古墳空中探訪[奈良編] 梅原章一 今尾文昭・解説

 奈良盆地に存在する多くの古墳を小型機で空中撮影した写真集。1970年代の写真がふくまれており、昔の奈良盆地の姿まで分かる。いくら史跡が豊富な奈良盆地といえども時間が止まっているわけではない。
 開発もあり、古墳の整備もあり、昔からここに住んで古墳を巡っている人には価値の高そうな本だった。
 奈良にほとんど足を踏み入れたことのない自分としても、疑似的な土地勘が養われる感じがした。

 黒塚古墳や藤ノ木古墳など重要な出土品で有名な古墳がしっかり撮影され、コラムで詳しく解説されている点もよかった。
 遺跡を学ぶシリーズでも著者の撮影した空中写真をそれと知らずに見ている予感がする。

 前方部の先端(濠のある場合は、濠を挟んだ位置)に拝所が作られていることも空中写真だと分かりやすくて印象的だった。深い緑に包まれた姿は昔のものではないが、灰色の石に覆われた姿だと町にとけ込んで全体的な配置は観察しにくいかもしれない。

関連書評
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筑紫政権からヤマト政権へ〜豊前石塚山古墳 長嶺正秀

古墳空中探訪 奈良編
古墳空中探訪 奈良編
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幕末明治の江戸城 平井聖・監修 浅野信子・解説

「現状比較 地図と写真で見る」がタイトルの頭についている。
 明治維新直後、荒廃する江戸城の姿を憂えて写真撮影をおこなった蜷川式胤という立派な人物がいて、彼の江戸城写真(多くが彩色されている)をメインにして若干の写真を加えたものが収録されている。
 地図で視点の方向を表示し、同じアングルから現在の写真も載せているので、非常にわかりやすい。かつての面影を残している場合は、石垣や土塁、濠のおかげで構造物はかなり貴重である。
 たまに門が残っていて重要文化財にされてはいる。

 後半では政府の陸軍が内乱にそなえて整備したのではないかという物騒な経歴をもつ江戸城周辺の地図が収録されていた。
 ほとんどの地域が大きく様変わりしていて、写真では激変していても江戸城の方がまだ落ち着いていると感じられた。関東大震災に東京大空襲と町の姿を一変させる出来事があったことも意識できる。
 明治時代から動いていないイギリス大使館が地味に凄い。なにが起こったらイギリス大使館が動くことがありえるだろうか……核攻撃かな。

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日本の名城〜城絵図を読む 別冊歴史読本
鳥瞰イラストでよみがえる日本の名城 西ヶ谷恭弘・荻原一青

現状比較 地図と写真で見る幕末明治の江戸城
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写真家大名・徳川慶勝の幕末維新〜尾張藩主の知られざる決断

 NHKプラネット中部 編、(財)徳川黎明会 監修
 幕末の政治情勢に大きな影響を及ぼした徳川慶勝の特集本。西からの軍勢を防ぐため尾張に配置されていたのに、西軍に寝返って東海道筋の大名を調略しまくるとは、関ヶ原の戦いにおける福島正則と同じことをしている。
 尾張に配置された大名は狙い通りには動いてくれないようだな……。

 慶勝の兄弟は、高須四兄弟と知られて、それぞれ大きな役割を果たしていた。対談で出てきた大河ドラマに高須四兄弟はよさそうだ。
 四人の集合写真は55歳、44歳、33歳のゾロ目だったから記念に撮った気がする。48歳は仲間外れ。

 1851年の尾張藩藩政改革で藩主が使える御手許金を年1万9千両から200両に切り詰めたことは、お仲間の蘭癖大名が趣味で藩の財政を傾けているのに比べて偉い。

 貴重な写真を残したことでも慶勝の役割は大きかった。でも、金鯱を鋳つぶして政府の資金にしてくれなんて、言ってほしくなかったな。現実には名古屋城も金鯱も(そのときは)遺ってよかった。

関連書評
幕末戦史 歴史群像アーカイブvol.12
カメラが撮らえた会津戊辰戦争 「歴史読本」編集部・編
輪中と治水 岐阜県博物館友の会

写真家大名・徳川慶勝の幕末維新―尾張藩主の知られざる決断
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近世村人のライフサイクル 大藤修 日本史リブレット39

 江戸時代の村に生きた人々のライフサイクルを宗人門別帳などの人口データ研究をふまえて描き出したリブレット。三行半などで女性の立場がある程度、強かったという考え方に対して、否定的な分析がなされていたりして江戸時代への幻想が打ち砕かれる面がある一方で、子育てや老衰者の世話は家長に責任があるとされていたと説明しており、近世観への見直しが迫られた。

