尚泰〜最後の琉球王 川畑恵 日本史リブレット人080

 明治維新の影響により日本と中国への両属状態を続けることができなくなった琉球王国。その最後の王、尚泰を中心に琉球王国滅亡の経緯を追う。
 尚泰が主人公ではあるものの、王宮の奥にいて外部とは家臣を通して交渉する姿勢を通しているため、話の中での存在感は微妙なところがあった。
 それでも琉球の人々にとっては重要な象徴であり、琉球独自の運動に大きな意味を死ぬまで持ち続けていた点が興味深い。

 このような難しい時期に対応するための「帝王学」がなされていたわけではなさそうで、本人はともかく王朝全体は迂闊だったと思ってしまうところがある。

 清と日本の交渉をみていると、現在の国境線があるのも偶然の産物に思えてくるのだった。
 海よりも内陸を重視する清の姿勢がなければ、いまの中国はもっと海洋進出をしていたかもしれない……。

尚泰 (日本史リブレット 人)
尚泰 (日本史リブレット 人)
カテゴリ:歴史 | 22:42 | comments(0) | -

地図で見るブラジルハンドブック オリヴィエ・ダベーヌ

 フレデリック・ルオー、中原毅志 訳、オーレリー・ボワシエール地図制作。

 混血を賛美するブラジルの歴史と現在がわかるハンドブック。ルーラ大統領の有能さが強く印象に残る。三選が可能な制度だったら、ブラジルはまだ上昇気流を掴んでいたのか?
 それともカリスマ的大統領にも人気の陰りが生じていたのか?
 わからないけれど、やっぱり制度をねじ曲げなくて良かったと思う。後継者選びを間違ったと言うよりも、誰を選んでも苦しかったかもしれないが。

 いわゆる「バラマキ」政策によって州ごとの分断が深まってる様子も興味深い。でも、日本の視点からはバラマかなくても分断されていった可能性が高いと感じるので、バラマいた方がよかったんじゃないかな……。
 暑さの激しくない南部の方が栄えている傾向がやっぱりあるらしい。アルゼンチンとは、ずいぶんと人口の差がついたなぁ。

 余談ながらコスタリカの教育に関するスコアが悪化していて、何が起こっているのか、心配になった。他の国は改善されているのに。簡単に検索しただけでは分からなかった。コスタリカハンドブックが出てくれれば分かるのだが。

地図で見るブラジルハンドブック
地図で見るブラジルハンドブック
カテゴリ:歴史 | 20:45 | comments(0) | -

ユグルタ戦争・カティリーナの陰謀 サルスティウス・栗田伸子

 古代共和制ローマ末期の二大事件、ユグルタ戦争とカティリーナの陰謀を当時の歴史家サルスティウスが記したものの翻訳。
 ついつい現代的な視点を投影して読んでしまう部分があることが面白い。
 ユグルタに貴族が買収されて正義が蔑ろにされている状況は日本の政治を、カティリーナに与する人々が大量発生している状況はアメリカのトランプ支持者を連想させた――正しい見方かはともかく。

 ユグルタ戦争にはユグルタ王の個性が影響するところが大きく、もっと最初から計画的に、揺るがぬ意志でローマとの戦争を行っていれば勝てないまでも、あんな末路にはならなかったと思える。
 賠償金を支払ってから戦争続行は無駄すぎる。カルタゴみたいに受け入れられない条件を後から突きつけられたわけでもないのに――その史実が判断に影響を与えた可能性はあるかな。
 戦場にあってのユグルタは優秀な将軍で、メッテルスとの戦いには手に汗を握らされた。また、正面衝突ができない場合でも、もっとも効果的な抵抗方法を選択している。
 ところでボックス王がスッラの身柄をユグルタに引き渡していたら古代ローマの歴史もまったく違ったものになったはず。自覚はなくても、その瞬間の彼は世界の運命を握っていた。

 カティリーナの陰謀はやったことの関係もあって反乱軍の責任が反乱者本人の不摂生に帰せられてしまいがちに見える。社会の構造的な問題を直視しなければ抜本的な解決には至らない。
 そういう意味でも無法な死刑に反対したカエサルの演説は興味深かった――力強さでは小カトーに敵わないが。ショックドクトリン的な似た手口は現代の社会においても見受けられるものだ。

カテゴリ:歴史 | 21:33 | comments(0) | -

古代オリエントの歴史 小川秀雄

 文明の始まりからローマとパルティアがオリエント世界を支配する前までの歴史を高密度に圧縮した一冊。

 ペルガモン王国など名前はよく出てくるのに実態を説明されることの少ない王朝についても取り上げてくれていた。首都以外に都市をもたない特殊な国、エジプトのオリエント政治にリンクしたり、離れたりする動向も興味深い。

