平安末期の広大な浄土世界〜鳥羽離宮跡 鈴木久男

 院政時代に築かれた地上の極楽浄土世界、鳥羽離宮。その発掘調査によって分かったことは当時の高度な土木技術であった!
 建築用の技術を土木技術に転用して、限定的に発展させていった経緯が興味深い。当時の上皇たちが持っていた権力の強さをよく物語っている。
 土木工事や建築物を地方権力者が築いて、献上していた構造もなかなか奇っ怪な感じで中世らしかった。当時を今の価値観で認識するから、そう思えるのだが。

 鴨川と鳥羽離宮の関係がおもしろく、交通や物資輸送の便と水害リスクのバランスをよく考えて鳥羽離宮が築かれたことが分かった。
 船での寺院巡りは非常に特別な体験に思えたに違いない。ある意味で接待の道具の側面も持っている。

 これほどの遺跡が記録保存されて、発掘された部分は一部しか残っていないことが衝撃的だった。さすが遺跡も過密の都市、京都……。

新泉社 遺跡を学ぶシリーズ感想記事一覧

平安末期の広大な浄土世界 鳥羽離宮跡 (シリーズ「遺跡を学ぶ」131)
平安末期の広大な浄土世界 鳥羽離宮跡 (シリーズ「遺跡を学ぶ」131)
カテゴリ:日本史 | 19:24 | comments(0) | trackbacks(0)

図説 鎌倉府 構造・権力・合戦 杉山一弥

 室町幕府の関東における分身。鎌倉におかれた鎌倉府のあれこれをまとめた一冊。出先機関というには独立性が高く、東の王国というには力関係に翻弄されている。
 やっぱり天皇をおさえている室町幕府が主になると考えれば、足利尊氏の選択は正しかった?

 鎌倉府の歴史においては、在地の実力者と京都から送られてきた人材の間で絶えず綱引きが行われており、鎌倉公方は後者に味方しがちであったようだ。
 その一方で、関東こそ足利氏の本拠地であったから、ややこしい。それを基礎とする直轄地を増やしたいから、在地勢力の削減に力を入れてしまった可能性もあるのかも。

 直義派が復権しているところに、かなり不思議な力学が働いていると感じた。
 畠山国清の乱で力を損ねた畠山一族が、京都に移ってから力を伸ばしたことも同様だ。
 権力者については敗者復活の可能性が残された時代であったらしい。さすがに南朝勢力は盛り返せなかったが。

関連書評
図説 室町幕府 丸山裕之
享徳の乱〜中世東国の「三十年戦争」 峰岸純夫

図説 鎌倉府
図説 鎌倉府
カテゴリ:日本史 | 20:13 | comments(0) | trackbacks(0)

廃城をゆくベスト100城 イカロスMOOK

 日本100名城とは違って、近世城郭は少なく、「廃城」らしく破却の跡が残る城も多く紹介されている。
 変わったところでは古代山城が二つあげられていた。なお、北海道のチャシ、沖縄のグスク、朝鮮半島の倭城は出てこない。

 縄張図や写真を使った見所の紹介もさることながら、調査報告や城の来歴を簡単に紹介しているところが良かった。
 何となくその城が歴史の中で果たした価値がみえてきた。
 女性が落城時に井戸に飛び込んだ伝説がある城で、実際に井戸の底を調べて人骨がないことを確認した城があるんだな……調べた人は精神的に大変だったろう。
 ガチの考古学者はあまり気にしないイメージもある。

 戦国時代の山城であっても石垣の残されている城が多くあって、ちょっと前のイメージに変更を迫られた。さすがに畿内の例が大半みたいだ。
 自分が行ったことのある城は5つくらいだった。本書の中にも書いてあるが、近くの行きたい城を調べるときの参考にして、さらに詳しい情報はいろいろ当たるといいだろう。
 あまりに下調べに囚われすぎて、訪問に踏み切れないのでもなければ。

廃城をゆく ベスト100城 (イカロス・ムック)
廃城をゆく ベスト100城 (イカロス・ムック)
カテゴリ:日本史 | 20:31 | comments(0) | trackbacks(0)

考古学から学ぶ 古墳入門 松木武彦

 古墳についての様々な情報を一冊にまとめた入門書。
 図解も多くて分かりやすい。時代によって変化する古墳の姿がイメージできてくる。

 今城塚古墳の説明には宮内庁への皮肉が感じられてニヤリとさせられてしまった。被葬者を明記した文字資料が見つかれば陵墓が見直される可能性が一応はあるらしい……見つかる可能性が比較的高いのは陵墓が発掘調査された場合だろうから、それを許さない時点で考えにくいな。

