地図や図でわかりやすく説明されていた。女性を家庭に閉じこめたがったナチが、女性の労働力に頼りまくっている点は皮肉と言うより必然なんだろうなぁ。
 外国人労働者の酷使もひどい。ドイツ人労働者相手よりもやりたい放題できることを「発見」してSSに監督させるとか、ろくでもないことばかり思いついている。
 枢軸国の中ではブルガリアがナチのユダヤ人絶滅政策に乗らなかったらしく、その評価が上昇した。巻末資料によれば戦前に50000人いたユダヤ人が戦後も45000人残っている。おそらく自然の移動もあるだろう。
 なお、主権をうしなっていたポーランドは3351000人いたユダヤ人が戦後は8万人に激減している……。

 戦争そのものの地図は比較的すくないが、第三帝国のむちゃくちゃさを印象づけられた後だったので滅亡したときはホッとした。まぁ、戦争が終わった後の資料も強烈なものが多くて、悪夢そのものは終わらなかったのだが。

関連書評
ノルマンディー上陸作戦 チャールズ・メッセンジャー
まるごとわかる!第二次世界大戦「ヨーロッパ戦線の真実」
地図で読む世界の歴史 ローマ帝国 クリス・スカー

ヒトラーと第三帝国 (地図で読む世界の歴史)
ヒトラーと第三帝国 (地図で読む世界の歴史)
カテゴリ:歴史 | 12:03 | comments(0) | trackbacks(0)

李陵 中島敦

 わずか5000の歩兵だけで匈奴の単于ひきいる大軍とたたかった李陵をみまった悲劇をえがいた歴史作品。
 武帝が悪いよ武帝が。ぶっていい?
 自分などはついつい短絡的にそんな考えになってしまうのだけど、李陵はいざしらず司馬遷は単純に武帝が悪いとは考えない。巨視的にみれば偉大な人物だからと……そういえば呂后の支配を民衆にとってはけっこうなものであったとまとめた人物だった。
 司馬遷の怒りによって歴史をみる視線が歪んでいないなら後世の人間にとってはありがたい。しかし、すべてを出し尽くして死んでしまった司馬遷の様子には悲しさを覚えた。史実が違った様子であることを祈らずにはいらない。

 李陵の対比に自らを曲げず最後まで祖国に忠義をとおした蘇武が出て来る。鮮烈な生き方をした彼が主人公にならず、李陵が主人公に選ばれた理由を考えてしまう。
 やはり完成された人間よりも、悩みを抱えた人間のほうが描写のしがいがあるのだろうな。弟子でも孔子じゃなくて子路が主人公に選ばれているし、悟浄出世が悟空出世じゃない理由も近そうだ。

 李陵の息子の消息を伝えるラストには、彼の血が文字のない匈奴の歴史に消えていったことの儚さが感じられた。

関連書評
漢帝国と辺境社会 籾山明
興亡の世界史02 スキタイと匈奴 遊牧の文明 林俊雄

青空文庫
中島敦 李陵
カテゴリ:時代・歴史小説 | 23:43 | comments(0) | trackbacks(1)

ぜんぶわかる118元素図鑑 子供の科学サイエンスブックス

 子供向けを侮るなかれ。ニホニウムをふくむ人工元素までしっかりと解説を加えた元素図鑑。発見者の名前もしっかり収録していて、カリフォルニア大学のバークレー校が、人工元素のイッテルビーみたいになっていることも分かる。ついには校名から「バークリウム」を命名してしまう始末だ。

 人工元素競争はアメリカとソ連(ロシア)とドイツのレースであったところに日本も参入した形みたいだ。126番目の安定元素にたどり着くチームは果たしてどこなのだろう。中国は来ないのかなぁ。まぁ、研究資源は限られているからな。

 ヨウ素が日本に多い資源であることは知っていたが、セレンも日本が最大の産出国らしい。硫酸や銅の製造にともなって得られる形での「産出」なので起源を追っていけばヨウ素と違って自給元素とは言い難い?
 少し前に発見された星にちなんで名付けられる元素がいくつかあって、ウランはわかるが、パラジウムもそうだとは思わなかった。もはや小惑星のパラスよりもパラジウムの方が有名であろう。

関連書評
世界で一番美しい元素図鑑 セオドア・グレイ/ニック・マン
元素の不思議〜世界を読み解く小さな鍵 マット・トウィード

ぜんぶわかる118元素図鑑: 身近な元素から日本発の元素「ニホニウム」まで (子供の科学・サイエンスブックス)
ぜんぶわかる118元素図鑑: 身近な元素から日本発の元素「ニホニウム」まで (子供の科学・サイエンスブックス)
カテゴリ:科学全般 | 22:11 | comments(0) | trackbacks(0)

人口論 マルサス 斉藤悦則・訳

 人口の増加は等比級数的だが食糧の増加は等差級数的であるとの前提から社会構造の問題に切り込んだ古典。著者にベーシックインカムの話題を持ちかけたら全力で批判するに違いないと確信して読んだ。
 金持ちや貧乏人の存在はいわば必要悪であって、彼らがいるからこそ民衆は努力するとの考え方も強烈だ。

