大東亜の矛―ニューギニア航空戦― 林譲治

 弓家参謀の技術にしか興味がない態度に感心していたので最後の出来事には失望した。
 ヘリコプターマニアと化した弓家参謀はヘリコプターさえあれば美少女がどうなっても心が痛まないのか!ある意味でマニアの鑑だな……。

 2巻では倭国内部での政治抗争が激化していることが示されて、アメリカ軍との戦いは片手間になってしまう。
 いったい何と戦っているのか、何と戦うべきなのか、よくわからなくなってくる。悪い奴がいて、そいつを倒せば解決するほど、問題は単純じゃないのだろうな。
 史実の戦争ならすぐに理解できることも、フィクションの国家についてだと幻想を抱いてしまいがちだ。

 倭国については平行世界の日本に思える情報がそろってきた。しかし、人口10億を支配しているのに人材不足とは……?
 高度な技術と人口の少なさで、不思議の海のナディアを連想していたが、アトランティスよりは土台がしっかりしているようだ。

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大東亜の矛 ニューギニア航空戦 (朝日ノベルズ)
大東亜の矛 ニューギニア航空戦 (朝日ノベルズ)
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大東亜の矛―ソロモン諸島の激闘― 林譲治

 謎の倭国から送られてきた二隻の空母、亜山と偽山。ミッドウェー海戦で大打撃をうけた日本海軍はこの二隻を駆使して米海軍と戦おうとするが、彼らの前には他にもソロモンの悪魔と呼ばれる謎の生物が立ちはだかるのであった……。

 非常にSF要素の濃い架空戦記小説ではなく、架空戦記要素の濃いSFか。謎の国家「倭国」とのファーストコンタクト的な要素や、自己進化する生物が出てくる。
 ソロモンの悪魔こと弾魔は同じ作者のSF小説に出てきた「ファントマ」を連想させた。

 先進的な技術を持つ倭国から兵器を供与された日本軍はアメリカ軍を罪悪感を覚えるほど圧倒的になぎ倒していく。
 いくらアメリカと言えども、これほどの技術力差は苦しい。物量が十分に利くまでの状況には至っていないし、そうなってからも多大な犠牲を強いられるはず。

 ソロモンの悪魔を倒した後の歴史がどんな方向に展開していくのか気になるところだ。あと二組のロマンスの行方も。

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大東亜の矛 −ソロモン諸島の激闘−
大東亜の矛 −ソロモン諸島の激闘−
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コロンビア・ゼロ〜新・航空宇宙軍史 谷甲州

 第一次外惑星動乱から40年、航空宇宙軍史の新刊が出てから22年。非常に長い時間を経て、ハードSFの宇宙が帰ってきた。
 今回の舞台は第二次外惑星動乱……第一次外惑星動乱では早々に降伏したタイタンと前後方トロヤ群が主力になって演じられる真空を挟んだ戦闘である。懐かしの惑星配置図はないが、木星を矢尻、土星を矢羽根とした弓矢が地球を狙っていると考えれば位置関係は想像ができる。

 第一次外惑星動乱の展開からイタリア的存在だと思っていたタイタン軍に気合いが入りまくっていて意表を衝かれた。おそらく航空宇宙軍にも、どこかでタイタン軍をあなどる気持ちがあったのだろう。
 だが、タイタンが降伏しても木星に所属を変えて航空宇宙軍への抵抗を続けた仮装巡洋艦もいる。
 やはり甘くみてはいけない存在だったのだ。

 本書では戦争の間の小休止にすぎなかった平和な時代におこなわれていた外惑星での軍事技術開発が描かれる。襲撃艦ヴァルキリー、巡洋艦サラマンダー、ラザルス、人工知能のソクラテスなどの亡霊がつぎつぎと蘇り、航空宇宙軍に牙をむく(ソクラテスは航空宇宙軍側だった。人工知能シュルツ・ソクラテスと考えるべきか)。重要性では新開発度の高そうな重力波センサが最大かもしれないが。
 最終章で航空宇宙軍の軍港コロンビア・ゼロを攻撃した仮装巡洋艦を自分の中で「バジリスク供廚噺討咾燭なってしまったが、サラマンダーやヴァルキリーとの合成獣でもあるので「キマイラ」がふさわしい艦名かもしれない。
 下手をするとゾディアック級みたいなクラス名になりかねない空気すら感じる。40年前の主力艦の方は一気に4隻が葬られたが……。

