中世城郭の縄張と空間〜土の城が語るもの 松岡進

 アマチュア城郭研究家として各地の山を歩き、藪をこいで縄張り図をつくってきた著者による一冊。活動範囲は広く、東北から中国地方まで及んでいる。
 広島県の三次市の調査が、初めてなのに「三次調査」でちょっと混乱した。かわった地名もあるものだ。

 著者が縄張り図にのめり込んでいった様子がわかり、描き方についても、著者なりの要点が記述されている。
 大学の実習で、歩測とコンパスを使って地図を書いたことを思い出した。地形を見分ける目さえ養えば、あの経験を応用して、なんとか描けそう。
 新しく城郭研究者になる人はどれくらいいるのであろうか。あとがきで城郭研究分野の特殊性を語っていただけに気になった。

 最大のテーマになっているのが「杉山城問題」で、関東にあった大変技巧的な城である杉山城の年代問題から、城郭研究の本質的な意義についての問いかけが論じられている。
 表層にある構造物で発掘もできない立場だと年代は手強いが、構造全体をみての分析を著者は大事にしていた。

 アマチュアであり遺構に被害を与えるわけでもないなら「おもしろいから」でも、城郭研究をする十分な理由になるとも思うのだけど、深みにはまっていくと、いろいろ考えさせられてしまうものらしい。
 著者が出会った在野の研究家の列伝的な要素も、本書には観られた。

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「城取り」の軍事学〜築城者の視点から考える戦国の城 西股総生

中世城郭の縄張と空間: 土の城が語るもの (城を極める)
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十三世紀のハローワーク グレゴリウス山田

 やっぱり本は娯楽の王様だよねー。
 中世に実在した職業を謎のレーダーチャートとイメージ映像、豊富なうんちくで楽しめる同人誌の書籍版。なんとなくSRPGのユニットデータ集の体裁をとっており、存在しないゲームの内容を想像して楽しむこともできる。

 傘貸し屋など、成り立ったことすら奇跡に思える零細職業の数々に目から鱗が落ちる。傘貸し屋の場合であれば、金を払っても濡れたくないパリジャンの性分と密接に関連しており、職業の存在をとおして中世人の理解を深めてくれる役割も果たしている。
 また教養豊かな著者(絵の画家でもある)の解説が小さく豊富な愉快を与えてくれる。変態としてのレベルの高さを感じさせるコメントの数々に笑ってしまった。
 でもさすがに小便組は……。

 キャラクターの絵はあくまでもイメージ映像で実際の姿とは限られた関係しかないのだが、ついつい頭の中で結びついてしまい困るところもある。
 でも、ひたすらリアルに描かれていたら作者の好きな賤業を中心につらいことになる。
 ふつうは男性の職業でも女性のキャラクターになっているものも多い(逆に女性の仕事は100%女性の絵だと思われる)。シンプルな絵だが――だからこそ――萌える。特にジト目好きにオススメしたい。
 なにより、どいつもこいつも最高の貧乳をしている。
 架空ゲーム用のSDキャラもかわいい。頭の中で架空のゲームを組み立てて動かしてみるのも一興である。巻末にはヴィネット的なステージまで用意してくれている。

 参考文献も学術書並に充実しているので興味をもてば原典を追っていけるぞ。

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中世実在職業解説本 十三世紀のハローワーク
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名画で読み解く「世界史」 祝田秀全

 副題は「111の名画でたどる人類5000年のドラマ」。
 絵画の保存状態なども関係しているのか、ヨーロッパ中心の歴史観が強い本になっている。日本は最後の最後で日露戦争の絵が出てきた。中国の絵はコーナーが設けられているが、いかにも駆け足である。

 無名の画家の作品がある一方で、ドラクロワなど複数の作品が収録されている画家が存在することも興味深い。
 まぁ、政治関係のテーマを描くことを得意とした画家と、自然物をもっぱら描いていた画家では、同じくらい有名であっても出番に差が出ることは当然である。

 解説は教科書的な内容からあまり逸脱せず、教科書レベルの歴史認識なら十分そうだが、物足りないと感じる部分もあった。
 テルモピュライで踏ん張ったのはスパルタ軍だけじゃないと何度つっこめばいいんだ……アルプス越えのハンニバルがシーク教徒のターバンを巻いているのは、象=インド象=インドと言えばターバンの類推であろうか。
 かなり適当である。

 絵画の歴史的な注目部分をクローズアップして解説を加えている点はよかった。

関連書評:登場した人々をピックアップ
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名画で読み解く「世界史」
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読めなくても大丈夫!〜中世の古文書入門 小島道裕

