生痕化石からわかる古生物のリアルな生きざま 泉賢太郎

 生痕化石の中でも古生物の排泄物をメインに研究している著者による生痕化石研究の紹介本。得意分野に突入してからのウンチ連呼がすさまじく、100回以上はウンチ発言があったと思われる。
 ウンチパワーに圧倒されざるを得ない……生痕化石の場合は臭ったりしないので、ウンチ研究に向いている。でも、現生生物との比較研究をするためには結局生のウンチと対峙しなければならないシーンが出てくるはず。ベントスのウンチなら大したことはないだろうけど、恐竜のウンチ化石を相手にしている人は大変なのではなかろうか。肉食のウンチは臭いと言うし。

 読む前はケーススタディ的な「この生痕化石ならこういう生態」という説明がたくさん載っている本を想像していた。それとは多少方向性が違っていて、研究分野としての生痕化石を紹介する割合が多めだった。
 もちろん生痕化石があらわす生態の話題もあるのだけど、生痕化石を残した生物が正体不明な場合がまだまだ多いことが言い切ることをなかなか許さない感じだった。
 軟体部しかない動物が残した場合は特に証明が難しそうだ。逆に言えば生痕化石を通してしか観察できない古生物もいるというわけで――本書の中でもそう説明されていたが――おもしろい研究分野である。

 著者が1987年生まれと若いことにも驚いた。これから先の研究成果が楽しみな人である。

関連書評
絵でわかる古生物学 北村雄一・著 棚部一成・監修
生きもの上陸大作戦〜絶滅と進化の5億年 中村桂子・板橋涼子
山梨の奇岩と奇石〜石のロマンを追って 石田高・著 石田啓・写真

生痕化石からわかる古生物のリアルな生きざま
生痕化石からわかる古生物のリアルな生きざま
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NHKスペシャル生命大躍進 NHKスペシャル「生命大躍進」制作班

 まるで川崎悟司氏の本をCGで再現したよう。そんな印象を与えられる古生物図鑑にして、進化の新説を展開してくれる本だった。
 植物から手に入れた遺伝子によって目が手に入り、ウイルスの影響で胎生を獲得する。なにがプラスに働くか、まったく予想がつかない。それこそが膨大な時間をかけて行われる進化の現実であるかのようだ。
 しかし、胎生を獲得しているのは哺乳類だけに限らない。魚竜類なども水中で肺呼吸の子供を出産する関係で胎生である。わりと胎生に変化できるチャンスは多く転がっていて、それが有利に働く条件こそが本当は大事なのかもしれないと考えた。
 あと、1Lの乳を作るために血液が500L必要って説は、明らかに血液の量が「のべ」になっているよなぁ。直感ではずいぶん怖いイメージを惹起する情報だった。

 最後は知性への旅という扱いで、進化の目的が知性にあるみたいな印象を与えてしまう。
 研究者の関心がそこに集中することは自然なのだけど、それにメディアまでもが引きずられてしまうことには気をつけてもらいたいものだ。

 ネアンデルタール人の歴史が意外に長く、約35万年前には存在していたらしい。生息範囲に残された痕跡からもその間に彼らがおこなえた「更新」は微々たるものだっただろうと想像すると、ホモ・サピエンスとの差が感じられる。
 そんなネアンデルタール人の遺伝子がアフリカを出たホモ・サピエンスには含まれていることも興味深い。下手をするとアフリカ人への優位性を主張するのに使われてしまいかねない事実だけど……。

関連書評
絶滅したふしぎな巨大生物 川崎悟司
古世界の住人 川崎悟司

NHKスペシャル 生命大躍進 (教養・文化シリーズ)
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生命史図譜 土屋健 群馬県立自然史博物館 監修

 土屋健氏の「黒い本シリーズ」から、イラストを抜き出し分類群ごとに整理して解説をくわえた図鑑と索引の役割を果たす本。これまでの古生物図鑑は時代ごとに並べられることが多く、分類群で追いかけることが難しかったので、現生の生物図鑑と同じ形式にしたとのこと。
 黒い本発売時から更新された情報がコラムの形で取り上げられていて、古い情報を補ってくれる。