 第一次外惑星動乱では失敗した奇襲の夢をふたたび追って今度は成功させるとは執念である。
 できれば軍令部も完全に破壊していて、未来が完全に予測不可能な展開にしてほしいけど、分散しているから難しいだろうなぁ。同時多発攻撃と言っても地球上や月の地下までは攻撃できない。
 またSGがブラックホール企業の社長みたいに暴れ回ることになるのか……予防戦争の噂もSGならやりかねないというよりも、第二次外惑星動乱の情報をもっているSGならやるに決まっていると確信しちゃうからなぁ。
 天王星系のエリヌスを謀略で占領して、むりやり汎銀河連合を早期に発見しようとする奴なのだから、タイムテーブルを有利に進めるためなら外惑星への先制攻撃も辞さない。実にダメな信頼感がある。エリヌスでの怪しすぎる行為がなければ、タイタンも危険な賭けに出てこなかったのではないか。
 しょうじき、仮装巡洋艦があらわれるまで、コロンビア・ゼロの悲劇は航空宇宙軍による自作自演の謀略ではないかと疑っていた。

 今回は兵器開発で航空宇宙軍が不利に立たされている模様。第一次外惑星動乱では外惑星連合側がけっこうグダグダだったけどね……臥薪嘗胆の言葉通りだな。
 ただロボット兵器の活用は最終的にはタナトス戦闘団ほど怖くない感じもする。まだまだタイムラグの問題を解決し切れていない。
 ギルガメッシュ要塞で出てきた兄弟は、兄がロボットで弟が生身というマヤの息子たちと同じ構図になるものと思っていた。残念な結果だわ。
 そしてマリサ・ロドリゲスはタナトス戦闘団のロッドの子孫である以上に、ヴァレリア・ファイルのレティの子孫か。あの二人が子孫を遺していたと感じて、心が温まった(氷原での心をコピーした心なき戦闘の方は寒いにも程があったけど)。

 今までの航空宇宙軍史を引き継ぎながら、最新の惑星探査の結果が取り入れられているところも楽しかった。そのせいで「メタンの大気を燃料にしていた」タイタンの戦闘機はゴニョゴニョ……な部分があると思われる。
 記憶力が怪しいので、これまでの作品をすべて読み返したくなってくる。

 最終的には金食い虫にしか見えなかった外宇宙探査の技術を航空宇宙軍が戦争用にスピンアウトして勝利すると予想。エリヌスはまたもや物資不足に苦しめられるのかな……。

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コロンビア・ゼロ: 新・航空宇宙軍史
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宇宙戦争1945 横山信義

 「火星人」は太陽系の外側からやってきた存在だった!そんな彼らの母船が地球軌道に乗るのを防ぐために、人類は総力をかけて制動機の存在するボルネオ島を攻撃する。
 世界各国の艦隊が協力し、最新鋭の決戦機B-29が無数に翼を連ねる。とてつもな兵力が「火星人」の先遣隊に叩きつけられた。

 結果は友情・努力・勝利。
 なのだが、人類の作戦に疑問を覚える部分もあった。冷却水パイプへの攻撃なら艦隊にも可能だったのではないか?取水口に対してなら雷撃も有効と考えられる。
 それなのにすべての攻撃を航空隊にまかせて海岸に遊弋していた事情がわからない。ちゃんとダメな理由があって説明を見落としたのかなぁ。
 「火星人」が最初からすべての戦力をボルネオ島に集中していたら突破はもっと難しかったかもしれないが、人類も戦力を結集しやすくなるので微妙なところだ。ただ、ドイツやソ連まで協力する体制を作るのは難しかったかもしれない。「火星人」に負ければ良くて奴隷化、悪ければ絶滅ってロシア人にとってはドイツ人との戦争でも変わらない……。
 本国も植民地も「火星人」に征服されているオランダが気の毒……人類同士の戦争でも結果は同じなんだよなぁ。中国や中南米諸国が明確には参戦していないのが残念だった。どちらも航空隊の派遣ならできるはずなのだが。

 最初は無敵だったトライポッドが気がつけば戦闘機の37ミリ砲で戦闘能力を奪われる状態になっているのも弱体化に感じた。何世代もかけて宇宙を渡ってきた関係(コールドスリープしていた可能性も示唆されているが)で、「火星人」も戦争には熟練していないようだ。
 地球の軌道にとどまれない腹いせに地球を破壊する爆弾を落としてこなくて本当によかった。中途半端に減速してしまったから「次の目的地」があったとしても到達することができず、滅亡まで宇宙を放浪することになるかもしれない。それはそれで恐ろしいことだ。

 「火星人」との戦いを通じて、人類は力をあわせることを学んだ。しかし、共通の敵は失われてしまったわけで、これを機に世界平和を達成できるかは未知数である。
 できなかった場合に領土内に火星人の技術を確保できていない日本は不利になるかもしれない。本土を攻められなかった僥倖が裏目に?

