学ぶ脳〜ぼんやりにこそ意味がある 虫明元 岩波科学ライブラリー272

 人間の脳は休んでいる間も活動をつづけ、記憶の整理など必要な業務を行っている。ぼんやりしている時間の大切さを、さまざまな科学成果や実例を挙げて訴える。
 そして、「非認知的スキル」の言葉がキーワードとして出てくる。重要性や必要性はよくわかるのだけど、自分が持っているとは思えなくて苦しかった。レジリエンスとか、もうないわ。
 マイナス方向のマインドセットが紹介されても、そこから脱出するヒントはほとんど示されず、やっぱり自分はマイナスのマインドセットなんだなぁ、と実感するだけになってしまうのもしんどかった。
 まぁ、簡単に脱出する方法を見つけていればノーベル医学賞を取っているという話だ。

 繰り返し思い出す記憶が、過去の恥ずかしい経験ばかりじゃなくて、楽しい記憶である人が、この世に存在するとはびっくりだよ。どうも認識が狭かった。

 苦しい状況だからこそ名作を生んでしまったピアニスト、キース・ジャレットのエピソードが興味深く印象に残った。まさに超人。

関連書評
睡眠の不思議 ナショナルジオグラフィック

学ぶ脳――ぼんやりにこそ意味がある (岩波科学ライブラリー)
学ぶ脳――ぼんやりにこそ意味がある (岩波科学ライブラリー)
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寄り道の多い数学 大沢健夫 岩波科学ライブラリー172

 数学コンクールに出題された問題を大量の寄り道をくりかえしながら解説する本、らしい。正直、これが理解できる数学に堪能な高校生を尊敬してしまう。
 もっとも才能だけの問題ではなくて、著者が引用しているティリクレ12歳の言葉「いいえ僕は分かるまで読むのです」が出来ていないせいもある……。

 本書は数学に関わる重要人物の歴史を知ることができる構成にもなっていて、古代から20世紀まで偉大な数学者たちの名前がならんでいる。
 ちょっと昔のルネサンスの数学者であっても生没年がしっかり分かっていることが興味深かった。ヨーロッパにおける数学者の地位は歴史的に高かったのかもしれない(宮廷数学者の話は高校の数学教師から聞いた覚えがある)。

 基本的に難解な話ばかりだが、それらが現代の生活に欠かせない技術を支えていることも説明されており、理解できなくともできるかぎり襟を正して読んだ。

関連書評
アルキメデス「方法」の謎を解く 斎藤憲
面積の発見 武藤徹 岩波科学ライブラリー200
シュメール人の数学〜粘土板に刻まれた古の数学を読む 室井和男

寄り道の多い数学 (岩波科学ライブラリー)
寄り道の多い数学 (岩波科学ライブラリー)
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日本の豆ハンドブック 長谷川清美 文一総合出版

 著者のマメな活動が結実。日本の北から南まで、在来種とよばれる昔から農家で自家採種して育てられてきた豆類を収録した図鑑。
 日本にはまだまだ知られざる豆があるに違いない。せめて自分の周りだけでも道の駅に行ったときに探してみようか。そんな気持ちになれる本だった。

 栽培者の年齢は非常に高齢者が多くなっていて、在来豆の将来が心配になった。次の世代が育てる用意をしてくれているなら、いいのだが。

 数十年、ときに100年を超える栽培歴をもつ豆があることに驚いていたら京都の馬路大納言の数百年つづく農家は次元が違った。
 北海道にもちこまれた豆だけじゃなくて、北海道から本州に入ってきている(戻ってきている?)豆もあることが興味深かった。

 まえがきでは「意識低い系の農家が惰性でつくっている」印象をあたえる書き方をされていたけれど、種苗交換会で入手されていたりして、作物に積極的な人が作っている印象だった。
 そもそも豆ごとの細かい特徴を把握して、その長所を愛さなければややこしい在来豆を作るはずもない。
 コラム的に入ってくる豆料理の紹介もおいしそうでよかった。

関連書評
そだててあそぼう9〜ダイズの絵本 こくぶんまきえ・へん
そだててあそぼう66〜アズキの絵本 十勝農業試験場アズキグループ・へん
そだててあそぼう81〜インゲンマメの絵本 十勝農業試験場菜豆グループ・へん

日本の豆ハンドブック
日本の豆ハンドブック
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広辞苑を3倍楽しむその2 岩波書店編集部 編