 前方部が極端に高くなった前方後円墳の存在が強烈な印象に残った。まるでスキーのジャンプ台みたいである。
 逆に後円部の被葬者を空に飛び立たせるための発射台のイメージだったのかもしれないな。

考古学から学ぶ古墳入門 (The New Fifties)
考古学から学ぶ古墳入門 (The New Fifties)
カテゴリ:日本史 | 23:23 | comments(0) | trackbacks(0)

知られざる弥生ライフ 誉田亜紀子

 弥生時代のイラスト概説書。弥生土器にも縄文のついたものがあることをフックに、弥生時代への関心を誘っている。
 マニアックな部分にまで言及していて、戦争で殺害された死体のレポートは、ゆるいイラストで見るのがちょど良かったかもしれない――人骨の写真も出てくるが。
 大量の鏃を打ち込まれた人は、戦闘の結果というよりも処刑であり、呪術的な意味も込めて、ああいう形になったのではないかなぁ。生前に受けた矢か、死後に受けた矢か、鑑定できないことが残念だ。

「卑弥呼の住まい」イラストは大阪府弥生文化博物館の想像復元模型を更にイラスト化しているため、参考にしてはいけない感じがした。あまりにも足場にするものが不安定で、空中に浮いているかのようだ。
 復元模型の制作経緯を聞けば、多少は印象が変わるのかな?

 縄文時代の土偶と石棒は別系統の祭祀だったらしいが、弥生時代の祈りでは男女一対の思想が強くなってきている点も興味深い。両者の関係に何か変化があったのだろう。

知られざる弥生ライフ: え? 弥生土器なのに縄文がついたものがあるって本当ですか!?
知られざる弥生ライフ: え? 弥生土器なのに縄文がついたものがあるって本当ですか!?
カテゴリ:日本史 | 10:27 | comments(0) | trackbacks(0)

知られざる縄文ライフ 誉田亜紀子

 縄文時代の最新研究をわかりやすく紹介する本。縄文時代に興味があるのに、学校で習ったことから知識がアップデートされていない人に向いている。

 極一部のシャーマンがつけていたであろう漆塗りの櫛が一般的な装飾品に感じられてしまう描写があったり――別のところではヒスイなどは特別なアイテムだと説明はされているのだが――注意が必要に感じられる部分も見受けられる。
 婿通い婚だった可能性を示しておきながら、交易のついでに嫁入りする女性のイラストがあったりもした。そういう例も普通にあっただろうけど。
 ……あれだけ長い時代と広大な地域を一冊にまとめることの難しさを感じる。

 一番興味深かったのは縄文時代の服作成に掛かるコストで、一日8時間編むとしても1年以上かかるそうだ。
 まぁ、戦国時代でも農民は悪くすれば一生に一着に近い状態だったらしいからなぁ……現代との差がとても大きい分野である。

知られざる縄文ライフ: え?貝塚ってゴミ捨て場じゃなかったんですか!?
知られざる縄文ライフ: え?貝塚ってゴミ捨て場じゃなかったんですか!?
カテゴリ:日本史 | 06:21 | comments(0) | trackbacks(0)

縄文時代の歴史 山田康弘

 縄文時代の歴史を通観しようとする意欲的な文庫。そして、「縄文文化」の呪縛を解き、各地の文化を再認識する。
 個人的には下った時代の「弥生文化」を地域ごとに分類して、そこから「縄文文化」の解体に向かった方が同意してもらいやすい気がする。情報量の関係もあって。

 縄文時代の社会がユートピアだったとは思っていなかったが、結婚が部族主体で行われる政治的意味合いが強いものだったとの解釈には衝撃を受けた。人間そのものが交換財というエグさは古い時代には避けられない……。
 まぁ、縄文時代のはじめほど婿入り婚が多かったみたいで、その場合に交換されるのは男性になるのだが。
 ストロンチウムを利用した人骨の出身地分析はどんどん広がってほしい研究手法だ。人と物の交流が縄文時代を解く鍵になるというよりも、交流中心で見るしかないのかも。

 定住が生み出すゴミや人間関係ストレスの問題が社会を複雑化させる現象も興味深かった。「日本人」が社会で受ける苦しみは、この頃から始まっていたとも言えてしまうかもしれない。

