星くずたちの記憶〜銀河から太陽系への物語 橘省吾

 岩波科学ライブラリー252
 隕石は宇宙からの手紙。特にプレソーラー粒子は銀河系からの手紙。
 説明を読んでいてそんなことを感じていたら、著者自身が中谷宇吉郎の雪は空からの手紙を引用していた。科学の文字で読める鉱物という書物は意外と雄弁に宇宙の情報を語ってくれる。
 月の石がそうであるように、未来になればより多くの情報が引き出せる分析機器が開発されるかもしれない。はやぶさやはやぶさ2の功績はそうやって度々思い出されるのではないか。

 下部マントルを構成する鉱物に「ブリッジマナイト」の名前が与えられたことを知った。
 水星探査機メッセンジャーの成果もまとめられていて興味深かった。ついたことはニュースになっても、成果があまり伝わってきていなかった。
 エンケラドゥス内部の水は塩類から90℃までの加熱を受けていることが想定されているんだ。長期間保たれているなら、なかなかいい温度だ――エネルギー源から考えれば保たれていると考えるべきだろうなぁ。
 タイタンや冥王星の話題もあったけれど、ガリレオ衛星はあえてスキップされていた。でも、ちょっとした言及から星のサイズがガニメデ>タイタン>水星>カリストであることを覚えた。ガニメデたちを水星軌道まで持ってきたら、水分は飛んじゃって絶対小さくなるけどなー。

星くずたちの記憶――銀河から太陽系への物語 (岩波科学ライブラリー)
星くずたちの記憶――銀河から太陽系への物語 (岩波科学ライブラリー)
カテゴリ:天文 | 12:45 | comments(0) | trackbacks(0)

星界の報告 ガリレオ・ガリレイ 伊藤和行・訳

 ガリレオ・ガリレイが望遠鏡を製作して天体観測をはじめ、3ヶ月で書き上げた小さな本。コジモ公につかえるための就職活動でもあった点で、マキャベリの君主論にも似ているが、こちらは就職に成功している。

 優れた柔軟な頭脳をもった人が、新しい観測結果を前にして、多くの情報を得られることを本書は教えてくれている。
 実は頭脳だけではなくて、望遠鏡製作能力も優れていて、高精度のレンズを製作して選ぶことが出来たために木星の衛星が観測可能な望遠鏡を誰よりも早く手に入れることができたらしい。

 木星観測に関する記述はスケッチに衛星の配置がつづくもので、読み応えはあまりないが、著者の根気が感じられた。
 四つの衛星周期は、まず一番外側のものを観測して、そこから動きを把握しておくことで二番目に外側のものと見分けて――とやっていたのかな。
 ケプラーが不可能としていたのは、ちょっと早計だなぁ。解説に出てくる同時代人の優れた天文学者として、非常に興味深い存在ではあった。

関連書評
天体観測の教科書 惑星観測[編] 安達誠・編

星界の報告 (講談社学術文庫)
星界の報告 (講談社学術文庫)
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「あかつき」一番星のなぞにせまれ! 山下美樹・文

 中村正人+佐藤毅彦・監修。
 金星気象観測衛星あかつきの旅を、探査機を擬人化した文章で紹介する子供向けの本。声が音波じゃなくて電波で飛んでいることが、どの程度伝わっているのかな。同じ波だからドップラー効果の問題があることが面白い。

 あかつきが誇るセラミックスラスタは、金属コーティングの技術が日本にないから生まれたらしい。コーティングとは溶射のことだろうか。
 セラミックスラスタには耐熱衝撃性に新しさがあると想像した。
 けっきょくセラミックスラスタはあまり使えずに、姿勢制御エンジンで軌道制御をやってのけている。最初から姿勢制御エンジン一本でいけるじゃないかと思ってしまったが、どちらかが残っていれば運用を続けられる冗長性が大事なことは「はやぶさ」の成果からも明らかだ。やっぱり推進の効率は酸化剤を使うセラミックスラスタの方がよさそうだし。

