輪中と治水 岐阜県博物館友の会

 木曽・長良・揖斐の三河川が流れる地域に分布する輪中の歴史を描いた企画展のブックレット。
 輪中が堤防で囲まれた地域にとどまらず、ひとつの政治単位であったことを強く主張している。確かに輪中のありかたが、まるで同じ船に乗り合わせたように運命共同体意識を強めたことが想像できる。
 が、輪中の中でも対立があったりして、治水に功績のあった人物が調停に奔走したエピソードなども紹介されていた。

 輪中地域の水害には人災的な面もあって、尾張藩側の堤防が極端に強化されたために、美濃側に水害が頻発するようになったようだ(表に出てきた治水協会の登録者1位が岐阜県人なのに対して、愛知県人は5位までに入ってきていない)。さらに条件が悪い土地にまで開発が進んだこと、上流での山林の伐採などの複合的な要因によって水害が増えている。
 最後の山林の問題は、人工林の管理ができなくなってきている現状を考えると、新しい水害の原因になるかもしれない。そのときにデレーケらの水害対策が見直されるのではないか。

 有名な薩摩藩のお手伝普請が揖斐川流域の住民には利益があったものの、長良川流域の住民には被害の増大につながったことは、薩摩藩士の犠牲を知っているだけにショックだった。収録されたグラフは治水工事完工後も水害の発生数は横ばいである。
 自然を制御しようと実績を作った一点だけでも無意味ではないけれど、やはり自然は手強いということだな。

関連書評
風雲児たち ワイド版1−6巻 みなもと太郎:4巻に宝暦治水を描いた話がある漫画
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長宗我部元親と四国 津野倫明 人をあるく

 しとしとした戦国武将、長宗我部元親の新しい姿をみせてくれる本。
 何事にも慎重で入念な長宗我部元親の性格は、スタート地点によっては天下が取れたんじゃないかと思わせる。上にいても下にいても、ちゃんと働きができそうである。
 だが、後継者選びには失敗した。盛親を立てるために有望な津野親忠を切り捨てざるを得なくなるなど、家中に大きな亀裂が入ってしまっている。慎重な元親にしては、嫡子の信親が早世した場合の構想が甘かったのかもしれない。
 つい元親と同じく息子たちを他家に送り込んで乗っ取りながら、嫡男を早くに失った毛利元就との比較をしてしまう。両者の最大の差は嫡男を失ってからの寿命、かな……。

 同時代人にも変わった名字だと思われていた長宗我部について、著者の推測では読みは「チョーソーガメ」になるらしい。ここでも固定観念が破壊される。
 中世の名詞を適当な漢字で当てるやり方のおかげで、読みについて考察が可能になっていることが面白かった。妹とひらがなで手紙のやりとりをしていれば一発なんだけどな。

 最終章は長宗我部元親ゆかりの土地を案内するガイドブックにもなっている。元親と盛親の墓が入れ替わっている説など、知っておいてから現地を訪ねたほうが良さそうな情報が載っていた。

関連書評
秀吉と海賊大名〜海から見た戦国終焉 藤田達生
戦略・戦術・戦史Magazine 歴史群像 No.134 ソ連軍冬季攻勢1942-43

長宗我部元親と四国 (人をあるく)
長宗我部元親と四国 (人をあるく)
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世界史MAPS〜歴史を動かした72の大事件

 わかりやすくおもしろく世界史の出来事を地図に落とした歴史地図。非常に視認性がよくて、記述の端々まで楽しめた。
 情報のトリミングも優れているのだと思われる。
 古代における鉱物の産地など点のひとつひとつが考古学的な確かな発掘の結果に支えられている印象を受ける。そこの信頼性が高ければ文章の理解を助けるだけに留まらず、書いていない情報さええることができたりする。
 すべてのページにひとつ収録されている名言も質の高いものが多くて、残さずメモしたくなった。

 まぁ、細かい部分ではちらほらと不満はあったりする。たとえば、太平洋の航海者が持って行った三点セットはタロイモとブタにニワトリが加わるのに、ニワトリだけ挙げられていないとか。

 1848年にヨーロッパの各地で革命的な闘争が起こっていたことは初めて知った。まるでアラブの春を彷彿とさせる出来事である(1848年革命の多くは武力的に鎮圧されたそうだが)。
 こういう経験があるヨーロッパ人は日本人よりも長期的にアラブの春を見ている可能性もあるのだな(その予想が当たるかは、ともかく)。