 エジプトと違ってメソポタミアの覇権は安定せず、さまざまな勢力がつぎつぎと現れては消えていく。ペルシア帝国はアッシリア帝国を反面教師としたけれど、それより前の新バビロニア帝国は普通に教師としてしまった(あるいはペルシアが反面教師にしたのはバビロニアなのか)。判断を分けたものは何だったのだろう。
 実際に被害をうけた立場の方が、かえって真似してしまいやすいのかなぁ。

 あとがきや参考文献で三笠宮の名前がたびたび出てくるところも印象的だった。日本のオリエント学にとって重要な人物であったことが分かる。

カテゴリ:歴史 | 22:27 | comments(0) | trackbacks(0)

南の島のよくカニ食う旧石器人 藤田祐樹

 岩波科学ライブラリー287

 沖縄のサキタリ洞で、とても古い人骨を発見した著者による発掘調査結果から、旧石器人の生活を想像したドキュメント。「ハトはなぜ首を振って歩くのか」と同じ著者であることを知り、驚いてしまった。
 研究の幅が広い!

 ついついサキタリ洞で定住生活を営んでいたイメージをもってしまっていたのだが、旧石器人なのだからキャンプを変えながらの生活が通常であり、サキタリ洞はカニの旬である夏の終わりから秋にかけての生活の場であったことが、根拠をもって明らかにされている。
 絶滅したリュウキュウジカのサキタリ洞からみつかった歯から推測される年齢が高いのは、旧石器人が高齢の個体を狙って狩っていたせいという可能性はないのだろうか?
 島嶼化ですべて説明できるなら、その方がエレガントではある。

 調味料はないながら、旧石器人もいろいろな味覚を楽しんでいたことが想像できて、彼らのイメージが生き生きとしてくる本だった。

カテゴリ:歴史 | 10:22 | comments(0) | trackbacks(0)

海賊の世界史 桃井治郎

 古代ギリシアから大航海時代、現代ソマリアまで。
 海賊の評価は時代によって大きく変化していく。ある意味で時代の写し鏡としての機能をもっている海賊の歴史をあつかった本。著者も断っていたがヨーロッパの海賊ばかりであり、東アジアの海賊などは触れられていない。それぞれの世情で比較ができたら面白そうなのだが。

 最終的に海賊はフランスが植民地支配を開始する大義名分に利用されてしまった。こころおきなく叩ける「悪」は政治家にとって便利だったんだな。
 海賊を廃止しろと言われた北アフリカ諸国の反応は筋が通っていたのだが……フランスの侵攻は海賊対策を欧州諸国の議題にしたアレクサンデルロシア皇帝の考えからも外れていそうだった。
 虎狼のような欧州諸国に先祖代々の慣例だからと隙をみせてはやられてしまう。

 逆に現代のソマリアは誰も欲しがらないし、国際的に領土に組み込むことができないから、海賊がいてもそれを理由に侵略される事態にはならないのか――エチオピアは一時的に攻め込んだけど。

海賊の世界史 - 古代ギリシアから大航海時代、現代ソマリアまで (中公新書)
海賊の世界史 - 古代ギリシアから大航海時代、現代ソマリアまで (中公新書)
カテゴリ:歴史 | 23:28 | comments(0) | trackbacks(0)

イギリス断片図鑑〜歴史は細部に宿る エディング編著

 人物・出来事・建造物の三種類からイギリスを紹介する図鑑。
 基本的に歴史よりの内容になっている。最後にブレグジットが来たことには驚いた。ド・ゴールに拒絶され続けたままだった方がイギリス人にとっても幸せだったかもしれない。

 ヘンリー8世の酷い行為の影響が、断片の端々に現れていて、直接人物を描写されるよりも印象が悪くなった。肖像画と違うからチェンジは酷い。よく平和裏に受け入れたなぁ――実は花嫁の方も同じ理由でチェンジと思っていた?