 パレオパラドキシアが水棲でデスモスチルスが陸棲か半水棲と、生態が異なっていた可能性のあることに驚いた。寒さだけで棲み分けていると思っていた。

 異様な動物もいれば、見覚えのある形態をした動物もいる。
 分類群で遠く離れているのに姿がよく似た古生物がいたことが分かりやすい構成でもあった。
 爬虫類のエフィギアなどは、足の速い恐竜に見間違えそうだ。やはり骨格で分かるのだろうけど。

 最後に紹介されている国内のオススメ古生物博物館にいけば、立体的なイメージを豊かにすることもできる。いわき市石炭・化石館に行くチャンスがあったのになぁ……。疲れていたとはいえ勿体ないことをした。

関連書評
エディアカラ紀・カンブリア紀の生物 土屋健
楽しい動物化石 土屋健・芝原暁彦 協力
楽しい植物化石 土屋香・土屋健

生命史図譜 (生物ミステリー(生物ミステリー プロ))
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宝石のほんvol.02翡翠 飯田孝一 亥辰舎

 翡翠だけにこだわった宝石の本。産地や鉱物学や歴史的な由来まで翡翠について大量の写真付きで説明している。
 巻末の偽翡翠図鑑には感心してしまった。偽物が多いのは、それだけ翡翠が魅力的ということだ。まぁ、透明度が低い鉱物であっても翡翠だと言い張れば高い価値を主張できる側面もありそうだが……硬度が翡翠と同等や低い鉱物が多かったので、そこで確認できると思ったのに、最後にエメラルドが出てきた。

 紹介されている写真の国産翡翠は非常にレベルが高い。表紙になっている翡翠は輝くような明るい緑を示しているし、裏表紙になっている翡翠は自形結晶がわかる珍品である。
 著者によれば日本の近い翡翠産地でも小滝と青海川では違いがあるらしい。青海川産のものがミャンマーに近いという。

 よく言われる最高級の翡翠の色「琅玕」が、著者の説明によれば日本人の勘違いした呼び名であり、なおかつ色合いも他の図鑑が説明しているものとは違っていて驚いた。
 31Pの写真にあった深い緑色の翡翠もこれはこれで確かに綺麗だが……。

関連書評
宝石のほんvol.1 琥珀 飯田孝一 亥辰舎
翡翠図鑑1 郭穎

翡翠 (飯田孝一 宝石のほんシリーズvol.2)
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岩石概論 宮城一男 共立出版株式会社

 1983年に書かれた当時の岩石に対する分類が概説された本。
 今となっては古い部分もあるけれど、だからこそ昔の研究の流れに触れることができた。
 大理石は商品名で、結晶質石灰岩とすることを推奨しているけれど、自分は大理石が石灰岩の変成岩だと習った。あるいは凝灰角礫岩は死語になったと書かれているのに、この本のずっと後に習った。

 用語の違いは時代の違いだけじゃなくて流派の違いだったりするから、油断ならない。知識と違う部分はどうしても引っかかってしまう。しかし、だいたいにおいては学んだことと矛盾はなかった。
 プレートテクトニクスがまだ信じられていなかったことは堆積岩の生成論に限界をもたらしていたけれど……。

 岩石薄片の顕微鏡観察については詳しく取り上げられていて、当時における研究手法の主力であることが感じられた(もちろん今でも重要であろう)。
 ここまでは習っていない気がしながら読んでいたらコノスコープを使ったことを思い出し、自分が忘れているだけだと分かった。

関連書評
岩石薄片図鑑〜精細写真で読み解く鉱物組成と生い立ち 青木正博

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岩石概論
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地すべり山くずれの実際〜地形地質から土砂災害まで 高谷精二