 律令国家から徳川幕府まで、古文書の様式に注目した読み解き方を教えてくれる一冊。
 博物館で古文書をみる機会はけっこう多いのだが、本文が読めず、解説と花押に注目するのがやっとだった。本書の知識を活かせば、より多くの情報を古文書から得て楽しめそう。

 古文書の様式は時代だけじゃなくて、書いた人間の性格も反映しており、それが伝わってくるのも面白かった。
 足利直義がマリオを倒したがっているルイージに見えてきた。端々に意識はにじみ出るものなのか。後世の行動をそれより前に反映して観てしまっているだけなのか?
 興味深い。

 秀吉の書状が「人たらし」らしい懇切丁寧なものから、独裁者の尊大なものに変化した点も印象的だった。まぁ、信長に倣ったものだし、家康も引き継いでいるのだが……。
 秀吉の花押から「学」が感じられるのも新鮮だった。あるいは背伸びの結果なのかもしれない。

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出土文字に新しい古代史を求めて 平川南
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中世の古文書入門 (視点で変わるオモシロさ!)
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近藤重蔵と近藤富蔵〜寛政改革の光と影 谷本晃久

 日本史リブレット人058。
 まだ江戸で消耗しているので候か?
 長崎、蝦夷、そして八丈島で活躍した御家人あがりの旗本、近藤親子の生涯を描いたリブレット。身分性社会の壁に阻まれ、学問の力での上昇を志した重蔵の出世物語は、バッドエンドに終わってしまう。上がふらふらして下である重蔵が振り回される様子には同情を禁じ得ない。
 豊蔵の子女まで斬殺した犯罪行為には、その後の成果を知ってもおののいてしまう。完全にマイナスな状態から、よくぞあそこまでの成果を上げたものだ。

 事件の発端となった江戸富士の話は、大正モダンの少女漫画で知ったところだったので、広がった知識がつながった気がして嬉しかった。
 新しい知識つながりで言えば、近藤家が称した秀郷流藤原氏の藤原秀郷も子供の犯罪行為で中央での出世の道を断たれたらしい……なんの偶然だろうか。

 重蔵が上司の指示で進めていた蝦夷の開発については、江戸幕府が開発を継続的におこなっていた場合のアイヌの人々の運命が気になった。史実より良かったのか、悪かったのか。
 重蔵の姿勢は現代的な視点からは感心できるものじゃなかったようだけど、松前藩に任せつづけるのもなぁ……。

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近藤重蔵と近藤富蔵―寛政改革の光と影 (日本史リブレット)
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奥州藤原氏と平泉 岡本公樹

 軍事経済宗教、そして血縁など様々な観点から奥州藤原氏四代の歴史をおった本。
 前九年の役、後三年の役からはじまる歴史の流れ上に奥州藤原氏の歴史があることが見えてくる。
 かなり挑戦的な説まで取り上げているので、知識を一貫させることは難しいが、それでこそ歴史とも思われる。

 頼朝が意外と融和的で、奥州藤原氏に対する仕置きも徹底的に殺すものではなかったことが印象に残った。著者によれば平氏に対しても緩やかに降伏させるつもりだったと言うし、源氏が厳しいのは源氏が相手の時だけか……。
 自分が平氏に助命されたことが何か影響しているのかもしれない。

 藤原秀衡はとても有名だけれど、それより前の二代についても色々な情報からイメージを持つことができた。東北主義の清衡に京都主義の基衡、ハイブリッドの秀衡と来たら、泰衡はどんな方向性を選んだのであろう。
 歴史のIFになってしまうが、とても興味深い。
 後白河院の娘が平泉にいたという謎も歴史浪漫をかき立ててくれた。さすがは後白河院、どこまでも寮賭けとは抜け目がないな……。

関連書評
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北のつわものの都〜平泉 八重樫忠郎 新泉社

奥州藤原氏と平泉 (人をあるく)
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鳥瞰イラストでよみがえる歴史の舞台 歴史群像編集部・編

 日本の歴史を鳥瞰イラストでおえる紙であることを徹底的に活かした本。折り込みパノラマイラストが多数収録されていて、大きな机で広げて読めば楽しめる。
 読む前に机の片づけが必要な場合があるかもしれない。

 イラストレーターは板垣真誠・伊藤展安・香川元太郎・黒沢達矢・中西立太・藤井康文の各氏で、特に黒沢達矢氏と香川元太郎氏のイラストが多く、目立っていた。
 黒沢達矢氏のイラストは細かくきっちり描き込みされており、徹底的に細部を追いかけて発見する楽しみがある。
 香川元太郎氏のイラストは目になじむ色使いが特徴で、全体をゆったり把握できる。