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第二次宇宙戦争 マルス1938 伊吹秀明

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宇宙戦争1945 (朝日ノベルズ)
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宇宙戦争1943 横山信義

 人類の反撃がはじまった!
 日米が火星人の占拠するフィリピンのルソン島に二度にわたる攻撃をしかけ、ついに宇宙戦争ではじめての勝利を得る。多大な出血を強いられる勝利であったが、代わりに得たものも大きかった。
 何よりも大きなものは、人類同士たすけあう信頼関係であろう。臭い話だが「真実」だ。

 火星の兵器体系はかなりいびつであり、何よりも熱戦砲の射程と連射性能に制限がある。この辺り技術バランスよりも「原作縛り」で性能が決まっている関係もありそうだ。
 おかげで人類はなんとか勝利を得ているわけだが、「次の戦争」はどうなることやら……さすがに火星まで攻め込むことはできないし、コミュニケーションの取れない相手に終戦の方法まで考えなければいけないんだよなぁ。
 それは人類の叡智を結集する必要があるわ。

 火星人の脅威を前にアメリカが新兵器を矢継ぎ早に送り出している。この調子で核兵器が火星人相手に使われるのか、気になるところだ。最悪の場合はボルネオ島の熱帯雨林が消滅する……地球への降下を許してしまった以上は、犠牲なくして勝利なしである。

 FSに対空砲をつぶされながら戦う戦艦の姿に著者のデビュー作「鋼鉄のレヴァイアサン」を思い出した。ヴァツーチンがいればトライポッドなど……!?

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宇宙戦争1943 (朝日ノベルズ)
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宇宙戦争1941 横山信義

 41年ぶり二度目の火星人襲来!イギリスが各国に秘密にしていた火星人の襲来が第二次世界大戦の最中、日本が真珠湾を奇襲するタイミングで行われる。
 おかげで米海軍は壊滅を通り越して、重油タンクとオアフ島の市街地ごと消えた……生物として違うだけに、まったく容赦がない。
 イギリスもドイツもソ連も国内を襲われており、日本は遠征先で火星人の兵器(トライポッド)と衝突している状況だ。本土が攻められなくて幸運だったと喜んでいるけれど、イタリアも攻められていないんだよなぁ……国力を冷静に分析して、上から順番に攻撃しているだけかも。フィリピンや東南アジアへの侵略が説明できないけれど……そちらを各国が協力して分析する作戦も開始されたので「ファーストコンタクト」モノとしても楽しみだ。
 イギリスはトライポッドを回収して分析できていないのか?伊吹秀明氏による同種の「宇宙戦争勝手に引き継ぎ」小説では各国がトライポッドのコピーに成功して異次元な勢力争いを繰り広げていたなぁ。

 火星人が世界大戦の最中に攻め込んできて人類を一致団結させたのは、戦争で消耗させるメリットよりも、戦争で兵器が発達するデメリットの方が大きいと考えたからか。
 トライポッドは戦艦でしか撃破できておらず(引き替えに交戦した四戦艦はすべて沈没している)FSの略称で呼ばれる「空飛エイ」も体当たりでしか撃墜できないなど、1941年の人類には非常に手強い相手だ。これはもしかして大和大活躍!?
 敵が強すぎるほど強いおかげで日本とアメリカの戦争が「なかったことにされる」くらいの奇跡が起きている。

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宇宙戦争1941 (朝日ノベルズ)
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ファントマは哭く 林譲治

 ウロボロスの波動、ストリンガーの沈黙につづくAADDシリーズの三作品目。体内に埋め込んだコンピューター「ウェッブ」と共生状態にあるAADDの人類がSFしていたが、ファントマとフェニックスのバトルはそれ以上にライトな感じだった。特に理由はないが姫星のビジュアルをアンジェラ・バルザックで妄想した。
 雅垣姫星の実年齢が謎すぎる……都合良く解釈してもらうためにわざとボカしているよなぁ。20代前半と考えるのは、無理があるか。
 知識は足りなくても地球規模をもった組織のトップに立つだけの知能をもっていることをファントマとの戦闘で魅せてくれた。けっきょく、「第二の安藤」って感じに落ち着いている。作間も出世しそうだ。
 GLAがドラゴンネストに突きつけられた現実には笑ってしまっただけに、終盤の活躍は意外だった。