 地すべりと山くずれは異なる。情けないことに今まで知らなかったが、現象としては明確に区別できる二つをそれぞれ詳しく研究してきた結果をまとめた本。

 地すべりは災害であると同時に恩恵にもなりえる現象で、地すべり地は農地として利用されて、豊かな実りをもたらしてきた。平地よりも収穫がよいとの分析結果まで載せられているから驚きである。
 地質や湧き水の関係以外に土地が傾斜していることによる日照の関係もあるかもしれないが……農地に開発されているのは南向きの斜面ばかりなのか。わからないが気になる。
 粘土としてスメクタイトの存在が重要な事も覚えておきたい。

 山くずれは地すべりと違って急激におこる現象で、土地利用もほとんどされていない。地すべりよりも研究が進んでいない様子だ。そして規模は比較的小さい。

 著者は元々農学の分野から研究をおこなっていたらしく、工学や理学との用語使用の違いもまとめてくれている。粘土・シルト・砂の粒径がそれぞれの分野で別々に設定されていることを知って驚いた。
 なかなかややこしいが、関連する分野が連携して研究していかなければいけない関係にあることは明らかだ。すりあわせは今後ますます必要になっていくと思われ、こうやって比較してまとめてくれている本は重要である。

関連書評
写真に見る 地質と災害 ―応用地質の見方・考え方― 千良木雅弘

地すべり山くずれの実際: 地形地質から土砂災害まで
地すべり山くずれの実際: 地形地質から土砂災害まで
カテゴリ:地学 | 20:48 | comments(0) | trackbacks(0)

日本の屋根 長野県の鉱山と鉱石 市川正夫

 長野県からは石油や天然ガスも採れていた。金属を取るための鉱山にかぎらず、砥石や石灰岩、石油などまでの採掘を含めた長野県における鉱業の歴史を鉱山ごとに知ることのできる本。
 地形図で現地までの経路も説明されているので親切である。種本に引きずられているのか、やや乱文気味なのは気になった。

 鉱物採集で行けそうな場所は限られているし、著者もあまり勧めていない。
 それよりも鉱山の歴史が消滅することに強い危機感があって、かつての鉱山関係者への聞き取り調査などを積極的に行っているところが興味深かった。
 後醍醐天皇の息子、宗良親王の名前が何度か出てきて、長野県の歴史に関わっていることを知った。

 諏訪市の鉄平石みたいに現在でもうまく採掘を続けているところがあるのは何となく嬉しい。大鹿村の山塩もおもしろい。ちょっとした地域興しで天然ガスを利用してみる動きなどもあるにはあるらしく、将来の動きが気になった。
 でも大半の鉱山は草木に埋もれていくのだろうなぁ。

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日本の屋根長野県の鉱山と鉱石―鉱山開発の歴史と現状
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カテゴリ:地学 | 23:22 | comments(0) | trackbacks(0)

写真に見る 地質と災害 ―応用地質の見方・考え方― 千良木雅弘

 地質が原因となって発生する災害のいろいろな例を豊富な写真や図で解説してくれる本。
 自分が地雷原の上に住んでいる気分になってお尻がムズムズすることこの上ない。そういう危険な地帯の例を取り上げていること、危険地帯でもいつ災害が起こるかは分からないことも、理屈では理解できているのだが……。

 例が多彩すぎて覚えきれなかったが、流れ盤・受け盤くらいは覚えて起きたい。線状凹地ができる理由の説明がわかりやすくて参考になった。どちらも地層が関係している知識だな。

 地崩れが谷底に流れ落ちた模式図では、地崩れ堆積物がすべて川に削られるように描かれていた。大雨が来るまでは対岸側に残る場合もあるのでは?残った場合は地質屋を混乱させる迷子の地層になるんじゃないかと想像した。
 北欧やニュージーランドなど海外の写真も取り上げられていて興味深かった。北欧には地殻の上昇によって起こる地崩れなんていう意外な災害があることを知った。

