シャクシャインの戦い 平山裕人

 日本史上に名前の残るシャクシャインの戦いであるが、単独で真正面から取り上げた研究はほぼなかったそうで、それに挑戦した画期的な一冊。
 大半が日本側の史料を元に描くしかないのだけど、松前藩と利害を同じくしていない津軽藩の史料が残っているおかげで、多少は中立に近づいた情報源を確保することができている。

 シャクシャインの戦いの原因については、松前藩との取引条件の悪化が上げられることが多く、自分もそう記憶していた。しかし、著者によればシャクシャイン本人がいたシブチャリ方面では、そういう話は聞かれず、北海道の日本海側で交換レートへの不満が出ていたそうだ。
 シャクシャインの決起については、長年の抗争相手であったオニビシとの関係で、松前藩の姿勢が中立ではないと不満を感じたことが根底にあったらしい。
 ただし、シャクシャインも交渉上手とはいえず、説明を任された和人はまともに話をせず刀だけ渡して帰ってきてシャクシャインの立場を悪くするなどしている。
 松前藩の背後にあった幕府の力が見えていなかった点もふくめて、残念に感じた。ガリア戦記でいえばカエサルへの不信任を煽るなどの視点があったのとは違う。
 代わりというのもおかしいけれど、イシカリ周辺に力をもっていた首長「ハウカセ」が器用な立ち回りで松前藩から譲歩を引き出していて、少しだけ溜飲がさがった。
 また、その後の和人が直接アイヌモシリに入り込んで活動することにブレーキをかけた意味でもシャクシャインの戦いには意義があったと考えられるそうだ。
 勝っても内容で譲歩するくらいなら、戦いが起こる前に松前藩がやたら高圧的な姿勢だったのは何なのか……日本人の植民地支配の歴史を考える上でも参考になりそうだった。

 当時のアイヌ人口は2万人と推定されていたそうで想像以上に少ない。人口1万5千人ていどの松前藩単独ならともかく、人口以上の兵力を動員できる幕府を敵に回してしまったら、できることは限られている。家4、5軒の集落の首長が名前をあげられるほど。
 交易が生命線だったせいもあって、アイヌが一枚岩になりきれなかったことを考えれば、あそこまで大規模な騒動にできただけでも凄いことだ。
 松前領を無視して、北海道の人口密度を求めると0.24人/km2となり、自分のもっている縄文時代前期以降の日本本土の人口密度データよりも少なかった。やっぱり寒いせいかな……交易で手に入れる鉄器などでは狩猟採集の壁を越えられなかったようだ。

 本を読んだタイミングで、マオリ族とアイヌ人の共通性が気になった。マオリ族もパと呼ばれる防衛された集落に住んでいて、アイヌ人のチャシに似ている。もっとも前者は農耕に手をつけていたのと、大量の火縄銃を白人から手に入れていたので、さらに大規模かつ長期間の抵抗を繰り広げている。
 アイヌも火縄銃をもっていたことは明らかなのだけど、和人の方がイギリス人より火縄銃を先住民に渡すことには用心をしていた印象である。

シャクシャインの戦い
シャクシャインの戦い
シンプルながらインパクトのある表紙だった
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マオリ族〜世界の先住民9いまはわたしの国とはいえない

 アオテアロア(ニュージーランド)の先住民マオリ族の歴史と今を描いたやや子供向けの本。
 マオリの人々が直面している高い失業率や乏しい学習機会などの問題がみえる。人口の10%があるのに95人の議員中、マオリ枠の4人しか議員を送り込めていないことは難しい問題だ。
 全国での完全比例制ならマオリがマオリに投票すると仮定すれば倍はいけるはず。枠に縛られて支持を広げにくくなっていないのかな……各地に分散した少数派にとって、選挙制度は非常に重要だな。

 マオリの「王」を輩出しているワイカト族が、その誇り高さゆえにパケハ(白人)と妥協することができず、現在は他のマオリと比べても困難な状況にあるのは皮肉なことだ。
 発行時の王が女性で、数々のマオリ人の権利回復運動でも女性が大きな役割を果たしていて、興味深かった。別にマオリが女性の地位が高い風習をもっていたわけではないみたいなので、なおさらだ。

 ジャガイモとマスケット銃が入ってきたことでマオリ同士のあらそいが頻発して南島のマオリはほとんど死に絶え、現在は北島から移ってきたマオリが多いというのも印象的だった。
 地図でも南島は北部の海岸にしか部族の番号が振ってない……。戦乱から統一されてパケハへの抵抗力を養うのでもなく混沌のままで終わってしまったのは、武器商人のコントロールか、鉄器文明に達していなかったためか。
 とても残念なことである(統一されなかったおかげでそれぞれ部族の風習が残った可能性もある?)。

関連書評
オセアニア〜暮らしの考古学 印東道子
ナショナルジオグラフィック世界の国 ニュージーランド バーバラ・ジャクソン

世界の先住民―いまはわたしの国といえない (9)
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中世ハンザ都市のすがた〜コグ船と商人 ハインツ=ヨアヒム・ドレーガー

