平成悪党伝 谷甲州

 ひょんなことでヤクザから拳銃を譲られた建設社員の玖珂は、天下り社員用の部署に一種の人身御供として回されて腐る日々から徐々に決別していくのだが、新しい仕事には陰謀があって……。

 表紙に拳銃を載せているわりには拳銃の活躍機会が思ったより少ないのが拍子抜けだった。実際の威力よりも遥かに武装している事実による精神的な作用の方が大きい。弾数にも限りがあるし、拳銃なんて滅多に使う物でない事が感じられる。日本社会だし、一生に一度も使う機会のないままだったとしても不思議はない。
 アクションシーンは拳銃の効果よりも、むしろ一サラリーマンの玖珂が信じられないほどクールに戦っていたことが印象的だった。さすが谷甲州キャラクターらしく、頭が冷えている。

 谷甲州キャラらしいといえば、玖珂に拳銃を譲った元ヤクザの花瀬も別の意味でそうだった。以蔵を思い出させるクレイジーな拷問行為。どこらへんがカタギになったのか、さっぱり分からないがヤクザの手口はある意味、興味深かった。やられるのが悪人の男で悲しいのか嬉しいのか判断の難しいところだ。あまりリアルに想像するものじゃないのは間違いない……。
 建築会社や談合の裏事情を解説しつつ、その暗部との一個人の戦いを描いてみせるのは流石に元々業界につとめていた人らしい。談合のメリットも公平に説明しつつ、その上で問題点を指摘しているから建築業界への真摯な危機感が伝わってきた。
 けっきょくは官僚組織が代わってくれない事には限界があるようだが……もし、梁川文書のようなものが連発されれば少しずつでもまともな方向に変わっていってくれるかなぁ。
 どうも暗澹とした気持ちになってしまう。

全周無警戒: 谷甲州作品感想記事一覧

平成悪党伝
谷 甲州
カテゴリ:ミステリー | 11:41 | comments(0) | trackbacks(0)

虚栄の掟 ゲームデザイナー 佐藤大輔

 いちいちためになる無駄知識に満ちたゲーム業界もの。あえてジャンルを設定すれば人間力学ゲームか。
 コンシューマゲーム機に対する冷めた視線、当然の常識としてあつかわれている「ユーザーはゲーム機のためにゲーム機を買うわけじゃない」が今になって裏切られている状況が泣ける。歴史は繰り返すというか「自分だけは違う」と根拠もなく確信をもってしまう人間が多いらしい――自分もよくその心理状態になっているのだろう、ああ、嫌だ。

 デブばかりのゲーム会社クロスアートの人物像が文字で表現されているおかげで個性的な群像になっているのが面白かった。これが漫画化されたら暑苦しくてかなわないだろうな。言葉でするお相撲さんを延々と見せつけられたいとは思わない。

 編集者の大内氏の言葉を筆頭にゲームにとどまらず、いろいろなものに応用して考えられそうな作中の論理の数々には感心するが、同時に自分に照らし合わせてアラコレ考えをいじくりまわすと直ぐに嫌になってしまう。
 その心理的負担を軽減するものこそが、ゲーム内ゲームといったところか。

 佐藤大輔世界お得意様の北崎重工がゲーム業界に乗り出している構図も興味深かった。モジュール化で前のハードのゲームを楽しめるのはプレイステーションでも使われている方法だが、柔軟な思想は新規参入している別業種にこそ現れるのかも。

 虚栄の掟を初めて読んだ時に著者の実体験だと勘違いしていたのも良い思い出だ。それほどリアリティのある泥試合だった。

虚栄の掟―ゲーム・デザイナー (幻冬舎ノベルス―幻冬舎推理叢書)
虚栄の掟―ゲーム・デザイナー (幻冬舎ノベルス―幻冬舎推理叢書)
佐藤 大輔

佐藤大輔作品感想記事一覧
カテゴリ:ミステリー | 12:10 | comments(0) | trackbacks(0)

