縄文のタイムカプセル〜鳥浜遺跡 田中祐二

 シリーズ「遺跡を学ぶ」113
 ここが元祖「縄文のタイムカプセル」鳥浜遺跡。三方五湖の埋め立てられた六番目の湖「鳥浜湖」と三方湖の接点に位置していた縄文時代早期から前期の貝塚発掘調査結果が物語られる。
 低湿地の貝塚という二重によい条件に恵まれたため、非常に多くの出土品が得られている。その結果、縄文時代がいろいろな物にあふれた「思っていたよりも」豊かな時代であったことが分かったそうだ。
 漆器製品がもたらした色彩的なイメージ転換は大きかったと思われる。

 個人的には道具を作る方の視点で考えてしまい、少数の人でいったい何種類の道具を作っていたのかと気が遠くなってきた。
 それぞれに生活が掛かっているし、石斧の柄にみられたように高い計画性が必要なのだから、本当に大変である。
 そんな中でも櫛やペンダントみたいな装飾品を作ることも忘れなかった縄文人の気持ちを想像してみたい。

 水月湖の年縞についても最後に触れられていて、鳥浜貝塚の研究に欠かせない情報源になると説明があった。出土していた流木の年輪から年代は得られていないのだろうか。

関連書評
時を刻む湖〜7万枚の地層に挑んだ科学者たち 中川毅

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縄文のタイムカプセル 鳥浜貝塚 (シリーズ「遺跡を学ぶ」113)
縄文のタイムカプセル 鳥浜貝塚 (シリーズ「遺跡を学ぶ」113)
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九州の銅鐸工房〜安永田遺跡 藤瀬禎博 遺跡を学ぶ114

 かつて学会を支配していた銅鐸文化圏の近畿と銅剣・銅矛文化圏の九州という考えに一石を投じることになった安永田遺跡。北九州で銅鐸が製造されたことを示す石製の鋳型が発見されたことから、弥生時代における北九州の文化圏を見直す。

 近畿の鋳型が石製から土製に変遷していくのに対して、北九州では弥生時代の終わりまで石製の鋳型がかたくなに用いられていた。そういう独自性の現れている点が興味深かった。
 統一された仕様の銅鐸をばらまくためには耐久性のある石製の鋳型の方が都合がいいとのこと。それなら、土製の鋳型の型があればいい気もしたが、近畿における銅鐸の生産事情が分からない。
 季節風をうまく利用すればフイゴなしでも銅を溶かす高温の火が起こせる構造に遺跡がなっているなど、実験によって得られた情報も興味深かった。

 男性の方がはっきりと渡来人の形質に現れているとの遺骨の研究結果は、渡ってくるのは男性が多くて、現地の女性と結婚するパターンを想像させた。女性の情報がしっかり得られていない影響もありそうなので思いこむのは危険かな。
 文明の入り口となるだけに弥生時代の北九州で起きていたことは面白い。綾杉状研ぎ分け文様の銅矛が北九州以外では島根で発見されていることも想像を膨らませてくれた。

関連書評
古代出雲の原像をさぐる〜加茂岩倉遺跡 田中義昭

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九州の銅鐸工房 安永田遺跡 (シリーズ「遺跡を学ぶ」114)
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国宝土偶「仮面の女神」の復元〜中ッ原遺跡 守矢昌文

 シリーズ「遺跡を学ぶ」120
 茅野市の誇る国宝土偶のひとつ「仮面の女神(もうひとつは縄文のビーナス)」。その発掘経緯と復元、出土した遺跡についての分析が読める。
 取り上げシーンを外部公開したのは地域を盛り上げるためもあるのかもしれないが、ゴッドハンド事件の影響もあって確たる証拠を示したかったんじゃないかと想像してしまった。
 そんなことをしなくても疑いようもなく本物だが。

 仮面土偶が他にもいくつか見つかっていて、「仮面の女神」はその系譜と考えられることが面白かった。
 ほぼ完璧な状態で土偶を埋めてくれた縄文人には感謝せざるをえない。茅野市には他にも土偶があるかもしれないな。それに関しては夢のある地域だ。
 ぜひとも発掘調査が続いてほしい。できれば遺跡を壊さない形で。

 縄文時代後期における遺跡の衰退については、その時代に生きていた人々がいまは衰退の時代だと、どれくらい自覚していたのか疑問に思った。口伝えだけでも前よりも人が減っていると意識できるものか。衰退のペースにもよると思うけれど、目の前の自然災害よりも深刻に考えることができていたのかなぁ。
「仮面の女神」が豊穣を願っていたことはほぼ確実ながら、背景をつきとめるのは難しいと思った。