 岩波科学ライブラリー270
 広辞苑第7版に対応。広辞苑のトピックから科学的な話題をさまざまに引き出したブックレット。たくさんの著者が参加しており、巻末には経歴と著作の紹介もあるので、関心をもった分野からどんどん読書の輪を広げていくことができる。
 個人的には読んだことのある本を数えて自己満足していたが……我ながら読み過ぎなくらい読んでいた。岩波科学ライブラリーを出している場合は、ほぼ確実に読んでいる。そちらの記憶のダイジェストとしても機能しないでもなかった。

 歯が左右非対称という面白い蛇、背高蛇の著者が経歴で「本当はヘビよりも植物の方が好き」と書いていて、ブリッジしそうになった。せめてヘビに食べられるカタツムリが好きなら分かるけどさ……。

 小笠原姫水薙鳥は名前が優雅すぎる。ヒメがついている雌雄のある動物なんていくらでもいるから命名者は気にしなくて良いし、姫若子といわれた人物もいる。
 ニホニウムは説明がわかりにくいというより、核分裂の図をじっと見る気になれなかった。広辞苑の第8版がでることには新しい元素が生まれているかな?いつか元素の存在安定領域まで到達できれば……!?

 ところで3倍の根拠はどこにあるのかな?定量的にお願いします。

関連書評
時を刻む湖〜7万枚の地層に挑んだ科学者たち 中川毅
クマムシ?!〜小さな怪物 鈴木忠

広辞苑を3倍楽しむ その2 (岩波科学ライブラリー)
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ニッポン貝人列伝〜時代をつくった貝コレクション 石本君代・奥谷喬司

 貝人というかやっぱり怪人である。貝のコレクションに人生をついやした近代の偉人たちを記載した本。貝の写真も豊富に収録し、貝人が関わった本も再現して載せている。
 吉良哲明氏の「夢蛤」からは怖いものさえ感じてしまった。もしも自分が書いた立場だったらデジタルアーカイブ化されるのは、ちょっと恥ずかしいかも……あれくらい情熱を傾けていればそうでもないのかなぁ。
 それよりも記載者名のやらかしが痛い……。黒田氏に献名で自分の名前を間違えられて、名乗りの方を変えたエピソードはおもしろかった。

 櫻井欽一先生には「またお会いしましたね」って気分になった。
 鉱物だけでも凄まじいのに貝類コレクションでも国立博物館に専用の標本室を作ってもらえるほどに凄かったんだ。料亭の親父は仮の姿、しかしてその実体は――。

 高等小学校が採集学歴だったのに京大で博士を取得した黒田徳米氏も印象的な人物だった。そういうところは鉱物に関する櫻井欽一氏に似ている?
 貝業界にも偉大な人がたくさんいて現在に続く足跡を残していることがわかった。もちろん、他の分野でも同じであるに違いない。

関連書評
日本考古学の原点〜大森貝塚 加藤緑

ニッポン貝人列伝  時代をつくった貝コレクション (LIXIL BOOKLET)
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うつも肥満も腸内細菌に訊け! 小澤祥司

 岩波科学ライブラリー267
 人間の感情に多大な影響をあたえる「第二の脳」腸。進化の歴史的に考えれば腸こそが最初の脳であったとも著者は説明している。そんな重要な器官に大量に生息する腸内細菌たちの研究から人類と彼らの関わりが見えてくる。

 とりあえず発酵食品をたくさん食べようと思った――納豆を限度を超して食べ過ぎて腸内細菌の環境がおかしくなってしまった事例があるんだったか。
 生きたまま腸には届かないとの話もあるが、同類の死体を元にしたエネルギーなら、同類の腸内細菌がいちばん利用しやすく繁殖に利用してくれるものと期待する。
 食物繊維もとりたい。
 腸で生産されるセロトニンが直接脳に入り込んでいるわけではないとの説明は、そうなんだろうな。

 赤ん坊の腸内細菌についてはうるさくし過ぎると世の親を追いつめてしまいそう……コアラみたいに子供にうんちを食べさせる動物がいるのもむべなるかな。人間の場合は初乳がそれに近い役割を果たしているみたい。
 研究対象として今でも狩猟採集生活をしている人々の大切さがわかる本でもあった。

関連書評
ゾンビ・パラサイト〜ホストを操る寄生生物たち 小澤祥司

うつも肥満も腸内細菌に訊け! (岩波科学ライブラリー)
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生命ふしぎ図鑑〜発光する生物の謎 マーク・ジマー

 近江谷克裕 訳。
 体裁は子供向けの本なのに内容がおそろしく高度。大人向けの深海魚写真集なんかには、この本よりもやさしい内容のものがたくさんある。
 発光生物からはじめて、いつのまにかGFPを組み込んだ生物を使った研究にまで話が発展していた。アメリカの子供がこういう本を子供向けとして普通に読んでいるなら敵わないなぁ……「何かの間違いで」本書を手に取った日本の子供が将来の生物学者になってくれることを願ってしまう。
 重要人物のひとりに日本の研究者、下村脩氏も出ていることだし――ギネスブックがクラゲの大量採集者をあげるとしたら下村脩氏だという説明にはニヤリとした。

 子供を使って大量の蛍をかきあつめたアメリカの研究者ウィリアム・マッケロイ氏のエピソードも面白かった。なんか業者のマツタケ集めみたいだった。
 GFP組み込みサルが宇宙人みたいでドキリとする。我々が目撃したのはGFPを組み込まれた使い走りの動物だと考えればツジツマが――!?