 基本的に「現実主義」の観点に立って理想というか夢想主義を批判している著者が最後に、神がどうとか言い出したのは現代からは説得力を無駄にすることこの上なかった。まぁ、牧師という著者の経歴を知れば無理もないことだと分かる。

 実際には著者の予言は外れているようにも感じられ、先進国は人口の伸び悩みに苦しんでいる。子育てに不安がなくなれば人々はどんどん子供を作るようになるとの著者の貧救法への批判的な意見を、積極的な意味で取り込むべきと思えてくる。
 彼に現代社会を見させて感想を聞いてみたいものだ。
 解説によれば名前の似ていてまぎらわしいマルクスはマルサスへの批判者だったらしい。

人口論 (光文社古典新訳文庫)
人口論 (光文社古典新訳文庫)
カテゴリ:雑学 | 20:54 | comments(0) | trackbacks(0)

あばばばば 芥川龍之介

 タイトルのインパクトに引かれて読んだわりには、まともな内容だった。たいていの小説に比べれば何も起こらなかったとすら言える。だけど、個人レベルでは確かに大きな変化が起こっていて、登場人物の息遣いが感じられた。
 なんでもない出来事のようでいて、まるで自分が経験したことのごとく感じられる。人生経験に下駄を履いた気分になれる作品だった。

 あと「天然」の魅力は昔から認識されていたんだなぁ。保吉の心理が天然さんのおかげで分かる。
 もっとも情報が少ない登場人物であるがために小僧が気になった。「新入り」との折り合いはどうだったんだろうか。

青空文庫
芥川龍之介 あばばばば
カテゴリ:文学 | 21:20 | comments(0) | trackbacks(0)

クマムシ?!〜小さな怪物 鈴木忠

 乾いた苔を水に浸せばわらわら出てくるふしぎでかわいい動物クマムシ。一緒に出てくるワムシなどと同じくクリプトビオシス能力を所有して生ける伝説と化している。

(それならばクマムシばかりがもてはやされるのはなぜか?……それはもちろん、かわいいからだ。)93P解説より

 顕微鏡観察下の世界でも、かわいいは正義!
 衝撃の事実が明らかになってしまう一冊。また、クマムシの不死身伝説は放射線耐性以外はだいたい「樽」状態のものであり、120年経っても復活はまともな情報ではない。確実なのは7年程度(胚状態で9年)とのこと。
 すごいことはすごいのだが、騒ぎすぎたと勝手に反省してしまう。しかし、クマムシは緩歩動物門の名前を裏切らず、のろのろとした歩みをやめないのであった。
 研究者もクマムシみたいに歩き続ければ、もっとすごい奴を見つけるかもしれない。今後の進展にも期待したい。

関連書評
フジツボ〜魅惑の足まねき 倉谷うらら
うれし、たのし、ウミウシ。 中嶋康裕
シロアリ〜女王様、その手がありましたか! 松浦健二

クマムシ?!−小さな怪物 (岩波科学ライブラリー)
クマムシ?!−小さな怪物 (岩波科学ライブラリー)
カテゴリ:科学全般 | 12:49 | comments(0) | trackbacks(0)

章魚木の下で 中島敦

 タイトルの木は「たこのき」と読むそうだ。第二次世界大戦のさなか、1943年に南方から東京に帰ってきた著者が書いた文学についての思い。
 国家総力戦であれば文学も戦争のために利用される。個人的には当然と思えてしまう考え方だけど、当時の著者には新鮮であったらしい。無理に利用することはない。やりたい人間がやればいいし、作品は書ける時に出てくるという著者の意見はもっともだった。

 南方の人々を「土人」と何の悪意もなく書いているのは時代としか言いようがない。
 戦争中ということもあり、南の島々を華やかに感じることはなかったみたいだ。「華やかな東京」との対比にされている。ホテルなどリゾート開発されていない南の島はそういうものなのかもしれない。

青空文庫
中島敦 章魚木の下で
カテゴリ:文学 | 00:44 | comments(0) | trackbacks(0)

おとなの奈良 絶景を旅する 堀内昭彦・堀内みき

 奈良の土地を歴史を感じながら旅する写真集。決定的な瞬間をたくさん撮影していて奈良へのあこがれを膨らませてくれる。
 霧がでているときに撮影することで背景を消して、歴史ある風景だけを残すなんて……。

 桜や紅葉の写真も見事で、写真家が現地に通った回数が気になるほどだった。あじさいを大量に植えたお寺のあじさいがある歴史が50年しかないことに驚いたりもする。

 有名な歴史の舞台が身近に存在しており、いつでも眺めることができる環境に暮らしている人々の気持ちが少しだけ想像できた。景観を守ってくれているのは、とてもありがたい。
 生駒山地からみた大阪と奈良の対比が鮮やかなほどだ。あと、卵白を泡立てて作った銘菓きみごろもを食べてみたくなった。

関連書評
平城京のごみ図鑑 奈良文化財研究所 監修

おとなの奈良 絶景を旅する (奈良を愉しむ)
おとなの奈良 絶景を旅する (奈良を愉しむ)
カテゴリ:写真・イラスト集 | 16:53 | comments(0) | trackbacks(0)
<< | 2/307PAGES | >>