関連書評
国宝土偶「縄文ビーナス」の誕生〜棚畑遺跡 鵜飼幸雄
ときめく縄文図鑑 譽田亜紀子・新津健 山と渓谷社
はじめての土偶 武藤康弘・響田亜紀子

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国宝土偶「仮面の女神」の復元 中ッ原遺跡 (シリーズ「遺跡を学ぶ」120)
国宝土偶「仮面の女神」の復元 中ッ原遺跡 (シリーズ「遺跡を学ぶ」120)
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マンガ沖縄・琉球の歴史 上里隆史

 琉日戦争一六〇九と同じ著者だと知って驚いた。
 沖縄・琉球の歴史を漫画で学べる一冊。入門書によさそう。自分には知らないことがたくさんあって興味深く読めた。
 日本と清が勝手に琉球を分割統治しかけた事件も酷いな。小国の悲哀を感じざるを得ない。日本と中国への両属がたえがたい負担になるのは、春秋時代の鄭が晋と楚の両方に貢ぎ物をして疲弊した事例を思い出させた。

 後半にある個人個人のエピソードがおもしろくネタの宝庫になっている。三度も親に売られた子供の話は笑って済ませられないけど……妹たちも売られていたし(買い戻せていて良かった)。
 ニートはニート罪で島流しにされるにも恐ろしいな。ニートを送られた方の島も困る……。

 首里城の見回りとハブの話ではカイジパロディと漫☆画太郎パロディが、王様のグルメ話では孤独のグルメパロディが入っていた。
 全体的にはパロディは少ないのだが印象に残ってしまった。

関連書評
琉日戦争一六〇九〜島津氏の琉球侵攻 上里隆史

マンガ 沖縄・琉球の歴史
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中世ウェールズをゆく チャールズ・カイトリー著 和田葉子 訳

 ジェラルド・オヴ・ウェールズ1188年の旅。
 中世ウェールズを代表する人物であるジェラルド・オヴ・ウェールズがカンタベリー大司教に随行して1188年におこなった十字軍募集の旅を追体験できる本。
 豪族と迷信に支配されていた中世ウェールズの姿が生き生きとよみがえる。

 ウェールズ人を十字軍に勧誘することは、その戦力低下を狙っていたんじゃないかと穿った見方もしてしまう。しかし、イングランド人もたくさん参戦しているので「一方的に不利にならないようにした」程度の効果かなぁ。
 ルウェリンのところみたいに身内同士の争いが激しかったことを考えれば、問題のある兄弟には十字軍に行ってもらって後継者を整理した方がよかったかもしれない。
 うまくすれば中東の技術を持って帰ってくるし。

 ウェールズは狭いようで広く、複数の領主やノルマン人とウェールズ人の文化圏の重なりなど、複雑なモザイク模様をみせてくれていた。
 豊富な地図や写真が魅力的だった。地名は英語表記のままだが本文を参照すれば読める。

関連書評
イングランド王国と闘った男〜ジェラルド・オブ・ウェールズの時代 桜井俊彰

中世ウェールズをゆく―ジェラルド・オヴ・ウェールズ1188年の旅 (関西大学東西学術研究所訳注シリーズ (7))
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データで見る太平洋戦争〜「日本の失敗」の真実 高橋昌紀

 タイトルから想像していた内容と違って、データを使って日本軍の戦争指導の愚かさを証明することに集中している本。
 戦艦大和の戦果:撃墜3機には参った。まぁ、しかし批判の矛先が当時の高級官僚たちに向いていることを常に意識していれば、参ってしまう必要はない。

 フィリピンでの戦死者が498600人と非常に多くて驚いた。長期間の戦場になった中国すら超えている。
 約63万人も送り込んでいたとは、さすがに陸軍が決戦場と考えていただけのことはある。そして、結果はもちろん無惨である。戦場にされたフィリピンの人にも堪らない人数だ。

 戦争経験者のインタビューも載せられていて、背筋をただして読んだ。でも、若い人たちの一部には通じない言葉になってきてしまっている。
 現在はこのギャップをうまく埋めなければ戦争経験者の言葉すら逆効果になりかねない怖さがある。耳を貸さない側が悪いというのは簡単だが……。

データで見る太平洋戦争 「日本の失敗」の真実
データで見る太平洋戦争 「日本の失敗」の真実
大和のところでパナマ運河をスエズ運河と間違えていたのは痛かった
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草山の語る近世 水本邦彦 日本史リブレット52

 江戸時代の山は頻繁な野焼きを受けていた。その主な理由は有名な焼き畑のためではない。実は田畑にすきこむ草を生産するためだったのだ――という近世の知られざる土地利用を紹介してくれるリブレット。
 当時の人間が地形に与えていた影響のすさまじい大きさが想像できてしまう。農村の近くは大型の野生動物にとって、とても生きていける環境ではなかったかもしれない。
 ただし、土砂流出を防ぐための土留め工事が行われるようになると、獣害が発生するようになったらしい。藩の御林など自然が残っている部分はあるので、チャンスがあればそこから広がることが出来たのかな。