 ルシファーから来ているルシフェリンとルシフェラーゼの名付け親が「ラファエル」・デュボアというのは面白くて覚えやすいのではないか。ガブリエルとミカエルも使おうぜ。

関連書評
NHKスペシャルDEEP OCEAN 深海生物の世界
恐竜はホタルを見たか〜発光生物が照らす進化の謎 大場裕一

発光する生物の謎 (生命ふしぎ図鑑)
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みんなの放射線測定入門 小豆川勝見 岩波科学ライブラリー224

 福島第一原発の事故以来、一般人にも需要がうまれた放射線測定技能の入門書。元素による違いなどを噛み砕いて説明している。
 ガンマ線がはかれる物は測定しやすいが、ベータ線しか出さない物は測定が容易ではないため出回っている情報も少ない。そういうバイアスが掛かっていることも知ることができた。

 筆者が関心を持っている放射性物質の移動は自分にも興味深く、定「面
」的なマッピングで元素の移動を追跡することには、現実の利益だけじゃなく知的な充足感も与えてくれると思う。

 多くの日本人が放射線測定技術を身につけたら、いつか他国で原発事故が起きたとき、助けに行けるかもしれない。メリットとして思いつくのはそれくらいとも言える……。
 測定機器のメーカーはもの凄い利益をあげているのだろうな。原発事故のときに、そういうメーカーの株を買い込んだ人間もいるはずなどと考えてしまった。

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クマムシ?!〜小さな怪物 鈴木忠
世界に衝撃を与えた日09〜マンハッタン計画の始まりとチェルノブイリ原発事故

みんなの放射線測定入門 (岩波科学ライブラリー)
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原発と活断層〜「想定外」は許されない 鈴木康弘

 岩波科学ライブラリー212
 岩波ブックレット寄りの岩波科学ライブラリー。原子力発電所に関連した活断層の調査があやまった歴史をたどってきており、原発事故によってやっと正す機会が生まれたが、それすらも歪めようとする人たちがいることが分かる……。
「基準を厳しくしたら日本で原発はつくれない」なんて意見を出した人物は「御用学者」の批判を免れないのではないか。科学的に妥当な基準でつくれないなら、つくっちゃダメなのだ。
 喉元すぎれば熱さ忘れるとばかりに、貴重すぎる経験を元の木阿弥にされることを恐れる。

 日本の原発は冷却のために海岸に立地するわけだが、海底にも活断層は存在していてトレンチなどの直接的な調査はおこなえない。
 リモートセンシングの方法はあるものの、この点も問題だと気づかされる内容だった。

 真摯に対策案を考えている著者たちを心の底から応援した。

関連書評
日本の地下で何が起きているのか 鎌田浩毅

原発と活断層――「想定外」は許されない (岩波科学ライブラリー)
原発と活断層――「想定外」は許されない (岩波科学ライブラリー)
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面積の発見 武藤徹 岩波科学ライブラリー200

 古代から面積に向きのついた現代まで。
 面積の歴史を、数学をおさらいしながら追いかける本。縦掛ける横のわかりやすいところから最終的には高校の積分まで発展していった。余弦定理の言葉がなつかしい。
 おそらく二度読むことはないから、しっかり予習の機会に役立てないといけないと思いながら、やっぱり数式を流し読みしてしまう。ちょっと自己嫌悪。

 頭の方は世界中の古代文明について、それぞれの場合の度量衡などを紹介していて、興味深かった。
 「根」が大本の意味のまま使われているなんて明治時代の人間は優秀だと思ったけれど、もっと前から伝わっているっぽい。むしろ、明治時代の人間は無理数あたりの訳でミスをしている?

 新大陸の古代文明における数学も気になってしまったが、文字のあったマヤはともかくインカの面積計算はキープだけから再現できるのかなぁ。文字無しでの到達点が気になった。
 あと「やっぱりアルキメデスはすごい」。

関連書評
シュメール人の数学〜粘土板に刻まれた古の数学を読む 室井和男

面積の発見 (岩波科学ライブラリー)
面積の発見 (岩波科学ライブラリー)
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