 あかつきが見舞われた熱の問題は擬人化されたことでわかりやすくなっていて、太陽周回の灼熱地獄が終わったと思ったら、金星の日陰にはいることの凍結地獄が待っていた。宇宙は極端から極端で容赦がないところだ。
 金星に到達できない間も、装置の一部を使って太陽の観測をおこなっているあたりは、さすがに転んでもただでは起きない日本の科学者根性が感じられた。
 あと、中村先生には悔しくて噛み締めた奥歯を大事にしてほしい。

「あかつき」一番星のなぞにせまれ!
「あかつき」一番星のなぞにせまれ!
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宇宙探査機 フィリップ・セゲラ著 川口淳一郎・監修 吉田恒雄・訳


 宇宙探査機図鑑の本。探査対象ごとに世界各国の宇宙探査機が紹介されている。日本が三番目の国に数えられている時代が確かにあったことがわかる。
 いまでも無視できる組織とは思われていないが、相対的に存在感が低下しているのは否めない。しかし、あかつきもはやぶさも凄まじいしぶとさである。これで、のぞみが復活できていたらちょっとした伝説になれたのになぁ。

 いまはなきソ連の宇宙探査が興味深い。
 カメラの小型化に関して高く評価される技術を持っていたことが分かった。今のロシアは宇宙探査が少なすぎる。もっとロシアの科学者にもチャンスを与えてやってほしい――日本の未来がロシアみたいにならないと良いが。そう考えるのも贅沢なのかもしれない。

 やはりアメリカは力強く太陽系の遠くまで宇宙探査機を送り込めている。火星での成功がよほど自信を与えているっぽい。ニューホライズンズの冥王星フライバイ以前に出版されたので、その実績が載っていないところは惜しかった。
 太陽観測衛星などに長寿衛星がけっこう存在していて、気になったらWikipediaで調べてみるのも面白かった。

宇宙探査機 (ポピュラーサイエンス)
宇宙探査機 (ポピュラーサイエンス)
カテゴリ:天文 | 21:53 | comments(0) | trackbacks(0)

系外惑星の事典 井田茂・田村元秀・生駒大洋・関根康人

 天文学の世界をさわがせる系外惑星について、さまざまな科学の方向からトピックスをまとめた本。関連するトピックスが文中で紹介されているので知識を有機的につなげながら読める。
 しょうじき、物理学の色合いが濃い部分は難解だったが、わかりやすい部分はとても楽しめた。

 系外惑星の検出方法としてアストロメトリや直接撮像、視線速度、トランジットなど原理から詳しく説明されている。特にそれぞれの方法からわかる情報が整理されている点がよかった。
 トランジット法が想像以上に優秀だった。
 直接撮像法で写されたHR8799の惑星系の写真には感動した。

 注目度の高い生命が存在しうる惑星の話題では、惑星に高い圧力の水素大気を想定すればハビタブルゾーンが大きく広がるというのが興味深かった。生命が存在する惑星のありかたは多様かもしれない。
 でも、水素大気に酸素を放出するわけにはいかないな。爆発しちゃう。

 太陽系の惑星や大型衛星の項目もあり、系外惑星のなかでも特徴的なものは1〜2ページで詳しい解説がされている。
 この部分が実際に存在する見知らぬ世界のイメージを膨らませてくれて一番よかった。夢が宇宙に大きく広がる。

関連書評
異形の惑星 系外惑星形成理論から 井田茂:いまや入門用古典
スーパーアース〜地球外生命体はいるのか 井田茂
銀河系惑星学の挑戦〜地球外生命の可能性をさぐる 松井孝典

系外惑星の事典
系外惑星の事典
8640円!
カテゴリ:天文 | 17:14 | comments(0) | trackbacks(0)

アレクサンドリア E・M・フォースター 中野康司・訳

「眺めのいい部屋」を書いたイギリスの小説家E・M・フォースターによるアレクサンドリアの本。ひとつの都市の歴史を追うに留まらず、この地が育んだ精神世界までもが見えてくる。
 アレクサンドリアの歴史はアレクサンドロス大王に始まっていて、エジプト土着の要素もあれど、ギリシアそして地中海世界とのつながりが強い。
 そんな特殊な位置関係がアレクサンドリアを世界でもまれな都市に育てあげている。