 時間の概念も個体の概念もない知的生命体ストリンガーの描写は書いていて頭が混乱しないのかと感心する。ドラゴンネストが生まれた経緯は高い技術をもった彼らも失敗することを示しているが、個の概念がないために「誰かが責任をとる」ことができないのはストリンガーの弱点だろうなぁ。
 人類側は逆に責任をとりすぎるカリスマが生まれてしまいそうな危険に晒されていたわけだが。

 登場人物に名前が紫○が三人もいて、けっこう混乱の原因になっている。四作目では減っていると思うけど……。

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ファントマは哭く (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)
ファントマは哭く (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)
カバーイラストが緒方剛志ということに驚いた。メカだけだが確かにタッチは緒方先生だ。
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火星の人 アンディ・ウィアー 作/小野田和子 訳

 よし来たぞ。アクシデントだ。ヒャッホー!RTG万能説!!ダクトテープ万能説!!万能接着剤万能説!!!
 読んでいるうちにテンションがおかしくなる火星サバイバルSF。火星に一人残されたぼくらのマーク・ワトニーの奮闘を描く。限られた資源を駆使して火星で唯一の人命をつなごうとする彼の戦いの結末は。

 定期的にアクシデントは起こるものの、一つのアクシデントを解決できないでいる間に新しいアクシデントに遭遇することは回避している。それがかなり重要な印象を受けた。まぁ、マクロな目でみるとそうでない場合もあるのだが。
 ワトニーが乗ってきたマルス3は、三番目の有人火星探査計画であり、ちょうどアポロ13が三番目だったことに似ている。対処の工夫も似たところがあって、ありあわせの材料で必要なものをいろいろ作っていく様子が楽しかった。
 火星で農業をはじめるのには驚いた。けっこう簡単に土づくりができてしまっているが、実際にやったらどうなるのだろう。ハブの内部に農業が可能な光が溢れていることが後半までイメージしにくかった。ベッドの構造も最初のうちは分からなかったなぁ。

 スキャパレリ・クレーターへの旅では火星名物の砂嵐にも遭遇していて生き残りには相当の運が必要だったことも実感できた。農業中にあれが起きてもアウトだったわけで毎日深層心理で不安を感じていたはず。まぁ、ほぼ真空を隣にしての生活は不安なことばかりだ。

 それに圧倒されないワトニーのジョークセンスがすばらしかった。一人称パート、そして孤軍奮闘がおもしろすぎて、NASAと通信ができたときには物足りなく感じてしまったものだ。
 そこらへんの不満も巧みに解決されていた。

 それにしても気になるのはハブに残されたバクテリアたちである。大半は好気性だと思うが、根性で生き残って火星に広がる可能性はないのだろうか?
 本当にそうなったら細菌的な意味でマーク・ワトニーの星になるな。火星の人じゃなくて、人の火星に。

関連書評
火星縦断 ジェフリー・A.ランディス:火星の人の解説でも紹介されているが、火星上の機材を利用することで、この作品を連想した。確認すると訳者が同じである。小野田和子氏をチェックしていると、火星SF好きは得をするかもしれない。

火星の人 (ハヤカワ文庫SF)
火星の人 (ハヤカワ文庫SF)
カテゴリ:SF | 00:06 | comments(0) | trackbacks(0)

タイタニア1〜疾風編 田中芳樹

 ビバ二重権力構造。名実ともにトップだと危険が大きい。御輿をかついで美味しいところだけもらっちゃえ。
 そういう存在だと考えるにしてはあまりにも巨大すぎ、宇宙に名を知られすぎた一族、タイタニアの物語。
 頭の歴史解説が重い。重くて歴史趣味があるSF好きでなければ――ネームバリューを無視すれば――読み通せないのではないかと心配になる。しかし、宇宙の主流となる勢力の変遷は興味深いものがある。
 トップに多少は劣っても、二番手のライバルが必ずあるというこの世界の構造は冷戦時代的な価値観を感じる。あるいはローマにとってのパルティアやササン朝ペルシアなのか。アメリカ一極時代が長くなってくると、読者の受け取り方も変わりそうだ。
 まぁ、タイタニアの世界ではタイタニア自身がライバルを望んでいるところがあるので、現在の史実とはちょっと違う。そういえば強いソ連に復活してもらいたがっているアメリカ人テロリストの出てくる映画があったなぁ。