小説 スパイラル〜推理の絆〜4巻 幸福の終わり、終わりの幸福

 本編の方が後ろにある今までとは異なる形式なのだが、感想は先に書かせてもらう。これにて小説版は完結で、全てはあとがきに書いてあるとおりの問題だろう。どうも城平先生は職人のセンスで物語を構成しようとする傾向がある。しかし、大風呂敷をひろげた巨大な英雄譚をものすには職人のセンスではなく経営者のセンスが必須だ。あるいは参謀のセンスでノルマンディー上陸作戦を運営しようとするようなもの。将軍にして参謀でなければ求めるものが完成できないのは究極的な壁といえる。


 ある意味、スパイラルの物語がその壁との戦いで、小日向くるみ、鳴海歩、沢村史郎はそれぞれの身の分で「神」と戦わざるをえない。どこか一点でもブレイクスルーして奇跡を起こさざるをえない位置に追い込まれている。
 ダークでなのは敵が悪魔ではなく神であることだけれども、だからこそ悲壮で尊敬に値する神話になるのだ。小日向くるみは最後まで人の領域にとどまり、その位置で意志を守り通した。完璧ではないが素晴らしいことだと思う。

 4巻のヒロインは羽丘まどかといえる。しかも、ふたりの男からちやほやされる羨ましい立場。実は漫画でもモテモテなのだが和田谷は頭数にカウントできない。人権がないから。
 推理の方はとびきり地味で、作中作構造もともなわないのだけど、城平名探偵に特徴的な「飛躍を繋げる論理」がハッキリと現れていることは大きい。その力を描くことには相当の情熱がいるはずで、ほとんど人間の可能性を追求する領域なのだ。

近況報告
 鳴海歩がこの外伝世界に関わってくるのにあたって試運転的に生じた物語の感じがする。その中にも異常な人間にも異常ななりに論理があることを示す。そしてそれが解けることを示す、特殊性が眠っている。

くだんを殺せ
 さらに鳴海歩の子供時代に踏み込んで、小日向くるみ視点の珍しい像を結ぶ。彼の人格形成の状況が分かって貴重かもしれない。まどかや清隆の対応も印象的。元担任にもうすこし魅力がほしかったかな。


スクウェア・エニックス系コミックス感想一覧

小説 スパイラル~推理の絆~ (4)
小説 スパイラル~推理の絆~ (4)
城平 京
カテゴリ:ミステリー | 12:35 | comments(0) | trackbacks(0)

小説 スパイラル〜推理の絆〜3巻 エリアス・ザウエルの人喰いピアノ

 今までの作品に比較するとやや箸休めの大人しい印象のある中篇。外伝が3本も収録されていることから分かるように作品そのものの長さが短めであることも作用しているだろう。
 しかしながら、本作のヒロインを務める柚森史緒のキャラクター性の高さが他の小説シリーズに負けない要素になっている。あの祖母にしてこの孫ありというべきか、ひよのにも何とか対抗できるだけの深さと癖をもっていて、じゅうぶんに可愛らしい。危うさもあるけれど、そこが良家の令嬢に親しみをもたせるファクターになっている。
 事件の方は古い家に古いピアノ、古い人物(失礼)と伝奇的なガジェットがいつになく揃っていてなかなかに雰囲気がある。もはや城平先生の売りにして持病である作中作構造「エリアス・ザウエルの人喰いピアノ」の物語は恐ろしさを通り越したバカバカしさ、悲劇の喜劇性が強烈でやはり独特の作品性を醸し出している。
 語り手が柚森史緒であることも大きなポイントだろう。

 漫画との兼ね合いもあるのか、事件の密度をあげすぎないためか、回想という形をとっている。そして、新知見を絡めるところは「鋼鉄番長の密室」に似ている――動かないはずの過去が登場人物の中で動くのだ。
 それを表現するサブタイトルが秀逸でかなり気に入っているのだが、元ネタがありそうな予感もする。「起こったかもしれないこと」「起こったらしいこと」「本当に起こったこと」――最後は本当にがなくてもよかったかな。そうすれば段々文が短くなっていったことでもあるし。

 ベヒシュタインは実在するメーカーだったのか。いつものごとく作品のために用意したファンタジーだと思ってしまった。取材をしっかりするべきところはしっかりするのが城平先生。ファンタジーにしてもそういう肉付けがあってのことだ。
 調べることでちょっと奥深い世界に触れられて得した気分になった。