 プトレマイオス朝ははじめの三代が黄金期であって、それ以降は衰退の傾向にあった。ただし、肥満して無気力な夫にして兄弟のかわりに、派手派手しい王妃にして姉妹が表舞台に立っていた。ちょっとだけ応仁の乱時代の室町幕府を連想してしまうあり方だ。
 プトレマイオス二世フィラデルフォスの二つ名が「愛姉王」だと知って近親婚の事実以上におののく。現地のエジプト人はもっとおののいたと著者は言っているが……?

 精神世界に関することでは神と人との距離の問題。それを埋める「方便」のいろいろな発明が興味深かった。なかでもプロティヌスの「一者(ト・ヘン)」「知性(ヌース)」「魂(プシュケー)」の考え方はさまざまな創作に応用されていると思われ、興味深かった。
 いろいろこねくりまわした哲学やキリスト教にくらべると、イスラム教はシンプルで力強いが、退屈という印象を受ける。
 それも20世紀のイギリス人である著者の目を通した場合の印象であることは注意が必要だろう。

関連書評
NHKスペシャル文明の道1〜アレクサンドロスの時代
ムハンマド・アリー〜世界史リブレット人067 加藤博

アレクサンドリア (ちくま学芸文庫)
アレクサンドリア (ちくま学芸文庫)
カテゴリ:天文 | 14:20 | comments(0) | trackbacks(0)

銀河系惑星学の挑戦〜地球外生命の可能性をさぐる 松井孝典

 アポロ宇宙計画と系外惑星の発見。
 ふたつの大転機を経験した著者による惑星学の歴史と現状をまとめた本。ごく最近(2015年)の探査成果についても触れており、この分野においえtリアルタイムで起こっていることが分かる。逆にいえば陳腐化が早そうな面もあるのだが、定期的に似た本を出してくれれば問題はない。

 1995年の系外惑星の発見については、それなりに認識があったけれど、アポロ宇宙船による月面探査が惑星「科」学への道を切り開いたとする著者の視点は新鮮だった。
 アポロ以前の惑星観についてよく知らなかったとも言える。

 水星の内側に想像されていた惑星バルカンのことなど、非常に興味深いが後から経緯を調べようとすると高コストに感じられる知識がまとまっている点はありがたい。

 地球外生命に関する考え方については宇宙起源説に積極的な著者に賛同するまではいかないが、調査が必要なことには強く頷ける。
 細胞が空から降ってくる「赤い雨」という現象については初めて知ったので、とても驚いた。変な病気が発現する可能性も完全に0ではないよなぁ……。

関連書評
スーパーアース〜地球外生命体はいるのか 井田茂
異形の惑星 系外惑星形成理論から 井田茂

銀河系惑星学の挑戦―地球外生命の可能性をさぐる (NHK出版新書 477)
銀河系惑星学の挑戦―地球外生命の可能性をさぐる (NHK出版新書 477)
カテゴリ:天文 | 20:58 | comments(0) | trackbacks(0)

天文学の誕生〜イスラーム文化の役割 三村太郎

 岩波科学ライブラリー173。
 コペルニクスが提唱した地動説はどこから現れたのか。源流であるプトレマイオスとコペルニクスをつなぐ流れを追っているとイスラーム社会にたどりつく。

 アッバース朝ではササン朝ペルシア以来の伝統を受け継いで翻訳事業が行われており、ゾロアスター教のような二元論を論駁していくためにもギリシア哲学の論証的な思考法が重宝されていたのだ。
 ……登場人物が天才ぞろいすぎて圧倒される。厳しく意見を批判される人物であっても、自分が渡り合える気がまったくしない。知の最前線をみてしまった思いだ。

 とりあえずアッバース朝の二代目カリフ「マンスール」の偉大さが印象に残る。神聖ローマ帝国のフリードリヒ二世が模範にしていそうな英主である。
 権力者が学者たちに議論をさせるマジュリスの風習も興味深かった。力で強引に黙らせたり、理論の外側にあるもので丸め込んだりしない社会は文明の発展をもたらす。