 小規模農家が徐々に権利を獲得していたり、若者の集まりが休日を増やさせていたり、興味深い事例があった。「明治や戦後に人権は上から与えられた」という考え方を修正できるかもしれない。
 ただ彼らが直接的に権利を獲得した相手は公儀ほど大きくないのだが。

 子孫に家を継がせ祖先として祀ってもらえる立場になって初めてライフサイクルを完結させられるという古代中国の貴族みたいな考え方が、農村にまで広がっていたことは覚えておきたい。

関連書評
伊能忠敬〜日本をはじめて測った愚直の人 星埜由尚

近世村人のライフサイクル (日本史リブレット)
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江戸大名のお引っ越し〜居城受け渡しの作法 白峰旬

「12回引っ越した家もあった!」と表紙についている。譜代大名の方が転封が多くて驚くほど多くの「引っ越し」を経験している。これは幕末における譜代大名の幕府に対する忠誠心に影響はあったのだろうか?
 その分析はなかったけれど、転封が幕府にとって非常に重要な意味をもったセレモニーであったことは詳しく分析されていた。大名たちの城はあくまでも幕府の持ち物であって、そこを押さえている大名は幕府から一時的に城を預かっているに過ぎない。
 巨大な外様大名に対しては名目的な部分もあるが、譜代大名に対しては厳しく貫かれている原理だった。外様大名も改易時の城受け取りからは逃れられない。

 徹底的な事前打ち合わせによって、引っ越しそのものは短期間で完了していることも興味深い。現代の打ち合わせも無駄に長ければ、実行もやたらと時間が掛かる官僚の仕事と比較してみたくなってしまった。
 先格と呼ばれる先例主義が強かったことも間違いないが。

 巻末近くにある大名の「居城」と「居所」一覧も、とても興味深い。実高は幕府にかなり把握されているんだな。前田家の実質160万石は流石だった。利家が秀吉没後に家康と睨み合っただけのことはある。

関連書評
戦国大名の兵粮事情 久保健一郎 吉川弘文館

江戸大名のお引っ越し (新人物ブックス)
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藤原良房〜天皇制を安定に導いた摂関政治 今正秀

 日本史リブレット015
 王天門の変など政変があいつぐ時代に権力を握っていたため、邪悪な人物と目されることの多かったらしい「最初の摂政」藤原良房の時代とその前後の流れがまとまっている。
 彼が謀略家でなかったのなら、政変の数々をよく切り抜けたものだと感心する。弟の良相まで関わっているのだから、ちょっと対応を間違えれば自分にまで延焼していたはず。

 摂政が必要とされたのは、藤原氏が外戚として権力を握ったため、持統天皇たちのように皇族の皇后がリリーフピッチャーの女性天皇になることができなかったからだとする説が興味深かった。
 それで位階をあげているので身から出た錆とは違うかもしれないが天皇と藤原氏の関係が古代日本の政治に強い影響を与えていたことが伺えた。

 戦前の政治バイアスが掛かった評価は藤原良房についても当てにならないようだ。

関連書評
さかのぼり日本史9平安〜藤原氏はなぜ権力を持ち続けたのか 朧谷寿
京都時代MAP 平安京編

藤原良房―天皇制を安定に導いた摂関政治 (日本史リブレット人)
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伊能忠敬〜日本をはじめて測った愚直の人 星埜由尚

 日本史リブレット人057
 日本で10番目に業績を知られている人物というデータもある伊能忠敬の伝記的リブレット。戦前に創られた人物像から伊能忠敬を解放して、実像に迫っている。
 私財を投じて日本の測量に挑んだのは立派なことで、伊能家が45億円の資産を蓄えていたと言っても、なかなか真似できることではない。現代の日本の富豪をみていると、特にそう思う(札幌の寄付しまくっている不動産業の人みたいな例もあるけれど)。

 地球の大きさを割り出すために緯度の一度を正確に測定することが当初の目的で、そのための方便に列強が迫る蝦夷地の測量を持ち出したことがすべての始まりだったが、それが分かってからも測量を続けたのだから日本に必要な事業であると強く意識していたに違いない。
 体制の整った後半に測量された西日本の方が緊急性の高かった蝦夷よりも詳細に測量される結果になったのは皮肉だ。まぁ、蝦夷については伊能忠敬の後継者たちも測量しているので問題ない?
 最後の江戸の測量によって、それまでの測量データを正確につなぎ合わせることが可能になったのも面白かった。

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図説 世界古地図コレクション 三好唯義・編
近世商人と市場 原直史 日本史リブレット88