縄文時代の歴史 (講談社現代新書)
縄文時代の歴史 (講談社現代新書)
カテゴリ:日本史 | 12:30 | comments(0) | trackbacks(0)

必見!関ヶ原 監修 小和田哲男 発行 岐阜県

 関ヶ原合戦に絡めて関ヶ原を観光するときに便利なハンドブック。関ヶ原合戦の概要が、それまでの流れまで含めて簡潔に説明されている。また、目立った武将についての説明もある。
 まとめられると島津勢が天下分け目の戦いにおいて私情に囚われる身勝手な連中に思えてきた……小早川勢よりも思い切りが悪いようにすら見えてしまう。島津も最初から迷走しているからなぁ。最後に見せ場を得られなければ、なんと言われていたことか。

 小早川への問い鉄砲はなかったとされると説明しながら、その後の説明では繰り返し問い鉄砲のことが出てくる。
 これでは検証よりもイメージの方が強くなってしまう。
 そもそも関ヶ原合戦の展開自体が疑問をもたれてきているので、流布した通説どおりの方が、関ヶ原の観光にとっては都合がいいのだろうと斜に構えた見方もしてしまった。

 関ヶ原を歩き回るときに巻末資料を利用しなければ、島左近を撃った黒田隊の管六之助の名前がいちばんの収穫かもしれない。

関連書評
戦国の陣形 乃至政彦
フィールドワーク関ヶ原合戦 藤井尚夫

必見! 関ケ原
必見! 関ケ原
カテゴリ:日本史 | 09:15 | comments(0) | trackbacks(0)

新版 縄文美術館 写真 小川忠博 監修 小野正文・堤隆

 縄文時代の出土品は幅広い。ひとつの遺跡、ひとつの地域、ひとつの時代に固まっていないこともあるのだろうが、同じ縄文土器でも非常に多彩なものが収録されていて感心した。
 他に例のない「作品」も多くあることに注意が必要だが、同時に土器以外の大半が朽ちてしまった生活用品があったことも意識すれば、それなりに物のある生活をしていたのかもしれない。
 これなら定住生活にもなると納得する。

 豪華な土器は特別なときだけで、普段は質素な土器を使うような発想がなかったらしい点が気になる。おそらく、自分で作ったものだから、そういう使い方になるのか?

 モースが縄文土器の命名者であったり、土器に残った指紋から現代の指紋鑑定のヒントをもたらしていたり、改めて偉大さをみせつけていた。時代もあるのかもしれないが、凄い人だ。

関連書評
ここまでわかった!縄文人の植物利用 工藤雄一郎/国立歴史民俗博物館 編
日本考古学の原点〜大森貝塚 加藤緑
縄文の女性シャーマン カリンバ遺跡 木村英明・上屋眞一

新版 縄文美術館
新版 縄文美術館
カテゴリ:日本史 | 20:05 | comments(0) | trackbacks(0)

歴史家と噺家の城歩き〜戦国大名武田氏を訪ねて

 中井均・春風亭昇太・斉藤慎一
 山梨県で五つの城を、城郭研究家の二人と城巡りを趣味にする噺家が巡検したところを書き起こした本。タイトルになっているのは躑躅ヶ崎・要害山・白山城・新府城だが、新府城の前にみた能見城のあつかいも大きい。歴史群像では能美長塁の名前で取り上げられていた土木構造物だ。
 おそらく明らかに武田氏の造ったものではないため、本のタイトルにそぐわなかったこともあってか、新府城の章に組み込まれている。あと、未完成だった新府城で話すことが少ない。

 あーでもない、こーでもないと話し合って、それぞれの城をみていくのだが、「正面」「築造者」あたりの議論は必ず出てくる。
 正面は現代人が囚われているだけで当時の人には、強いこだわりはなかった可能性はないのかなぁ。それはそれで議論を投げている?
 築造者については杉山城問題を知った後では慎重になってしまう。しかし、何も言えないのも困ることも理解できる。確証が得られる山城は少ないだろうし、困ったものである。

 正直、話の内容については理解の追いつかないところがあったけれど、城関係の復元イラストを見直してみたい気持ちにさせられる本だった。

関連書評
愛知の山城ベスト50を歩く 愛知中世城郭研究会・中井均
三重の山城ベスト50を歩く 福井健二・竹田憲治・中井均 編

歴史家と噺家の城歩き (戦国大名武田氏を訪ねて)
歴史家と噺家の城歩き (戦国大名武田氏を訪ねて)
カテゴリ:日本史 | 22:38 | comments(0) | trackbacks(0)
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