 中島大輔・訳。
 いちおう絵本だが、大人でも十分に楽しめる。真価は大人になってから楽しむべきかもしれない歴史の絵本。だが、長い年月がたった後に読まれることは考証に忠実な著者にとって本意ではないかもしれず……。

 ひとつのモデル化されたハンザ都市(訳者によればリューベックに他のハンザ都市の施設を寄せ集めたような姿)を舞台に、そこで活動する人々の姿を豊かに描いている。
 圧倒的な人物の密度に、耳を聾する喧噪がありありと想像できて、絵本なのに音が聞こえる感じまでした。

 騒音や悪臭の中で中世の都市民が暮らしていたことが簡単に理解できる。それでも盗賊騎士が跋扈する郊外よりは暮らしやすかったに違いない。

 絵は上下方向が強調されていて、人物が大きめに描かれているようだ。そこに引っかかりはしたが、わかりやすさを考えればしかたのない手法なのかな。
 商人の家の断面図が特に良かった。暖炉の煙で穀物をいぶすなど、生活の知恵も感じられた。

中世ハンザ都市のすがた―コグ船と商人
中世ハンザ都市のすがた―コグ船と商人
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ハプスブルク帝国 大津留厚 世界史リブレット30

 他民族国家ハプスブルク帝国。神聖ローマ帝国の崩壊後に生まれたオーストリアとハンガリーの同君連合は、多様な民族構成が巻き起こす問題に、どんな手を打ってきたのか。
 民族問題で苦しむ現代においても参考になる知恵を、ハプスブルク帝国は授けてくれるかもしれない。

 最終的には選挙による票割りの問題が大きく取り上げられていて、各民族の割合に応じて「平等に」議席を配分していくことが一つの解決になっていた。ただしウクライナ系とスロヴァキア系は損をさせられている。
 長期的に人口を増加させていくのでなければ、少数派はいつまでも少数派のままで、政策によっては不満が高まっていったのではないかなぁ。そして飛び出す解決方法は「独立」ということになるが、そこへの対応をみせるだけの時間がハプスブルク帝国には残されていなかった。
 ハンガリーの政治体制にはあまり好感がもてなかった。ゲリマンダーが横行していたようで。

 国内問題だけではなく国外問題も複雑な時代で、舵取りをしていた人々はさぞかし苦労したことだろう。その成果が少しでも後世に活用されるといいのだが。

関連書評
図説 神聖ローマ帝国 菊池良生
図説ウィーンの歴史 増谷英樹

ハプスブルク帝国 (世界史リブレット)
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秦漢帝国へのアプローチ 鶴間和幸 世界史リブレット6

 中国全土を舞台に、90ページで秦漢帝国を語るリブレット。しょうじき散らかった感じがして、自分の中でもうまくまとまらなかった。それだけに注の対象が広範で読み応えがある。
 中国における現地考古学者たちの活躍がどんどん進んでいってくれることを願うばかりだ。

 古代中国の気候が温暖だった説の気温グラフの通りだとすれば、地球温暖化も大したことなさそうに感じられてしまう。とはいえ2度程度の変化だったので、地球温暖化最悪のパターンはやっぱり想像を絶している。
 黄河の流路変遷図も、別の本でもみた記憶があるけれど、興味深い。秦が魏を攻めるのに当たって黄河をわざと決壊させて城壁を崩した件には、上流側が有利なのは長江だけではなかったのだと感じた。

 岡倉天心の「南北合わさってこその中国」観は、当時から逆算的に過去をみているせいで出てくるもので、秦漢時代の人間が言われたら困惑しそうだ。
 南北が融合してこそ豊かになるのは分かるけれども……。

関連書評
始皇帝の地下帝国 鶴間和幸
中国秦 始皇帝兵馬俑展 豊国興産(株)企画部

秦漢帝国へのアプローチ (世界史リブレット)
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エトルリア文明〜700年の歴史と文化 アネッテ・ラッチェ

 大森寿美子・訳。
 ローマ台頭前にイタリア半島で勢力をもっていたエトルリア文明。情報に乏しい彼らについて発掘史料などから分かることがまとめられている。彫像からの詳しい情報が、エトルリア人の具体的なイメージを養ってくれる。

 紀元前42年にアウグストゥスに滅ぼされた最後のエトルリア都市は、年表にあるペルージアなのかな。
 イタリア半島が「統一」されてから、ずいぶん長く生き延びたと言えないこともない。

 女性の立場が古代ローマよりも強くて、その点では明らかに違う文化をもっていたと考えられるところなど、ローマとの共通点が多いことを予想していたので新鮮だった。
 共同体よりも家族の利益を優先するようになって衰退していったところは歴史の教訓を与えてくれているようだ。ローマ人もやがては同じ病いに……。

関連書評
カラーイラスト世界の生活史20 古代文明の知恵 アシェット版/福井芳夫・木村尚三郎

エトルリア文明―700年の歴史と文化
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図説 神聖ローマ帝国 菊池良生 ふくろうの本