写真に見る 地質と災害-応用地質の見方・考え方- (なし)
写真に見る 地質と災害-応用地質の見方・考え方- (なし)
タイトルのカッコなしの意味がまるでわからん。Amazonのミスとしか思えない。
カテゴリ:地学 | 23:10 | comments(0) | trackbacks(0)

世界恐竜発見地図 ヒサクニヒコ

 世界中での恐竜発見状況を地図とイラストで感嘆に把握することができる。また中生代の三つの時代を色分けしており、どの地域からどの時代の恐竜化石が発見されているのかも一目で分かる。

 そのため三畳紀の化石産地が世界的にみても少ないことがわかった。ジュラ紀の産地すら限られており、大規模なものは白亜紀の産地ばっかりに思えてくる。三畳紀の恐竜が紹介されていると思ったら魚竜だったりする。
 時代が下るほど恐竜が繁栄したことが感覚的に感じられて、その絶頂において滅んだことが尚更ミステリアスに思えてくる。まぁ、鳥類で生き残って現代も繁栄していると解釈すれば、そうでもないのだが。

 著者は同じ恐竜のイラストでもコピーせず産地ごとに別の絵を描いている(何かの情報を取り入れて特徴にしているのだろうか)。また、歯だけしか見つかっていないような化石にも全身の復元図を用意している。
 科学的な「正しさ」からは離れた姿勢であるが、視覚的にはとても分かりやすかった。

 あと福井県勝山市で日本産の名前の付いた恐竜7種のうち5種が発見されているのだが、しつこく「フクイ」ばかり名前につけていて――コシサウルスの越も越中から取っている――ひとつくらいカツヤマにわけてやれと思った。
 フクイサウルス、フクイティタン、フクイベナトル、フクイラプトル……慣れれば覚えやすいのかなぁ。確実に名前の付きそうな「ムカワリュウ」の動向にも目が離せない。

 巻末で恐竜が展示されている博物館に「笠岡市立カブトガニ博物館」が含まれていて、生きた化石のカブトガニとは言え脱線しすぎじゃないかと思った。一体や二体じゃなくて四体の恐竜全身骨格レプリカと一体の首長竜全身骨格があるらしい。なんなの?

世界恐竜発見地図 (ちしきのぽけっと)
世界恐竜発見地図 (ちしきのぽけっと)
カテゴリ:地学 | 23:51 | comments(0) | trackbacks(0)

新版 再現!巨大隕石衝突〜6500万年前の謎を解く 松井孝典

 6500万年前に恐竜を絶滅させた(断定)巨大隕石について、20世紀からカリブ海での研究をおこなっていた著者たちによる地質調査と津波シミュレーションがまとめられている。
 1999年に出版された旧版に、最新の情報をまとめた6章をくわえた2009年の新版になる。2019年に第3版を出してくれることを期待したい。

 多くの研究チームがカリブ海に注目する中で、著者たちのチームが目を付けたのは、アメリカ人が調査しにくい社会主義国のキューバだった。歴史研究において日本人がイランで活躍している感じである。
 手探りのまま現地に飛び込んで、共同研究を結実させた行動力がすばらしい。さすがは若い頃にユーラシア大陸を自動車旅行して、行ったことのない国はあまりないと豪語する著者である。
 そんなアドバンテージも、革命聖地近くの調査では、キューバ人と同じスペイン語をつかうスペイン人に負けている。恐竜戦争ほどではないが、生き馬の目を抜く研究競争がここでも展開されている。

 著者は地質屋ではないのだけれど、それだけに地質屋の仕事を新鮮に感じて、「若者のフィールド調査離れ」に危機感を覚えている。地質図の整備などもまさに「基礎研究」の一種であって大事なものなのだけど、本書がそれが理解される一助になってくれれば嬉しい。

 あと、グラフが全て手書きで味があった。

新版 再現!巨大隕石衝突―6500万年前の謎を解く (岩波科学ライブラリー)
新版 再現!巨大隕石衝突―6500万年前の謎を解く (岩波科学ライブラリー)
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