青ひげは死んだ
 これまた印象的な事件。外伝の話はアピール力がありすぎて再読するまでもないのが、ミステリとしては困る。それともミステリは一回読めば完璧であるべきと著者は考えているのか。
 分子量から考えて箱は逆さまにして作業をしたのだろう。その風景と暗い情熱を思って背筋を震わせた。

カニの香りの悪魔
 このタイトルを見るだけでもお腹がなりそう。内容を読むと更に食欲アップ。そんな残虐無残殺人事件のお話。刑事は事件を解くだけで犯人を裁く力はないことを感じさせる部分があった。被害者の性格から考えればそれで納得してもいいのだが、締め方からすると煮え切らないものは残る。

ハイスクール・デイズ
 ちょっと外した話。いや、いつも外した話を提供されている気がするけれど。壮絶さをともなう青春はだからこそ輝いているのかもしれない。甘いようで苦く、辛いようで風味豊か。読後感も悪くはない。

あとがき
 せっかく綺麗に言葉を連ねたのに最後の一文に誤植があったことから台無しに。まるで鳴海清隆。

小説スパイラル 推理の絆〈3〉エリアス・ザウエルの人喰いピアノ
小説スパイラル 推理の絆〈3〉エリアス・ザウエルの人喰いピアノ
城平 京
カテゴリ:ミステリー | 12:10 | comments(0) | trackbacks(0)

小説 スパイラル〜推理の絆〜2巻 鋼鉄番長の密室 城平京・水野英多

 城平京、最高ケッサク!惜しむらくは傑作ではなくケッサクと表記せねばならないことだが最高ケッサク!!
 「番長の王国」というあまりにも異様・奇妙きわまる作中作に尋常ではないエネルギーを費やしながら、それを巧みに物語にとりこんで推理という料理にして提供してみせる城平先生のエンターティナー精神は異常。
 ともかく鋼鉄番長の物語はむやみやたらに熱く、そのデーティルが笑っちゃうくらい様になっている。変な用語がさらにいけない。番長三国志時代など抱腹絶倒してしまっても責任を追及される心配はないだろう。
 この物語に対する登場人物たちの三者三様の反応もおもしろおかしさを向上させるスパイスになっている――本来は鋼鉄番長こそが物語のスパイスであるべきなのだが。主人公の歩はひたすら冷静で読者視点に近いだけに頭痛の激しさが伝わってくるし、ひよのの情熱的な発言はこっちまでペテンにかけられそうになる勢いがある。そして小説版、暫定ヒロインの千景の幼少時代からの思い入れによって捻じ曲がった鋼鉄番長観……このように読者が二重に準備されていることによって、鋼鉄番長伝説は毒々しいまでの閃光を放っているのである。

 本編の方は重複するテーマの組み立てと歩本人の問題に関わってくる側面が興味深い。千景のキャラクターはいまにして思うと、かなり狙ったもののように感じるが、作り物めいた彼女の存在が飛びぬけて作り物めいている「番長の王国」を現実的にみせかけているような気もする。
 とりあえず笑えすぎて推理どころではないのが鋼鉄番長の密室だ。この謎を解いた歩の精神力には尊敬の念を覚えずにはいられない。

殺人ロボの恐怖
 こんなプロットを発想する人間の精神構造が恐怖だよ。しかし、これも異常な舞台装置に注意をそらされなければ、根元にあるのは心理と叙述の問題。本性は折り目正しいミステリなのだ、たぶん。

スパイラル〜推理の絆〜1巻感想
スパイラル・アライヴ1巻感想

小説スパイラル 推理の絆〈2〉鋼鉄番長の密室
小説スパイラル 推理の絆〈2〉鋼鉄番長の密室
城平 京
カテゴリ:ミステリー | 12:01 | comments(0) | trackbacks(1)

小説 スパイラル〜推理の絆〜1巻 ソードマスターの犯罪 城平京

 漫画スパイラルの番外編で本編につながるブレードチルドレンの問題はでてこないが、小説の執筆者が原作者であるのでかなり本編に近い雰囲気とおもしろさをもつ作品。そもそも城平先生は推理小説でデビューした人なのでノベライズとは少々異なる。
 内容はミステリとしては悲しいくらい前回読んだときの記憶が残っていて、動機も推理も思い出せてしまったのが残念。それくらい印象的な内容であったと肯定することもできるが。