 取り上げられている時代は壬申の乱から始まって現代の東京までで、やはり戦国時代と幕末が比較的多い。
 東京については徳川氏の江戸から順次変化を追いかけられる内容になっている。京都にいたっては平安時代から幕末までわかる。
 別の本で見覚えのあるイラストも散見されたけれど――たとえば真田戦記に載っていた真田郷周辺など――まとめて、カシミール3Dで作成された地形図などと一緒にみられる新鮮さがあった。
 戦国時代の解説はやや「定説」に傾きすぎに感じたが、紙数の関係もあったのかもしれない。

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超ワイド&パノラマ 鳥瞰イラストでよみがえる歴史の舞台 (Gakken Mook)
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カテゴリ:歴史 | 09:11 | comments(0) | trackbacks(0)

平城京のごみ図鑑 奈良文化財研究所 監修

 謀殺されたあげくにゴミを漁られる長屋王が心の底から気の毒になってきた……が、勤務評定によればブラック労働をさせていた(用人の自覚はどうあれ)ことが判明しており、ちょっと印象が変わった。
 表紙にもでている怖い顔の人物の落書きは長屋王邸前の溝から発見されているから、わずかながら長屋王本人の可能性もあるのかなぁ。詳しければ冠の形状からその可能性がないことは判断できそうだが、詳しくないのでわからない。

 トイレに関する記述が執拗に感じられるほど入念で少し圧倒されてしまった。基本は「おまる」の時代だからトイレの証拠をつかむことが難しい事情は、ヨーロッパなどの研究事例と共通していそうだ。
 トイレ研究家同士の国境を越えた連帯感みたいなものも世の中にはあるのかなぁ。

 関西弁で考古学者をストーカー呼ばわりしたり、フリーダムな言動をみせた不定形キャラクターの「ゴミドコさん」について、正体の説明が最後の方にある。
 気になって気になって気になって内容に集中できない場合は先に確認しておいた方がいい。

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奈良時代MAP〜平城京編 新創社 編

平城京のごみ図鑑: 最新研究でみえてくる奈良時代の暮らし (視点で変わるオモシロさ!)
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カテゴリ:歴史 | 23:24 | comments(0) | trackbacks(0)

エリザベス女王〜女王を支えた側近たち 青木道彦

 世界史リブレット人の051。
 エリザベス女王の人物に迫るよりも彼女がイングランドを治めた時代や側近たちに焦点を当てている。ただし、二つ収録された演説は女王ならではの力をもっていて、とても興味深かった。
 財政的には問題が多くて、彼女が亡くなったときに40万ポンド以上の借金を残してしまったというから、評判のよかった先代と比較されつつも、先代の残した文字通りの負の遺産を背負うことになったジェームズ六世が気の毒である。

 まぁ、エリザベス女王の先々代の後始末も、それはそれで大変だったはずだけど……。
 宗教問題と政治問題の関わりをみる上でも、英国国教会の成立過程は興味深かった。

 あと、エセックス伯のクーデター計画に変にワクワクしてしまった。

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世界の戦争6〜大航海時代の戦争 樺山紘一・編

エリザベス女王―女王を支えた側近たち (世界史リブレット人)
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カテゴリ:歴史 | 21:31 | comments(0) | trackbacks(0)

ドイツ王室1000年史 関田淳子

 ザクセン・プロイセン・バイエルン。ドイツを代表する三つの王室について君主を中心に大量の絵画で追っていく。
 プロイセンより先にザクセンが出てくる配置が興味深い。由緒の正しさではザクセンの方が上か。選帝侯という神聖ローマ帝国独特のシステムや新旧のキリスト教が激突した影響も見逃せない。
 しかし、いちばん印象的なのはナポレオンという名の災害の存在である。ドイツ諸侯目線でも、とてつもなく衝撃的な出来事だったようで、ヨーロッパの津波に翻弄される彼らの立場にハラハラしながら読んだ(ドイツにとって三十年戦争も熾烈だが、お偉いさんにとってはナポレオン戦争の方が影響が大きそう)。
 バイエルンについては巧妙に立ち回って、ナポレオン戦争から利益を得ていたりする。よくいえば小国の知恵である。

 東の隣国であるポーランドとの関係もさすがに深くて、ザクセン公はポーランドやリトアニアとの同君連合を作っていたりもする。
 神聖ローマ帝国の皇帝になった時期さえあっても主流になることができなかったのは何故か。考えさせられた。

 ヴィルヘイム一世とビスマルクが互いに悔し涙を流しながら激論を交えたこともあるとのエピソードに衝撃を覚えた。この時代のプロイセン人もわりと泣く人種だったのかな。
 二人の立場が比較的に対等だからこそ、そんなになるまでやりあえたのだろう。泣かされても権威でおしつぶさないヴィルヘイム一世は偉い。

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図説ナポレオン政治と戦争〜独裁者が描いた軌跡 松嶌明男
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ドイツ王室一〇〇〇年史 (ビジュアル選書)
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