 とりあえず内輪での権力闘争が陰険で、政治劇の色合いが濃い話だった。イドリス卿の若いからこそ若さと相反するような狡猾さが印象に残って仕方がない。
 それに比べてアリアバート卿は無味無臭の水。しかし、実績は絶大だ。登場人物紹介でもアジュマーンの次に来ている。あいうえお順ではなく(年齢順ではあるかもしれない)。
 バルアミーの紹介でエストラードの息子と書きながら、エストラード候の紹介がないことにやるせなさを覚えた。

 個人的には漫画を先に読んでしまったのでキャラクターのイメージがガンテツ先生の絵で固定されている。とくにザーリッシュは忘れがたい。
 漫画ではしっかり描かれていた戦闘の描写が意外と淡泊で、あちらの再評価にもつながった。
 でも、田中芳樹先生の筆によるワイゲルト砲の構造説明にはついつい燃えてしまう。谷甲州ファンクラブで部分的に見覚えがある兵器だが。

 ところで、241Pのエーメンタール市はエウリヤ市の間違いではないのかなぁ。リラたちのことを指していると考えればおかしくはないが、どうしても規模の点ではエウリヤ市だと思ってしまう。
 出版社を変えて出ているくらいだから、エーメンタール市で正しいのだろうな。

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タイタニア1巻 田中芳樹・ガンテツ 漫画版感想
田中芳樹作品感想記事一覧

タイタニア1 疾風篇 (講談社文庫)
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当然のようにセンターを10歳児に譲るこの表紙……
カテゴリ:SF | 23:12 | comments(0) | trackbacks(0)

星界の戦旗-宿命の調べ- 森岡浩之

 アブさんたちが次々と死んでいく。鹸のラストで由々しき事態と受け取っていたものの、ここまで壊滅的な損害を受けるとは予想していなかった。帝都ラクファカールは陥落し、新しい都も門をくぐったすぐ近くにあるわけで、最前線で生産や教育を行わなければならない。
 そのことにメリットがないわけでもなく、新兵器を非常に早いタイミングで投入できるはずだ。襲撃艦のような新顔がまとまった数で投入できれば奇襲効果がある。
 しかし、資源を集めることなど、問題も山積しているので、やはり予断は許されない。実際問題、アーヴが滅びてもなんらおかしくないんじゃないかな?

 皇帝や上皇たちの雄々しい戦いは滅びの美学を求めてのものではなく、後に繋げるためのものだった。完全に生き残りが不可能になった状態でアーヴたちが見せる反応が気になる。
 新しいアブリアルを建造して、誰も追ってこない宇宙の辺境に向けて旅立つかもしれないな。閉じた門を持っていけない点が痛い――急に開かれるかもしれないので――が、ハイド伯国を開国させたことで始まった戦争がアーヴがハイド伯国状態になることで決着するなら整った構図ではある。
 まぁ、戦争が決着するとしても、まだまだ先の話であろう。ラマージュ陛下たちがお隠れになった関係で、かなり性格の悪い――すなわち軍事的素質にあふれる――方々が頭角を現してきたわけで、アーヴがこのまま押し切られる心配はあまりない。
 もっとも、スポールは最後の弱小艦隊を率いることになっても愉しく戦うのだろうな。
 ラフィールは素直すぎるところがあるけれど、参謀長に然るべき性格の人間を配置すれば問題あるまい。 かくしてアーヴ伝統の司令官・参謀長漫才が演じられるのだ!

 反攻が上手く行っても四カ国連合に反撃を仕掛けて滅ぼすまでには相当の時間が必要と思われる。人類統合体の指揮官にセンスはないと思っていたが、竜の卵をほふった手管をみると、どうしてなかなか気の利いた奴がいる。まぁ、個人的感触では一割を占める人民主権星系連合体の人間が考えた戦術という気もするが。
 四カ国連合は単独の国家でないことで多様性を備えている点が、実はあなどれないのではないか。兵器の性能的には取るに足らないハニア連邦が参加したことが今の事態を引き起こしたのだから、銀河を股に掛ける時代になっても戦場の霧は深く、濃厚だ。つまりはそれこそが平面宇宙航法。

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星界の戦旗V: 宿命の調べ (ハヤカワ文庫JA)
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カテゴリ:SF | 11:49 | comments(0) | trackbacks(0)
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