 ただ、鳴海歩が意外と学園生活を謳歌していることが分かったのは何だか楽しかった。月臣学園というともすればファンタジーになりそうな学園の設定を紙一重のところでリアリティある存在にしている肉付けが感じられるのだ――これは巻末に収録されている作品にも関わってくる伏線だが。
 また、結崎ひよのの意味不明の仕草が可愛らしくてならない。指を立てて説明しているところに、指キッスを仕掛けてくるところなど悶絶しそうになる。一方で、彼女のダークさが客観的にふりまかれているのにも笑ってしまった。この新聞部部長と歩の信頼関係は、羽丘まどかと鳴海清隆の信頼関係と対比できるものにもなっていて興味深い。

 最後の「試合」は実現性の問題ではなく、漫画とあわせて城平先生がやりたいことがダイレクトにわかる内容だったと言える。剣道小説としてもそんなにそつがないながらカッとなる人間をあえて評価してみたり、警察の捜査を信頼に足るものとしてみたり、天邪鬼な良さがあるのもポイントだ。
 歩の捻くれた性格が誰からきたのか分からんでもないのである。

怪奇クラゲ二重奏
 はじめのクラゲは死んだのにより過酷な環境にさらされたあとのクラゲは死ななかった不思議。おそらくはじめのクラゲは何らかの攻撃をも受けてしまったものか?ちょっと小さめであったことも原因だろう。
 オリジナルのゾルゲクラゲという設定を妙にリアルに取り込んでしまうのは小人地獄時代からのお家芸。さすがである。

ワンダフル・ハート
 これもよく覚えている事件。後味の悪さもあって、忘れたくても忘れられない。ちなみにガンガンネットには解説もあって、心臓記憶の話がでていたのが印象的だった。ここにみられるのは動機の徹底的な重視であり、そこからの論理展開だ。

小説 スパイラル‐推理の絆―ソードマスターの犯罪
小説 スパイラル‐推理の絆―ソードマスターの犯罪
城平 京
カテゴリ:ミステリー | 08:50 | comments(0) | trackbacks(0)

僕の推理とあの子の理屈 村瀬継弥

 岐阜県のある平和な村で起きた密室殺人の謎を高校生たちが追うミステリー。以下ネタバレ要素が混ざってもしかたがないので覚悟。

 表紙が見事なまでの萌え絵だったのに、その子が萌えキャラというほどの描写はされなかったのは残念だ。まぁ、ただでさえ面白半分に首を突っ込んでいるんじゃないかと疑われそうな状況でイチャイチャされても楽しくないだろうけど…。
 はじめの伏線となる伝記から事件の動機にまで繋げていく線はなかなか見事だったと思う。機動力的な要素を与えるためのドライブ好きの設定だったのか、という点でも感心した。ローカルな事件を扱っているようでいて、行動がそこに留まっていないのだ。
 しかし、砂金採りを夜にするのは無理だろう……はじめは砂金採りで鉱山採掘にシフトして行ったのかもしれない。鉱山が秘密にされていたとすれば、砂金採りの話だけが伝わっても不思議ではない。そういえば、銀山や銅山も地元では金山と呼ばれることがあるらしい。地元の人のくくりが大雑把なのではなくて、鉱山は緘口令がきついから何かを掘っているとなれば金に直結してしまいがちなのだろう。

 トリックの方は――もちろん解けなかったけど――それほど画期的なものではない。むしろ一番のトリックは付録された平面図そのものにあるといって良いだろう。これを気にしていたら逆に解きにくい。作者にミスリードされる…。

 洋の心の動きや生活光景は淡々としていて場合によっては薄ら寒いほどだが、だからこそ馴染みやすさがある。誰かの個性が染み付いた部屋には入居しても慣れにくい様なものか。
 そんなわけで読み終えるとき、ちょっとだけ名残惜しく感じた。

僕の推理とあの子の理屈
僕の推理とあの子の理屈
村瀬 継弥
カテゴリ:ミステリー | 12:15 | comments(0) | trackbacks(0)
<< | 2/2PAGES |