 最後は中国の躍進でまとめられている。単純な輸出額だけじゃなくて、世界各国で売れている品物がそれぞれ異なる点で、圧倒される思いがする。産業が多角化していることがわかる。
 それにしても韓国相手の原油輸出20億ドルって?中国はトータルでは原油輸入国だけど、精製拠点との距離関係で韓国近くで算出した原油はあっちに送って精製してもらった方がコストパフォーマンスがいいってことなのかなぁ。
 北朝鮮がなければパイプラインで効率的にやりとりできるだろうに……余計にコントロールを受けやすくなるが。

関連書評
大陸別世界歴史地図2〜アジア大陸歴史地図
パノラマ世界史1〜世界史のはじまり 羽田正

世界史MAPS
世界史MAPS
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[図説]湾岸戦争〜ペルシャ湾岸の砦を巡る210日間の攻防

 湾岸戦争をさまざまな視点からさまざまな記者が論じた一冊。2003年のイラク戦争直前に書かれていて、その分析も載っているが、自衛隊制服組OBの危うさを感じさせる内容だった。「正常な国」って……。

 湾岸戦争の前哨となったイラン・イラク戦争についても触れられていて、なかなか興味深かった。
 質のイラク、数のイランと言った雰囲気で、ちょうど釣り合いがとれている。イラクはフセインの戦争指導がまともだったら、もっと有利に戦いを進めていたかもしれない。ついつい独ソ戦を想像してしまうが、いろいろな条件から大規模な機動戦にはなっていない。
 イランも革命前から存在した部隊を前線に投入して抹殺を図るなど、悪辣な行為をしている……。

 湾岸戦争そのものの描写は意外に淡泊で、やや物足りなかった。活躍した兵器の紹介にかなり重点が置かれていた。ひいては「現代」のアメリカ軍につながるので、確かに興味深いものはある。

 あと、巻末の中東諸国データ一覧で原油埋蔵量が「夫の年収」的に使われていることに微苦笑を禁じ得ない。

関連書評
史上最大にして最後の機甲戦〜湾岸戦争大戦車戦・上 河津幸英

〈図説〉湾岸戦争 (Rekishi gunzo series―Modern warfare)
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ヒトラーと第三帝国 地図で読む世界の歴史

 リチャード・オウヴァリー著、水井清彦 監修、秀岡尚子 訳。
 第一次世界大戦から戦後ドイツまで、ナチスドイツに関する情報を地図に盛り込んだ歴史本。第一次世界大戦から立ち直りかけていたドイツが世界恐慌で絶望のどん底に突き落とされ、ナチ(本書ではナチスではなく、ナチと呼んでいた)の躍進を招いてしまう流れは未来を知っているだけに絶望的だった。
 ナチの経済政策は失業率こそ低下させたものの、労働者の収入を増やすには至らず、実業家だけが得をする形での経済回復をまねいた点も覚えておきたい。
 それでも労働者たちは職を失うよりはと消極的にナチを支持した。また、食糧自給率向上の努力と厳格な配給によって第二次世界大戦中のドイツは第一次世界大戦ほど食糧不足には陥らなかったことも興味深い。
 いちおうナチも歴史に学ぶ部分はあったらしい。

 ナチが描いた戦後のヨーロッパ地図に、ISが描いた地図を思い出した。クリミア半島を直轄量にしたがっていることから黒海の制海権に興味があったようだ。東端のバトゥミ周辺をほしがっている理由はなんだろう。
 まさかのアララト山関連か?

 1300万人におよんだ動員がドイツ社会にあたえたインパクトも地図や図でわかりやすく説明されていた。女性を家庭に閉じこめたがったナチが、女性の労働力に頼りまくっている点は皮肉と言うより必然なんだろうなぁ。
 外国人労働者の酷使もひどい。ドイツ人労働者相手よりもやりたい放題できることを「発見」してSSに監督させるとか、ろくでもないことばかり思いついている。
 枢軸国の中ではブルガリアがナチのユダヤ人絶滅政策に乗らなかったらしく、その評価が上昇した。巻末資料によれば戦前に50000人いたユダヤ人が戦後も45000人残っている。おそらく自然の移動もあるだろう。
 なお、主権をうしなっていたポーランドは3351000人いたユダヤ人が戦後は8万人に激減している……。

 戦争そのものの地図は比較的すくないが、第三帝国のむちゃくちゃさを印象づけられた後だったので滅亡したときはホッとした。まぁ、戦争が終わった後の資料も強烈なものが多くて、悪夢そのものは終わらなかったのだが。