伊能忠敬―日本をはじめて測った愚直の人 (日本史リブレット人)
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織田信長〜近代の胎動 藤田達生 日本史リブレット人045

 織田信長を天下を見据えた改革者と評価する一方で、家臣の心理を読み損ね謀反でやられたと下げもするリブレット。織田信長本人よりも足利義昭や明智光秀、羽柴秀吉などのライバルや周辺人物にスポットライトが当たっている時間が長い。
 原本が博物館の所蔵になった光秀の書状から本能寺の変の真相に迫ってもいる。

 光秀を準一門衆として重用していたと思ったら、純一門衆に近国を与えるためにお払い箱にする流れだったかもしれないとは、信長も嫌な権力者だ。
 荒木村重の反乱からあまり学んでいない?
 秀吉も自分に子供がいないことが強みだったのを忘れて、秀頼への相続に執着して豊臣家を滅ぼすし、絶対的な権力を握ってしまえば有能な部下に頼もしさよりも疎ましさを覚えるものなんだろうな……。

 だが、信長は中央集権を志向した。部下の助けが必要な強者が共存する日本を志向せず、部下が邪魔になる日本を。ある意味で本能寺の変への方向性は天下布武を決めたときに定まったのかもしれない。
 もちろん、地方分権ルートなら織田家が命脈を保った保証もない(滅んでいないが)。

関連書評
安土〜信長の城と城下町 滋賀県教育委員会・編著
天下布武の城〜安土城 木戸雅寿

織田信長: 近代の胎動 (日本史リブレット人 45)
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カテゴリ:日本史 | 12:34 | comments(0) | trackbacks(0)

飢餓と戦争の戦国を行く 藤木久志 読みなおす日本史

 衝撃的な緊急避難。過去の日本には飢饉の際には、きちんと養う代わりに人を奴隷として購入していいという超法規的な風習が存在していた!
 そんな衝撃的な導入からはじまるサバイバルの時代を描いた一冊。

 著者のあつめた資料によって作られた年表から、毎年日本のどこかで飢饉が起こっていて社会情勢が非常に不安定だった様子がうかがえる。
 それが応仁の乱につながっていくという、トップダウンじゃなくて、ボトムアップからの政治と戦乱の視点を提供している。
 とかく非難されがちな足利義政の御所造営が、難民対策の雇用創出策だった可能性が指摘されていて、目から鱗が落ちた。
 飢饉で食べていけなくなった地方の農民も都市に出れば食べていける可能性がわずかにあったらしい。しかし、もちろん都市が養える限界があるし、飢饉が広域すぎれば自然と共倒れになる。

 飢饉が理由で戦乱が広がり、そのせいで耕作放棄地が増える負のスパイラルについては、よく脱出できたものだとひたすら感心するよりなかった。
 正直に言って、武田氏や上杉氏の略奪旅行は、その場しのぎすぎる。領土が増えても、そのため領土のどこかが飢饉になる確率があがって、さらなる戦争が必要になったりする地獄もありえる。
 名将と呼ばれる戦国大名でも、いつも必ず優れた戦略をもって軍事を行えていたと考えてはいけないのかもしれない。

関連書評
一揆の世界と法 久留島典子 日本史リブレット81
戦国大名と分国法 清水克行

飢餓と戦争の戦国を行く (読みなおす日本史)
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カテゴリ:日本史 | 19:46 | comments(0) | trackbacks(0)

一揆の世界と法 久留島典子 日本史リブレット81

 江戸時代の百姓による一揆ではなく、中世のさまざまな階層の人々によって結ばれた一揆について主に取り扱ったリブレット。

 タイトルにもある「一揆の法」が、下手な大名の分国法(結城氏や伊達氏のことだーーっ!)よりも整っているように見えた。それは一揆が目的を明確にしていて、一揆契状の内容もそこに集中できているからだと思われる。
 それでも、これらの法を作った人々の賢さは疑いようがない。

 伊賀や甲賀の惣国一揆は著者の注目度が高く、中小領主による領域支配のための一揆という新鮮な知識を知ることができた。
 いくら日本中が分裂していた時代でも、ある程度のスケールをもっていないと、百姓の逃散や犯罪者の移動に対応できない。問題への対応を迫られた国人たちの苦労が想像できた。
 まぁ、著者も指摘しているように戦国時代の日本全体で同じ方法が採られていたと受け取ってしまうのも早計であり、一揆の意外な一面が印象的だけに気をつけなければいけないところもあった。

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戦国大名と分国法 清水克行
戦国時代の天皇 末柄豊 日本史リブレット82
戦国時代、村と町のかたち 仁木宏 日本史リブレット26

一揆の世界と法 (日本史リブレット)
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