 神聖ローマ帝国をかげながら支えてきたザクセンのヴェッティン家。皇帝の位とはあまり縁の無かった彼らを視点の中心にしてみる神聖ローマ帝国の図説。

 三十年戦争のブライテンフェルトで皇帝軍と戦っていたザクセンが、実は皇帝への反抗自体に乗り気ではなかったことが分かって驚いた。戦況図によるサブミナル効果が効いていた。
 まぁ、戦意低くてあっさり退却したわけだが……。

 神聖ローマ帝国が意外と戦争に強い点も興味深い。要所要所では勝利しているから、際どいところで命脈を保ってこれたとも考えられる。ナポレオンはどうにも災害だけれども。

 ザクセン公モーリッツの強烈なキャラクターが印象に残った。なんとも痛快な行動をする御仁だ。
 あと、冒頭のわかりやすく系譜をまとめた図も良かった。

関連書評
ドイツ王室1000年史 関田淳子

図説 神聖ローマ帝国 (ふくろうの本/世界の歴史)
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ビジュアル日本の鉄道の歴史1明治〜大正前期編 梅原淳

 井上勝の偉大さを思い知る。
 夭折した技師モレルの後を継ぎ、日本人だけによる鉄道建設の理想を追い求めた井上勝の活躍が分かる。私鉄の国有化も、公共利益の確保を目指して提案していて、国鉄民営化のときに井上勝の理念が議論になったであろうと想像した。

 中山道か東海道かという議論で、前者の建設費が約1500万円(現在の1125億円)、後者が約1000万円(現在の750億円)とまとめられている。
 現在、新国立競技場にそそぎ込んでいる国費に比べればメリットの非常に分かりやすい投資である。

 闇の側面としては横川から軽井沢間の難工事で500人以上の死者を出したことが紹介されていた。伊藤博文が井上勝に命じた東海道線の突貫工事(第一回帝国議会に全国の代議士が利用できるようにするため)も、無理によって大量の死者を出したはず。
 もちろん戦争でも利用されているし、初期の鉄道は平和的な存在とは言い難い。

関連書評
地形で謎解き!「東海道本線」の秘密 竹内正浩

ビジュアル日本の鉄道の歴史1明治~大正前期編
ビジュアル日本の鉄道の歴史1明治~大正前期編
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リビングストンの探検 ピエロ・ベントゥーラ絵

 ジアン・パオロ・チェゼラーニ文、吉田悟郎 訳。
 産業革命時代のイギリスに生まれ、酷い労働環境を経験した少年だったリビングストンは、苦学の末に医学をおさめアフリカにキリスト教を伝える宣教師となった。
 そんな彼が夢見たアフリカ横断の交通路捜索の夢は、半ば成功し半ば失敗することになる。

 歩いて行くことはできたが、ザンベジ川には滝があって水路として使うことができなかった。
 まぁ、後世からみれば地理上の発見だけでも、たいへんな成果であって、未知の病気がわんさかある状況において冒険をなしとげただけでもリビングストンは偉大である。

 そんな偉大な成果の利用のされ方が、ぜんぜん良くないものだったことは帝国主義の諸国家の責任だ。
 奴隷制がリビングストンの心を何度も揺さぶった様子も衝撃的であった。奴隷商人も兼ねているアラブ商人に助けてもらったとき、リビングストンはどんな気持ちだったことだろう……。

リビングストンの探検 (児童図書館・絵本の部屋)
リビングストンの探検 (児童図書館・絵本の部屋)
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カラー図解 城の攻め方・つくり方 中井均・かみゆ歴史編集部

 城関係の復元資料が蓄積されてきたことが実感できる本だ。
 大量の復元イラストにCGはどこかで見たことがあるものがたくさんあって、流用されていることが予想できる。後から出る本ほど有利になる理屈だが、実際のところはどうかな。

 内容はさすがに中井先生の監修であって、そつなくまとまっている。
 合戦の舞台になった城の紹介では落城しなかった城が、長篠城と熊本城だけだった。賤ヶ岳の城は敵味方がつくったので落城したのは半分ともいえるかな。
 苗木城の紹介で、馬洗岩が馬洗池と間違えて紹介されていたことだけは指摘しておく。
 名前から池と勘違いされやすいことは分かるけれど、岩の上に馬を載せて白い米で洗ってみせることで水が残っているアピールをした岩なのだ。

 それは挙げられていなかったが――挙げるくらいなら気づいただろうが――城紹介についている歴史秘話が興味深かった。
 増山城の神保氏の正室が敵兵60人を切りつけ、井戸に水投げしたエピソードなど、怪しくておもしろい。

 あと、案内用マスコットキャラクター中井くんが意味不明にはっちゃけていた。これを許すとはおちゃめな人だ。
 巻末の続日本100名城にあった愛知県の古宮城をまるで知らなかったので気になった(本書の中で武田氏の城として紹介されている)。

関連書評
三重の山城ベスト50を歩く 福井健二・竹田憲治・中井均 編
愛知の山城ベスト50を歩く 愛知中世城郭研究会・中井均

カラー図解 城の攻め方・つくり方
カラー図解 城の攻め方・つくり方
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