関連書評
ノルマンディー上陸作戦 チャールズ・メッセンジャー
まるごとわかる!第二次世界大戦「ヨーロッパ戦線の真実」
地図で読む世界の歴史 ローマ帝国 クリス・スカー

ヒトラーと第三帝国 (地図で読む世界の歴史)
ヒトラーと第三帝国 (地図で読む世界の歴史)
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太平洋戦跡紀行ガダルカナル 西村誠・湯浅浩司

 太平洋戦争の転換点となったガダルカナル島の戦い。それが昔のことになった現代のガダルカナル島を訪れた著者たちの紀行作品。
 プロのカメラマンが同行して撮っているため写真がきれいで見応えがあった。特にヘリからの空撮写真がうれしい。ただし、地上からの写真はチップを払わなければ撮れないものが多く、場所によっては完全に撮影禁止の場合もあったようだ。できることならグーグルの衛星写真からもチップを取り立ててほしい。

 行ったときのガダルカナル島の人口は7万人だったそうで、その島に日本だけでも最大で三万人が展開したというのだから補給の重要性が想像できる。しかも、当時は今ほど開拓が進んでいなかったわけである。
 中国の戦線とは違っていて当然なのだが、ガダルカナル島の位置すら知らなかった大本営がどこまで理解していたことやら。
 現地の住民が飢餓地獄に巻き込まれることはなく、広い島の内陸に避難していて、戦争が終わるのをじっと待っていたらしいことは救いだった。部族社会とはいえ、緊急時は受け入れてくれたのかな?案外、今の方が縄張りが厳しくなっているのかもしれない。

 空撮写真でよくわかったがガダルカナル島の川は河口付近で地上から消え、砂嘴の中を浸透して海につながっているそうだ。まるで扇状地の上部みたいでなかなか興味深い。こういう地質についても事前にわかっていれば戦いの展開が違っていたことだろう。
 戦記を読んでいると送り込まれた陸上指揮官は熟考せず、いけいけどんどんで突き進みすぎだった。痛い目をみた後の川口支隊長は多少違ったみたいだけど、戦闘の山場でいきなり更迭されてしまい、部隊が混乱してしまっている。
 なんとも拙劣な戦争指導が表れていた……。

関連書評
決定版太平洋戦争5消耗戦〜ソロモン・東部ニューギニアの死闘
[ビジュアル詳解]太平洋戦争海戦全史 歴史群像シリーズ
日本海軍巡洋艦VS米海軍巡洋艦 ガダルカナル1942 マーク・スティル/宮永忠将

太平洋戦跡紀行 ガダルカナル
太平洋戦跡紀行 ガダルカナル
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フリードリヒ大王〜祖国と寛容 屋敷二郎

 世界史リブレット人055。
 名将の枠には決して収まらない偉大なる啓蒙君主フリードリヒ大王の事績がわかる。七年戦争では首都ベルリンを二回も落とされており、プロイセンが滅亡しなかったことが本当に不思議である。
 ホーエンツォレルン家の歴史についても簡潔にまとめられていて、ユグノーをはじめとした宗教難民を受け入れることで国力を強化してきた歴史が非常に興味深かった。
 メルケル首相のシリア難民受け入れ政策もホーエンツォレルン家の常套手段――成功体験の延長線上にあったものと解釈できそう。

 フリードリヒ大王を取り巻く人々も興味深く、ヴォルテールとの変な交流や軍人王と闘う同志でもあった姉のヴィルヘルミーネとの姉弟愛など見所が多い。
 姉への手紙で父親が死んで王位を受け継げなかったことを残念がるのはさすがに迂闊だと思うぞ。

 外向けの著作と太子向けの著作に矛盾がないなど、フリードリヒ大王は呆れるほど正直な人物であったらしい。せめて内向きに正直でなければ自らに重責を課す啓蒙君主でありつづけられなかったのかもしれない。
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中世城郭の縄張と空間〜土の城が語るもの 松岡進

 アマチュア城郭研究家として各地の山を歩き、藪をこいで縄張り図をつくってきた著者による一冊。活動範囲は広く、東北から中国地方まで及んでいる。
 広島県の三次市の調査が、初めてなのに「三次調査」でちょっと混乱した。かわった地名もあるものだ。

 著者が縄張り図にのめり込んでいった様子がわかり、描き方についても、著者なりの要点が記述されている。
 大学の実習で、歩測とコンパスを使って地図を書いたことを思い出した。地形を見分ける目さえ養えば、あの経験を応用して、なんとか描けそう。
 新しく城郭研究者になる人はどれくらいいるのであろうか。あとがきで城郭研究分野の特殊性を語っていただけに気になった。