関連書評
ヨーロッパとイスラーム世界 高山博 世界史リブレット58
オーロラ! 片岡龍峰 岩波科学ライブラリー243

天文学の誕生――イスラーム文化の役割 (岩波科学ライブラリー)
天文学の誕生――イスラーム文化の役割 (岩波科学ライブラリー)
カテゴリ:天文 | 22:21 | comments(0) | trackbacks(0)

韓国歴史地図 韓国教員大学歴史教育科・著 吉田光男・監訳

 韓国における歴史的な動きを地図上に落とした歴史地図。歴史地図は大好きなので、韓国を中心としたそれが読めておもしろかった。
 日本による(本書では訳者の説明つきで「日帝」と表現されている。ある意味では感覚的に切り離せてしまう)朝鮮の植民地化にはたまらない気持ちにもなる。
 王妃の殺害はまずい……と感じるのも日本的な感覚が部分的に投影されている気がしないではない。ならばなおさら、なぜやってしまったのかと考える。

 古代史の展開は純粋に楽しめて、各王朝の栄枯盛衰が興味深い。新羅は首都の位置が悪すぎるのでは?後の歴史を考えても東側から朝鮮全土を支配するのは難しそうだ。
 そういう感覚では韓国も朝鮮民主主義人民共和国も全土を支配できる位置に首都をおいていると言えなくもないのかな?

 「元冦」に際して「高麗・元連合軍」と高麗を先にならべている点に複雑な心理を感じる。日英同盟みたいに自国を先に出すものだけれど、この場合でも、そうしていいものなのか。

 内政に関しては中国の制度を、中国以上に純粋な形にして取り入れている印象があった。外来の権威を梃子にすることでごり押しが利くのかもしれない(日本人もやるけれど、さらに徹底している?)。
 歴史的な経緯で韓国人は「システム化」が得意そう。こういう特性がサムスンのスマホ事業などに反映されているのかな。

関連書評
朝鮮三国志〜高句麗・百済・新羅の300年戦争 小和田泰経
新・歴史群像シリーズ8 朝鮮戦争〜38度線・破壊と激闘の1000日
東アジア地図帳 今谷明・樋口広芳・石川剛 監修 アイランズ編

韓国歴史地図
韓国歴史地図
カテゴリ:天文 | 12:24 | comments(0) | trackbacks(0)

オーロラ! 片岡龍峰 岩波科学ライブラリー243

 第一線のオーロラ研究者によるオーロラ解説および研究事例紹介書。
 前半はまさにホワイトボードに描いたようなイラストでオーロラ発生の仕組みが説明されており「太陽風が地球の磁場にとらえられてうんたらかんたら」という通説の誤りが正されている。
 複雑な数式は出てこないので物理や数学が苦手な人にも安心。

 でもやっぱり物理や数学に強い方がこしたことはないようで、がんがん理系の知識を駆使していそうな研究事例がたくさん出てくる。
 オーロラに対する三角測量は計算はたいへんそうでも、原理的には理解しやすい部類かなぁ。

 オーロラを3Dで見るためのプロジェクトやそこから発展したオーロラの高さを求める研究など、リアルタイムに近い最新の話がエキサイティングだった。
 一方で、北極圏に旅をするというスタンダードな冒険要素も隠れている。

 巻末にはオーロラが27日周期(太陽の自転速度)で活発になることや撮影に適したカメラの設定などが紹介されていて、実際にオーロラを見に行く一般人にも役立つ情報が載っていた。
 自分は生涯でオーロラをみることがあるのだろうか……と物思いにふけってしまった。

関連書評
時を刻む湖〜7万枚の地層に挑んだ科学者たち 中川毅

オーロラ! (岩波科学ライブラリー)
オーロラ! (岩波科学ライブラリー)
風呂桶から飛び出して全裸で走り回りそうなタイトルだなぁ(凍死しちゃう)。
カテゴリ:天文 | 08:49 | comments(0) | trackbacks(0)
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