 江戸時代の人間が過去の合戦を研究するときに観ていた風景が、戦国時代とは違っていた可能性も考えられて、かなり注意が必要だと感じた。
 戦国時代では効き目の遅い「刈敷」は、江戸時代より行いにくかったはず。そういう社会情勢が風景に与える影響も想像するだに興味深かった。

草山の語る近世 (日本史リブレット)
草山の語る近世 (日本史リブレット)
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永楽帝〜明朝第二の創業者 世界史リブレット人038 荷見守義

 朱元璋の建てた明帝国は二代目から大きくつまずく。皇太子が死去して、まだ若い孫を後継者にしなければならなかったのだ。毛利元就を思わせる状況だが、二代目建文帝の叔父は毛利両川のように甥を支えてくれなかった。
 とういよりも、建文帝の側から徹底的な実力者である叔父の排除に走った。かくして日本で言えばジンシンの乱にも似た構図で、皇帝の座をめぐる内戦が勃発して、叔父側の燕王――永楽帝が勝者となる。
 明の建国に絡む戦いも良く知らなかったが、さらに後継者争いの戦いが起こっていたとは知らず、とても新鮮だった。
 圧倒的な力を持つ建文帝に対して、動かせる人数が800人まで削られてから、ついに決起して厳しい戦いを勝ち抜いた展開が熱い。魏の皇帝がわずかな手勢で司馬氏に挑んだのも、荒唐無稽な笑い話にするべきではないのかも?
 まぁ、本拠地が離れている状況では同じようには語れないかな。

 明帝国の悲惨なイメージはわかることなく、朱元璋は功臣を必ず1万5千人単位で一族もろとも処分するし、永楽帝も血なまぐさい行動を取ってしまっている。
 鄭和の大航海もあって対外的には輝かしい時代なのだが、どうにも美徳に欠ける部分が目に付いた。それでも巨大な中国を支配した皇帝たちの偉大さは否定しがたい。

永楽帝―明朝第二の創業者 (世界史リブレット人)
永楽帝―明朝第二の創業者 (世界史リブレット人)
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コルテスとピサロ〜遍歴と定住のはざまで生きた征服者

 安村直己・著。世界史リブレット人048。
 あまり褒められた人物ではないが、歴史に影響を与えたことは間違いなしの征服者二人について触れたリブレット。同じスペイン南西部出身のコルテスとピサロについて、類似点と相違点が明確にされている。

 大学にまで通って教養のあったコルテスが現代のメキシコでは批判的にしか扱われない一方で、ほぼ字が書けず寡黙だったピサロはペルーで銅像が広場に設置されていたりする。
 経歴ではやはりコルテスの方が内政の実をあげているだけに、皮肉なものを感じた。
 下手に記録を残さない方がよかった部分はありそうだ。コルテスには功績を誇示する傾向があって、スペイン王家に有能すぎて危険だと警戒されたらしい点も皮肉である。なかなか立場が安定しないものだ。

 アステカ王国周辺の事情で、北の狩猟採集民が軍事力で南の農耕民に脅威を与えていた関係が説明されていて、中国の漢民族と遊牧民の関係を連想させた。
 アステカ王国は狩猟採集民が南に定着して領土を広げていった経歴をもつそうで、根源をたどればそれもコルテスが付け入る隙になったようだ。

 悪いイメージのつきまとう二人だけれど、そろって子供や親類の面倒見がよかったプラス面も覚えておきたい。それがピサロの場合は身内ばかりを優遇すると部下の不満につながっていたりもしたのだが。

コルテスとピサロ: 遍歴と定住のはざまで生きた征服者 (世界史リブレット人)
コルテスとピサロ: 遍歴と定住のはざまで生きた征服者 (世界史リブレット人)
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ときめく縄文図鑑 譽田亜紀子・新津健 山と渓谷社

 遠い昔縄文時代につくられ運良く現代に残った出土品たち。とくに縄文式土器と土偶が有名な出土品について、おもしろいもの、かわいいものを中心にそれぞれを写真で紹介している。
 縄文時代について興味を持てるようなコラムも付属している。

 縄文のビーナスあたりの見慣れた土偶もあったけれど、おそらく初めてみるような出土品もあって、なかなか面白かった。
 ケツ状耳飾りからは古代中国文明の影響を想像してみたりもした。でも、縄文前期では流石に時代が早すぎるかな。

 重要な出土品はドキドキ度・衝撃度・かわいい度などの五項目で評価されている。黒駒土偶はかわいいと感じるなど、個人的には感性の合わないと感じるところもあったが一つの評価として楽しめる。
 実物を見た場合の評価と写真だけの評価ではズレが生じるのかもしれない。出土したおおよその時代がわかるようになっている点もよかった。

ときめく縄文図鑑 (ときめく図鑑+)
ときめく縄文図鑑 (ときめく図鑑+)
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