 最大のテーマになっているのが「杉山城問題」で、関東にあった大変技巧的な城である杉山城の年代問題から、城郭研究の本質的な意義についての問いかけが論じられている。
 表層にある構造物で発掘もできない立場だと年代は手強いが、構造全体をみての分析を著者は大事にしていた。

 アマチュアであり遺構に被害を与えるわけでもないなら「おもしろいから」でも、城郭研究をする十分な理由になるとも思うのだけど、深みにはまっていくと、いろいろ考えさせられてしまうものらしい。
 著者が出会った在野の研究家の列伝的な要素も、本書には観られた。

関連書評
土の城指南 西股総生
「城取り」の軍事学〜築城者の視点から考える戦国の城 西股総生

中世城郭の縄張と空間: 土の城が語るもの (城を極める)
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カテゴリ:歴史 | 22:09 | comments(0) | trackbacks(0)

十三世紀のハローワーク グレゴリウス山田

 やっぱり本は娯楽の王様だよねー。
 中世に実在した職業を謎のレーダーチャートとイメージ映像、豊富なうんちくで楽しめる同人誌の書籍版。なんとなくSRPGのユニットデータ集の体裁をとっており、存在しないゲームの内容を想像して楽しむこともできる。

 傘貸し屋など、成り立ったことすら奇跡に思える零細職業の数々に目から鱗が落ちる。傘貸し屋の場合であれば、金を払っても濡れたくないパリジャンの性分と密接に関連しており、職業の存在をとおして中世人の理解を深めてくれる役割も果たしている。
 また教養豊かな著者(絵の画家でもある)の解説が小さく豊富な愉快を与えてくれる。変態としてのレベルの高さを感じさせるコメントの数々に笑ってしまった。
 でもさすがに小便組は……。

 キャラクターの絵はあくまでもイメージ映像で実際の姿とは限られた関係しかないのだが、ついつい頭の中で結びついてしまい困るところもある。
 でも、ひたすらリアルに描かれていたら作者の好きな賤業を中心につらいことになる。
 ふつうは男性の職業でも女性のキャラクターになっているものも多い(逆に女性の仕事は100%女性の絵だと思われる)。シンプルな絵だが――だからこそ――萌える。特にジト目好きにオススメしたい。
 なにより、どいつもこいつも最高の貧乳をしている。
 架空ゲーム用のSDキャラもかわいい。頭の中で架空のゲームを組み立てて動かしてみるのも一興である。巻末にはヴィネット的なステージまで用意してくれている。

 参考文献も学術書並に充実しているので興味をもてば原典を追っていけるぞ。

関連書評
中世ヨーロッパの都市の生活 ジョゼフ・ギース/フランシス・ギース 青島淑子 訳
大聖堂・製鉄・水車 J・ギース/F・ギース 栗原泉 訳
ヴィジュアル史料日本職人史[]職人の誕生[古代・中世編] 遠藤元男 | 読書は呼吸

中世実在職業解説本 十三世紀のハローワーク
中世実在職業解説本 十三世紀のハローワーク
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名画で読み解く「世界史」 祝田秀全

 副題は「111の名画でたどる人類5000年のドラマ」。
 絵画の保存状態なども関係しているのか、ヨーロッパ中心の歴史観が強い本になっている。日本は最後の最後で日露戦争の絵が出てきた。中国の絵はコーナーが設けられているが、いかにも駆け足である。

 無名の画家の作品がある一方で、ドラクロワなど複数の作品が収録されている画家が存在することも興味深い。
 まぁ、政治関係のテーマを描くことを得意とした画家と、自然物をもっぱら描いていた画家では、同じくらい有名であっても出番に差が出ることは当然である。

 解説は教科書的な内容からあまり逸脱せず、教科書レベルの歴史認識なら十分そうだが、物足りないと感じる部分もあった。
 テルモピュライで踏ん張ったのはスパルタ軍だけじゃないと何度つっこめばいいんだ……アルプス越えのハンニバルがシーク教徒のターバンを巻いているのは、象=インド象=インドと言えばターバンの類推であろうか。
 かなり適当である。

 絵画の歴史的な注目部分をクローズアップして解説を加えている点はよかった。

関連書評:登場した人々をピックアップ
ルイ14世とリシュリュー 林田伸一
ビスマルク〜ドイツ帝国の建国者 大内宏一
エリザベス女王〜女王を支えた側近たち 青木道彦

名画で読み解く「世界史」
名画で読み解く「世界史」
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