 ハチミツ色の建物がならぶバイブリー村の景色がフィクションの中みたいな美しさ。
 これは一度、散策してみたい。
 きっと映画撮影の舞台に何度もなっているに違いない。

世界とつながる イギリス断片図鑑 歴史は細部に宿る (A book of the knowledge of the fragmentary history to know the United Kingdom more)
世界とつながる イギリス断片図鑑 歴史は細部に宿る (A book of the knowledge of the fragmentary history to know the United Kingdom more)
カテゴリ:歴史 | 20:26 | comments(0) | trackbacks(0)

渤海国とは何か 古畑徹

 謎多き渤海の歴史。それゆえにロマンをもって語られたり、政治的背景に影響を受けやすい渤海の実像について、著者なりの視点から迫ろうとした本。
 情報が少ないと言っても中国と日本にそれなりの情報は残っていて、時期によっては流れを追うことができる。韓国に情報が乏しいのは基本的に新羅とは対立関係だったからかなぁ。
 せめて北朝鮮の遺跡を発掘調査できていれば……。

 あの時代を新羅と渤海の南北時代と考える北朝鮮・韓国時代の人々の感覚が興味深かった。どうしても現代を過去に投影してしまうところがあって、避けられないならそれも真実の一面を写す可能性があると利用してみるのも手だろうか。

 唐と渤海の間に紛争が発生していて、沿岸地帯を舞台にした意外と激しい戦闘があったのも興味深かった。
 当時の日本は島国の自国にとっても貴重な戦訓になると思って、調べてくれなかったのかなぁ。

 渤海が北部まっかつに対して行った政策は、威信財を使った日本の古墳時代でもおなじみの政策にみえた。日本も小中華ぶるため、それなりに支出をしていたんだな。
 祝賀のあいさつに出席させるため、無理な時期に渡海させて難破のリスクを冒させていた点は、あらためられてよかった。一方、唐は日本に同じ負担を掛け続けたなら、それも遣唐使廃止の理由につながったのかな?

関連書評
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東アジア世界と古代の日本 石井正敏

渤海国とは何か (歴史文化ライブラリー)
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カテゴリ:歴史 | 22:38 | comments(0) | trackbacks(0)

図説 古代ギリシアの暮らし 高畠純夫・齋藤貴弘・竹内一博

 アテナイを代表として、古代ギリシアの暮らしを様々な視点から描いた意欲作。当時の人々の日常生活について、分かっていることは多いとも、少ないとも思える。
 裁判の記録が貴重な情報源になっている点は古代メソポタミアと同じく皮肉である。そういえば中国の西域から出て来た木簡でも、もっとも長い文は裁判に関わることだったなぁ。そもそも文字の起源と裁判も結びつきが強そう。

 図説の本だけに、挿入されている図がとても充実していて、そこを眺めているだけでも楽しめる。
 娼婦がおしっこしている壷絵なんて代物まで、あるのはご愛敬?
 壷絵の「ネガ」と「ポジ」が、きれいにタイミングを揃えて入れ替わったため、年代特定の助けになっている点が興味深かった。流行りじゃなくなった壷は一気に使われなくなったのかなぁ。今に多く残っているからには積極的な破壊はされなかったのだろうけど、古代ギリシア人の流行に対する考え方を想像させられた。
 流行といえばファッションや女性の化粧についても言及があった。
 運動場で奴隷は裸になれない。裸になることが自由をあらわす「権利」みたいな面がある点もおもしろかった。

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図説 古代ギリシアの暮らし (ふくろうの本/世界の歴史)
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バビロン ベアトリス・アンドレ=サルヴィニ著 斎藤かぐみ 訳

 古代メソポタミアの中心だった「神の門」バビロンに関する文庫。イラク戦争による遺跡の破壊が懸念される中、発表翻訳されたものらしい。とりあえず状況は治まったが、甚大な被害をうけた遺跡も出てしまった。

 個人的にバビロンに関連してはハンムラビ王への関心が強かったのだけど、残した足跡の点ではネブガドネツァル2世の存在も大きいことが分かった。
 新しい時代に大規模な事業をおこしたので当然だが……新しい事業でも基礎は昔の基準にしたがって造っているところはメソポタミアらしい。おかげでネブガドネツァルより前に破壊された遺跡でも概要を知ることができる?紛らわしい部分もありそうだが。

 戦いの女神イシュタルの門が、いちばん敵が到来しそうな方向に造られているのは分かりやすい。門を女性器に、市内を子宮に例えたと想像するのは飛躍しすぎかな。男性の神にあてられた門もあるし。
 楔型文字に書かれた生々しいまでの当時の文章がフランス語からの重訳ながら収録されている点も魅力的だった。古代メソポタミア人の宗教観・世界観が直接的に伝わってくる。

関連書評
バビロニア都市民の生活 S.ダリー著/大津忠彦・下釜和也 訳
世界史人リブレット001ハンムラビ王〜法典の制定者 中田一郎

バビロン (文庫クセジュ)
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